恋愛を主軸にキャラの人間性と感情を丁寧に手がけた傑作。読んでいて心地よいテキストや言い回しはさすが丸戸。
夏夜
美都子と理との三角関係のようなお話
恋愛においては達観した視点で物事を見ることができるも感情的な気持ちが強い
普段は飄々としているがけっきょく最後には美都子にも容赦なくあたってしまい理との関係という現実を突きつけてしまう
自分を押し殺せずイヤな役を演じては理がそれを受け入れてしまい後悔する
やったことは大人気なくマイナスにしかならないけれど夏夜という人間には全く嫌悪感がなかったしむしろ好感が持てた
口も立つし何でも上手くこなしそうなイメージを持ってたけどご隠居が言ってたように理を構っているとき以外は意外とぐだぐだ
会社で理と出会ったころの姿を思いだせばまぁ納得いきますね
一途な恋が生み出した潜在能力でしょうか
姫緒
社長令嬢で高飛車な言動とは裏腹に根っこは素直で優しい、でもそれを隠そうとして全然隠せていないところが好印象
ボランティアへ参加したり街頭募金へ寄付することで恵まれない人たちへ貢献している
まだ社会の仕組みも知らない女子大生である姫緒が、理を部下として経験不足を補い社会経験をしていくお話…と思いきやこれも姫緒と理との三角関係へ
元々の目的は美都子と理を引き剥がすことだったが共に働き同じ時間を過ごすことでお互いの新しい一面を知っていく
美都子に過剰にこだわる理由は彼女が実は父親の隠し子でつまり妹だったから…というのは大嘘で理がどのくらい美都子を大切に思っているのかを試したとのこと
自分のことなんて考えもせずに美都子の最善を想い、真実を話して姫緒の家族として幸せになって欲しいと話す理に姫緒は好感を持つと同時に好意を抱く
この時の会話が理という人間を姫緒が認めた決定打になったのは言うまでもない
その後の、好意を自覚しきれず錯乱する姿がまたかわいい
最初から話のテンポがよく人間性もよかったので好印象ではあったけど好感度がまた1つ上がったキャラでした
話的には「世界でいちばんNGな恋」というタイトルを意味する美都子と理の関係性を際立たせた印象が強かった
やはり第三者的視点においては冷静に恋愛を見ることのできる夏夜のセリフが印象的でした
その上でしっかり最後の澤嶋グループとの決着と3人の晴れ晴れした姿を書ききるんだからすごい
それと理の憶測になりますが最後にやっぱり美都子は澤嶋の子なんじゃないかと話を濁して終わったのもよかったです(美都子が妹というのが嘘というまま話が終わってしまうと澤嶋父の行動動機の面で理解しづらかったので)
麻美
ヒロイン最年長なだけあって流されやすさや抜けている所はあれどいちばん自分というものをしっかりと持っていてそれを行動に移せる大人な女性という印象
一般的に間違った身の丈に合っていない恋をしている美都子を心配する親友と美都子に恋するクラスメイト、元妻である麻美、そして当人たちの想いが交錯するお話
結婚していた当時の話も入ってきて物語の視野が広がるルート
(5年前の結婚式の髪下ろしてる麻美さんかわいい)
ずっと触れられずにいた理と別れた理由、やっぱり理を想って故の決断だったんですね
不妊症というのは途中の回想が入るまで気づきませんでしたが今思えば愛し合って2年も一緒に住んでてこの2人に子供ができてないというのも疑問を感じるポイントでしたね
麻美は個別ルートに入るまで他ヒロインに比べると人間性がわからず魅力を感じられなかったけどやはりいい女性でした
理の前ではかっこいい頼れる自分でいようと振舞って裏で落ち込んだり後悔してるところなんかかわいいですね
そのせいもあって弱い部分を見せれずに離婚に至るまでの思考が一直線になってしまったわけですが…
最後は皆の計らいもあって理に弱い部分も知られたし、理も美都子と真剣に向き合ってきたことで自分の頑張りで子供を育てるという体験ができ、人を愛する喜びをもう知っている
もう昔別れた理由なんて今は問題じゃない
プロポーズ、決まってましたね
恋が叶わなかった美都子も麻美に遠慮がなくなって容赦ないセリフを言うようになったけど、その分麻美とは距離が縮まって笑い合えるようになっていたのは良かった
美都子ルートでは卒業した美都子に「後は………任せた」というシーンは胸にチクリと刺さるものがあったし、理に最後のけじめとして話をされた時の別れ際のセリフは本当に気持ちが込もっていてボロ泣きしました
美都子
幼いながらしっかりと自分の芯を持っていて他人のことを真剣に想うことのできる本当に優しい子
困っている人は放っておけないほど他人には甘く自分に厳しい
甘える相手がいない環境でも強く育ったこの子は人に甘えることをしなかった
(ホントはすごく甘えたがりなのに)
そんな中、理と出会い暮らしていくうちに芽生えた気持ちに素直になっていく様子は見ていて微笑ましい
途中からは他のヒロインと理の関係を気にする姿が多く、意地になったり素直になったりそんな姿がとてもかわいらしい
ツンツンしているようで他人の頑張り・努力は素直に評価し、その結果に自分のことのように一喜一憂する
自分の弱い部分を隠して頑張ろうとする上、笑って何ともないように振る舞うので周りには弱さが目立ちにくいが、内面に年相応の弱さを持つ美都子の弱い一面をプレイして見ている身としては本当に切なくて応援したくなった
理の事が好きだと自覚してからは自分のことを娘のようにしか見てくれない理に拗ねる場面もあったが、親友である姫緒も理のことが好きだと気づくと自分の気持ちを押さえ込んで2人を祝福する
でも影ではそんな2人を見るのが辛くてやっぱり泣いていて
そんな気持ちは行動にでてしまって
でも理と本音を話す機会を得たことでそんな自分もさらけ出せるようになる
しかしそれも束の間、そんな美都子の理への想いは心配する親友の倫子の行動や麻美の存在からまたしても一人の女の子としての立場と理に望まれてる娘としての立場をさ迷い、悟ったかのように娘としての自分を演じ続ける
イヴ前日の公園で美都子に膝枕をされてその心情を美都子の口から告げられるシーンはプレイしていて本当に辛かった…
その時にもらったプレゼントのお守りには口約束した指輪が入っていて、さらにはお守りを買うために松葉杖で1234段も登った事実を剛志に気づかされ、美都子は想いを抑えきれなくなる(この真っ直ぐで誠実な所は剛志の美点でした)
指輪が入っているということは当然麻美にも指輪を渡しているはずで、電話するも繋がらずもう手遅れかもしれないけれど美都子はもう一度女の子として理と向き合うことを決意する
しかしそれから約二ヶ月後のバレンタイン、手作りのケーキには「さよなら」の文字
女の子としての理へのさよなら
このケーキを美都子はどんな気持ちで作ったのか、待ち合わせに遅れてきたことからも本当に辛かっただろうその姿が目に浮かぶ
好きな男が酔って口にした本心からの叫びを聞いて悩んで悩んで苦しんで出した決断なのでしょう はぁ…辛い。
本当にこの子は年相応の心が内側にあるのにそれを隠して他の大事なものを優先できちゃう子なんですよね
先に麻美ルートをやった私は美都子ルートではてっきりチョコのコーティングは変わるものだと思いきやさよなら入りのケーキを作る現場を見せられる始末… 勘弁してくれ~
バレンタイン当日2人街中で叫んで抱き合うシーンはやっと報われたんだなと感無量でした
酒に潰れた本心が出るシーンでの選択肢でどっちが思い浮かんだかでルートが決まるというのもよかったですね
本当にプレイして楽しいゲームで胸にくるゲームでした
ヒロイン・主人公・そして周りの人間もわるい所といい所がよく感じられ、その上で好感を持てる魅力的なキャラクター達でした(美都子の母親とその相手の詐欺師だけはほんとどうしようもないと思ってしまいましたが…)
そんな最後のスペシャルエピソードは人によっては気分よく終わったと思ったらなんでこんなエピソード入れるんだよと言いそうですが、母親が現れないまま終わるのはそれこそ物語として足りないピースとなってしまうし、陽坂荘のメンバーの活躍シーンや母親はダメ男を好きになるというジンクスを使ったストーリー、そして最後に美都子との結婚シーンを入れるのも丸戸が描きたかったものの重要な一部なのではないでしょうか
まだまだ幼く子どもっぽいですが個人的には美都子の人間性がとても好きだし、他のどのヒロインよりも魅力的で理想的な女の子だと思いました