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kaza-hanaさんのものべの -happy end-の長文感想

ユーザー
kaza-hana
ゲーム
ものべの -happy end-
ブランド
Lose
得点
82
参照数
423

一言コメント

しっかりとした世界観と設定が感じられるシナリオ。背景画が繊細でいてはっきりとした色のあるもので、田舎の雰囲気がよく表現されているのも強み。エロシーンもシナリオに関わるもの以外はストーリーに含まれない仕様でプレイしやすかった。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

・共通ルート

東京で医学を学ぶ透は、夏葉が帰るのを嫌がったためしばらく茂伸(ものべの)へ帰っていなかったが、寂しがるすみに会いに来て欲しいという(実はありす自身が会いたかっただけの)手紙が届き、久しぶりに帰郷することに。

ものべのでは妖怪と人間が共存している。
夏葉はものべののことを忘れていて、嫌がっていたのが嘘のように受け入れていくが、何か過去にトラウマとなる事があったのは容易に想像できる。

すみの正体はあかしゃぐま(髪の赤い部分が特徴)という家に幸いを呼ぶ家守妖怪。
座敷わらしの上位互換みたいな存在だろうか?
一緒にすると怒られるので気をつけましょう。

ひめみや様は、ものべのの中心にいる存在。
村の土着信仰であるひめみや流の神事を司り、広く山に囲まれているものべのという地で人間とヤマガミの間を取り持ち、全体がよくまわるようにお伺いを立てるお役目を持つ。
ちまは、ひめみや様に飼われている猫妖でヤマネコたちのリーダー。
他にもたくさんの妖怪がいるが、数は減ってきてしまっているらしい。

ものべのに着いてからは田舎のノルタルジーな雰囲気が良く出ている。
ものべのという土地と、妖怪・神さまの密着した関係性が描かれ、すでに亡くなっている両親についても触れられている。
七星祭では夏葉が自分で稼いだ500円で透とお揃いで指輪を買っているが、サイズが合わず一旦財布の中に。
夏葉が自慢げに見せると、すぐにありすが透の指を確認したあたり後でひと悶着あるかな?(と思いきや何もなかった)

その後、ひめみやの舞神楽や滝を見て恐怖する夏葉は、急に体が大人に変わり、一晩したら体が元に戻って記憶を忘れるという奇妙な症状をみせる。
透は東京に戻って夏葉を大学病院で診てもらおうとするが、土砂崩れでものべのから出ることが不可能に。
悪いことをすると七面頬(なつらおお)様に時喰み(ときはみ)という祟りをかけられるという伝承に告示することから、すみの忠告を聞いて時喰みについて調べることにするとすみルートへ。
ものべのの医師であるありすの父・尚武さんに引き続き調べてもらうことにするとありすルートへ。


・すみルート

すみは、すでに家主のいない家に生まれ、高芳の声を聞いて透を守る為にものべのにやってきた。
その際にすみを助け、ものべのに入るための関を越える手助けをしてくれたのが飛車角。
それから共に沢井の家に住み着いているが、ものべのに来てからこれまで、すみと飛車角はひめみやに監視され続けているという。
さらに生前の高芳は、透が生まれてから人が変わったように何かに警戒し、怯えているように見え、ひめみやの力を借りなくなったという。
それが原因で、ひめみやに良い印象を抱いていないすみだったが、夏葉の症状を治す手掛かりを探すため、透と共に時喰みについての調査を始める。

家から見つかった写真と本により、透は父が禁忌を犯したのではという疑念を持つが、厳じぃにそれは否定され、七面頬様に直接お会いして真実を確かめるためにフマガミサマにお伺いを立てて妖怪フルソマの下へ。
そこで話を聞くと、すでに七面頬は神になるための試練に旅立ち、母が生まれるよりも前からものべのにはいない事がわかり、七面頬様と協約を結んでいるひめみや様が時喰みを使ったのではという疑念が生まれる。
それでも話を聞きに行くしか解決する道がないため話を伺いに行こうとするが、再び夏葉の異常成長が促進し、世界に多数の妖怪が現れて被害が出てしまう。

ひめみやと七面頬の協約の内容は、人と妖怪の共存が難しくなったために、同じ土地で人間の世界と人とは暮らせぬ妖だけの世界を重ねて存在させ、分けたというもの。
その世界の隔たりを保つための御留水(オトメミズ)が夏葉に宿っていることが全ての原因だと推測する。
自らの感情の起伏が世界に影響を与えてしまうため、この世界では生きられなくなった夏葉に、すみは異常成長の定めを禁忌である振替祈祷で自らに移そうとするがそれを押し留め、透は自らしなければならなかった妹のである夏葉の傍にいることができなかったことを謝罪。
これからは毎日会いに来ると約束し、すみとの関係も正直に告白して認めてもらう。

その後、結局ひめみや様は土地を離れられないし、博師になって世界のどこかにいる七面頬様に直接声を届けるのは自分の役目だと言って7年間を修行にあて、夏葉とは2年も会っていないというのは同じ事を繰り返しているような気がするが…。
当の夏葉が気にしてないならいいか。

透とすみは結婚してえみを産み、その半妖であるえみに見えず触れずのはずの境の乱れが見えたことから妖怪の世界の狸と出会う。
ひめみや様の使いである、ちまとめっかいや、とおこ、女郎蜘蛛の力を借りてそこから七面頬様へ繋がる道を探し、夏葉を若返らせるための方法を探す。
また、御留水を凍結して進行を防いでいる夏葉の老化に関しては、原因として別に発覚されたIAGSという病についてありすの両親が診療所を離れて治療法の確立に努めた。

全ての妖にある性という意識の根底故に変化を望まない心と、変化を望む人の心、ものべので生きる上で両方の立場について考えられるまでに成長して七面頬の下に辿りつき、飛車角の過去編で登場したいづものみこの力も借りて、時喰み・鏡の法・振替祈祷を合わせて夏葉を若返らせることに成功する。
(鏡の法に関しては、さかしまにして跳ね返すとはいっても法の内容自体まで反対になるというのはまた違う話なので、言葉を都合よく解釈して当然のように進めたのは気になりました。だって相手の法から身を守るということはそれは自分に害をなすものなわけで、相手に返ったときに内容が逆転する仕様はおかしいでしょう。)
禁忌である振替祈祷によって起こるかやりの風は飛車角が身を挺して防ぎ、過去編で共に過ごした少女つみの迎えに共に世を去った。

IAGSの病を抑える薬も開発されて御留水は取り除かれ、透と過ごす夢の中から出てこない夏葉をバクの力で夢を繋ぐことで迎えに行き、現実に呼び戻す。
飛車角がずっとぼけていたのは、夏葉の夢にずっと話を聞かせにいっていたからだと知ったらほんと飛車角はかっこいいところしかなかったなぁと思う。
話を聞いてみんなの頑張りを知っていた夏葉は、ものべのに帰ってきてみんなにお礼を言って再び日常を取り戻す。
えみの存在が夏葉の救出に繋がる幸運の象徴のようなシナリオだった。


・ありすルート

尚武さんに協力を仰ぎ、現代医学に沿って夏葉を傍でサポートすることで夏葉のストレスは軽減され、再び若返る。
透に恋をするありすは、夏葉を心配するあまりそのまま恋人の関係になりかねない透を見て、その2人の思いが本物の恋なのかを確かめるためという名目で、自分の諦められない気持ちをぶつけていく。
崖崩れによる被害のサポートや母の遺品を通して、過去の母の記憶を思い出し苦悩を抱え込む透に、ありすが支えになったことで透もありすを意識していく。

その後、夏葉が南雲教授の電話を取ってしまったことでIAGSという病の実態を知ってしまい、ストレスから再び大人の姿に異常成長してしまう。
南雲教授に夏葉が疑い例患者であることを告白し、ドクターヘリで帰京して南雲教授のいる大学病院に移ることに決めるが、御留水を宿す夏葉の心が乱れた影響で、ものべのに異変が。

村長への折り返しの連絡を忘れたことで情報を共有できず、事態を知るひめみや様が介入することもできずにドクターヘリは境の乱れの影響で墜落。
ひめみや様に近辺を調査されていたことも相まって思い違いからひめみや様とも一時対立してしまう。
過去の記憶を思い出して恐怖で泣き喚く夏葉を見て、監視の目を潜り抜けてものべのの外へ出ることを決めると、待っていて欲しいと告げる透にありすは傍で支えたいと望み、その思いを受け取って透はその場でプロポーズ。
ありすルートは、ありすを気遣って距離をとろうとする透に、傍にいたい、支えになりたいと踏み込んでいくありす、という構図が続くのが印象的だった。
安易に夏葉と泥沼な展開にもっていかずにありすの良さを引き出そうとしたのは良かった。

とおこさんに送ってもらい、透・夏葉・ありすの3人はものべのを離れ、アパートで暮らし始める。
お金に困り、ありすも体調を崩してしまうが、南雲教授の好意に救われ、透はLAGS解明の手助けをして収入を得られることになり、夏葉も大学病院で見てもらえることに。
しかし、ものべのの異変を解消するために世に戻ってきた星辰ひめみやに時を前借りされ、ありすは幼児化。

透の精で元に戻ると2人は一時ものべのに戻り、同じく時を前借りされたひめみや様と話して和解。
ありすの両親にもありすを連れ出したことの筋を通し、夏葉の目が覚めたら結婚することを告白。

その後、ありすは妊娠から無事出産。
生前人間らしい暮らしができなかったご開祖様へのプレゼントで買った球根は、黄色のチューリップ(花言葉はかなわぬ恋)へとしっかり花を開き、見守る役目を終えたご開祖様は根の国へ帰る。
育ちが遅かったのは、透がありすを選んだことで凍ってしまった心にチューリップの力が働きかけていたから。
御留水を吸い上げて育ったチューリップが咲くと同時に去っていくご開祖様かっこいいな…。

目覚めた夏葉は透とありすの関係を受け入れ、2人の結婚を祝福。
IAGS研究も成果を見せ、治療法が確立したことで希望を持った終わりとなった。


・夏葉ルート

夏葉の透への好意が伝わり、透とは両思いになって、ありすは身を引いていく。
七星祭で夏葉が購入したペアリングは、透が2つのリング部分のビーズを解いて長さを調節した。
夏葉も合わせてみんなで異常成長の原因を探り、厳じぃに話を聞きに行って、高芳が自ら日記を隠したかもしれないこと、占いでは透は生まれずに死ぬはずだったこと、それから高芳がひめみや様たちと距離をとるようになったこと、を知る。

さらに高芳の日記から境と関の存在を知った透は、自分を生かすために父が禁忌を犯して世界の境を乱した結果、夏葉に若返りの作用が起こっていると考えた。
境の乱れを正そうと動くと予想されるひめみや様に夏葉の状況を知ってもらうために話し合いに赴き、情報を合わせたことで、すみを招くために高芳が結界に小さな穴を開けたことが飛車角の存在によって見落とされ、その際に御留水に何かあったのではという推論に至る。

結論としては、透を救うものだけが通れる小さな穴が残ったままになっていて、森で迷った夏葉がとおこに頼んでオオトメ釜に入ってしまい滝に溺れ、女郎蜘蛛に救われて目覚めたときに御留水を飲んでしまった。
そのため、母のはなから夏葉に遺伝しているIAGSによる異常成長を抑えられていたが、御留水のものべのに留まろうとする性質と、夏葉と同調する御留水がIAGSに抵抗するために繋がりを強めようとしたことで夏葉は再びものべのへ導かれる。
御留水の力でも夏葉が不安定な状態ではIAGSを抑えきれなくなり、境に乱れが生じてしまった、ということ。

言霊によって御留水はもう一つの意味を持ち、透と気持ちを通じて行為を行ったことで処女(おとめ)ではなくなった夏葉から涙として御留水は流れ出て自然の中へ溶け込み、身体は元に戻った。
その後、心が不安定になるとまた異常成長してしまう夏葉だったが、乙女心と密接に繋がった一部の御留水の効能で守られる。

南雲教授のいる大学病院に移って検査を受け、そこでの経験を得て夏葉はソーシャルワーカーになってみんなで病院に勤めるという夢を抱く。
入院から通院へと変わり、その後、身体は少し成長した姿のまま研究の成果によりIAGSは完治し、2人は結婚して新しい命を宿してものべのへ帰還。
以前に夏葉から自然の中に移ろった御留水は人や妖怪へと染み渡り、人や妖怪の枠を越えて、住むものの望むままにものべのの今を形づくっている。
境で分けなければならなかった昔とは違い、時を経てみんなの意思で共存へ向かって新しい道を進みだしたハッピーエンド。

夏葉ルートは他に比べてシナリオとして入るエロシーンの比重が多くなり、すみルートやありすルートの方がシナリオとしては楽しめたが、夏葉の想いが報われるルートとして幸せを表現する意味でも必要なものだとも考えられるのでこうなるのが自然なのかもしれない。