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kei77さんの俺たちに翼はないの長文感想

ユーザー
kei77
ゲーム
俺たちに翼はない
ブランド
Navel
得点
93
参照数
1503

一言コメント

人を選ぶ・・・。まさにその通りだが、それよりも俺等が発売前に想像していた作品とは方向性が違っていたという印象が強い。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

俺は、「このゲームは人を選ぶ」という言い回しはあまり好きでは無い。
一般社会から否定的に捉えられているエロゲである以上は当たり前のことだと思うし、鬼畜とか、寝取られとかは人選ぶの当たり前だろとか思ってたり。
それでいて、普通のラブコメで人を選ぶとか書いてる奴のコメントみて「なら人を選ばないエロゲって何だよ」とか思ったり。
「人を選ぶ」というコメントを読むたびに違和感を感じ続けてきた。
しいていえば、「いつか、届く、あの空に。」という作品。
唯一これだけは人を選ぶという言い回しに違和感を感じなかったように思う。



つまり何が言いたいかっていうと、「このゲームは人を選ぶ」っていうコメントに心から同意できる2作目に出会えたって話。



俺なりに「人を選ぶ」に同意できた2つの作品の共通点を挙げると、
ライターの自己満足要素が強いこと。
ユーザーが求めているものと違っていること。
そして何より、発売前にユーザー側が予想するゲーム内容と、実際のゲーム内容に大きな食い違いがあること。
この3つが考えられた。
それが、俺の中の・・・もしくは同じような感覚を覚えたその他幾人かの「人を選ぶ」という定義なのかもしれない。




さてこの俺たちに翼はないというゲーム。
このゲームはこのサイトでもここ数年では最も期待されていたゲームなのは明らかであるし。
少なくても俺は、今までで一番かも知れないくらい待ち望んでいた。

情報が公開されてから4年・・・。
確か「Tick! Tack!」の情報公開と同時だったような。。。
本当に待ったよなぁ。
だからこそ、発売日延期で有料体験版というNavelという会社の商法のやり方にはガッカリしたのだが。




では作品の内容はどうだったのかというと。
間違いなく他の作品より抜きん出た良作以上だったと思う。
名作と呼ぶ人がいても何の違和感も感じない。
王雀孫にしか書けない、日常の兼ね合い、キャラの個性、これらが見事にマッチしていた。
相変わらず、このライターはキャラを面白く、可愛く見せるのが上手い。
それ散るもそうだったが、愛着が湧かないキャラがいないくらい作品に入り込めた。
これ以上の作品を思い浮かべても、中々思い浮かばない。
ただし、これはゲームをやり終えた後の感想で、PLAY中には色々不満点があった。




まず思ったのが、ゲームの流れについて

このゲームは鷹志編共有→鷲介編共有→隼人編共有→??編共有をクリアした後にようやく各個別ルートに入れる。
この流れが作品を非常に読みにくくしていた。
鷹志編のキャラに慣れてきてヒロインに愛着が湧いたら、突然鷲介編の話になって
さらに鷲介編のキャラに愛着が湧いて話が面白くなってきたら、また突然別の話になる・・・みたいな。
各個別に入る時には、その個別の前の話とか忘れちゃってて、すっかり醒めてたり。
読みずらいしストレスが溜まった。
これはどうにかならなかったのだろうか。




さらにはライターの色が強すぎるシナリオについて

良い意味でも悪い意味でも、このライターは特殊すぎる。
似たような物を書けと言われても書ける人間はいないだろうし。
誰が読んでも王雀孫と分かるこの個性的な文は強烈。
俺はこのライターは業界一の奇才だと思ってる。
ただしそれがプラスに働くのは、笑えるキャラと魅力的なヒロインを生み出すことのみに限らせていただく。
それ散ると違い、今回は痛々しい文面も目立った。
あまりにカオス過ぎて、あまりに支離滅裂で、あまりに病的で。
この王イズムを受け入れられない人間には駄作以外の何物でもないだろう。





恋愛ゲームとしての比率が低い点について

おそらく、このゲームを楽しみにしていた人間は「それ散る」のような笑いと萌えを期待してPLAYしたと思う。
あるいは、ライターは違うけどSHUFFLEのようなラブコメ・・・?

実際に、それらの笑いと萌えは作品の中で確実に存在している。
王イズムによって恋愛要素が他のエロゲよりも圧倒的に濃いのは確か。
ただ、期待通りだったかというと、少し疑問が残る。
作品自体は長さに対して、恋愛文の比率が少ないからだ。
元々このライターにシナリオを期待していたのではなく、笑いと萌えを期待していたのだから。
痛々しい文面や設定を控えて、素晴らしいヒロインとの恋愛要素をもう少し長く書けばもっと読者を喜ばせることができただろうに・・・。
得意分野をもう少し全面に押し出せば、かつてない名作が生まれただろうに。
本当にもったいなく思う。






最後に

例によって得点操作が囁かれているようだが。
得点操作は確かに存在しているように思える。
しかし、量でいうと特別多くないようにも感じてる。


元々、皆の期待が大きすぎた作品であるし、最初に言ったように人を選ぶ作品だと思う。
メーカーのやり方も悪質。
発売日延期で有料体験版出して、その後に無料体験版を出す手法。
FDや移植が前提とはいえ、あからさま過ぎるサブヒロインの存在。
故にアンチを生みやすい。



しかし、これは俺個人の感想だけど得点操作に関係なくこのゲームはそれなりに高い評価を受けるように思える。
アンチが多いというハンデはあるとしても、数か月後にも今の時点(発売日5日後)の中央値85点から大きくは変化しないんじゃないかな。
この文を読んだ貴殿がどう判断するかはまた別の話。




俺のような古いユーザーとしては、
若いユーザーの目に留まりやすいほど知名度が高くなったこのゲームが、D.C.シリーズやSHUFFLE等の知名度だけが高い平凡なエロゲより遥かに上のレベルであったことが嬉しい。


このゲームをやった若い人達がこの業界の良作や名作に触れるきっかけになれば素敵じゃないかな。
なんちゃ・・・。