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kenken1231さんの河原崎家の一族2 完全版の長文感想

ユーザー
kenken1231
ゲーム
河原崎家の一族2 完全版
ブランド
elf
得点
88

一言コメント

◎凄いけど、極エロは肌に合わない。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

【感想】

このガツンと来る感じ。これぞelf!。
ただ、終始いや~な感じが付きまとうので、それが肌に合わなければ困ったことになる。

●(絵・背景・キャラクターデザイン)
素晴らしい。キャラデザイン、背景、イベントCG、どれもが最高クラス。りんしん氏は好きな原画家なので、このキャラで陵辱作品とかもう最高です。
3D映像を使った演出も、最初はセガサターンソフトみたいに質が悪くて印象悪かったので別に要らないんじゃない?と思ってましたけど、いやいやスイマセンでした。
効果的に使えば、この3D映像がプレイヤーに伝える衝撃は計り知れないものがあります。後述しますが、奈津子の陵辱シーンでの3D映像には鳥肌が立ちました。

●(シナリオ・テキスト)
狂った世界、狂わざるを得なかった館の住人たち、そして招かざる客。外の世界と河原崎家、狂っているのはどちらだろう。

おそらく、どちらも狂っている。本作で描かれる惨劇は、何も河原崎家特有の事件だけに留めて解釈してはならないと思う。縄綱は確かに諸悪の根源だけど、
では稲垣は?美香は?この2人は最初から悪人だったのではない。エルフ作品は、度々に悪人の裏に潜む背景を匂わせて物語が構成される。悪には悪の理由があるのだ。
本作品で描かれる悪も、決してただ単に滅ぼされただけで済む様な存在ではない。外の世界は、正と悪が混在している。正義は勝つ、というのが正しい世界だと言うのなら、
外の世界などとうの昔から狂っている。河原崎家は、その正と悪の混在する世界で生まれた「溜り場」なのだろう。
清く流れる清流も、流れを塞き止められ行き場を失えば淀み腐ってしまうように、縄綱は、まさに流れを塞き止める蓋だった。稲垣や美香は、その溜り場に浸かるしか
生きることができなかったのだろうと思われます。このような複雑な背景設定を受け入れる事ができるのは大人だけだと言うつもりはありません。それは驕りです。
また、酸いも甘いも経験している大人だからこそ、ゲームにまでそんな暗黒面を望んでないという人もいるでしょう。そういう意味では人を選ぶのかもしれない。

屋敷を抵当に入れられ、さらに末期癌で死期を悟った縄綱は、ある儀式を実行する。縄綱は、魂の輪廻さえ塞き止めて自分だけの世界に閉じ篭ろうとしたのだ。
稲垣はそれに殉じ、館に閉じ込められた人々はその生贄とされてしまった。優馬は、自分だけ逃げ出した事への後悔、自責の念から死後も河原崎家の中で戦い続ける。
もちろん、主人公も縄綱が操る駒の一つにすぎないので、時が遡及した際には記憶もそういった後悔の念も初期化され、振り出しに戻されるのでしょう。ただし、
縄綱の敷地内とはいえ、館から離れた地点で亡骸となった優馬だからこそ、縄綱の呪縛から多少なりとも抜け出すことができたのだと思う。唯一人、優馬だけが
無限に繰り返される時の奇妙さに気づけたのも、縄綱の呪縛が完全ではなかったからだろう。優馬は無意識に自らの死から目を背けて、縄綱の待つ館へと足を運ぶ。
そこは、縄綱が支配し、全てを監督・演出する舞台でもある。プレイヤーが見るのは、その舞台で繰り広げられる優馬の戦いの記録。あの館で起こりうる全ての可能性を、
縄綱の呪いにより優馬は見せつけられる。それは――・・・杏奈も、例外ではなかった。優馬の魂はボロボロになりながらも、ついに縄綱の呪縛を断ち切る。
生贄となった魂を解放したのだ。しかし、優馬の魂だけは河原崎家から離れることができない。後悔と自責の念が、彼を地縛霊と化したからでしょうか。

全てが終わった後、ただ一人佇む優馬の前に、もはや居るはずのない杏奈が現れる。
既に優馬の手によって解き放たれた彼女は、忌まわしい土地から抜け出せない優馬の魂を救うために、一人また舞い戻ったのだろう。そして2人抱き合い、
もういいんだよ、とばかりに優しく包み込み天に導く。まさに魂の相互救済。本作品の本質は、ラストからも分かるようにラブストーリーなのです。
エンディングで流れるBGMは儚げで切なく、「哀しみにのせて」幸せを噛み締める。けれど、プレイヤーは甘いんだか酸っぱいんだか、よく分からない味に
呆然とするしかない。

これは、既に起こってしまった物語の、主人公の夢の残骸でもあるのだ。しかしその主人公でさえ実は被害者であり、死者でもある。物語を客観的に受け止める第三者、
つまりプレイヤーが事実と夢との狭間で、この河原崎家の惨劇と結末をどのように受け止めるかは別問題なのだ。優馬と杏奈は劇中では確かに魂で結ばれ天に昇った。
だかそれは、絶対的な真理ではない。それも製作者の提示する一つの手段にすぎない。その手段とは何のために使われるものか。それは被害者遺族が心を慰めるために
使うに他ならない。その手段とはもう一つある。それは時間である。ただ優馬視点で物語を知るプレイヤーにとっては心理的外傷を時間で解決することは望めない。
したがってこのようなラストを用意するのは自然といえば自然なのだろう。だが少し待ってほしい。これが大人に用意されたラストなのかと疑問に思った人はいないだろうか。現実に
我々の社会で愛する家族を惨殺され、強姦され殺された事による被害者遺族は大勢いる。その人たちが、全員、このような宗教じみた被害者の魂の補完にすがるのだろうか。
私は必ずしもそうであるとは思わない。中には傷の癒える事無く、その痛みを背負いながらそれでも死んだ者を想いながら生きている人もいるのではないのか。
その痛みに耐えてなお生きる人の目には、この河原崎家の一族2で描かれるラストはどう映るだろう。

このシナリオ、ラストには賛否両論あるはずだ。
私も、クリアした後は、やるせない気持ちで一杯になりました。・・・あまりにも哀しすぎると。何せ、杏奈や優馬の人骨まで見せられているんですから。
この生々しさ、口惜しさは一口に言い表すことは難しい。既に起こってしまった惨劇はプレイヤーが見てきた可能性の内のどれかが実際に起こったのか、それとも
まだ語られてない可能性があって、それを見る前に優馬が呪縛を断ち切ったのか、それは分からない。杏奈が陵辱されたのか、されることなく殺され埋められたのか。
それも分からない。優馬と杏奈の魂が触れ合って天に昇ったというのも、それも正直言って分からないんです。

外の世界の時間は既に流れ去り、美香の老いた姿と思われる老婆の目が優馬を射抜く。
いや、老婆には何らかの気配があったとしか認識していなかったかもしれない。その姿は、はたしてプレイヤーの目に幸せに映っただろうか。
あの老婆が普通の生活を手に入れた美香の姿だとしたら何と無味乾燥とした寂しい表情だろうと、少なくとも私はそう思いました。
ひょっとしたら、美香というキャラクターは、杏奈と対比させた存在として製作者は狙っていたのかもしれない。ただ生きるだけで愛の無い生活を過ごし老いた美香と、
肉体は滅びたとしても優馬と魂で結ばれた杏奈。加害者と被害者の関係でもあり、生い立ちや成長過程も全く正反対である2人として描かれている。
劇中でどちらが幸せそうだったかと聞かれれば、それは愚問だとしか答えようがない。

単なる陵辱作品で終わらせたくない製作者側の思惑もあったでしょう。ユーザーによっては、付け合せただけの陳腐な夢物語だと言うかもしれない。
それは否定しない。私だって、そんな魂だか残留思念だか知らないけど、そんな解釈しかできない慰めを、正面からハッピーエンドなどと手放しで喜べない。
ただ、そういった事を加味したとしても、この物語のラストに優馬と杏奈、2人の魂の補完を描いたのは見事だと私は思う。
この物語は凄惨な陵辱劇の皮を被ったラブストーリーである。これは間違いないと思うのです。

●(声優・BGM・歌)
BGMは良いです。雰囲気に合ってます。EDの曲も儚げで素晴らしいです。でも、

二 度 と 聞 き た く は あ り ま せ ん(注:最上級の誉め言葉)。

歌は無い。声優の演技は、杏奈と真樹を担当した声優以外は、素晴らしい演技でした。
男性キャラの声優さんも演技は光ってた。それだけに、まさかメインヒロイン2人の
声優が素人で下手だとは残念極まりないですね。エルフにしては珍しいミスキャスト

●(ゲーム性・やり込み度)
縦筋を貫く喜び、ですか。最初はオヤジくさいキャッチコピーだなと笑ってましたけどこのフローチャート凄いです。サムネイルも完備してて完成度高い。
縦筋が伸びていくのを見るのは結構ハマりました。面白かったです。ただ、無駄に攻略が難しい・・・何度死んだことか。

●(H・エロシーンの魅力)
実は、使えないエロシーンが結構ある。美香役の声優さんは相変わらず良い演技してるけど、メインヒロイン担当の声優2人が素人なのでHシーンが白ける。
さらに美香のHシーンが少ないし、精神的に屈服させる事ができない。薬で幼児退行するのは別にいいんですよ、美香がどんな境遇で育ったか分かるし
面白い展開だったと思う。でも・・・それを美香のクライマックスでやらなくても!!エロゲー作品の中でも稀に見るドSキャラを屈服させるHシーンを見たかったのに。
美香のフェラシーンでの選択肢は面白かったですね。美香の「男なんかに屈しない」という反骨精神の一端が垣間見える意味のある選択肢です。

と、ここまで美香のHに関しては否定的な意見を述べてきましたけど、だからといって本作の陵辱シーンが弱いということはない。
特に、奈津子の陵辱シーンは衝撃的。『なにも殺さなくても・・・』優馬の台詞と一言一句違わない呟きが口から出たのは私だけではないはず。
その他サブヒロインの陵辱から死に至るまで、手抜きは無かった。面白かったです。