ErogameScape -エロゲー批評空間-

kaza-hanaさんのサクラノ詩 -櫻の森の上を舞う-の長文感想

ユーザー
kaza-hana
ゲーム
サクラノ詩 -櫻の森の上を舞う-
ブランド
得点
92
参照数
3940

一言コメント

素晴らしい構成力と強いメッセージで、シンプルながら深みのある作品だった。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

■ 共通ルート

すば日々と比べると一般的な癖のないテキストで、アレ?と感じるかもしれない。
過去が伏せられて進行していくテキストは、伏線も散りばめられていてシリアスに入ると強い。

始めは夏目圭、明石亘、トーマスが絡むと日常パートがパターン化されてちょっと退屈に感じたが、
夏目圭と明石亘に関しては話が進行するとシナリオの大筋に関わってきたり内面の隠れた魅力が分かってきたりすることで次第に見方がかわってきた
(だがトーマス、お前はダメだ)
女性キャラは絵も声もほんとに素晴らしい。


■ 真琴ルート

登場人物の関係性が徐々に繋がっていく。

問題の中村家との関係を軽くまとめるとこんな感じ。

中村章一(父親)-現:鳥谷紗希(母親)-現:鳥谷真琴(姉)
        -現:恩田霧乃(妾)-現:夏目圭(腹違いの弟)、恩田寧
        (圭を出産後、紗希の計らいで逃亡。寧はその後に出産)
紗希が多忙でいない中、真琴と圭は幼少時代を共に中村家で疎まれて生きる
     ↓離婚
鳥谷紗希-鳥谷真琴(引き取るが別居)
     夏目圭(夏目家の養子へ)

本間麗華(中村章一の妹)-寧に怪我を負わせた子供の母親で、その際の子供のかすり傷で霧乃に不当な言いがかりを付ける。プライドが高く、自分がすることが正しいと常に想っている自己中心的思考を持つ。

下記はそんな麗華に追い詰められ、圭の絵を手に入れて来いと命じられそのままに動くしかない心の弱い恩田霧乃に対して紗希が言ったセリフ

「あなたがここで言うべき言葉は、圭の絵をくださいじゃない。
 お金を貸してくださいでしょう。
 それも麗華に払うお金じゃない。
 あなたの子供に十分にリハビリを受けさせるためのお金よ。
 ・・・私があなたに共感できるところはない。
 ただ謝って泣いているだけの人生。
 でも、そのうえで、一つ聞きたい。
 そうして、あなたは泣いてばかりで、子どもまであなたの犠牲になるのを
 ただ指を加えて見ているだけなのかと。
 私は、守るわ。
 血が繋がっていても、繋がっていなくても
 私の子だと決めたのだから、私は私のやり方で守る。」

これまで言葉で伝えられず、真琴に伝わらなかった母親としての強い意志がやっとその場にいた真琴にも届いたシーンでした。
中山家から学校を乗っ取り子供の将来の道を整えたこと
圭の絵を自宅で預かることで、中村家からの面倒や言いがかりが本人や夏目家にいかないようにしたこと
ちょっと不器用ではありますが、子どもの事を考え、強い意志力と実行力で現実を見据えて生きてきた紗希は心強い母親だと思う。

過去の真琴が駅で草薙直哉の「横たわる桜」を見たときのシーンはBGMと五行なずなさんの神演技で自然と泣けた、すごい。

真琴は2人の天才のために渾身の一作を作り上げた。
それでもどちらの天才も現状からその先へ行くことはできなかった。
この一見バッドエンドにも見える結末だが、現実とはそうゆうもので何でも努力で報われるわけではない。
それでも真琴にとってとても大切な2人に対する想いの強さは美しいものであり、とても感情移入できた。


■ 稟ルート

草薙水菜(旧姓:夏目)- 直哉の母であり、藍、圭、雫の姉にあたる
御桜吹    - 稟の母親 6年前の火事で他界
吹      - 千年桜の花弁が生んだ幻 雫が作り出した
長山香奈   - 過去に直哉と同じ学校に通っていた 直哉の絵を見て感化された一人 直哉のことを好いているがかなり歪んでいる

稟の過去に何があったのかが明らかに。
母親の死を受け入れられなかった当時の稟は、人形を病気で動けない母親と錯覚し車椅子に乗せて生活を続ける。
見かねた父親は人形を取り上げ稟の元を去り、その後稟に母親が他界したことを告げるが、記憶を忘れた稟が現実を思いだして壊れてしまわないように話すことを避ける父親に和解は生まれず親子の関係は険悪に。
当時の事故で右腕の負傷したことで絵かきとしての生命を失った直哉も、稟が過去を思い出さないように自ら辞めたように振舞っていた。

しかし吹の探しものを探すうちに稟は昔の記憶が戻りかけ、さらに倒れて病院に運ばれた稟に、長山香奈がここぞとばかりに過去の真実を突きつける。
追い詰められた稟は暗示にかかったように自分のことを責めるが、直哉の言葉で正気を取り戻す。

登場人物の関係性が密接な作品の中、吹の存在がどういった位置に属してくるのかと考えていたのでファンタジーだったのはちょっと急に安っぽくなった感じはしたが、雫との関係性などまだ深い設定がありそうでこれはこれでありだと思った。

大筋のストーリーはそれまでの伏線が強すぎたのもあって思っていたよりインパクトはなかったが、1個別のストーリーとしては十分な作り込みだったし話の展開がうまかったので先が気になって楽しめた。
(ただシナリオの比重がエロ多めだったのはちょっと気になった)
最終的には優しさという長所に芯の強さも持ち合わせた稟の姿を見ることができて気持ちの良い終わり方だった。

吹が最後に言っていた「記憶は戻って、でもそれより大きなものは戻らなかった。だから私がまだ存在する」というのは稟の才能のことで、吹が協会に描いた桜をみて直哉が草薙健一郎と同等かそれ以上と評価していたことからも推測できる。
こういうエピローグの部分で伏線をはさんで作品全体の雰囲気を作り込むのはさすがだと思う。

そして全ルートが終わって振り返ると、このルートの稟はあくまで直哉の視点からから見たものであり、真実はまた違った側面にあるというのもおもしろい。
同じシナリオが情報量の操作によって時間差で再構成され、全く違った感想を持たせるという見事なものだった。


■ 里奈、優美ルート

現在のストーリーに加えて、過去のエピソード、里奈と優美が夢で見ていた過去の伝承を並行して進め、さらに視点の切り替えや時間軸を戻す手法、何より文学的比喩が多く取り入れられていて読み応えのあるルートだった。

なんと言ってもこのルートの魅力は文学的比喩を用いた表現力。

特に過去のエピソードはしっかりと作られていて、優美が里奈に出会って感化されていく様子や直哉との出会い「櫻の芸術家」で里奈の気持ちが変化していく様子、そして里奈の優美に対する気持ちの変化も比喩を用いたことでゆっくりと表現していき、しっかりと確立させているので読んでいてとてもしっくりきた。

他の場面においても内面や心情はかなり丁寧に書かれていて、直哉が母親の死から春日狂想を連想して「櫻日狂想」を書き上げたことから里奈の死の臭いと美しさに惹かれたことなんかもすんなり受け入れられたし、右腕を犠牲に作品を仕上げた理由としても納得がいった。

他ルートヒロインである稟にも見せ場があったのもよかった。
凛ルートで言っていた通り直哉にふさわしい相手がいると思ったら2人のために行動する。
何気ないテキストでだったが、しっかり伏線として回収して良さを出したのは評価できる。

夢の伝承のパートでは、過去の伯奇と義貞を現代の里奈と優美にリンクさせているようだったが、類似している部分はあるものの個人的には前世を匂わせるにはちょっと薄いかなと感じた。しかしそれから千年桜の奇跡に繋がる流れは、作品の世界観を深くした上できれいにまとめたなぁと思う。

1つどうしても気になったのは直哉が里奈に最初に告白めいたことを言うシーン。
あの時点では視点がかわって時間軸が戻ったことでかなり序盤なので、里奈とのエピソードは個別に入ってほとんどない。他ルートと違って告白をするまでの過程がない。
元より好きだったにしても、他のルートで里奈に対して想いがあるような感じは全くなかったので、急に里奈のことが好きだったと言われてもちょっと納得しづらいものがあります。
草薙の人間は恋愛に対しては一途という設定は付き合ってからの誠実さなので守られてはいますが、そこだけはちょっと残念に思いました。

優美ルートは里奈の優美を思う気持ちが強くなり、優美の気持ちに応えたルート。
千年桜の奇跡は優美の想いが叶ったことで起こらず、それによって見ていた夢も途絶えた。
最後に屋上から直哉と稟を見かけて読んだ詩は春日狂想のものですね。
「……あばよ。でくの坊……」と言って本を捨てるシーンは印象的でした。

個人的解釈ですが、優美はなんだかんだ里奈の相手として直哉を認めていたので、このセリフはかるい皮肉のようなものと受け取りました。
里奈は優美のカバンを取り返しに行き、底辺校で交渉の末、1発殴られて授業に遅刻しています。
里奈ルートでは遅刻はなかったし、怪我をしていれば優美が間違いなく気づいている。
さらに言えば、直哉ならば里奈が黙って殴られるところを黙って見ているとは思えないので、優美ルートでは里奈が1人で行ったのだと推測できる。
だからといってそれに対して責めているわけではないだろうが、結果、運命的意味合いでそこまでの男ではなかったんだなということから、直哉=でくの坊としたのだと思います。

秋の夜に里奈と2人だけの糸杉の公園で読んだ「在りし日の歌」
在りし日 は 過ぎし日 と同じ意味です。
すべては一つのメルヘン。二つとはないメルメン。
これが正しい結末かどうかはわからないがメルヘンは一つだけ。
最後に本を捨てたのはそれまでの過ぎし日々との別れなのだろう。

いろいろ書きましたがなんだかんだこの里奈と優美のルートが個人的には1番好きです。


■ 雫ルート

稟と雫の関係性、吹の正体、直哉の秘密など物語の根幹となる話が展開される伏線回収ルート。

簡単にまとめると、

小吉羽屋敷(後の夏目屋敷)で伯奇の素質をもった夏目雫が生まれる
中村家に目を付けられるが夏目琴子によって守られる
     ↓数年後
健一郎が水菜の病で一時帰国 天才少女・稟と出会う
夏目琴子が死去 健一郎は稟を連れて夏目家へ 凛と雫初対面
     ↓御桜吹死去
稟が天才的具現化能力で千年桜を咲かせようとする(母親を蘇らせるため)が、雫が伯奇の夢呑みの力で母親に関する記憶と能力を奪う
伯奇として目覚めた雫は中村家に追われる身となり、健一郎とニューヨークへ
稟から奪った具現化能力から吹が生まれる

といった感じ。

かなり設定が細かく深みのある作品だなとは思っていましたが、隠されていた人間関係や背景にある事柄が分かることで裏付けされていくのは読んでいて楽しいですね。
稟にあの人間離れした能力がなぜ備わっているのかは謎のままですが。
ルート最後の、姿が見えなくなったら誰も悲しまないように記憶も消して一人消えていくという吹に対して、
「千年桜ぐらいいくらでも具現化してやるよ!」という直哉は、櫻の芸術家という称号にふさわしいイケメンだった。

直哉の秘密に関しては、謎だった明石とフリッドマンとの関係について。

健一郎は小吉羽屋敷の少女たちと雫を引き取るために中村家に15億の借金を負っている。
しかし、健一郎は9億集めたところで病院生活となり、いまだ中村家に追われている雫を直哉に預ける。
そこに押しかけてきた中村家から雫を解放するため、明石・フリッドマンの交渉に乗り、草薙健一郎の贋作「櫻七相図 六作品」を作り上げる話。

フリッドマンは健一郎をバックアップするムーア財団のお偉いさん。
近くをうろついていた明石を雇ってアパートを監視させ、中村家が押しかけたのを見て計画通りに明石に取引を持ちかけさせ、自らの地位を利用して匠に交渉を成立させた。
結果的に利益のほとんどを一人で持っていったが、事前に中村家の情報を調べていた手際や言動の1つ1つをとってもかなりの切れ者なのが分かる。
彼がいなければ取引自体行われず、雫を中村家から解放することもできなかっただろう。
金にはシビアだが、金のために協力しているというよりは、金稼ぎに直結させてそれを理由に助けたという印象。
有能で自信家な性格だからこそ、ただ人の為に動くだけでなく、そこに自分の利益も追い求める貪欲さとそれを実行する力があるように思う。

明石は共通ルートで協会の壁に千年桜を描くという計画を実行しているが、この時点では健一郎の筆使いが表現できず四苦八苦していたようだ。
金は入らなかったが本心では全く惜しんでいる様子もなく、直哉が使ったスプリングの設定からヒントを得て満足している。
しっかり話が繋がっていますね。

中村家との取引前夜、病室を抜け出してきた健一郎が、直哉が書き上げた櫻七相図 六作品を1枚1枚じっくりと見て、納得したように「銘は俺が付けよう。これを俺の墓碑銘としよう」と告げ直筆で銘を入れた。
それからいつも直哉に対してバカなことばかり言っていた健一郎が感謝を語り、名を刻んで落款印を入れるシーンは胸にジーンときました。


■ Ⅳ

中村家との取引が終わって草薙健一郎が死去するまでの3ヶ月の中のある日、健一郎が若田に病院で水菜との出会いのエピソードを語る話。

健一郎は学校の屋上で授業をサボって本を読んでいる水菜と出会い、話すうちに彼女に強い関心を持つ。
紗希の資料から埋木舎という言葉を見かけ、気になって地図の場所へ行ってみるとそこには水菜と藍が2人で住んでいた(子どもの頃の藍ちゃんかわいい…)
無邪気な藍、気を許し始めた水菜としばらく平和で楽しい日々を送っていたが、藍が親元に行っていない日の夜に中村章一がやってくる。
黒服に立ち向かいボコボコにされた健一郎は、売春婦のような扱いを受けているという水菜の現状を知り、守る事を決意。中村家を敵にまわす。
夏目琴子と連絡をとり、中村章一が見たら我慢できないであろう水菜をモデルにした売春婦であるオリンピアの作品を10億円で売買契約。
一夜にして完成させ、目立つ所に設置されたその絵を見て苛立ち、破り捨てた中村章一に賠償責任を押し付けた。
夏目一家はそれを因縁に中村家を追い詰め、10億用意できるわけもない中村家に屋敷で手打ちにすると交渉。
当然住人も一緒に頂くといわれ反論するも、打ち合いをしたって構わないという琴子にうろたえる中村章一。
しかし、殺し合いが始まると思い込んだ水菜は自分が中村家に残るからと口を挟んでしまい、結果として藍は夏目一家が、水菜は中村家が引き取る形に。
その後、屋敷は夏目屋敷となり藍共々夏目琴子の監視下に、健一郎は水菜を連れて国外へ逃亡。
水菜は借金として貸付という扱いになり、健一郎は借金返済のためにその後国外で稼ぐこととなる。


■ Ⅴ

学校の帰りに追っかけを避けて香奈と遭遇する場面で雫ではなく藍が現れる。
凛ルートからの分岐でしょうか。
圭と香奈と密接な関わりを持ったことで、直哉が再び筆をとり、真剣に絵画に向き合った話。
「櫻七相図 六作品」を見て直哉が描いた作品に感化された圭は、身を削って作品に取り掛かる。
その姿は他のルートでも見られたが、このルートではそんな圭と直哉が直接言葉を交わし、その強い意志と想いが直哉に伝わっている。
天才的才能がありながら「お前が走らなきゃいけなくなるような作品を俺が作り出す番だ」といって自分のために絵を描くという圭に、直哉はその才能を開花させる手伝いをしてやりたい、と絵を描くことを決意。
香奈にも真相の全てを打ち明け、現状の自分のレベルを実際に目の前で絵を描くことで見せつけた。
口では散々なことを言いつつも、それでも直哉への執着を捨てきれずぶれない自己芸術論を語る香奈に、直哉も吹っ切れ、健一郎の唯一の弟子であり絵画の天才である吹に勝負を持ちかけることで自分を追い込んでいく。
結果は甲乙付けがたいもので、天才の吹から見ても素晴らしいものができた。
それからも絵を描き続け、納得のいく作品を作り上げた直哉と圭は、揃ってムーア公募展にノミネート、さらに圭は年に一度たった一人しか選ばれないエラン・オタリを受賞する。
実績もほぼない無名の少年が受賞する快挙だったが、圭は会場に向かう道中で少女を助けた際に力尽きたように息を引き取っていた。
苦悩し、若田にもらったウイスキーを飲んで荒れ果て、マンションで血を流し倒れる直哉。
それを介抱する藍に自分の弱さをさらけ出し、藍と共に寄り添って歩んでいくのが藍ルート、藍が学んだ大学の同じ学部に進学し、新しい夢として先生を目指す。
それでも自分に強くあり続けたのがもう一つのルートで、こちらでは受験は失敗しているが、絵の道をやめずに芸大へ進学しようとしていることから、乗り越えて前へ進もうとする姿は見てとれる。

圭の死は、この物語において、直哉が「幸福とは何か」自分なりの結論を出すための大きな鍵となっている。
父・健一郎も水菜が亡くなってから横たわる櫻という名画を描きあげたように、自分にとって大きなものを失うということはそれだけ大きなものを得ることができる機会なのだと思う。
人が本当に大事な存在を失うということはなかなか経験することではない。
その時でなければ感じられないものがあるはずだし、それは並大抵のものではないはずだ。
決して軽いものではなく、飲み込まれる人も多いだろう。
ただその人に大きなものを残していくのは間違いなく、それを乗り越えた時にこんなに自分にとって強いものはない。
自分という人間を形成する上で、間違いなくその存在は大きな核となっているはずだ。今作の直哉のように。


■ Ⅵ

弓張学園の非常勤教師として次世代の弓張で働く直哉のその後。
名門芸大を卒業してから就職していることと特定の相手がいないことから、Ⅴで進学した後の話だと思われる。
自分が過ごした学生時代と同じ場所に、多くの経験をして教師としてのいま立っている自分。
抱えている気持ちも、日常の見え方も違う。
咲崎桜子という、明るくて素直な雰囲気が稟に似た少女(主観)と話すことで直哉の昔との心境の変化がよくでていた。

真琴は美術編集者に就職
稟は世界的芸術家として国外へ
里奈と優美は揃って弓張をでて東京で同居してるとか
明石は・・・

みんなばらばらになったその地で、新しく出会った桜子や奈津子。そして当時は子どもだった里奈と優美の妹のルリヲと鈴菜や、居酒屋で出会っていたノノ未、病院で飴をあげていた寧が成長してでてくるのを見ると時間がたったんだなぁと実感します。

香奈とトーマスはブルバギという宗教団体を立ち上げ、櫻達の足跡を勝手に改変したり何かと絡んできましたが、それに対して直哉は自分なりの答えとしてステンドグラスを使った改変を利用した再改変で作品を昇華させた。
その評価はブルバギの作品として世間に公表されることになる。
悔しくないのかという香奈とトーマスに直哉は笑う。
「ああ、俺もやっと彼奴程度には、芸術が分かるようにはなったんだな」
「筆を長いこと折っていた様な俺にも、ようやく…」

櫻達の足跡を制作した当時、明石に言われたセリフ

作品が何のために生まれたのか、何のために作られたのか…
我々が何のために作品を作るのか…それさえ見失わなければ問題無い…
そこに刻まれる名が、自分では無いとしてもだ…

ブルバギの件は正直最終章にこの話いるか?と思っていましたがこれがやりたかったんですね。

そういえばこの作品を見た稟が直哉の作品だと一発で分かったのは芸術家として一流なことや共に過ごしてきた経験から分かりますが、咲崎桜子が直哉の作品だと断言する根拠は何なのでしょう。
直感にしては言いきるなーこの子と思いました。

そして全然でてこなかった藍がようやく最後に。
鳥谷校長に女子校である姉妹校の問題解決を任されていたようで、その見返りとして非常勤で弓張にくる直哉を正規の教員にしてくれるように頼んでいたそうだ(最後まで優しいなぁ…)
圭にとって草薙の人間はヒーローみたいなもので、夏目家としてもみんな草薙の人間が好きなんだよ、と直哉との明確なエピソードこそないものの圭が直哉に強く入れ込んでいる理由が伺える会話がさりげなく入っていたのが個人的に好印象でした。

琴子、健一郎、水菜、雫、圭、みんな今はいないけれど、たくさんの想いが詰まった夏目家に、因果の元、家族ではないけれど家族のような深い繋がりを持った藍と直哉が共にいる。
「もう、一人でがんばるのはやめてほしい。
 私だって、お前の支えぐらいにはなれるんだよ」
と、最後まで藍は直哉にとって優しいお姉さんでした。


■ 最後まで終えて気になった点

・稟の明らかに人間離れした具現化能力がなぜ生まれたときから備わっているのか

本当に純粋に生まれながらの才能なのでしょうか?
ファンタジーも含まれる作品なのであれだけ規格外の力だとさすがに何か理由があるのかと思いましたが、何もなく終わってしまったので。
母親の生前の話もでてきていないので出生のエピソードを含めてFDに期待します。

・紗希がなぜ中村家に嫁いだのか

子どもの未来のため、中村家の力を乗っ取り弓張の現状を打開しようとした気持ちは分かったが、そもそもどんな理由で中村章一に嫁いだのかが分からない。ただ中村家の力欲しさに嫁ぐような人には見えないので、その背景があると思うが、よく見えてきませんでした。(こっちもFDでやってくれるのかな?)


■ 総評のような感想のような何か

10年越しの作品であり、あの「素晴らしき日々」という名作を出したことで期待が高まっていた中、期待を裏切らないこれだけの作品を作り上げてみせたことは本当にすごいことだと思います。
作品の強みは、全体の構成力と丁寧に込められた想いですね。
これだけ丁寧に内容を詰め込んでいればこのボリュームでまだ話が回収しきれていないというのも頷けます。
それだけ世界観が強く仕上がっている作品ってことなんですよね。

幸福とは何か、直哉はこの作品で答えを出しています。
でも会話から分かるように、稟は直哉の幸福の考えと大きくリンクしている芸術論に真っ向から対立しているんですよね。
それは、稟ルートで真相が分かったら見方が全く変わったように違った側面から幸福を捉えることもできる、ということではないでしょうか。
今作品ででたのはあくまで直哉にとっての幸福の答え。例えるならば幸福な王子の答え。
共通している部分はあっても、王子にもツバメにもなれないと言っていた稟には稟の答えが、王子に最後まで寄り添ったツバメのような藍には藍の答えがあるのだと思います。

にしても、素晴らしき日々から通して、この作品で提示されている幸福というものは、旋律と絵画を通して、「他者との繋がり」という部分で共通し、一貫しています。
(公式で「素晴らしき日々の先の話、梯子の上にある風景」とまで書かれてますしね)

幸福は決して理想的なものではない
不幸もまた、幸福の変わった風景でしかない
それでも幸福はいつだって人の側にある
他者との繋がりから幸福を得ることができる

この帰結は素晴らしい答えだと思う。

サクラノ詩は直哉がこの幸福を理解し、その先へと歩みを進めた物語だ。

上記の理解に至ったのは圭の死を乗り越えたⅤⅥのルートのみなので、各個別ルートでの愛という幸福を得て先へ進んだ物語はまたちょっと意味は異なる。
だからといって、幸福というテーマの答えを出したⅤⅥがTrueルートなのではなく、各個別ルートとの間に扱いの差はない。


概要含めここまで長々と書いてきたが、ここまでの深みを出し、まだまだ発展要素を残す今作。
ここから次回作「サクラノ刻」でどのような展開をしていくのか、そしてどのような帰結をするのか。
1ユーザーとしてその結末を楽しみに待っています。
10年待つのはしんどいですが完成度を高めるためであればある程度は黙って待つ覚悟でいるので、しっかりと納得のできる作品を仕上げてほしいです。

製作者の皆様ありがとうございました。