主人公の特殊な設定+お嬢様学校と云う閉ざされた空間装置+優れた造形のキャラが繰り広げる愉快だけど、とても端正な展開……から、まるで良質なコメディ舞台劇が、繰り広げられるような作品。演出効果、それにセリフ回しが抜群で、こんなに慣用句等で溢れているのに、少しも硬く感じないのは驚きです。この作品に触れて、某画家の「世の中には、不愉快なことがたくさんある。だから、これ以上、不愉快なものを作る必要は無いんだ。」と言う言葉が浮かびました。まさに、このメーカーの特性でしょう。個人的には、学生よりも、社会人の方にお勧めです。ひと時現実を離れ、おかしくも華麗な舞台劇へ、私達をいざなってくれるでしょう。
女装を強いられ、常に演技し続けねばならない主人公。まるで、舞台のように切り取られた「お嬢様学校」と云う名の閉じられた空間。役割と性格が明快に分けられた登場人物。知的で、歌劇のように長く巧みなセリフ群。極端へと走らず端正、かつ抑制の効いた展開……。この作品、画面であたかも一つの舞台劇が演じられる様な印象を受けます。それが効を奏して、一歩間違えると「恥ずかしく」感じかねない、主人公の決め台詞が綺麗に決まり、聴く者へと率直な感銘を与えるのです。
主人公も「女装と外見」を除けば、古典的と云ってもいいほど正統派の「悩めるヒーロー」タイプで、この特殊な前提のおかげで全く嫌味がありません。
この作品、一言で云ってしまえば、典型的なシンデレラストーリー(但し、ガラスの靴で姿を偽るのは王子?様の方ですが)です。が、物語の根底を一貫する主人公の「後ろめたさと罪の意識」が、純粋なかたちでに主人公の美点を引き出し、周りの人々を変容させ、逆に、それが再び主人公を変えていく様は、単なるシンデレラストーリーの枠にとらわれない大きな魅力でしょう。
また、物語は徹底して女性の視点が中心なので、このジャンルのシナリオとしては珍しく、中にはステレオタイプな「女性」と「男性」のよくある設定が逆転した物もあり、いかに「普通のエロゲシナリオ」が「変」か思わず納得してしまいます。その上、本作独特の知的でエキセントリックな会話に浸ってしまうと、もう「えう~」なヒロインのゲームには、戻れなくなること必定です。
一見すると、何となく物語の展開に劇的な要素が欠ける感を受けるかもしれません。その為思わず「もう少し……あれば」と評価を下したくなります。が、本当にそうでしょうか。一例として、主人公が身を挺してヒロインを救うシーン、「家○計画」の山田○であれば、ここで主人公に生涯消えない傷を負わせるでしょうし、ひそかに主人公を慕う眼鏡娘は「君○」のアージ○ならば、ストーキングで真綿で首を絞めるように、主人公を追い詰めていくでしょう。そうすることで、より物語は激しく、よりプレイする者の感情を揺さぶることが可能となります。しかし、それは他方、ある意味の「あざとさ」につながりかねません。
勿論、これらの手法を否定するつもりは元よりありません。が、このメーカーの個性では無いと思いますし、極端な展開を無理矢理投入すれば、今まで作り上げてきた舞台劇の様な「雰囲気」は容易く崩れ去ってしまうでしょう。また、逆に云えばそうしないで物語を構成する方が、技巧として難しいのではないでしょうか。
確かに劇的な「名作」ではないかもしれませんが、個人的には、独特な雰囲気と細やかな感情表現、知的で楽しめる会話、等、絶妙なバランスと、ライターさんが一人だけと云うことに敬意を表して「秀作」として100点です。