ErogameScape -エロゲー批評空間-

kaza-hanaさんのCARNIVALの長文感想

ユーザー
kaza-hana
ゲーム
CARNIVAL
ブランド
S.M.L
得点
82
参照数
406

一言コメント

デバックちゃんとしたのかってくらいプログラムミスが目立ったのはもったいなかったが、ただの狂気ゲーではなく作品を通して表現されているものがあるし感じることもあった。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

#1 CARNIVAL

学視点。
武の存在が学のもう一つの人格であることが分かる。
父に捨てられた母に虐待を受け、周囲の環境でもいじめの対象になった学が現実を直視しきれずに生み出した人格。
最初は人格として意識していたが武が母を殺したことで記憶を忘れ、いなくなった友人という設定になる。

精神障害を負っている人の精神状態はどういうものなのか私は分からないが、主人公の心情を表したテキストの表現力はすごかった。


#2 MONTE-CRISTO

武視点。
シナリオ1では描かれなかった武の行動とその理由が分かる。
理紗が言ったBADEND最後の「ある意味最高のハッピーエンド」の意味は、学と武という分かれた2つの人格が混ざり、1人の人間として戻ったこと。
シナリオ1では狂気的なイメージが強く、その真意がわかりにくかった武だが、最後には理紗を信じられなかったことを後悔する一面が見られる。
学の生存本能のようなもので生み出された人格で、意思と行動力がある分、周りを警戒し敵対的な行動を取りやすいがやっぱり元は学なんだなぁと感じるシーンだった。


#3 TRAUMEREI

理紗視点。
学と出会い、その人生に苦しみを背負う姿に自分と同じものを感じながらも、自分にはない知識や達観した物の見方、そしてその輝きを宿した目に惹かれていく様子が描かれる。
理紗の視点になったことで、精神を病んだ父に身体を汚される家庭での姿や偽りの自分を演じる日々の姿、そんな日常で本音をだせる親友の泉との出会いなど、シナリオ1.2では描かれなかった部分が多く描かれ、物語の視野が広がる。

自らに降りかかる苦しみを否定することなく全て受け入れた結果別の人格が生まれた学と、自分を偽り続けたことに罪を感じている理紗。
理沙が学に向けた感情は、共感であり、希望、救済への期待。
その背負った罪から自分を救ってくれるのは学しかいないと信じ込む。

自分の運命を学に預けるように警察から逃げてきた学を匿うが、罪を武に告白したことで信頼を得た代わりに、それまで信頼してくれていた学に不信感を抱かれるとは人生は本当に上手くいかないものだ。

生きていくのは難しい。
人は罪を犯す。
でもそれに都合よく罰を与え、許してくれる神はいない。
世界(神)に嫌われている。

そんな苦しい世界でも、学と2人の幸福を求めて歩むことを決めた話。


物語の中でこの現状を招いた原因が学と理沙の親であるのは間違いない。
しかしさらにその元となった原因は一方は父の不倫であり、もう一方はストレス社会によるものだろう。
もちろん親の罪は免れない。
だが人間は万能ではない不安定な生き物だ。
それを引き起こすこととなった罪も明るみになっていない、もしくは法には裁かれないだけでそれも罪であることに変わりはない。
そんなありふれた事が今回の物語を引き起こしているし、実際現実でも悲惨な事件がいくつも起きている。

作品を通して表現されたことは

幸福は他人から見れば全然大したものじゃないけどそれを追う本人にとっては間違いなく幸福である

というまさに最後に学に付いていった理紗のことを表しているだろう。

それとは話がずれるが、このゲームをプレイして学や理紗を見て不幸と感じたならば、また2人の幸福を願ったのならば、どこかで自らの行動がこのような原因の元とならないよう戒めるべきだ。

真っ当な人生を送ることのできなかった学や理紗に感じたことをその場限りで忘れてしまうのではなく、現実で行動に移すことがこの物語を見たプレイヤーにできることだと思う。