シナリオに好みは出ると思うが、閉鎖的な田舎を舞台にした作品として作り上げられた独特の雰囲気は完成度が高く、ミステリーとしての趣向も強い。
唯一の男子生徒で主人公の正士。
落ち着いていて基本的にいつもにこにこしている雨音。
正士に恋心を抱くツンデレ悠夏。
正士に懐いている素直な元気っ子の藍。
藍と双子で逆におとなしく受け身で作り笑いばかりする明日菜。
無口で関わりを持とうとしない文乃。
新入生の当てがなくなり、生徒が6人しかいない学校は閉鎖に向かって1年を過ごしていく。
悪い噂を持つ堂島の家に働きにいこうとする雨音。
雨音の両親の不在と、働き先がないと言った役場には不穏な空気を感じる。
正士だけが感じた山の人影からの嫌な視線と見えるはずのない笑い顔。
それはヤマノカミに魅入られたといい、宗介の話した言い伝えを聞く限りだと神に仕える何かしらの役目を持ったという意味でとれそう。
雨音ルート(Happy)
春
単独行動をとる文乃とそれに付いて行く明日菜。
あまり会話はないが雨音と文乃は親しい関係らしい。
文乃との関係性はシナリオに大きく関わってきそう。
堂島が悪役として確立している中、寡黙で生気のないような印象を受ける斉臥は堂島に敬語を使われる立場にあり、文乃は毛嫌いしているのがわかる。
遠足からの帰り、夢で正士が見た文乃と雨音の喧嘩と井戸からでた謎の黒い液体に関してはこの時点で何もわからない。
夏
思い出作りとして、断った文乃と明日菜を除いた4人で海へ。
この旅行を通じて、雨音は両親に再び会いたいという思いよりも正士と一緒にいたい気持ちが強いことに気づいて灯台で告白し、正士も受け入れる。
周りの反対を聞かずに堂島の家で働く理由については、堂島に両親の手紙を見せられて居場所を知っていると言われ、その事実をはっきりさせるため。
その後、正士は堂島の雨音へのセクハラや先生を犯している場面に遭遇する。
秋
宗介の存在と労働組合に噂を流したことでしばらく平穏に時がすぎるが、それでも時間の問題である雨音の安全を守るため、正士は自分も堂島の家で働くことを決める。
宗介が仕事で村を離れたことで堂島は再び調子に乗り、弄ばれながらも日々は過ぎて他のヤクザとの抗争の隙に金庫を開ける手掛かりを見付ける。
隙を突いてこの日々を終わらせようと思いたった矢先、神社に放火があり、正士が堂島の家に行ったことで身を売って神社や学園を守ってきた先生が堂島に捨てられてこの現状に至ったことを知る。
また、藍と明日菜も行方不明になっている。
翌日、雨音と正士に何かが乗り移ったように金庫から鍵を手に入れ2人は逃走。
家に戻ったところで堂島に追い詰められるが、帰ってきていた宗介と随伴の記者の存在に命拾いする。
冬
心に傷を負って入院していた雨音だが徐々に回復し、鍵は雨音の家の金庫のものであることがわかる。
中にあったのは帳簿と古文書と雨音の父からの手紙。
内容は、芳野家がヤマノカミに生贄を捧げる一家(世忍)であり、代々幼児誘拐をしてきたこと。
それを斉臥に目撃されてしまい、ヤマノカミから村を守るために村に目を付けた堂島を追い出そうとしたところで、斉臥と結託した堂島に誘拐犯として突き出すと脅されたこと。
もしこの手紙を読んでいたら帳簿を使い、いずれヤマノカミの力で滅ぶであろう呪われたこの村から逃げ出して欲しいということ。
両親の手掛かりを知り、夜に帳簿を持って家を出ていく雨音。
それを追って堂島の家に辿り着くと、とっくに両親が死んでいることを聞いて騒ぎを起こした血まみれの雨音が。
背負って追ってから逃げ、正士は夢で見た井戸に辿りつく。
正士は銃で撃たれ雨音も瀕死だったはずだが、帳簿が井戸に落ちると魔物の群れが現れ、目が覚めると全てが夢だったように体は元通りに。
乗り移った世忍と井戸の謎やその場に現れた文乃との関連は不明のままだが、堂島は野犬に食いちぎられて不幸にもこの世を去ったという扱いで事が収まる。
悠夏ルート(Happy)
春
悠夏と藍のグループに入り、川遊びを始め行動を共にする。
井戸の夢は見ず、悠夏から藍が正士に好意を持っていることを聞いている。
夏
海のメンバーは雨音も仕事から来れずに3人に。
小島で2人きりになり、悠夏に告白されて恋人に。
帰ってくると不審なトラックの運転手に神社までの道を聞かれ、勘のいい宗介が襲われることを予測。
神社は無事だったものの家の方は被害に遭う。
夏祭りには堂島が神社に脅しに現れ、悠夏の父は怒りで不安定になり、そんな姿をみて悠夏も泣き出してしまい正士は自分の無力を感じる。
秋
堂島からの嫌がらせは続き、悠夏の思いつきで文乃を頼ることに。
呆気なく断られ、明日菜の藍探しに協力して探し出すと、自分は本当は藍じゃないと家出の理由を語る。
また、松倉家のことを自分を閉じ込める魔ッ蔵と言っている。
次の日、宗介は東京に離れ、嫌がらせを辞めてもらうために悠夏親子は堂島の家に。
堂島に電話を受けた先生と神社で鉢合わせた正士も堂島の家に行き、堂島のおもちゃにされる。
明日菜から話が行き、文乃に相談して協力を得る。
神社の火災では悠夏の父が穂村家は炎(ほむら)家と意味深なことを言い、助けにいった正士は倒れて夢を見ている。
病院で性行為を行い、文乃の要望に物を持っていくと夢でみた場所へと連れて行かれ、その地が過去の神社だったことを知る。
冬
堂島から逃れる材料を手にしたが公表に手間取る間に連れ去られ、悠夏と正士は堂島に弄ばれて弱みを握られる。
監禁状態が続くが月食に闇に紛れて堂島の家は襲われ壊滅。
悠夏と正士は堂島の手から解放される。
藍のその後や虚ろな目をした明日菜のことは分からず。
藍ルート(Happy)
春
藍から好意を向けられたことを先生に相談したところ、藍は孤独だから猫が好きなこと、過去の家出以来性格が変わったこと、IQテストで1度だけ天才的な数値を出したことなど、おかしな点があることを聞く。
夏
海では藍に告白を受け、離れたくないという藍からの信頼に応えようと恋人の関係を受け入れる。
旅行から帰ってくると猫屋敷の猫が惨殺されていて、そこに家が遠いはずの文乃が訪れる。
疑いを向けられても否定もしない文乃を藍は犯人だと決め付け、夏祭りに日には突き飛ばして脳震盪を起こさせてしまうが、斉臥によって文乃が死に生理的な嫌悪を抱くことが証明され疑惑が晴れる。
次の日、家に戻っていないという藍を探し猫屋敷に行き、正士はそこが異質な場所であることを認識。
家出の理由は大切にしていた猫の私物を捨てられて、自分の居場所を失ったと感じたことから。
それから藍はさらに家出を繰り返すようになる。
秋
家出常習の藍を目の届くところに置いた方がいいと正士の家で預かることにするが、電話で一度は母に許可を受けながらも荷物を取りに行くと父に外出を禁じられ、藍は家族への信頼を完全になくしてしまう。
家出を決めた藍と共に正士は猫屋敷へ。
魔ッ蔵と聞きなれない単語を語り、ここからは出られないから代わりに犯人を捜して欲しいと頼まれると、藍の入った倉庫は土壁で入り口が閉ざされてしまう。
犯人を捜すことで藍が解放されると思った正士は悠夏に協力してもらうが、穂村の巫女である彼女には異常さが伝わらず、文乃に相談したことで別視点から犯人を絞る。
本物の藍は弱気で口数の少ない過去の家出前の姿で今は別の存在であること、猫たちは神の使いである魔物(狛犬)の手下であることを知り、火災での堂島の発言と現場にあったチューブから犯人は斉臥と予測。
隠れた地下のアトリエで事故現場の絵を描く斉臥を見つけて犯人と特定する。
それでも藍は姿を見せず、倉庫で手掛かりを探し、鍵付きの棚に保管されていた古文書から神と魔物についての知識を得る。
前者は文乃が使った儀式、後者は藍に取り付いているものの正体(ヤマノカミの墓守)。
墓守は火災で絵馬が焼けたことでこの世界に存在し続けることができなくなり、それが絵馬を焼いた堂島への復讐と他ルートで最後に藍が消息を絶ったことに繋がる。
墓守である藍の存在がなくなる時、過去の藍も共にこの世界から去っていたが、このルートでは正士の言葉に自分の生き方を見つけて現世に留まっている。
冬
心を受け入れ、心を開くことで、みんなを幸せにする。
そんな思いを持って、現世に残った過去の藍は、それを教えてくれた正士の下で新たに生活を始める。
明日菜ルート(Happy)
春
明日菜が文乃と度々行っていたのは丸石探しで、山登りで行っていたのは井戸。
その中を覗き込み、メイド服を着た雨音が血塗れで雪の中に立っている姿を見た正士は、将来身の回りに起こるものが見れると文乃の考えを聞く。
明日菜は覗き込んだ後、動揺して正士から目を逸らし、文乃は自分が井戸の中で溺れ死ぬ姿を見たという。
文乃が他人にそっけなく接するのは、他人のことを考えた結果下手に関わりを持たない方がいいと結論したため。
その後、お昼には丸石集めに行って正士は不用意に洞窟に入って死にかけ、母親の胎内で流産した子の名前が文乃と母親が噂しているのを聞いている。
帰りの車では文乃が今の自分になった原因が父にあること、母は味方をしてくれたこと、正士に少なからず期待を持っていることがわかる。
夏
文乃と関わって不可思議な体験をしたことで、海には行かず明日菜と図書室で調べものに。
図書室では全く分からず、父の書斎を調べて井戸の中身の黒酒を神へ捧げていたという記述を見つける。
この情報が正しければ、井戸を汚したら間違いなく殺されると文乃が言っていたのも辻褄が合う。
一緒に載っていた地図から正士と明日菜は2人で井戸へ辿りつく。
井戸を覗いた正士は中に引きずり込まれて死にかけるが、通りかかった斉臥の恐怖への好奇心で助けられる。
宗介に話して協力を受け、本格的に書籍の本を調べて、山の神の神社と、黒酒の元となる久佐木の酒盛りが行われていたという洞窟を発見。
文乃によると生贄の風習や穂村神社なども全てが関連しているらしい。
秋
宗介が東京に行き、手掛かりがなくなった正士と明日菜は原稿に手を出す。
進展すると文乃に用がある明日菜は家を離れ、正士は文乃が明日菜に儀式を行っている幻を見る。
儀式とは月食の日に破瓜の血を生贄に飲ませることで転生を行うこと。
文乃が斉臥を嫌っているのは、過去の月食で斉臥が母を生贄にしたと推測しているため。
また、文乃は今回の月食で明日菜を生贄にすることで母を取り戻そうとしている。
堂島の手によって神社は焼け、正士は騒ぎを聞いて電話してきた先生を頼ったことで巻き込んでしまう。
冬
月食の日、神社に忍び込んで儀式に割り込み、騒動の際に火事が起きて斉臥が巻き込まれたことで文乃の協力も得られ、洞窟に身を隠し正士と明日菜は無事助かる。
井戸で見た雨音のシーンには至らなかったことから、黒水は確定した未来を見せるものではなさそう。
穂村神社が焼けたのに藍が閉園式にいたのはなぜだろう、絵馬は焼けなかった…?
文乃ルート(Happy)
夏
文乃に道連れになると言われながらも関わる意思を見せた正士に、文乃は斉臥の絵を見せ、母親ついてを語り、手首を切ることでその覚悟を確かめ、助けてくれた正士に好意を示して心を開いた。
そして、父に前の学校に置き去りにされていたこと、居場所を突き止めて今の学園に転校して来たこと、そんな父に喜ばれることはしたくないと自分を偽っていること、幼い頃のおぼろげな記憶を頼りに母の行方を探していることを聞き、文乃という人間をようやく知ることとなる。
洞窟から隠れた神社までの文乃の記憶を共に辿って情報を共有し、線路ができてなくなってしまうまでにこの謎に決着をつけなければならないことを聞く。
秋
宗介が東京に離れ、原稿を読んで絵馬の怪物に着目する。
悠夏の父を訪ね、絵馬は先祖が見知らぬ女性から奉るように言われて受け取ったこと、光が反射した家には魔物が住み着くから鏡で跳ね返すように言われたこと、描かれた怪物は神の使いの魔物(狛犬)で死者の安眠を守る番人だということ、魔物を閉じ込める蔵を守る者を魔ッ蔵と呼ぶことを聞き、神社と洞窟に関連があることを確定させる。
続いて鬼地蔵と丸石に着目し、洞窟は死者の魂が復活するところであり、神社は安眠しない魂を封じるためにあったことに気づく。
母への手掛かりを得るには斉臥の口から直接聞き出すしかないと考えた文乃は、堂島に揺さぶりをかける。
新しく届いた原稿を読んで文乃は村の謎と儀式について理解し、斉臥のもとへ。
そこで過去の再現と引き換えに母の真実を聞きだそうとしたが、化け物に魅入られた斉臥の勢いに追い詰められ、母が流産していた事実を聞いて自分が血の繋がった子ではないことを知ってしまう。
前に進むしか道がなくなった文乃は、正士と繋がって破瓜の血を手に入れ、それを最後に正志を巻き込まないために姿を消す。
冬
月食の日、儀式が行われて絵馬を焼いた堂島とそれを守ろうとした堀田は殺される。
明日菜の体に母が乗り移り、文乃は当時の儀式の生贄で、踊り子が宿った文乃自身が自分を殺したのだと真実が語られる。
明日菜が抵抗したことで儀式は不完全なまま中断されていたため、乗り移った斉臥の妻はすぐに消滅。
逃げ出した斉臥は井戸に呑み込まれ、文乃と助けにいった正士も呑み込まれかけるが、突如何事もなかったように現実に戻る。
文乃は正士と一生を共にして幸せになることを決め、唯一閉園式には全員が集まり、さらに閉鎖が撤回されている。
エピローグでは正士が月夜に霧がかった巨人の姿を目撃し、翌日には堂島の家のみが踏み潰されたように陥没しているという不思議な現象が起こる。
BAD
雨音 → 堂島のセクハラに精神を正常に保つことができず、結果死んでしまう。
悠夏 → 堂島の証拠を掴むことができず、悠夏の父は殺されて神社を手放す結果に。悠夏は正士を巻き込まないために自殺する。
藍 → 今の藍に好意を示したことで、過去の藍は共に消えてしまう。
明日菜 → 儀式は完遂され、乗り移った斉臥の妻によって斉臥・堂島・堀田と共に地獄に導かれる。(文乃と行動を共にしていた理由は、堂島が引っ越してきた時に悠夏と正士の家を皆殺しにすると言っているのを聞いていたから、儀式に協力したのは堂島から正士を守ろうとしていたからという事実も分かる)正士は明日菜によって現実に戻され、次の月食で明日菜を蘇らせることを決意する。
文乃 → 明日菜BADと同じ展開から正士は井戸に呑み込まれずに助かるが、精神的ショックから現実逃避。文乃も正士の前から姿を消している。
追加エピソード
雨音は正士の家で同居、文乃とは同じ学園に通っている。
何故か正士ハーレム状態。
学園は再建が決まっている。
作品内のシリアスな雰囲気から一転、明るい日常を描いたifルート的扱い。
正式な彼女を決める争奪戦が始まり、勝者なしで終わりを迎える。
エキスパートクリア(その後)
ささやかながら各ルート後のヒロインのその後が描かれている(割愛)。
「男達の憂鬱」では、作中での事件から1年後、正士と同じ体験をして意識を取り戻した堀田が宗介を訪ねている。
堀田が生き返ったのはこれが2度目だと言い、堂島に仕えていた理由は、友人を手に掛けた堂島とその組織を壊滅させて仇を取るためだという。
自らを必要悪として、いずれ自分の行いが多くの人を救うと日々を耐えていたことがわかる。
堀田の真意と堂島の傘下が動き出したことに宗介は不安を覚えるが、村で新しい生を送ることで罪を償う意思を見せた堀田の様子に安堵。
しかし、母の調べた堂島傘下のレポートを留守中に堀田が見ることとなり、堂島はその解体へと向かおうとする。
堀田が堂島の家に付く前の本来の姿は密警。
堂島の家に潜り込んだ友人と共に信用されずに殺され、生き返って妻子が闇に葬られたことを知って堂島の組織と共に死ぬ道を選んだのだという。
宗介は堀田に戦場へ戻って欲しくはないと将棋で勝つことで心の変化を訴えかけるが、堀田の意志は変えることができず、後に死亡が確認される。
総評
腐り姫読本で名前が挙げられていたので期待していたが、日常のシリアス感や田舎の空気感、隔離された廃墟感による独特の雰囲気に反して、シナリオではミステリー的なシリアスが足りない、と思ったがそれも雨音と悠夏のルートまで。
この2つのルートは権力者の堂島による閉鎖的な村での悪趣味な嫌がらせがシナリオに大きく介入し、ミステリーよりも背徳的な非日常がメインに感じる。
ただ、肝心の悪役である堂島には美学が感じられず、斉臥も不気味な雰囲気があったがその実は恐怖や恐れといった感情に魅入られた絵描きというだけでカリスマ的な要素はなにもないため、読んでいてあまり魅力を感じなかった。
堂島が本物の悪党であればもっと酷いことになっていたと思うが、小物っぷりを発揮しても気分が悪いことには変わりなく、鬱になるだけだった。
その後の藍、明日菜、文乃のルートは、ミステリー色が強く、楽しんでプレイを進めることができた。
同じミステリーという意味でイノグレの殻ノ少女にちょっと近い感じを受けた。
全てが語られることはなく、あえて謎を残したままにすることで村で起こる現象への奇怪さを演出していたように思う。
ただ、藍が明日菜と文乃のルートで現世に残っている理由は明確にして欲しかったし、あからさまに関係をフラグ立てていた雨音と文乃の過去エピソードが最後まで入らなかったのは残念だった。
それでも全体を通して読み応えがあり、シナリオに背景・音楽(BGM)の要素もかみあって作品の雰囲気を作り上げている。
そういう意味では完成度の非常に高いゲームだと感じた。
不満もあるが、作品の世界観に引き込む力は強く、高評価を受けるだけの魅力はある作品だったと思う。