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kaza-hanaさんの加奈…おかえり!!の長文感想

ユーザー
kaza-hana
ゲーム
加奈…おかえり!!
ブランド
高屋敷開発
得点
89
参照数
564

一言コメント

加奈という病弱な妹をメインに「死生観」「 妹への純愛」というテーマを山田一が真っ直ぐに仕上げた作品。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

――夕美との交際

サークルのコンパで絶縁していた夕美と偶然に再会した隆道は、飲みつぶれ意識がなくなったところをホテルに運ばれ、夕美と体を重ね、付き合い始める
(なんでコンパなんか行ってんだよ…と思うかもしれないが、強制参加させられたもので、加奈に病状の深刻さを気取られないように普段通りに振舞う必要があったことも原因)

卒業式の日にラブレター事件の真相を夕美に聞いたその時は認められなかったものの、心の内ではそれが真実だと悟っていたのだろう
時間とお酒の力もあり、夕美とは和解
誤解からきた嫌悪 それを抜きにした時、夕美という女性が隆道にとって魅力的な女性であることは語るまでもない
一度は好きになっていることから元の性格に好意がないわけでもなく、加奈と似た部分に惹かれたのも明白だった

この時に、隆道が夕美を受け入れず加奈だけを愛していたのであれば純愛としてはいちばん良かったのかもしれない
だが、この時点で加奈を実の妹と思い、家族愛という対象として見ようとしていた隆道にとって、夕美に好意を持つことはそんなにおかしなことでもない
実の妹という認識の元、愛情は禁忌として家族愛へと変換される
愛情を感じる加奈に少なからず引け目はあれども、普通は妹に対しての家族愛を理由に交際を拒むことなどないのだから

病気の妹の心配をしていながら付き合う余裕があるのかよ、という人もいるかもしれない
しかし、隆道が夕美に加奈を無意識に重ねていたことからそれも納得できる
これは隆道が加奈への愛情を感じ、それを常識的に認められていないこの時だからこそ成り立ったものだ
(補足で言えば、起きたらいつの間にかベットの上 突然キスをされてそれがかつて好きになった相手 もはや誤解も溶け嫌悪感もない 愛情を感じている妹とかぶる なんて状況であることも大きな理由だ)
仮にもしこんな状況でなければ隆道は断れていただろうし、加奈に対する気持ちが単なる家族愛ではないとこの時すでに認めていたならば、この状況下であっても夕美を受け入れはしなかっただろう

あるENDでは、自分の気持ちに整理がついた隆道は夕美に別れを告げ、その後の病院でも

「やり直せないかな…わたしたち?」
という夕美に対し
「それは、できない」
と真っ向から否定している

「だって…だってさ…」
「俺の心には、もうとうの昔に加奈が住んでて、それ以上他の誰かが入り込む隙間なんてなかったんだ。そのことを、わかったんだよ」

この言葉が全て

何よりも大切にしたい、守りたい人は隆道にとって加奈1人だった
それに気づくのがもっと早ければ結果は違っていたということだ

幼い頃から兄を想い、強い気持ちを抱き続けてきた加奈が伊藤君の告白を受け入れられなかったように


ただ、付き合うと決めたのなら夕美の幸せも考えてあげなければ可哀想ですね

おざなりになってしまうくらいなら付き合うなよ、と言いたい気持ちもありますが加奈のケースは家族の重病という特殊なケースなので一方的に否定できない気持ちもあります

1つ言うならば、夕美と付き合っている内に気持ちが抑えられずに加奈との肉体関係を求めてしまったのは最悪でしたね

一途な想いがありながら不遇なヒロインだったと思います
それでも許してしまうのだから夕美の想いは本物なのでしょう

その想いの強さはどこからくるのか
その辺のエピソードもあればよかったですね



――霧原須摩子

大学病院のホスピス棟に入院している叔母さん
末期ガン患者であり、もう助からない身でありながら笑顔で話すのが印象的な落ち着きのある女性
加奈と似た状況でありながら、この頃の加奈にはない強い意思力を持つ
それはどこからきているのか?
死をまっすぐに見つめて生きてみる それが叔母さんの見つけた強さだ

隆道はそんな叔母さんの弱い一面を垣間見る
嫌なところを見られちゃったわね
そう言いながら冷静な目で、人生のいろいろなことを見ておくことで学べることもあると言う それは自分の死ですらも
「死を見つめる心が育たなければ、いざというときに納得できないまま人生が終わってしまうかもしれない。そちらのほうが恐ろしいと思うの。」
子供の香奈は先天的な病気が遺伝しているため、限られた時間の中で生きていかなければならない

「平気よ。どんなに小さくても、大きな壁にぶつかれば一本大きな芯が入るもの。私は、あの子をそんなに弱く育てた覚えはないしね。ちゃんと…あの子なりに受け止めて、成長してくれる。そう信じてる」
そう言って我が子の精神的な成長を真剣に案じる姿は母親の鏡だと思った

加奈が知的ルートに入るのはこの叔母さんとのエピソードを経過した時のみ

叔母さんの生きる姿が子供の香奈だけでなく、加奈にまで強い影響を与えたのは言うまでもない



――臓器バンク

加奈が亡くなった直後に気持ちを落ち着ける間もなくいきなりの臓器移植案内
心底胸が抉られるような気持ちになった

もし最愛の人が死んでそれを必要とする人がいたら…
仮に今回の加奈のように本人の意思だとしても受け入れられるだろうか

親戚であり面倒をみたこともある香奈のような子ならともかく、どこの誰とも知らない人のためだとしたら?

まだ生きる望みのある人のために臓器バンクは活用したほうがいい
そんなことはわかってる
このゲームをする前からそんなことはわかりきっていた

でもやっぱり理屈じゃないんですね

ふざけんなよ…と主人公と同じ気持ちになりました



――総評

本当に加奈という小さな命に多くの感情を持った

加奈の生きる姿を見て、成長を見て、その弱さと強さを見て、この作品はタイトル通りまさしく加奈ゲーなんだなと感じた

山田一のシナリオ・テキストはやはり素晴らしい
真っ直ぐな心情描写はそれゆえにただただ強い

いじめの対象だった加奈が守る対象に変わった幼少期
加奈という妹に対する愛情への葛藤
死を見つめながら生きる姿に感じる命の重み
守りたいという強い気持ちとそれに反する無力感

簡単なようで難しい、書きようによっては薄っぺらい話になりかねない重いテーマをここまで感情移入させ、考えさせる技量は感嘆の域


泣こう。俺にはまだその時間がある。
おもいっきり泣いて、そして四月からは俺の時間がまた動き出す。
今度は、俺の番なのだ。
その時には、もう少し強い人間になっていられるだろうか?

願わくば、明日の俺が、
今日の俺より優れた人間でありますように。


もういない加奈の日記を見て成長を感じ取り、隆道もそんな加奈に恥じない立派な兄として生きていこうという決意の表れ
隆道もまた加奈が成長し強くなった知的ルートでは加奈の死を乗り越え、共に成長できたのはよかった

「加奈とともに生きて、学んだ事は、その意思とともに俺の心にある。」

このゲームをプレイして感動した皆も同じだろう
この加奈というゲームを通して胸に感じたこの思いは、忘れずこの先も心の中に残し続けていて欲しい