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kaza-hanaさんの凍京NECROの長文感想

ユーザー
kaza-hana
ゲーム
凍京NECRO
ブランド
NitroPlus
得点
84
参照数
1337

一言コメント

世界観やキャラの関係性に謎が多く、3Dの戦闘シーンと合わせて飽きさせない。15周年に相応しいよく設定の作り込まれた作品だった。本当にNitroは期待を裏切らずにこれが俺たちのゲームだと自信を持って面白い作品を作ってくれる。業界が低迷していると言われている中、ぶれずにユーザーに新しい楽しみを提供してくれる挑戦的な姿勢はうれしい限り。色紙にあった「今ニトロプラスに出来る全てを!!」の文字に偽りなし。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

コン・スールート

幼い頃共に池袋CPCで過ごした友達であるイリアをコン・スーが絶望から救い出そうとする話。
リザ(コン・スー)はイリアを池袋CPCから連れ出すが、脱出後に離れ離れに。
イリアがザ・フォートレスにいるのをようやく探し出したコン・スーは外部に救出を依頼するが、そこに実験室(Laboratory)が関わってしまう。
リビングデッドストーカーとしてその事件に遭遇し、イリアを家族として迎えた仲間の内、早雲、エチカ、燎子は後に命を失ってしまう。
イリアは自分がザ・フォートレスから抜け出したことで失ったその命に責任を感じ、さらにミルグラムや天地寿一郎に利用されてサブコン(Substance-Concept)を2度裏切ってしまったことで心を閉ざす。

ミルグラムを倒すもネクロポリス計画は成就。
鉾康は曽利歩花を前に隙を突かれ死亡。
イリアとの接触で意識に目覚め、イリアの悲しみを感じ取ったサブコンは天地寿一郎を消滅させるも、恐怖・絶望といった感情を動力源とするリビングデッド・マテリアルを身体として獲得してしまい、イリアを悲しませるものを消そうとする。

なくなっていく感情を取り戻すための荒療治でHi-Fiへドライブしていた早雲はそこからイリアを見つけだし追いかける。
動力源である恐怖・絶望を消すために、コン・スーは曽利歩花と共に仮想環境プログラムを作り、凍京電波タワーから緊急警報で発信したことで現実は21世紀初頭の姿へと変わり平穏を取り戻した。
イリアも昔の記憶が戻り、もう現実へは戻れない早雲との別れを決意し、現実で待つリザの元に帰ることを選択。
早雲とエチカはサブコンの一部となる。
世界は絶望から救われ、イリアたちを通じてサブコンと繋がり、希望の歌に包まれる。


霧里ルート

ミルグラムとの戦闘で早雲は死んだが、エチカは生き残っている。
コン・スールートと同様に話が進むも、エチカが生きているのでスカベンジャーにより腕が溶けることもなく、凍京メガフレートという生命都市を殺したことでネクロポリス計画を阻止。
ミルグラムによる危機は凌いだがさらに話は転回する。

決意を固めた牙野原鉾康が曽利歩花を撃ち、ザ・フォートレスを制圧。
さらに早雲を使ってソフィアを撃ち、凍京エネルギー社をも管理下に置く。
ミルグラムの死で犯罪が減ったことを理由に軍警察はリブングデッドストーカーの制度を廃止。
時尭は反勢力として鉾康の手足となった早雲の手によって排除され、軍に属した蜜魅も用済みとみなされ騙し討ちで殺されかける。
そんな中、鉾康が率いる軍に身を置く気にもならず、やり場のない気持ちをもてあましていたエチカはオルガを経由して曽利歩花のコアと対面し、自分が阿蘇紫の子だという真実を知る。

手段を選ばず非人道的な行為を行うようになった鉾康に、覚悟を決めた霧姉は直談判に行くも、軍警察はすでに死者の集団で鉾康の手足に。
イリアから霧姉の危機を聞き、エチカ、合流した蜜魅、利害の一致したロールシャッハの3人で軍警察に乗り込むが、蜜魅は早雲に敗北、ロールシャッハも鉾康に敗れる。
エチカはイリア・ソフィアを助けた後、早雲を感情が完全に消える前に再殺し、鉾康との戦闘にも勝利した。
(エチカが鉾康と死んだ武雪の遺伝子から阿蘇紫が生んだ禁断の子という事実も語られる。)

地下に待機している大量のリビングデッドのマスターである鉾康を霧姉は殺さず逮捕しようとするが、瀕死のロールシャッハがミルグラムの意志を叶える為に放ったヒート・カランビットが胸を一突きし落下して死亡。
アリア、コン・スー、ソフィアの協力により軍本部のホットパイプを起爆させ、軍本部ごと消滅させることで凍京の危機を回避した。

特殊弾を打たれたはずの蜜魅が生きていたが、エクスブレインが早雲の僅かに残る本当の感情を読み取った最適解により生かす選択をしたというのはよかった。
エチカはしがらみも何もかも受け入れてそれでも自分を貫き通す本来の姿を取り戻し、霧姉との気持ちが通じ合って新しい生活が始まる。


蜜魅ルート

ミルグラムとの戦闘で蜜魅の助けが間に合い早雲は助かっているが、エチカは死んでいる。
また、このルートでは燎子も襲われていない。
蜜魅との協力関係により、過去に蜜魅を助け共に戦った記憶を思い出している。

イリアがサブコンと話して曽利歩花の名前からザ・フォートレスにいた記憶を思い出し、天地寿一郎から招待状が届いたことで話は大きく転回。
オルガに騙され先行した蜜魅が囚われるが時尭とエチカが助け、曽利歩花の助けで天地寿一郎は死に、エチカと蜜魅の共闘でロールシャッハ(オルガ)も討つが、イリアと早雲は実験室(Laboratory)に攫われてしまう。

早雲は突入してきた帝国エネルギー社のSADと協力してイリアを保護し、1人リビングデッドとなった五勝と戦闘。
助けに来たエチカはミルグラムと戦闘し、蜜魅は五勝と戦う早雲を助けに向かう。
イリアを救出したSADはミルグラムごと葬ろうと艦を沈め、イリアの要望により救出したエチカ・早雲・蜜魅を連れて凍京メガフロートへ。

ミルグラムという目的がいなくなり生きる目的を探す蜜魅と、誰かを救うために戦いたいと思うようになった早雲。
イリアは凍京リバースプロジェクトに協力するためメガフロートに残り、ミルグラムが姿を消して犯罪が減ったこともあり、リビングデッドストーカーの新たな形を探すため蜜魅が提携関係で行動を共にするようになった。

凍京リバースプロジェクト阻止のため、突如潜伏していたミルグラムによる死霊ガスを使った凍京侵攻が開始。
鉾康はリビングデッドであるエチカの感情が薄れていく中、自分へ憎悪を向けさせることで感情を保たせようとしていたが、それを知ったことでエチカは父を認めることができ、迷いを吹っ切れるきっかけとなる。
エチカは鉾康と共に五勝と戦い相打ち、早雲と蜜魅は援護を受けミルグラムの元まで辿りつき、苦戦の末に最後は蜜魅が決着をつけた。
死んだミルグラムをリビングデッドとして復活させ、ネクロポリス計画を引き継いでいたパブロフは、蜜魅の兄がわずかに残っていた感情から刺し違え、凍京は平穏を取り戻す。

悲しむ霧姉にはサブコンを通してエチカの思いが届けられ、早雲は事務所を卒業し、生きている事実を隠蔽されることとなった蜜魅と共に大阪へ旅立つ。


イリアルート

早雲とエチカの両方が生き残ったルート。
蜜魅ルートと同様の展開を辿るが死を回避したため蜜魅との関係は深まっておらず、イリアとの関係が深くなっている。

先行して拷問を受けた蜜魅は耐え切れず、エチカが助けに行くもロールシャッハが幻覚で蜜魅と入れ替わったことで誤って蜜魅を殺してしまい(あくまで幻覚の中で)、イリアをみすみす実験室(Laboratory)に引き渡す。
早雲も体内にナノマシンを流されるが、コン・スーがハックした警備ロボでロールシャッハを撃ち抜いたおかげで助かり、錯乱しつつもイリアとエチカは連れ去られた艦に発信機機能を持つ特殊弾を打ち込んだ。

帝国エネルギー社が攻め込む動きをみせ、早雲と時尭もイリア救出に。
早雲はパブロフと戦闘になり圧倒されるも、エクスブレインに残った武雪の記憶から母の仇であることを知り、さらに武雪の戦いを知ったことで状況を打破。
頭を打ち抜いても死なないパブロフは腹部に心臓を移したサイボーグであり、決着がついたところにSADが現れてイリアを連れて行かれてしまう。
エチカも責任から死を受け入れていたが、思い出した父の涙と銃弾から心臓を守った蓮の香りで立ち直り、艦内でエクスブレインを使用して五勝を仕留める。

SADはイリアと共にミルグラムを捕縛したかに見えたが、山沼はすでにミルグラムによってリビングデッドとなっていて、凍京メガフロートに侵入したミルグラムはTV中継が行われる中ソフィアは排除した。
大切な友人であるイリアを取り戻して借りがあるミルグラムを必ず倒すというエチカに、鉾康は軍警察の少佐としてではなく元近接銃術教導隊隊長として借りを返しに同行。

エチカはミルグラムに敗北してリビングデッドとなっていた鉾康と戦い、ありったけの感情をぶつけ父の口から謝罪を求めるもすでに時は遅く、和解できないままに再殺。
早雲は人質のイリアへの愛を確かめられた直後にその命を奪われ、最高のネクロマンサーであるミルグラムに跪くか殺すか、過去の武雪と同じ選択を迫られる。
父と同じ過ちは犯さず、早雲はミルグラムを殺した。

浜辺の風景という仮想環境プラグラムを通してそこにあるイリアの記憶に触れたことで、早雲は自分の行動の正しさを受け入れ、前に進みだした。


TrueEND

サブコンがイリアの死を回避するためにエチカのエクスブレインに介入し、未来を変える。
2対1の状況に加え、エクスブレインに有利な状況に次々とシフトさせミルグラムを追い込み打ち破る。
イリアの亡くなった心臓はリブ・マテリアル代わりを成して鼓動を続け、一命を取り留める。
凍京リバースプロジェクトは成就し、イリアを架け橋として凍京メガフロートと大阪メガフロートのサブコンも出会いを果たす。
全員が生き残り、未来への希望に溢れたハッピーエンド。



・帝国エネルギー社
過去に宝形イリア、リザ(コン・スー)を含む子供を被験体として池袋CPCで幽閉(ソフィアは存在を認知していない)
ネットワーク上に目覚めた無意識の知能であるサブコン(Substance-Concept)と意識を共有するイリアに協力を求め、サブコンをメガフロートに呼び、サブコンに生命都市という身体を与えることで繁殖を試みる凍京リバースプロジェクトを計画が目的。

・史上最高のネクロマンサーミルグラム「実験室(Laboratory)」
凍京メガフロートを壊滅させるためにイリアを餌にHi-Fiにした燎子を侵入させた。
サブコン(Substance-Concept)を絶望に追い込み、地下に存在するスマート・マテリアルを駆動させることで生命都市を滅亡させ、リビングデッドとすることで人類を生の呪縛から解き放つネクロポリス計画が目的。
さらに個人として、圧倒的な美により自らが生の呪縛から解き放たれることを求めている。
今回の騒動の根源。

・天地寿一郎「ザ・フォートレス」
死霊ガス実験で死んだ阿蘇紫に研究室の頃から恋をしていた池袋CPCのセンター長の久留島美智也に協力を仰がれ、阿蘇紫の意識を移植したアンドロイドを創り出している。
オルガを通して実験室(Laboratory)と接触し、副都知事、鴉済燎子の拷問をデータに残した犯人。
すでに人間への興味は失っていて、サブコン(Substance-Concept)に目を付け、自らの知性をザ・フォートレスのネットワークに移植し、人間の体を捨ててサブコンと同一化することで新たな知性体となることが目的。

牙野原鉾康「軍警察」
最前線でリビングデッドと戦った過去の正義の証明のため、自らが凍京を支配・統一し、正しい凍京の姿を手に入れることが目的。
同性の武雪の恋し、自らに好意を抱く阿蘇紫の提案で、死んだ武雪の遺伝子との子供を阿蘇紫の子宮で生んでいる。(医学が発達して同性でも生めるようになっているらしい)



総評

演出が素晴らしいのは言うまでもないが、世界観然りキャラ然り設定がしっかり作られていて、それがきれいに絡んだ物語が魅力的だった。
ライターのバイオさん曰く根本の大きな設定からキャラの設定や細かい部分を決めていったそうだが、実にうまく仕上げたものである。

ゲームには突出した部分がでるものだが、同じくNitroPlusが出した名作『村正』とは違った魅力がる。
作品を通してプレイヤーに訴えかけるメッセージ性、強い意志のある作品という意味では村正がやはり秀でているが、プレイしていて楽しめた時間はこちらのほうが多かった印象がある。
感想を見ているとシナリオがうんぬんと言われているが、物語としてのシナリオの完成度では引けを取っていない。

確かに心に残るインパクトある作品が名作というものだし、その点この凍京NECROという作品はその域ではないと思うが、1つの物語として完成度が高い作品を一概にシナリオという言葉を使って否定するのは間違っているように思う。
(まぁ有名税のようなものですが)

それだけ高いクオリティを求められているブランドということなので、これからもNitroには頑張って期待に応えていってもらいたい。