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kaza-hanaさんのFLOWERS -Le volume sur hiver-(冬篇)の長文感想

ユーザー
kaza-hana
ゲーム
FLOWERS -Le volume sur hiver-(冬篇)
ブランド
Innocent Grey
得点
85
参照数
545

一言コメント

本当に居心地のいい作品でした。FLOWERS完結→花ロス。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

勾坂マユリに至る鍵として譲葉が蘇芳に教えた、始まりにして終わりの七不思議「アガペのタルパ」、そしてある一つの場所。
蘇芳はそこで、焼け落ちた旧聖堂跡よりも、ニワトコの木の下に1つだけ隠れるように存在した墓に注目する。
刻まれた名前は“BASOUIAT(バスキア)”。
張り付いた雪を払い、さらによく見ると、その名はダリア=バスキアではなく、シオン=バスキアだった。

Chapter 1 優しい悪魔の囁きと、絶望の海への誘い
救いのない二つの問いに迫られながらも希望を失うことのない少女のお話。

譲葉とネリネが去った学園は、喧噪を残しながらも冬休みへ。
ニカイアの会長となった蘇芳は、イズニクでシオン=バスキアの手掛かりを探し始める。
(同時にアガペのタルパについても核心を濁してえりかに相談し、資料を得ている)
“バスキア教諭には養父がいる”という、過去に本人から聞いた記憶を頼りに、年号からバスキア性を探すが空振り。
気持ちを新たに再び現地に赴き、そこで墓の麓に雪と同化するようにアングレカムの花が供えられていたことを知る。
アングレカムの花は学院の名を示す花。
蘇芳は、温室で人知れず育てられていたことからバスキア教諭が育てていると推測している。

その後、かつてバスキア教諭がフックマンに襲われたと嘘をついた美術室で、壁越しにマユリと邂逅。
しかし、マユリの口から発せられたのは、私のことを忘れて欲しいという優しい拒絶だった。
一方的な別れで再びマユリを見失い、蘇芳は“欠陥品が愛されることはない”と過去に自身の心をじっくりと磨り潰した義母の存在を思い出す。


Chapter 2 抗夫
変わらぬ想いを標本にして閉じ込めた愚かな少女のお話。

冬休みは終わり、新学期に。
新しく科目に加えられた「標本学」で、蘇芳は過去の傷が癒えていないことを自覚する。
未だ進展のないまま会長の仕事に就き、譲葉を思い浮かべた蘇芳は、それをきっかけに手掛かりとなる言葉を思い出す。
譲葉がシオン=バスキアに至った事件は、譲葉が1年生の時。
このことから、その事件が当時の三年生が大勢学院を辞めた“血濡れのメアリー”だと当たりを付ける。
ようやく手掛かりを知る人物(ネリーのアミティエ)に辿り着くが、“血濡れのメアリー”はネリネが学院を辞めていった生徒たちに行わせたという噂があったことを知る。

興味本位で追及する話ではないと、ネリネの名誉の保守のためにもこれで終いにしようぜと提案するえりか。
表面上同意したものの、シオン=バスキアへ至るために1人謎を追い、義母の幻影に体調を崩す蘇芳。
蘇芳の異常に気付き、事の成り行きを知ってなお、ネリネの潔白を信じて蘇芳に協力すると申し出た立花。

そして分かったこの騒動の概要は、ニカイアの会に立候補したネリネに対し、“血濡れのメアリー”で3年生が辞めてしまった事を利用して陥れるための風評被害が起こした人物がいた、ということ。
辞めた生徒は3年生が7人、1年生が1人、教諭が1人。
この内、3年生はダシに使われただけで関連はなく、重要なのは残りの2人。
標本学を教えていた鳥森教諭と、当時譲葉のアミティエだった秋津栞という生徒。
この2者は従妹という親密な関係にあり、鳥森教諭が譲葉に恋していた秋津さんを応援するためにネリーと譲葉を引き剥がそうとした、というのが真相。
しかしそれは、ネリネの潔白を証明するために行動した譲葉によって見抜かれた。
秋津栞を想う愛情を知られた鳥森教諭は学院を去り、事情を察した秋津栞も学園を去った。
あくまで推察でしかなかった蘇芳の考察は、ダリア教諭と話して確信へと変わった。


Chapter 3 かえるの王様
友を得たいがために、友を切り捨てる、憐れなかえるのお話

過去の騒動の真相を突き止めた蘇芳。
真実に近づいている実感はあるものの、未だ道筋が見えていない状況に、ニカイアの会の実務が重なる。
余裕のなさから周囲に対して硬く身構えることがなくなり、話しかけられる機会も増える。
そんな蘇芳を見て、副会長として奮闘し、共有する時間が減っていた立花は自身の立ち位置に不安を覚える。
蘇芳自身も立花の違和感に気づき、その本心を察するまでには至らないが、元気を出して欲しいと一緒にバレエを踊る計画を実行する。
喜んでもらえて安堵した蘇芳は、これでまた本腰を入れてシオン=バスキアの調査ができると、立花に誠実に向き合えていない自分に自己嫌悪しながらも気持ちを切り替えるのだった。

なお、えりちどはえりか自ら主体となって千鳥の誕生日会を開く程、仲睦まじい様子。
千鳥は本当に最初に比べると感情豊かになったように思う。
途中えりかが立花に対して「お前以外のやつが攫っていくとか許さないからな」と発言しているが、えりかの中でマユリがどういった位置づけになっているのかちょっと分かりづらかった。
蘇芳の心がマユリにあることには気づいているはずなので、“希望的観測はしない”というスタンスからこの発言をした、と考えるのがえりかっぽい気はする。
えりかの中では、自分が認められる人物でなければ受け入れられない、という話なので
「(マユリがいない今)お前以外のやつが攫っていくとか許さないからな」と解釈していいと思う。


Chapter 4 オズの魔法使い
“裏切りを選んだ少女”と“すべてを受け入れた少女”のお話

千鳥との会話中にイズニクでの調べ物のことを無意識に口に出してしまい、秘密と約束をしたものの、えりかまで話が伝わってしまったのでいっそ手伝ってもらうことに。
一方で、学院行事の冬の朗読劇も間近となり、立花を気にした苺の気遣いで蘇芳と立花も参加することに決まる。
実務、練習、執筆でマユリへの手掛かりに進展がないまま時は過ぎ、焦りを感じる蘇芳。
そこに消えたはずの“碧身のフックマン”の噂が。
過去に美術室に忍び込んだ蘇芳自身が元となって噂された七不思議。
蘇芳はマユリがまた来ているのではないかと張り込みをし、ついには美術室へ侵入する。
そこで再びマユリと壁越しに話すことはできたものの、蘇芳が碧身のフックマンだという密告が学院宛に入り3日間の謹慎処分に。
期日は朗読劇の当日まで。
蘇芳は告発者を庇って濡れ衣を被ろうとするが、周りに反対されて朗読劇までに犯人を捜すこととなる。
バスキア教諭の自室から盗み出した告発状の内容から差出人が譲葉だと気づいた蘇芳は、正面からバスキア教諭に話を通し、疑いを晴らして朗読劇も無事成功に終える。

その後、密告者が身近な者だと気づき、裏切り者は誰だと蘇芳を問い詰めるえりか。
そこに譲葉とネリネが現れる。
告発状から意味を見い出し、好意的に受け取っていた蘇芳だったが、2人はただの嫌がらせだと一蹴。
口が悪いだけでなく、激怒するえりかを物理的に払いのける様は人が変わってしまったかのよう。
「――真実の女神に近づいては為らない」
と口にしたが、秋篇での別れから何があったのか…。
告発状に隠された譲葉からのメッセージ(アガペのタルパ)を蘇芳が口にしようとした時に、バスキア教諭がらしからぬ反応を見せたことからも、並々ならぬ背景があることがわかる。

これまでの流れから立花に恋心を抱く石蕗さんが犯人だとミスリードを誘う構成だった。
そこを外して一気に話を進展させたのは良かったが、真っ先に石蕗に考えが及びそうなえりかが全く触れないという状況にはちょっと違和感を覚えた。
それが原因でちょっとテンポ悪く感じてしまうかも。


Chapter 5 歌う骨
裏切った者と裏切られた者が奏でる悲しい笛の音のお話

えりかが怪我をして入院したと聞き、蘇芳に真実を問い詰める千鳥。
本当のことを言えず黙る蘇芳の態度にヒートアップする千鳥と喧騒を増す周囲のクラスメイト。
蘇芳を庇う立花と事態を収めようと間に入る沙沙貴姉妹。
その後、えりかが帰ってきて蘇芳は自らの内に隠してきた全てを打ち明けることとなる。

マユリが消えた理由を知るため、ニカイアの会長になったこと。
八代譲葉殴打事件は事故ではなく、その犯人こそがマユリを害した者であり、“真実の女神”だと思っていること。
譲葉から女神に辿り着く為の2つの鍵を教えてもらっていること。

1つは、失われた始まりの七不思議“アガペのタルパ”。

譲葉は、

マリア像の足元はね、蛇を踏みつけているんだ
蛇は悪魔の象徴だ
タルパは女神さまが踏みつけている蛇だと思え

と言い残している。

もう1つはとある場所。
そこで見つけたシオン=バスキアの墓について。

バスキア教諭を尊敬しているえりかにとって、それは嫌な可能性がよぎる最悪の情報。
全てを話し、行き詰っている現状と不安が漂う中、それを破ったのは意外にも立花だった。

シオン=バスキアという名前を見たという標本室に向かい、標本された3枚の手紙を拝見する。
本編の合間に3度に渡って回想されていたシーンの内、最初の2つはシオン=バスキアが書いた手紙。
そして、3つ目はそのアミティエである貴船さゆりが書いた手紙の内容だった。
その出来事は今の蘇芳とマユリの境遇に類似点が多かった。
ただ違うのは、アミティエが当時2人体制だったこと。
だからこそ聖母祭で決定的な綻びに至ってしまったのではと想像されている。
さらに見つかった当時のシオン=バスキアの写真で、マユリとシオン=バスキアが瓜二つの容姿をしていることが発覚する。
イズニクで見つけた文献についても皆に公表し、マユリと夜の美術室で2度出会っているという秘密だけを言えずに時は過ぎていく。

学院では演劇会の準備が本格的に始まり、演目は『灰かぶり姫』、主役は蘇芳に決まった。
ますます時間がなくなった蘇芳達は、強引にバスキア教諭の部屋から手掛かりを探す案を決行する。
譲葉とネリーに阻まれて1度は未遂に終わったが、鐘楼のルーガルーの七不思議を広めて譲葉とネリーの動きを封じ、先方からのコンタクトにえりかが単身で赴いて惹き付けることで、他メンバーで作戦を実行に移した。
譲葉はえりかとのダマし合いに負けたことを素直に認めると、「義理は果たした」と言って、これから起こる事件に一度だけ目を瞑ることを約束し、“マリア像の足元には蛇が踏みつけている”という言葉をよく考えることが重要なのだとヒントまで残して去っていった。
最後に蘇芳は再びマユリに出会い、助けてくれてありがとう、と白いハンカチーフについてお礼を告げている。
このことからハンカチーフはマユリの物と考えられ、成果なく戻れずに危険を冒そうとしていた蘇芳にきっかけを与えてくれたと考えられる。
マユリもまた、譲葉が再び残したヒントと同じ言葉を忠告として残して去っている。


Chapter 6 マリアのこども
失った子どもを取り戻そうと足掻く、憐れな王女のお話

2人の共通するヒントから、学院に数多あるマリア像の下へ。
そこで見つけた蛇に刻まれた印と23という数字、そして苺が気になったという貴船さゆりの手紙の1文から、それがダビデの星(ユダヤ教のシンボル)を示していたことに気づく。
ダビデの星は別名・シオンの星。
バスキア教諭の部屋の数多あるぬいぐるみの内の1つから発見した実物の鍵と、図書室に刻まれていた印から、隠し部屋の存在に辿り着く。
譲葉とネリーもまた姿を現すが、沙沙貴姉妹の存在もあり、義理を果たすことよりも蘇芳のマユリに対する気持ちへの同調に気持ちが傾いて先へ進むことを見逃した。

部屋に入り、遂に真実の女神とアガペのタルパの謎を知った蘇芳。
そこで、マユリの真意に気づいた蘇芳は自分の気持ちを強く保つことができなくなる。
そんなあやふやな状態に道を示してくれたのはアミティエの立花だった。
立花の言葉と勇気の代わりに借りた髪飾りを身に着け、決意を固めた蘇芳。
そして朗読劇の本番、灰かぶり姫を演じる蘇芳は、サプライズで王子役と入れ替わって出てきたマユリと再会した。


マユリEND(1週目)

朗読劇の後、図書室で待ち合わせたマユリと再会。
喜び抱擁するが、続いたのはマユリからのお別れの言葉だった。
自分の気持ちを臆さずに打ち明けた蘇芳だったが、隣人として車いすに乗る者(真実の女神)の傍に居ることを選択したマユリは再び手の届かない存在へと離れてしまう。
蘇芳との友情、愛は変わる事はないが、真実の女神はもうすぐいなくなってしまう。
だからこそ、今という時間を共に学院で過ごすことはできない。
でも、いつかまた蘇芳の元へ戻ってくるといった意味合いのお別れ。


GOOD END(2週目)

本編の合間に回想されるシオンと貴船さゆりの手紙のシーンが貴船さゆり視点になっている。
朗読劇の後、嘘にも優しいものがあると教えてくれたマユリの母の記憶が回想され、母の裏切りを知ってマユリが心を閉ざしてしまったことが明かされる。
父を裏切り、自分を捨てた母。
その母に教わった優しい嘘で傷を負い、また、蘇芳にも傷を負わせてしまった。
しかし何より、蘇芳を信じることができなかった自分を悔いていることもわかる。

マユリは皆を連れて自分が過ごしている館へ。
そこでバスキア教諭と対峙し、学院の謎が蘇芳の口から明かされる。
学院が元は、淡島保養所として設立されたこと。
創設者の淡島聡一が孫娘の死で基督教徒となり、淡島神学校へと変わったこと。
保養所の一面を引き継いだ当時の神学校で、居なくなる者を“攫われた”いう優しい嘘で噂にしていたことが今の七不思議に姿を変えたこと。
ある時、淡島家の娘と海外から迎えられたバスキア性の神父が婚姻し、その後の明治末期、没落の危機に陥った淡島に手を差し伸べたバスキア一族が淡島家を引き継いだこと(そのタイミングで神学校は聖アングレカム学院へと変わっている)。
バスキア教諭もまた、自身が協会傍で拾われた養子であること、そして義父であるアスター=バスキアがシオン=バスキアと共に亡くなった聖母祭後の火事について打ち明ける。

シオン=バスキアの墓だけがその場所にある理由として、息子(アスター)と孫(シオン)を失ったマザーエルダー(アリウム)に記憶障害が起こったことで、アガペのタルパ(アリウム)にシオンとして間違われた少女達が攫われていたことが関係すると推測する蘇芳。
しかしその真相は、一定期間アリウムの症状が治まるまでシオンを演じることで就職先などの手助けが行われるという、事前の相互理解の上での関係だった。
マユリも同じくシオンとして館に呼ばれたわけだが、瓜二つの容姿を持つマユリはその期間がいつもより長く、また、母に裏切られた過去からその優しい姿を昔の母に重ねて強く感化されている。
その日、マザーエルダーは亡くなり、真実の女神は消えた。
マザーエルダーに真実を見せぬよう歴代のバスキア一族の墓とは別に作られたシオン=バスキアの墓は、そのままの形で残されて身寄りのなかった貴船さゆりの魂と共に。
マユリは皆の前から姿を消す選択をするが、もう一度アミティエとして歩みだしたいという蘇芳の誘いに応え、ニワトコの木の前に姿を現す。


立花END(3週目)

千鳥と交流を深め、えりかへの想いに感化されたことで、立花に手編みの花菱草の髪飾りをプレゼントしている。
マユリENDと同様にマユリが去った、その後のストーリー。
経過が違うので1週目の続きとは厳密には違う。
空虚な顔を見せる蘇芳に対し、そんな顔をするぐらいなら取り戻しに行けと声を荒げて背中を押そうとするえりか。
対して、立花はただただ優しく見守った。
それが今のマユリと蘇芳の決断ならば、何も焦ってその決断を変える必要はないのだと。
立花の言葉で、蘇芳はマユリのいない現状を受け止める。
アミティエ3人がまた幸せに過ごす日々が来ることを夢見ながら、今いるアミティエである立花を大切に想い、学院生活を過ごしていく。


GRAND FINALE(4週目)

GOOD END(2週目)の続き。
マユリと立花、2人のアミティエが共にいる生活。
あれだけ熱心に協力していたえりかがここにきてマユリに嫉妬しているのを見るとほんとに蘇芳のこと好きすぎでしょ、と。
自然体で気さくなマユリと常に考えを巡らせて動くえりかはまさに対照的。
えりかからは、自分にはできない振る舞いをあっさりとやってのけるマユリへの憧れも感じられる。
それが蘇芳にとって好意の対象となる“魅力”として映っているならば、それはえりかにとって届きようもないもので…。
えりかかわいいな。
ただ、蘇芳に対する気持ちがあるということで千鳥への気持ちが嘘になるわけではないんです。
友情に近い愛情と愛情に近い恋心という違いだけ。
言わば蘇芳への感情は恋への未練であり、愛はもう千鳥に向けられている。
僕はえりちどの関係好きですよ。
えりちど最高。

譲葉とネリーとのお別れ。
元より蘇芳をニカイアの会長にするつもりだったと語る譲葉は、慧眼だったと当時の自分を振り返る。

蘇芳の誕生会。
アミティエ3人で歌を作る。
蘇芳が作詞、マユリと立花が作曲。
母の面影はもはや消え去り、晴れやかに恐怖の象徴だった鍵盤に向かってそのままEDへ。
3人のアミティエによる3重奏が響く。