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kazenoowariさんのPrincess Evangile ~プリンセス エヴァンジール~の長文感想

ユーザー
kazenoowari
ゲーム
Princess Evangile ~プリンセス エヴァンジール~
ブランド
MOONSTONE
得点
61
参照数
2268

一言コメント

良いところもあるが、悪いところも多い

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

まずは最も嫌な奴オーラ満載の校長を抜いて、主人公は実に気持ち悪い

基本的に彼はお人好しであるが、現実的な思考や物事の本質を見極める事はせずに楽観的で危機感の薄い性格である。
生活無能力の割に他人に寄生するか口八丁で丸め込む父親の借金で友達を作れない境遇だったらしいが、基本的にヤクザや借金取りと対峙していたのは父親のために怖い相手と接したことがないとのこと。

確かにヤクザはあれだが、債権者にとっては貸したお金に利子が付いて戻ってくることで彼らの生活が成り立つのだ。
友達の困っていることには助けたいと思うくせにだ。
つまり、主人公はお人好しだが目の前の不幸だけ助け、見えない所での他人の不幸には鈍く、想像力に乏しい。
主人公には人を見る眼がないのだ。

同情できるけれど、この点は諸悪の根源の一つの父親に劣る彼の人格的欠点なのだ。(但し、父親は人を見る眼で他人を食い物にすることも補足する)

話はご都合主義で「主人公は良い人」だと作られ、彼が最も近くにいる人間は主人公を中立的ではなく贔屓した眼で見る、根っからの悪人がいないことで善の部類に成立する人間だが

最近では「眠れる花は春を待つ。」の主人公の和馬と同タイプ
ただ、和馬と違って無能ではないが、物事の本質を見抜けず、想像力の欠如ゆえに、努力の方向性を間違えたら、なかなか引き返さずに余計に問題を大きくする馬鹿


綾佳ルートクリア

校長の逃げてきた過去が明らかになる。
潔癖な校長は親友が不治の病に冒され、その親友の夫と不倫の末の出来ちゃった結婚で綾佳を産むが、親友を裏切ってしまった事実に耐え切れずに綾佳を「自分が産んだ子ではない」と言う妄想で過去を有耶無耶にすることで耐えてきた。

クリスチャンとしてその教えを血肉にした境遇から、仏教徒の割に信仰心を持たない方なんちゃって無神論者の日本人にはわかりづらい価値観だろうが、自分はある程度校長には同情できる価値観である。

しかし、同情できても味方になれないほど校長の罪は重い。
娘を傷付けている現実に、自分の非を認めない


また、この話で主人公は謎を解き明かすキッカケを作り、綾佳を励ますのみで、問題の解決者にならない、渦中の外にいる側だ。主人公は何やってるんだとツッコむ人は多いだろうが、この手の話では、当事者が解決すべきなので、話の外の主人公が解決するというのはシナリオの頭を疑う野暮であろう
少々地味だが、なかなか出来た話である
ちなみに、綾佳ルートは理瀬ルートの後でやらないと話が若干意味不明になる


理瀬ルート

理瀬の過去の出会いと、彼女の母の犯した罪を言及している
卒業後の変化する現実に耐え切れなくなった母は、自分の人生で一番の変化した象徴である娘を排除しようと暴走する精神病院患者である

「変化のない箱庭」ではいけないことが、理瀬の学校変革の動機だ。

このルートは、母親との関係と、学校の変革の二つが軸となっているはずが、母親との関係に焦点が行き、いつの間にか学校の変革が手抜きになっていく、妙にアンバランスな物語となっていく
展開に踊らされずに冷静な眼で見てると、実に興醒めする。



ここまでやってきて、主人公の怒りのポイントは実に計算高い。
やくざ達の場合は容赦なく怒りを見せる一方、恋人の親しい関係者の場合、罪の償いどころか許してしまおうと考えている。
罰を与えないのは、罪を憎んで人を憎まずで済ませられるが、償いを考慮しないのは妙にずれている。
要するに恋人との関係をこじれる相手の罪だけは甘いくらい許す。



律子ルート

婚約者がいるだろうって予想がついてた。
誘拐以外は律子というキャラも展開も予想通りでスキップしながら流し見てた。
元から期待していなかったキャラなので最初にやれば良かったと思っていたら複線の折り合いもかねて律子を最初にやるべきだった。

それと、主人公は校長を許すのって、そりゃ校長が犯罪者になれば学校は潰れるだろうし、律子も犯罪者の娘の挙句に娘の恋人との関係破綻を狙った母なんてマスコミのネタで、律子も相当の割を食う。
結局、恋人の縁者だから許さざるを得なかったとソロバンを弾いただけにしか見えない



千帆ルート

アホ女
嫉妬深く、冷静にならず、危機感が薄いために自分から見えている地雷を踏みに行くアホ
他人のことを考えるのなら、自分もしっかりした行動を取るべきなのに、他人を理由に地雷を踏みに行くアホ

アホアホうるさいだろうけど、ちょっと冷静になれば回避できる地雷を踏みに行くアホなんだもん

主人公の父親が危ないと散々言ったのに、自分の父親を待たないし、そもそも主人公の父親とは言え危ない男に一人で会いに行くなよ



推奨攻略順は律子→理瀬→綾佳or千帆

幾つかの伏線が律子で出て、理瀬をやってから綾佳で回収するため。千帆は理瀬の後にやるべきなので


個人的に気に入ったのは綾佳
律子は意思があるようで流されやすく、主人公依存型で苦手なタイプ
理瀬はストーリーの手抜きですっげえ冷めた
千帆はアホで、愛嬌のないタイプのアホだから
綾佳は軽薄で人を振り回すけど、意外と芯のしっかりした部分があるので

この話って、芯のあるようで実はふわふわと背骨の脆さが鼻につくんだよね
しかも、主人公を良い人に見せるために悪人ばかりにしている。一概に善人とも悪人とも言えないタイプは、この話に入れたら絶対に主人公の存在価値が下がっちゃうからな