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kaza-hanaさんのアマツツミの長文感想

ユーザー
kaza-hana
ゲーム
アマツツミ
ブランド
Purple software
得点
84
参照数
1291

一言コメント

シナリオに関してはさすが御影さん。原画・背景・音楽・キャラ・声優に至るまで作品としても総合的なレベルの高さを感じた。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

織部こころ本筋ルート

主人公は言霊使いの隠れ里で育った誠。
言葉に力が宿るため、安易に口を開くことのできない環境で暮らしていた。
許婚の愛の存在もあったが、外の世界への憧れと頭に響く言霊により里を出る。
行き倒れていたところをこころに拾われ、善意で織部家に住まわせてもらえることに。
世間については漫画で得た知識でしか知らない。
そのため、恩返しとして深く考えずに言霊を使ってしまいがち。

ただ、例外的にほたるには言霊が効かない。
誠と話した感想を
「あなたは、まだ、何色でもないのね」
と呟いている。
これは人間として色(自我)がないということ。

織部家の家族(兄)となった誠。
その能力と事情を知りながらほたるは好奇心から誠を見逃し、その危うさを見抜いて約束を交わしている。

誠は兄という存在へ憧れを持っていたこころの恋愛対象に。
学園では霊感のせいで人見知りになった響子に声をかけられ、友人となっている。
誠が使う強制的な言霊とは対照的な、ほたるの言葉によって語り掛けて理解を得る言の葉も印象的。
そんな知的で悟った一面があると思えば不安定な一面もある。
1週間ごとに存在がリセットされているような印象を受けるが詳しいことは語られず、ほたるという存在の印象が際立った。

寿命で死んでしまうこころの母を自分の魂を与えることで救った誠は、自身の未熟さ故に僅かな命が残り、愛の助けによって命を繋ぐ。
また、病気で死んだと思っていた母は、父に次いで死にかけていた自分を言霊で救ったことで亡くなっていたという真実も愛の言霊によって思い出す。
(“行きなさい”と頭に響いていた言霊は、母が命を代償に誠を救った“生きなさい”という言霊)
最後にほたるがもう1人の自分と話すシーンが入る。

しかし愛の私が絶対オーラと言霊無双がやばい。
これは愛様ですわ…。

朝比奈響子本筋ルート

言霊を使用している所を見られるも崇拝して事実を受け入れる響子に誠は記憶を消さない選択をする。
肌を触れることで誠にも響子に見える幽霊が見え、逆に幼い頃に自分を助けて行方不明になった鈴夏のことを語って泣く響子の前には言霊が機能して当時の鈴夏が現れる。
鈴夏は無表情で自我が薄く存在し、また、力の繋がりができたことで響子と誠が離れられなくなって織部の家で共に暮らすことに。
鈴夏という姉を幼い頃に失ったことでわだかまりとなっていた光一と響子の関係も解消。
日に日に鈴夏にも自我が芽生えて存在が強まり、逆に響子は生命力が弱まっていった。
光一の発言との食い違いから、鈴夏は本物の幽霊ではなく、言霊の力を借りて響子が作り出した偶像であることがわかる。
響子を尊重し、言霊で鈴夏を消すのではなく納得した上で解決しようと鈴夏とも話をつけるが、響子は自分が犠牲になることで鈴夏を生かそうとする。
灯篭流しの夜、友達になったのは響子から声をかけたのがきっかけだったという忘れていた事実を語られ、いつからか本当の魂が宿っていた鈴夏本人の想いを受けて、響子は別れを告げて前に進むことを決断する。

恋塚愛本筋ルート

病から助けられなかった亡き双子の姉の存在をコンプレックスにしているが、織部家に来てこころという妹を持ち、自らが姉という立場になる。
マイペースで何事にもドライな愛だが誠には甘い。
物事の優先順位と行動基準は第一に誠という感じ(自分の気持ちだけでなく死んだ希の意思も背負っている)。
独占欲が強く響子を牽制するシーンもあったが、こころに対しては裏表のないまっすぐな性格に惹かれ、嫉妬はあれど寛容な態度をみせている。
今の生活に入れこみ、言霊をなるべく使わずに人間らしく生きようとする誠を心配しながらも、その意思を尊重して傍で見守っていた。
しかし、こころに言霊を使わずに抱いた誠に痺れを切らし、言霊で自分以外を認識できなくすることで誠の考えを改めさせようとする。

愛は強い言霊を使ったことで体調を崩し、誠は愛の言霊の意味を考えて、外の世界ではなく自分を第一に想って欲しいという気持ちを理解するが未練を断ち切れない。
いよいよ愛が危険になり里に帰ることを覚悟したところで、こころの発言の違和感から言霊が使われたことを察したほたるが様子を見に現れる(ほたるは例外的に薄く存在が認識された)。
ほたるには記憶を消して里へ帰った後のフォローを頼み、愛に今の気持ちを告げて安心させる為に言霊で未来を確約させようとするが、愛の言霊に効力はなく、抑えていた枷が外れて希の雪の呪いが暴走する結果となる。

死の間際、愛から当初の許婚だった希への嫉妬から買い出し組になるように言霊を使ったこと、そのせいで希は病にかかりそれが誠の両親にも移って死に至ったことを懺悔される。
愛を生かすため誠は言霊で希となって語りかけ、愛は自らの言霊で希の言霊を消し去って生き永らえる。
これまで希の代わりとして生きてきたのは自らの負い目を薄める為だったと気づいた愛は、恋塚愛として生きていいんだと気持ちに余裕ができ、張りつめていたものがなくなって誠への気持ちは依存から信頼へと変わる。

水無月ほたる本筋ルート

こころ、響子、愛と体を重ねながら恋人という関係を選ばなかった誠は、自身の気持ちがほたるにあるとして告白。
羞恥から逃げられたものの、こころの計らいでデートの機会ができ、その場で月曜に改めて告白して欲しいとお願いされる。
恋人になり幸せな日々を送るほたるだが、病室のもう1人の自分の余命は残り僅か。
ほたるは誠との関係を強く持ちたいと覚悟を決めて身体を重ねる(処女に戻っていることから記憶だけでなく身体も1週間ごとに変わっている)。
そして日曜の夜、ほたるは自らが消える瞬間に誠を立会わせ、自身を生み出した本物のほたるの元へ送り出した。
本物は癌で病室に寝たきりの状態で、狂おしく生きたいと願ったことから偽者のほたるが生まれたという。
偽者のほたるの記憶は本物のほたるの記憶を拠り所とし、1週間で存在が消えて新たに生まれ変わる。
死を恐れて憎悪をむき出しにし、生み出されたほたるを木偶人形と言い捨てる本物のほたる。
誠の言霊が効かないことこそが誠が愛するほたるに魂がないことの証明だとして自分を救えと要求する。

本物のコピーであるほたるはなぜ別の意思を持つのか。
それは外に出たことで自身が生きていることに感謝し、本物が世界を憎む分だけ世界に贖罪をしようとしたから。
生きる意味を求めたほたるの前に誠が現れ、恋をしたことが生きる意味になったから。
その想いをオリジナルの記憶ではなく、誠の心に記憶を残すことで次のほたるに繋げていた。
思い出を語ってもらい、これまでのほたるの想いを共有したほたるは自身の幸せを望むが、それでも自らの死を受け入れている。
幸せだからこそ別れが怖い。
そんな内心を押し殺して、思い出の地を巡り、やり残しのないように日々を送る。
嫉妬はあるけどこころんならいいかなと自分がいなくなった後の彼女に勧めた場面は、2人の信頼関係にいいなぁと感じながらもほたるの儚さとその心情を思うとやるせない気持ちになった。

誠はほたるを助ける為に神に戻ることを決断し、2人の結婚式を終えるとほたるに言霊をかけて本物の元へ。
偽者こそが本物で本物は偽者だと言霊を使い、さらに一緒に死んでやると命を懸けて一瞬でも願いを受け入れさせたことで言霊を成就させる。
アマツツミという神の罪として偽者を作り出したほたると共に誠は消え、誠が愛したほたるは生き続ける。

ほたるEND2

ほたると共有した蛍の景色を知らない本物のほたるの元に、気まぐれで蛍を連れて訪れている。
過去の自分と似た境遇にあり、怒りをくれた本物のほたるを理解しようと話をするうちに自分の愛したほたると同じ部分を感じるようになる。
死の間際、蛍が見たいという願いを叶えて外へ連れ出し、本物のほたるはそこで過去のきれいな自分である偽者と向き合って本物の立場を譲ることを決断する。
ただ、誠はそれで本物が消えることを良しとせず、新たな道として同じ存在として生き続ける道を2人のほたるに選択させた。
誠は言霊を無理に行使する代償に力そのものを犠牲にし、神からただの人になる。
ほたるには“水無月ほたるの心を1つにする”という言霊通り、消えていった全てのほたる達の心が宿り、END1とは対照的にほたるの横には誠の姿が残った。

派生こころルート

偽りの家族の関係を続けていたが、家族だからと悩むこころに真実を打ち明けることを決める(言霊を解くことの重みに躊躇する誠に先んじて愛がその役目を負った)。
自身のトラウマを解消していないこの時点で、それでもまだ誠を愛していたら関係を認めると言った愛は本当にこころを認めたんだなと微笑ましかった。
こころに避けられ、言霊で騙していた罪の意識から里に帰ることを決めるが、兄弟でなくなっても気持ちは変わらないと受け入れられ、恋人として家族という変わらない日常を続けていく。

派生響子ルート

響子の告白を受け入れたけじめとして、愛との許婚の関係に断りを入れようと思っていた誠だが、響子は後ろ向きな解釈をして愛人として誠と愛の両方にお仕えすることに。
霊感を持っていることが性格に大きな影響を与えていると考えた誠は、言霊で霊感を消して普通の生活を送らせようとする。
応急処置として霊を認識できなくするが、その後、響子への不自然なラッキースケベや織部家から遠ざけようとする力が働き、誠にもアンラッキーな出来事が連発。
その原因は、霊感がありながら視覚できない状態の響子に神社の神様が危険を伝えようとしたことと、縁結びとして背中を押そうとしてくれていたため。
真相を知り、響子は霊感に怯えるのではなく感謝するべきだったと考えを改め、前向きな気持ちを持つ。

派生愛ルート

本筋ルートでの経験を経て考え方も変わり、周囲に素直にお礼を言ったり、極力言霊を使わないようにしたり、誠に手料理を作りたいと言い出したりと随分と人間らしくなる。
それでも「常に成功している私じゃないと見てはだめ」といった発言をするあたりとても愛らしい。
そしてスマホに夢中になる愛様かわいい。
誠と愛の関係を知ってこころは葛藤し、距離を取るようになるが、けじめとして誠が愛への気持ちを素直に告白したことで仲直り。
誠の想いを聞いて関係が壊れないことに安心し、受け入れて心から応援できるこころは本当にいい子。
デートでは誠が指輪を送って永遠の愛を誓い合い、愛もけじめとして里へ一度戻って誠が見つかった報告と里の外で生きることを説得してくることに。
皆から記憶を消して離れた愛は、織部愛ではなく誠の婚約者の恋塚愛として帰ってくる。


総評

efと水夏で個人的にリスペクトしている御影さんがかなり気合を入れて作っていらしたのでもう間違いなくおもしろいだろうと思っていましたが期待通り楽しめました。
設定から話の作り込みまでやはりさすが。
パープルの作風もあって楽しい雰囲気を残しつつ、話もわかりやすくなっていますがこれが御影さんだよなぁと感じられる作品でした。
最近の作品の特徴を押さえて展開するとこうなるのかなぁという感じ。
誠が言霊という力の使い方を学んでいく様子、家族というものを知る様子など、人間らしくなっていく過程がしっかりと作品を通して描かれていたのもよかった。

個人的に秋野花さんと山田ゆなさんが好きなのでこころんと愛は当然よかったけど、今作はおぐおぐのほたるがもうさすがだった。
同じだけど違う本物と偽者のほたるをそれぞれの立場で対照的に演じ分けながら、心の奥に人間性として繋がる部分が残っている感じを本当に上手く表現しているなぁと感じた。

人の中には善意も悪意も共存している。
それが普通で、本物のほたるも偽者のほたるもどちらもほたるという存在には変わりない。
だからこそ、悪意という感情を未だ持たないこころは特別に映るというのも作品からよく感じられた。
そんな作品上意味合いとして対比されている2人が親友という関係にあるのも何だかいいなと思います。