もったいなさを感じさせる作品
とにかく展開が雑です。
雰囲気や設定なんかだけで言ったら80点代を付けてもいいかと思ったんですが、ストーリーの質を見れば中央値70前後は妥当な線かと思われます。
不満点を挙げるのならいくらでも出てくるのですが、まずは良かった点から。
とにかく雰囲気が素晴らしいです。この辺は好みの問題でしょうが、少なくとも僕は好きです。梅雨時のじとじとした感じとか、雨上がりのさっぱりした感じとか。まあそこはBGMが割と好みだったというのもありますが。
仲の良い幼馴染みや新しく出会ったクラスメイトなんかと部活なんかを絡めつつわちゃわちゃやってる賑やかで優しい雰囲気ってのは十分に出せてるかと思います。絵にしろ声にしろ高水準ですし、テキストもめちゃくちゃ面白いというわけではないけどもう少し浸っていたいなあと思わせるものでした。それなりの頻度で盛り込まれる下ネタは賛否両論ありそうですが、僕は賛成派です。
また雰囲気ゲー(?)にありがちな批判として睡眠導入剤と呼ばれることもありますが、ぶっちゃけ共通ルートは(というか個別もですが)ボリュームもあまりないので、退屈するほど冗長というわけでもないのがある意味では救いだったかもしれません。
それから共通の穏やかな雰囲気から一転、個別からは伏線の回収を併せたシリアスシーンにも突入するわけですが、ここからがライターさんの真骨頂とも言うべき部分でしょう。
僕は意識していなかったのですが、他の方の感想を見るとちょくちょく鬱ゲー扱いされているこの作品です。確かに鬱展開は多く、まあいじめられたり死んだり消えたりします。問題はその辺りの鬱はおおよそ過去の設定に設けられている場合がほとんどで、現状でのシリアス要素の大半を担っているのは主人公の幼馴染みであるこのみでしょう。
恐らく、この作品を好きになれるかどうかはこのみをどう捉えるかによって変わってくるのではないでしょうか。なんか面倒で自分勝手な女だな、で終われば合わないでしょうし、面倒だけど自分や周りのことを必死に考えてる健気な子だな、とでも考えればかなり好きになれます。ちなみに僕は後者なので、彼女を含めこの作品のキャラが考える面倒で重苦しい愛の形はだいたい肯定派です。
そんな感じで、ちょっとドロッとしたり、面倒だったり、嫉妬とか愛憎とかそういうものが多いわけですが、それもまた好きな人を幸せにしてやりたいだとか、好きな人と幸せになりたいだとか、そういった感情から彼女たちが健気に頑張った結果として受け止めておけばいいんじゃないでしょうか。
あとまああれですね、キャラが可愛いですね。菜乃花もこのみもクソ可愛い。というか彩菜が一番可愛い。ここ重要ですね、キャラが好きになれれば鬱展開はより鬱に、幸せはより大きくなるので。回想でのイチャイチャで幸せオーラ全開な雰囲気を、鬱展開でぶっ潰される感触は筆舌に尽くしがたいですし、そこからまた幸せを取り戻していく感覚も僕の好物です。その辺りをじっくり表現したいというライターさんの意思は伝わってきましたし、設定や回想段階での雰囲気作りはとても上手くいっていたと思います。
問題は後の方の、幸せを取り戻す段階ですね。つまり本編のストーリー部分ですが、ここが雑というか単純にライターの実力不足なのか、かなりクオリティが低いがために評価を下げざるを得ないのが実情です。
批判点はいくつかあるのですが、無駄に粗探しして弄くり回したいわけでもないので簡単に書いていこうかと思います。
まず、ヒロイン四人のうちの二人はほとんど要らないかと思われます。ルートのクオリティはお察し状態ですし、一応雨音ルートは裏設定みたいなものにも関わってきますが、さほど重要でもありません。
それから上記以外の重要なルート、つまり菜乃花とこのみルートですが、これも尺の都合か知りませんが思いの外ボリュームがなく、展開の雑さが目立ちます。
菜乃花ルートは超展開。劣化もしらばと言われるのも無理はありません。それまでの世界観に比べると、中々に強引な展開で唖然としました。一応全員が報われてるルートではありますけどね。
このみルートは、一応ルートロックもかかっていますし、他ルートでのこのみの立ち位置を考えるとライターさんとしてもかなり力を入れたルート……と思っていたら、案外あっさり終わってしまったので肩すかしを食らった印象です。
正確には、回想、というかネタばらしをした後での展開が簡単すぎた、というところでしょうか。なんだかんだで設定は強い(と僕は思っている)ゲームなので、過去回想シーンは伏線に気付いていたとしても心を揺さぶられる感触があるので悪くないと思います。しかし、その回想をやった後の問題解決と、ちゃんと付き合い出してからのいちゃいちゃが物足りないのです。問題解決の方法は雰囲気ゲーらしいと言えばらしいですが、ルートロックもされたオーラスエンドだというのも踏まえると、もう少し盛り上げてくれることを期待していたのは事実です。
それからそうですね、テキストではこのみが貧乳扱いされているのに、実際の絵ではそこそこ大きめなのはその手の趣向の方にはマイナス点ぶち込まれても仕方ないのかな。逆に花梨はテキストで大きめなのに絵ではそこまででもないですし、そもそもテキストの誤字の多さや、PVですら榊野が榊原に間違っていたり、そういった細かい部分からも悪印象が積み重なってしまうのはよろしくないかと。
そんな感じです。全体としてはとにかく展開が雑という評価。しかしこれは期待の裏返しという意味合いが大きいです。雑だからクソ! というよりは、もっと丁寧にやってくれたらなぁ……という方向性。何度も言いますが設定と雰囲気はとても好きな作品でしたし、ストーリーもおおむね楽しむことはできました。もったいなさを感じさせる出来ではありましたが、それも含めて心に残る作品にはなったんじゃないでしょうか。