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kei1004さんのHOTEL.の長文感想

ユーザー
kei1004
ゲーム
HOTEL.
ブランド
暁WORKS‐黒‐
得点
70
参照数
457

一言コメント

老若男女、個性豊かなキャラたちが◎(特にラヴ)。主人公は常に敬語・無表情・真面目・天然ボケ風味という、エロゲでは珍しいタイプ。このゲームをあえて分類するなら「日常モノ」。選択肢が現れるあたりから失速&個別ルートがしょぼいのが欠点。ちなみにラヴはアフロで関西弁のおっさんです。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

とあるホテルを舞台に和洋中(?)、バラエティ豊かな従業員や客達がわいわいがやがや、人情味溢れる生活を続けていく。
ただそれだけの話です。本当に。
まあ、暁WORKS「黒」なので。
途中で主人公の秘密…「感情がない」ことや、世界の秘密…「かつて大きな戦争があり、ただ終わりへと向かっているだけの世界」であることが明かされたりします。
主人公は成長を遂げますが、世界については本当にただそういう世界が絶対的な背景としてあるだけ(と言ってしまうのは少し忍びないですが)。
皆、戦争が原因の辛い過去を持っている。人はほとんどいなくなって、朽ちていくだけの世界のことを知っている。それでも生きていく。ホテルプリメーロで。
何かが起きて世界に平和が取り戻されたり、(私達が普段生きているような)日常が戻ってきたりすることはありません。最後まで世界はそのままです。
ようは「戦争後、滅び行く世界での『日常モノ』」なんです。
だからストーリー的にはたいしたことは起こりません。公式ジャンルは「おわりのあいのものがたり」だそうで。


さて、そんな内容で楽しいのか? と言いますと。
この作品の魅力は、なんといっても老若男女個性豊かなキャラクター達。
特に輝いているのはラヴ。めちゃくちゃ楽しくて良いキャラでした。徳二郎も良かった。
ヒロインの中では彩花かな。元気いっぱいだけどわがままじゃない。他人のことをしっかりと考えられる。やっぱりこういう「いい子」はいいね(だからこそ後半がつらいんだけども)。声もすごく好み。
主人公も一言コメントに書いたとおりの、なかなかに珍しいタイプ。
例えばちょっとしたことで女性にドキッとしたりもしない。そりゃエロゲでは難しい。
どのキャラにもしっかり考えていることやドラマがあり、騒がしくも温かいやり取りは眺めていて楽しいんですよね。
まきさんの話はあーベタだなってわかってても泣きました。

で。
まきさんが亡くなったあとから、それががらっと変わって非常に暗い雰囲気に包まれてしまいます。
シナリオ構成は穢翼のユースティアや世界でいちばんNGな恋みたいな、途中下車形式?とでも言うんでしょうか。メインの筋から選択肢一つで個別に分岐します。基本はサラルート。
メイン筋では、ヒロイン達(と、主人公も)の心の問題を一人ずつ解決していくって感じです。
この分岐が現れるあたりからがですねぇ…どうも、中だるみするというか。キャラたちがぽつぽつとしか出てこなくなる。構成上仕方ないキャラもいるけれど(彩花とか)なんか不自然になってしまっていたんですね。
ヒロイン達のウジウジもかなり長く続いてしまうので、正直イライラさせられてばかりでしたし。
個別を回収してからメイン筋を読んでいたのもダレてしまった原因かも。
個別ルートはわりとしょぼいです。確かに成長もするけど、イチャイチャ(ってほどイチャついてはないですが)のためのものと感じてしまいました。
確かに、この分岐の仕方だとその他ヒロインの問題等が解決していないから個別を盛り上げるのは難しいんですけどね。

まあそれも、メイン筋であるサラルートが練りこまれていて面白ければよかったんですが。
コンプしたあとの率直な感想は「え? それだけ?」です。
ルシールのこととかあんなに引っぱったのに…それだけ!?
サラに関しては完全にエピソード不足です。感情を取り戻した主人公とか雰囲気は良いんだけどそれだけじゃ厳しい。気持ちが全然伝わってこない。
せめて、ヒロイン&主人公の過去編をきっちり描いていれば良作になりえたかもしれません。
アリスの好きな人を亡くした過去、主人公と美雨の出会い、主人公とルシールの交流、ついでにラヴの記憶喪失、徳二郎の妻子を亡くしている設定etc.。
舞台設定はともかく、これらの出来事までが単なる設定としてしか描かれなかったのは非常にもったいないです。

その他シナリオについてはとりあえずこれだけつっこみ。
マーカスさんの態度は疑問。
日輪を「きつく叱る・放置」はわかるにしても「言いがかりで怒る・所有物呼ばわり」はなんか違うんじゃないかと。
「あんまり」すぎて、むしろ感動シーンに水を差してしまったような。


組み立て方は、たぶん悪くはなかった。
テキストは三人称視点(実際は三人称(一人称?)カリス視点/読んでいるうちに気付くと思います)多めで、ちょいちょい個人の一人称が挟まる、って感じ。文自体は少し助詞等の繋がりが変だったりしましたが。
壮大な伏線を張るではないけれど、やり取りの中に「ん?」「あ、これ何かあるな」って思えるものを散りばめている。
くどくなく、わざとらしくもなく、次へ繋げるのをさらっと手助けしてくれるポイントがあるんです。
強引なやり方でなく、少しずつ、主人公やキャラ達の謎、そして世界の謎を明かしていく。このへんの組み立て方は上手でした。
まあ、そこから何かが起こるシナリオではないので、残念ながらあまり意味を持たなかったのがとても惜しい。


演出面も弱いので余計にノレないです。
通常絵でも目のハイライトが下部にあり暗く感じる。
CG数は多いのですが何でこのシーンに? と思えるようなものも(サブキャラにもしっかり用意したからだと思いますが、むしろ不自然さも目立ってしまった)。
そのわりにまきさんの「絵」がないのも×。絵がキーになる作品は、その絵を出さないと駄目だと思います。
あとなぜかテキストが瞬間表示にならない。
いや、しゅばっと素早く表示はされるんですが、微妙に全部一括表示ではないんです。
別に困りはしませんでしたが、瞬間表示が好きなので気にはなりました。
キャラボイスはキャラによって大きさがまちまち、調整に困る。
BGMはクラシックのアレンジが多く、ホテルの雰囲気には合っていたんじゃないかと。


個人的には、最初にサラルート(他ヒロインへの分岐をしない)を一気に読んでしまったほうがいいと思います。
個別をあとで回収してもそれはそれで味気ないとは思うんですが…。でもサラ含めどの個別もイマイチなもので…。悩ましいですね。
前半の雰囲気は本当に楽しくて、80点余裕で超えるなぁと思っていたんですが…残念。もっと作りこんでほしかったなと思えるゲームでした。