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kiharuerogeさんのニュートンと林檎の樹の長文感想

ユーザー
kiharueroge
ゲーム
ニュートンと林檎の樹
ブランド
Laplacian
得点
83
参照数
36

一言コメント

科学者の偉大な功績があって今がある。そんな「科学」への見方が変わる傑作。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

もしもニュートンが美少女だったら。

そんなシンプルなテーマでここまでコンテンツとしての面白みを出せるのは才能。
Laplacianというか、緒乃わさびは天才なんだなぁと感じた。

シナリオも面白いのは間違いないが、シンプルにエンタメコンテンツとしてのクオリティが高い。
基本的にSFものって、ライターのオナニーが強い作品が多い傾向にあるのだが、本作はそう言った側面よりも、しっかり作品として「ユーザーを楽しませる」という精神がしっかり見て取れたのが良かった。

まぁライターのオナニーは最後のおまけシナリオに凝縮されているわけだけど…

☆シナリオ:42/50
少ないボリュームの中、効率的にユーザーの感情を揺さぶることができる良いシナリオだった。

特に良かったのは、本作の大きな目標として「万有引力を取り戻して未来に帰る」という共通認識があったこと。物語においてゴールをしっかり定義するだけでも、我々ユーザーはシナリオに入り込みやすいし、内容も理解できる。そんな基本的なことがしっかりできていたことがまず良かった。
沢山あるシナリオを重視したエロゲにおいても、これを実践できている作品って意外と少ない。
明確なゴールがあるからこそ、その道筋を楽しめる。前作の「キミトユメミシ」もそうだったけど、緒乃わさびは起承転結をしっかり構造化することができる真面目なライターなんだろうなと感じた。

加えて好みだったのは、ヒロイン同士の友情。これは個人的な好みだけど、それがしっかり表現されていたのが良かった。
アリスをメインに据えて、エリーや春との確執。そして出会いと別れ。
主人公が置いてきぼりになるわけではなく、ヒロイン同士の関係性や絆をシナリオの中枢に置いた構成も見事だった。もちろん、シナリオボリュームをもっと増やせばこれに深みが出るので、本作の課題点としてはそこかなとも思う。もっとできた。日常描写とかを寮での生活などをもっと丁寧に描写すればより良いものになった可能性は大いにある。(その分ダレてしまう可能性もあったけど)

また、これはどのルートでも描かれていたが、「別れ」の表現が素晴らしかった。
300年という時を超えている以上、元の世界に戻ればヒロインたちと二度と会うことができない。一部ルートでは過去に残る選択もしていたが、そうすると必然的に四五との別れが生まれる、本作は別れと切っては切り離せない作品なのだ。
楽しかったからこそ、居心地が良かったからこそ、別れは辛くなるもの。そんな当たり前の感情を本作はしっかり刺激してくれていた。

そしてアリスルートでは彼女たちが残した功績を、未来で主人公たちが目の当たりにすることで、過去の延長線上に、彼女たちの偉大な功績の上に我々は生きているのだなぁという複雑な感情に陥った。
これはリアルでも言えることであり、ニュートンやハレーなどの偉大な科学者に想いを馳せるいいきっかけとなった。やっぱ科学者って凄いよ。

書き忘れてたから追記するとラビのエンディングから、春ルートへの分岐はマジで凄かった。あれラビの視点だと自分と結ばれた主人公が、自分のタイムリープで他のヒロインと結ばれるのを目の前で観てるんだよな…残酷過ぎて大好き。

☆キャラ:24/30
非常によく描けていた。
「寮」というコアな場所があったからこそ、そこに住むヒロイン達に愛着が湧き、地下ドームで行われる作戦会議にも居心地の良さを感じられた。

簡単に言ってしまえば、科学者を「美少女化」しているわけだけど、今「ニュートン」と言われたら、アリスとエミーの顔が浮かんでしまうくらいには魅力的なキャラたちだった。

個人的に好きなのは、どのヒロインも科学者としての「エゴ」が垣間見えていたこと。
特にアリスと春はその側面が強かった気がする。こういうエゴは人間臭くて非常に魅力的。世界に名をとどろかせたい、女性の科学者としての地位を上げたい。そういうエゴが垣間見えるからこその、人としての魅力が堪らなかった。

あと面白かったのはエミー関連。
毎回あの子が主人公とヒロインの朝チュンを目撃して、そこからの一言が面白かった。
こういう小ネタみたいなのも散りばめられていたのも高評価。

☆グラフィック:9/10
そこまでCG量は多くなかったけど、とにかく背景や一枚絵が美しい。
西洋風の街並みや、ヒロインの描き方など細部にこだわったデザインとなっており、世界観に入り込むことができた。

Hシーンはおまけ含めて5×4となっており、少なくない量なので及第点。

☆その他:8/10
システム周りは快適だったし、ブランドの特徴でもある挿入ムービーは個人的には好き。
確かに雰囲気をぶち壊してしまうと言われるとそうだけど、伝えたいことをムービーにすることでユーザーに入っていきやすくする部分もあると思うので、悪くない試みだと思う。

最後のおまけルートに関しては、おまけ扱いだから良かったのでは。あれをtrueとかにされたらキツかったけど、あくまでおまけなので良いと思う。

☆総評:83/100
とにかくユーザーに優しい作りで、世界観にも凝っておりキャラも魅力的でシナリオも端的に面白いという文句のつけどころのない作品となっている。
エンディング周りの演出をkeyレベルにすればより名作に慣れた感じもするので、伸びしろとしては演出と音楽かなと感じた。

もちろんガチガチのSFファンからするとツッコミどころもあるだろうが、少な目のボリュームでしっかりユーザーの心に残る内容を描き切った素晴らしい作品だと思う。
まさに他人に薦めたくなる傑作だった。