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kaza-hanaさんの装甲悪鬼村正の長文感想

ユーザー
kaza-hana
ゲーム
装甲悪鬼村正
ブランド
NitroPlus
得点
90
参照数
489

一言コメント

善悪について作品を通してしっかりと考えられるシナリオ。不満点もあるがそれに勝る強い意思ある大作。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

※ 記述のほとんどは見返した時にわかりやすいようプレイしながら簡単にまとめたもの

■ 第一編

新田、小夏、忠保の3人をメインに新田雄飛の視点でストーリーが進んでいく。
探していた少女は既に死んでいた上、犯人は好意的に少女探しに協力してくれた鈴川先生(闇がありそうだとは思っていたが、狂っていたのまではわからなかったのですごく裏切られた気分)
大事な人を失い、美しいまま奪われないためには自分が殺すしかないというとんでも理論を展開。
劔胄を纏って武者となり、生の苦痛を教えようなどと偉そうなことを言って、教え子を簡単に傷つけ、教え子に教え子を犯させ、殺そうとした姿は本当に美しさの欠片もなく醜悪だった。

そんな鈴川とは対照的に、決して絶望せず、諦めず、戦うと真っ向から生身で武者に対抗した武雄。
絶体絶命になったその時、現れた本作の本当の主人公である湊斗景明は村正となり、武者戦闘で鈴川を撃破した。
その後、小夏と忠保は集中医療室に運ばれ、怪我はあれど唯一無事だった雄飛は村に戻ってきた村正と対面。
一度は失望した湊斗の武者となって戦う姿を見て心震えた雄飛は、興奮覚めやらぬままに村正を英雄視し、

「信じるよ。この世には村正っていう名の、正義の味方がいるってことを」

と言ったその場で村正に首を跳ねられた。
え…、なんだこれ…?


■ 第二編

六波羅に仕え洞窟の採掘をする坂上代官と古い因縁を持つ弥源太。
二人が惚れて揃って袖にされたという一媛に瓜二つの少女、一条。
どんな形でも自分のものにすると言って一条を殺そうとする坂上。(狂気じみていない分鈴川よりまだましだけどまたか)
弥源太は庇って命を落とし、一条に刃が向かう寸前、坂上の手先である風魔小太郎を破った村正が駆けつける。
不利を悟って坑道に入る坂上だったが、銀星号に植えつけられているという卵の孵化が近いと知り、景明は陰義を使って山ごと破壊し殲滅。

撃つべき敵は討った。
そして最後に村正によって殺されるふきとふな。(え…、これ毎回やるんですか…?)
何が起こったかわからず苦しむふなの姿がもう見てられませんでした…。

GHQの巡察官の大鳥中尉は愉快でおもしろいが何だかくえない感じがある。
悪い人ではなさそうですが内に大きな目的と野望を持ってそう。


■ 第三編

大和を統べる六波羅や大英連邦のGHQのキャラがでてきたことと、現状に至った露帝の存在含む世界情勢が分かったことで大分世界観が広がりました。
銀星号は湊の妹であること、精神汚染の能力があること、汚染波で卵を植え付けることができ、村正の力を分け与えていると同時に孵化すると銀星号と同じ存在ができあがることも湊斗から説明あり。

前章までと同様に卵の気配を察知し、今回は装甲競技(アーマーレース)の会場へ。
該当の競技用劔胄(レーサークルス)を捜索するも見つからず、クラッシュして劔胄を失ったポリスチームの代役として決勝に出ることに。
結果として、決勝で勝負に拘り、反則行為を行って死者を招く被害を起こした田村の皇路親子を逮捕しようして皇路卓が卵を隠し持っていたことが判明。
阻止しようとするも間に合わず、操が纏う劔胄アベンジに卵が植えつけられてしまう。
スピードの限界を越えるアベンジをなんとか村正の力で捉え、孵化は阻止した。

それを遠くから見ていた銀星号の使い手、光。
目的は天下に武を示し、生まれながらに奪われていた父を取り戻すことだと判明。
奇跡的にも操は生きながらえたが、その後の消息は不明。
父を信じて疑わず、健気に尽くす操の姿はかなり不憫でなりませんでしたね。

そして全てが終わって大鳥香奈枝が殺されました。なんでやねん…。
香奈枝さんけっこう好きだったし全く予想してなかったのでちょっと呆然としてしまいました。


■ 第四編

以前からパイプ役として度々現れていた雪車町のGHQとの繋がりが確定。
第一章での鈴川の劔胄シンカイと、第二章での小太郎の劔胄ガッサンは、GHQから雪車町に供与されたことが分かる。
目的は進駐軍が正義をかざして大和を侵略するためのきっかけを得ることで、大鳥香奈枝が言っていた背景と一致する。
さらに雪車町の報告によりGHQに湊斗と村正の情報が伝わり、英雄視されかねない村正を、銀星号をちらつかせることで六波羅と潰し合わせる策がとられる。

罠の可能性があることを予測しつつ見過ごせない湊斗は六波羅の研究機関がある江ノ島へ向かい、六波羅の巨大な兵器と戦闘、さらに再び雪車町とも戦闘を行うことになる。
何とか双方を無力化したところで疲弊しきった湊斗の前に部隊を連れてGHQのガーゲット少佐が登場。
絶体絶命と思われたがそこに現れたのは銀星号。
汚染波と圧倒的戦闘力により敵部隊はあっけなく瓦解、GHQの少佐に孵化寸前の卵が植えつけられたことで村正がその命を奪った(村正の限界突破ぶりはちょっとご都合主義)
それでも間に合わず、卵は孵化してしまうが娘だという銀星号に「違う」を選択であっけなく銀星号に殺されました。(なんなんだ)

雪車町の行動原理もいまいち理解できない。
湊斗の生き方が癇に障るのは分かったがここまで執着するのはなぜなのか。
六波羅兵器の電源ケーブルを切断し、湊斗を否定して村正と戦い、一条に劔胄を与える。
生き方が気に入る、入らないでこうも好き勝手に危険を冒して動くものでしょうか?
もはや人種が違うという話なのかもしれませんが(⇒そういう人種だったようです)

とにもかくにも弥源太から受け取っていた劔胄の一部が反応し、その力、政宗は一条のもととなる。
とか思っていたら一条が村正に殺されました(善悪相殺ですね、さすがにもう驚かないけど…)


■ 第五編

新たな卵を植えられた敵の幻が見せた湊斗の過去編。まだ景明が妹の光、母の統と共に暮らしていた頃。
湊斗が村正の仕手となるまでの話。
光は鉱毒病の犠牲者となり寝たきりの日々、そして六波羅の手がまだ回っていないこの町には盗賊が押しかけている。
光の病を治すには西洋の医者を呼ぶしかないが、本家である皆斗家の長は得体の知れない西洋の者を敷居に入れることを良しとしない。
賊を片付けることを条件に医師を呼ぶことを約束された景明は、賊の首領と取り決めをし、相手の油断を誘って勝利。
首領は平然とその約束を裏切ったが、再び真剣勝負で景明に敗戦。手当てをして尚も誠実に頼み込んでくる景明に惚れた様子。
偶然にも妹の容態も知り、今後町には手出しせず、田畑を開発し民として校正することを誓う。

しかしそう上手くもいかず、賊は弟を筆頭に首領を裏切り、首領は慰み者に。賊は町に攻め込んでくる。
一方で光は儀式の最中に一族の禁忌、村正(銀星号)に触れ強靭的な回復を見せるも、精神が村正と同調、天下布武の修羅の道へ(後に正気を失ったわけではないことがわかる)
町は賊もろとも銀星号の汚染で壊滅。
生かされて湊斗の元へ飛ばされた賊の新首領(弟)は、湊斗を殺そうとするも近くで意識を取り戻した統も殺そうとし、それを助けるため湊斗も禁忌の力・村正と意味も理解せぬままに契約を交わす。
圧倒的力で首領を討つも、村正との誓約で意思とは関係なくその矛先は統へ。
村正の法は絶対的なものであり、善悪相殺は湊斗の意思で行われているのではない、という部分だけはまだ救いがありました。
己の勝手な決め事で苦悩の末に行われてきたものだったとしたらこれまで殺されてきた人達があまりにも虚しい。

最後に分かったのは、村正(三世村正)は銀星号(二世村正)の卵を唯一受け付けない劔胄であること。
そして、銀星号の仕手が汚染能力を暴走させたときにそれを止めるために共に封印されていたこと。

そしてそこから湊斗と村正の修羅の道が始まった。
(ってバットエンドやーん!!)

気を取り直して・・・
第四編にて「娘だ」を選択すると善として愛する者となり、ガーゲット少佐を殺した際の相殺が一条から逸れるんですね。なるほど…。


■ 英雄編

六波羅の元帥、足利護氏が突如身元不明になり幕府が揺れる。
足利護氏の実子であり、次代大統領足利邦氏の叔父である雷蝶は、これを機に執権にあたる役職を望むが、四公方での扱いが悪く思うようにいかない。
そこにつけ込んだ舞殿宮殿下は雷蝶と内通し、六波羅を崩しにかかる。協力を持ちかけられた湊斗は一条の顔がちらつき余計な殺しをしない為にもそれを拒否。代わりに協力を求められたのが、この英雄編では生き残った政宗を所有する一条だ。
雪車町に湊斗が殺人者だと聞き、葛藤しながらもそれを肯定した湊斗に正義を貫き勝負を持ちかけていた一条は、その際に署長から村正の善悪相殺の誓約を聞く。
勝負を制した一条だったが、自らの意思で殺人をしていたのではない湊斗を殺すことはできず、これからは誰も殺さなくていい、悪を討つ自分の手伝いをして欲しい、と協力を求めた。

二人は身分を偽って六波羅の本拠地・普陀楽に潜入、機を伺って奇襲を仕掛け足利邦氏を脅かすことで童心の地位を落としにかかるが読まれて迎え撃たれる。
湊斗は一条を逃がし、単独で任務の遂行に当たるが、一条は桜子姫の心を弄び犯した童心に怒りを抑えきれず後を追い戦闘を開始。
自らの体を限界まで犠牲にして一条は童心を撃墜、そして殺した。
思わぬ童心の死に状況は一変、雷蝶は宮殿下との繋がりを悟られ、落とし前を付けるために宮殿下勢力(実際は二騎)と戦争を決意。
初めて人を殺し、動揺する一条だったが湊斗と肌を重ねこちらも覚悟を決める。そして敵本陣に乗り込むと、そこに待ち受けていたのは壊滅した雷蝶軍と銀星号だった。

(ここで、二人で戦い一条が殺すという正義に対し、光は「殺人の罪を押し付けた」というが、そんなことは言われるまでもなく分かっていたことだろう。
殺人を押し付けるというとその行為自体は確かに罪だが、命より重いものはない。
銀星号の言葉はもはや論点がずれている。
確かに正義と大手を振っては言えないだろう。しかし、そこに確かに正義の意思はあるし湊斗もそれを理解した上で実行していると思っていたがなぜここでこれほど動揺するのか…。
善は悪で悪は善足り得ることは確かに真理といえるが、だからといってそれを全てに当て嵌め、余計に命を奪う行為を正当化することはまた別だろう)

ともあれ納得いかないが、そんな景明を見かねた光は銀星号で加速度的に世界を崩壊させていき、その後、善悪相殺の意味を悟った湊斗は一条を置いて単身銀星号との決着をつけに行く。
劔胄を鞘とし、自らの肉体を刃として放つというとんでも技(せめて刀身にしておけばよかったのに)で銀星号を破った湊斗は、一条と再びお互いの正義の下戦闘。
相手の必殺を耐えることでそれを再現して打ち返すという陰義をもって村正を破った一条は、そのまま襲われている集落を助けに向かうが、突如、童心が死んだことで狂った姉と亡くなった胎児を連れた少女に襲撃される。
一条の正義によって失われたものを見て信じていた正義がわからなくなる政宗、対して一条はここで正義の持つ闇の一面を理解する。

「それでも正義はある!!」

正義は決して正しいものではなくとも、一人でも多くの善人を助けるための自分の信じる正義を貫く一条はとても好感が持てた。

その後決着をつけるため最後の戦いをする湊斗と一条。
正義という同じものを目指しながら相反する二人という構図を描きたかったのはわかるが、湊斗に共感できなかったのでいまいち乗り切れなかった。
決戦の末、湊斗と政宗はなくなり、残った一条と村正は互いの使命のため仕手と劔胄の関係となった。
善悪相殺の誓約を背負い、望んだ正義とはかけ離れたものでも信じる正義を貫く一条という締めくくり。後味がわるいENDです。


■ 復讐編

殺人という罪を犯しながら全てが終わっても裁かれることはないと宮殿下に告げられ、約束が違うと怒涛し、呆然とする景明。
自分を断罪してくれる正義を求める彼に付いて同行している香奈枝は、表面上は悠々としているがそれまでの景明の行いを許してはいなかった。
足利護氏の死後、香奈枝に踊らされた形で、菊池署長と宮殿下はGHQの大和進行を防ぐべく、コブデン中佐を買収し港を爆破しようとするが失敗。
それを口実に追い詰められ、菊池署長はGHQの使者である劔胄を纏った香奈枝に殺される。
得体の知れない武者との戦闘で毒を受けた景明は何とか駆けつけたその場所でその現場を目撃、気を失ったところを進駐軍の基地に運び幽閉される。
ここで香奈枝が景明を憎む理由が、遠縁の従姉である雄飛を殺されたことであることが判明。
無視できない存在である銀星号の件が片付き次第必ず裁くという香奈枝に、膝をついて手を取り感謝する景明。
思ってもいなかった感謝という行為に困惑し、景明という人間に惹かれる香奈枝。
その後、殺した菊池署長が景明の養父だったことを知る。

GHQは式により六波羅の主要人が一同に集まる普陀落を壊滅させ大和を手中に収める策を図るが、大和の未来は大和人が決めるべきというこだわりに賛同した香奈枝と共に景明は作戦の妨害にでる。
しかし、飛行船の兵器まで辿りついたものの時はすでに遅く、銀星号は兵器に挑み死亡、普陀落は落とされた。
六波羅の終わりかと思われたが、永倉の翁に連絡を受けていた獅子吼は邦氏と一部兵を連れて未然に会津へ脱出、銀星号の影響で爆風に煽られた隙に脱出した景明ら3人も追っ手を振り切り会津に集まった。
香奈枝は、個人的理由として父の敵であり、大義名分として獅子吼の大和独裁を阻むことで会津がGHQとの戦場となるのを避けるために、景明は銀星号の死を確かめるために列車で六波羅が集まる大鳥の館に向かうが、雪車町の陰謀によって橋を落とされ香奈枝の乗る列車後部は橋の下へ。
自分を断罪してくれる香奈枝が危機に晒されたことに怒涛し、橋を落とした以前と同じ得体の知れない武者を倒すと、乗っていたのは、小夏を含む村正によって大切な人を奪われた自分を裁く権利のある者たちだった。
自分の罪に狂う景明だったが生き残っていた香奈枝と合流し作戦を続行。館では別行動で、景明は獅子吼との戦闘を退け、地下で銀星号の変わり果てた姿を見る。そこで世界の終焉を望んでいた茶々丸は、神を目指した銀星号の果ての姿と共に、童心の劔胄の陰義により世から消えた。館は全焼、邦氏と花枝と共に脱出した獅子吼だったが、香奈枝との武者戦闘に一撃で敗れ、銀星号と六波羅は共に潰えた(茶々丸はまだ謎が多いまま)
目的は達せられ、景明は香奈枝に裁かれるのを待つが、そこに菊池署長を殺した劔胄が現れる。香奈枝は己の価値を認めず裁かれようとしている景明を殺したくないと思う一方、復讐という誇りが自我を抑え、村正を強襲した。

そして二人の思いは復讐と復讐で通じ合う。
戦闘の末、共に墜落した二人は寄り添ってこの世を去った。
けっきょく最後まで景明は宿敵の正体が香奈枝だとわからないまま終わるんですね。
香奈枝は一条と同じく正義を求めたが、一条の本質は罪のない命を尊う心であり、香奈枝の本質は復讐にある。これは全く違うものでした。
思っていた最期とは違いましたが、葛藤の末に復讐という信念に突き動かされた香奈枝が、最後は景明を膝にのせて二人静かに終わりを迎えるというのも香奈枝というキャラクターの味を出したように思います。


■ 魔王編

相手の陰義により、村正の過去を知る湊斗。
善悪相殺の制約は呪いではなく、独善を戒め、平和を手にするために定められたこと、そして村正が銀星号を止めなければいけない使命の重さを知り、銀星号に勝つためにも互いの意志を認め合うように譲歩するが、村正は受け入れず湊斗に精神汚染をかける。
しかし、汚染は失敗に終わり、村正は湊斗の元を離れ、銀星号らしき気配を掴むと一人戦闘に向かってしまう。
そこに待っていたのはまさに銀星号、仕手のいない村正は軽くあしらわれ、母様の考えを知る。南北朝の災禍から何も学ばなかった人間の業の深さを。
村正は為す術なく敗れ、現れる湊斗と軽く言葉を交わし去る銀星号。存在意義を見失う村正だったが、湊斗の想いを聴き、ここに共闘を誓った。

奉刀の儀で八幡宮を訪れる足利義氏を抹殺の依頼を受け、本人を直に見定めるために神官になりすます景明と人型になることに成功した村正だったが、足利義氏に見破られる。
戦闘になるが外に出ると義氏の連れはすでに光に敗れた後、義氏も敗れ(とどめを刺したのは茶々丸)、その後村正との戦闘で銀星号が作り出した重力の渦で八幡宮もろとも消失した。

景明の意識が戻るとそこは茶々丸の屋敷で、光もまたそこにいた。
銀星号に勝つには力が足りないと痛感した景明は、思考を重ね、助言を乞い、英雄となる無我の境地に近づいていく。
そんな中、茶々丸と連れて行かれたサーキット場にて銀星号を崇めるテロ集団に出くわし災悪の根源を断つ意思を固める景明に、茶々丸は光を殺す機会を与えるという。
そして向かった先で見たのは以前同様昏睡状態で横たわる光の姿だった。

光が起きている時は昏睡状態、眠ると意識が切り替わり銀星号となる。
しかしそれも光であり、光の夢のようなものであり、銀星号として活動した時の負荷は光の体にかかっている為、体は以前にましてボロボロ。
動けるのはあと二回という茶々丸の見立てらしい。

以前の守りたかった光の姿を見て、景明は無我になりきれなかった。英雄になれなかった。
逃げ出した景明が目を覚ますと、そこには光の姿があった。
景明が殺せなかったことで、世界は再び銀星号によって崩落を開始する。
そんな光を殺せない景明に、茶々丸は光にもらっていた銀星号の卵を植えつけ迷いを奪った。
そして景明は光のために世界と戦う、茶々丸が望む神を呼び起こし、現実を空想と変える。

茶々丸と行動を共にする景明は六波羅で副官となる一方、神を求める集団「緑龍会」と関係を持ち、事の真相を知っていく。
神の正体は地下115キロにある力の渦(世界の終焉を望む茶々丸だけが知る)であり、残り間もない命の銀星号と地上最大の破壊力を持つ鍛造雷弾との力の融合によりその壁を破るという部の悪い賭けだが、光が全てという思考になっている景明にはもはや関係ない。

一方で景明の意思を取り戻したい村正と、六波羅・進駐軍の決戦を意味する宣下式典を止めたい宮殿下に署長、それに協力する一条ら面々は潜入を決意。
そこに事前察知した雷蝶・茶々丸・景明が乗り込む。
景明の覚醒もあり依然優位に立っていた六波羅側だったが、鍛造雷弾の引き渡しを止められた進駐軍が、ウォルフ教授の言もありまだ戦力が集まっていない普陀落に進撃してきたため急遽帰還。
戦争が開始される。

景明を何とか取り戻そうと探索を続ける村正は、成り行きで、かつて殺した雄飛の友人である稲城忠保を助ける。
両目を失っているにもかかわらず、感のいい忠保は雄飛を殺したのが村正だと気づき問いかけ、村正もこれに正直に答え罪を受け止めようとする。
しかし、忠保は村正に復讐心は向けず、雄飛の命と引き換えにしたものの意味を大事にして、それを守っていくように願った。
扱いはサブキャラで力もない子供だけど、忠保の考えはこれまででいちばん大人びていて、悟ったものがあるようだった。

戦争では六波羅が劣勢に立っていたが、陸が塞がれ援軍を期待できなかった獅子吼が空から新型の一個連隊を引き連れて現れる。
戦争は拮抗状態となり、焦る進駐軍指揮官は鍛造雷弾に頼ろうとするが、そこにしばらく姿が見えなかった香奈枝がGHQ本部から新たな指揮官を連れて現れる。
進駐軍がアメリカ独立を計っていることを本部に密告し鍛造雷弾を止めさせたのは何を隠そう香奈枝だったのだ。(この人何重スパイやってんだ…)
その場で楯突いた指揮官は死に、ウォルフ教授とキャノン中佐は別個監禁。
鍛造雷弾が使われないと目的を達成できない景明はキャノン中佐の解放に向かおうとするが、変わって柳生常闇斎が実行し指揮権を奪還した。

そして遂に光が目覚める。普陀落は混沌と化し、茶々丸の工作で防空隊も獅子吼もろとも壊滅。
そんな中、香奈枝の協力を得て城内部に潜入を果たした村正はようやく景明と対峙する。
以前精神汚染が失敗したのは景明の意思を奪いたくないという思いが胸の奥にあったから、今度は奪われた意思を取り戻すためにその力を使う。


<茶々丸ルート>

世界も意思も全てを捨てて光を選ぶルート。(本来こっちの選択は選ばないし村正にはかなり申し訳ない気持ちになったが茶々丸がかわいすぎる件)
神を呼ぶ計画に万全を期すため、童心に続いて銀星号と戦いに行こうとする雷蝶を相手に景明は茶々丸の名を呼ぶ。

――虎徹
さぁ虎徹の初陣だ!御堂、行ったれーーー!!  ED

消 化 不 良 半 端 ね え ! !

銀星号は鍛造雷弾と共に消滅、神の元へ。
雷蝶との死戦を制した景明は静寂の中、茶々丸の一目惚れ宣言を受け、光が神となって到来するのを待ちわびる。


<村正ルート>

己の意思を取り戻し、罪の重さ、殺してきた命の意味、自らが決めた使命を思い出す。
やはりこの意思あっての景明ですよね。
村正の涙もすごく胸打たれました。心は少女のままの彼女も、ようやく心を交わした景明が離れてからここまで、さぞ辛かったでしょう。

香奈枝からの伝言を聞いた景明は、鍛造雷弾が打たれるのを防ぐ為、首長である足利邦氏の大政奉還で打開を計るが茶々丸に進路を塞がれる。
茶々丸の正体は劔胄ではなく生体甲胄だった(何かすごく血でてるけど茶々丸ルートで景明が纏えたのはどんな理屈なのか、愛の力か…)
立場上優位な茶々丸は、村正に傷を負わせ陰義を出発動させることで消耗させるとあっさり引き、邦氏の殺害に向かうが、鉤爪を見た雷蝶に父である義氏を殺したことがばれて戦うも敗北。
しかし邦氏は刺客である岡部の姫を前に覚悟を決め、共に死ぬ事で罪を償った。

策は成らず、鍛造雷弾と銀星号は衝突し、収束し地下へ。そして神となって地上に現れた。
その後、吹き続ける風に銀星号の意思があるかのように世界各地で戦争が勃発。
神が訪れ、安らかに死んでいった茶々丸から野太刀の最後の欠片を回収すると、村正の内側から卵が侵食を始める。
景明は苦しむ村正を装甲し、二人で一騎としてこれを打開。野太刀を完成させ(虎徹と名付ける)、覚悟も決めた景明と村正は神に挑む。

銀星号の欠片からできた複製八騎を香奈枝と一条に任せ(複製は知能がどうやらかなり低いご様子)景明は本命へ。
神の戦闘は何でもありだったが短絡的なもので何とかやり過ごしていたが、突如知能的な攻撃を仕掛けてくる。
一媛に執着し、山の神を探していた坂上の頭脳を引っ張ってきたようで、姿が坂上に変わり武者となったところで、隙をつき虎徹を使った最強陰義によってこれを一刀両断(神とは何だったのか)
復元しようとする神だったが、ここで内に眠っていた銀星号が目を覚ましこれを一蹴。
死んだと思っていた妹との感動の再会だったが、神の力で世界に汚染波を発した銀星号を前に時間の余裕もなく、一騎打ちが始まる。

宇宙まで蹴り上げられた景明は、湊斗景明としての意思があっては銀星号に勝てないと判断、村正に精神汚染をかけさせる。
甘さとロスがなくなり仕手と一体となった村正はそれから互角の戦闘を繰り広げるが、なぜか楽しめない光は景明の意思が奪われたこと銀星号に聞き怒り沸騰、重力の渦を作り出す。
村正はなんとかこれを打開し、最強の陰義を打ち込むも躱され、遂に光の渦に取り込まれる。

光は景明の意思に問いかけ、何より求めるものは光だと導こうとするが、答えは自らの行い全てを肯定して進む夢である光ではなく、自らを許さず共に現実を歩んできた村正だった。
父に続き兄までも奪われたことに激情を顕にぶつかってくる光に、景明の意思が消えて欲しくないと村正が願ったことで景明の意思が戻る。
均衡が敗れたことで虎徹は割れ、そのまま海まで落とされたが、景明は割れた虎徹を見て茶々丸の別れの真の言葉の意味に気づく。

無我となり、世界を守る英雄として戦ったならば善悪相殺として世界を殺す、だから呪いなのだと。

湊斗景明は英雄としてではなく、湊斗景明として湊斗光と戦わなければならない。
ならば、と湊斗景明は心底、敵として、悪として、自らの心臓を貫いた。
そして善悪相殺の掟が光への愛を証明し、光を殺す。
愛を求めて世界を敵にまわした光の長い夢は終焉を迎える。


■ 悪鬼編

光のおかげか生き長らえた景明はこれまでの罪を償おうとするが、宮殿下と署長に処刑の約束を反故にされ、明け暮れた日々を過ごす。
そんな姿を見て村正は、目的を遂げ劔胄としての役目は終えたものの、景明を何とかしなければと想いを募らせる。
自暴自棄になり、酔いつぶれ、酒を止めた村正を襲う手前までいくほどに不安定な景明。
酔ったままふらふらと外を歩き、口論をしている住人の間に入ると無意識にもその場を収めた景明は、その場を見ていた少女に助けられる。
両親もいない貧しい家柄にもかかわらず自分の食事を譲る少女の善の行い、そして光(ひかり)という縁のある名前、こんな自分でもまだ人の役に立てるという希望から、住民達のために動き出した。

旧来の住人と難民である新住民の双方から情報を集め、譲歩する形で新住民と共に口論となっていた橋の改築を進める。
それを見ていた旧住民の老人(元大工)の声もあり、住民は共に作業に取り掛かるようになり関係の改善も間近に思えたが、資金を集めるためにわざと橋を壊していた筋者が発覚。
景明はこれを虎徹で制するも、消える刀とその武力に住民はどこで聞いたか殺人鬼の噂が本当なのだと悟り、恐怖し、疑心暗鬼となった住民達の関係は一瞬で瓦解した。

再び生きている意味を見失い否定の言葉を並べる景明に頭にきた村正は、生きているだけで意味がある、自分が特別ではない卑しい存在なのだとわからせる、と(襲われた際にもう二度としないと念入りに言われたのを根に持っていたのもあり)強引に性行為に及んだ。
必死に伝えようと不器用な行動に至った村正を見て、景明は理解した。
罪を抱えながら卑しさを持つ、それが普通であり、自分も例外ではなくそれが等身大の自分というものなのだと。そして心に余裕ができたことで初めて人らしく愛情というものを村正に感じるのだった。

村正との何気ない一般的な幸せ、そこに宮殿下がいる建朝寺で大きな紛争があったとの噂を聞くも、それでももう争いに関わることはしない。
安穏を求め、どこか静かな所へ行こう、と家を出る。

――そしてそれは唐突に起こった。

雪車町一蔵。最も景明に純粋な悪意を持って襲ってきた者。
彼の刀が目の前で村正の胸を突き刺し、そして走り出す列車に飛び乗って連れ去っていった。目の前で奪われた。
必死に追いかける景明と冷めた周りの反応、なりふり構わず迷惑をかけ、理不尽だと叫ぶ景明。
人の認識は同じではない。どれほど余裕のない状況でも周りがそれを共有しているわけではない。これも悪と善の表裏と同じことだ。
駅に残された伝言を見てやっと雪車町の所に辿りついた景明は、ずっと意識が繋がらない村正の破片を見せられ、殺したと告げる雪車町に襲いかかる。

≫殺す
善悪相殺により電波を遮断されていた村正をその手で殺すこととなる。
自分の存在が景明を争いに導いてしまうことを悔いていた村正は死を受け入れ、自分を許して欲しいといって死んでいく。

≫殺さない
自分の意思を強く持ち、復讐だけでは殺せないと雪車町を生かす。
そしてずっと悩んできた問いに答えを導く。
なぜ分かっていて尚、善悪相殺を続けてきたのか。

「人を殺してでも人を救いたかったから」

単純明快。決して正道ではない。村正の仕手である以上善悪相殺は避けられない。
それでもそれにおいて多くの人が救われるのであれば、景明はそうせずにはいられなかったのだ。
満足した雪車町は去り、その存在を許さない一条は己の正義をかざして村正を討ちにくる。
善悪相殺を受け入れ、今、真に装甲悪鬼村正となった一騎の物語が始まる。


■ 総評のようなもの

趣味がわるい内容もかなりありましたが、構成はしっかりとしていて哲学的に考える要素のあるやりたいことがしっかりと見える作品でした。
景明の考えに納得のいかない部分があったり、初見プレイでどんどん主要キャラが死んでいった印象が強いのもあって、共通ルートと英雄編はプレイしていて素直に楽しめた記憶があまりないですが、復讐編は香奈枝というキャラクターに個人的に何とも言えない魅力を感じていたのと、その後の魔王編・悪鬼編は展開めまぐるしく内容も詰まったものでとても満足の出来でした。(だからといって共通と英雄編が微妙なのかというとそういうわけではないです)

この作品は、善悪相殺という誓約をうまく使ってドラマを作っただけでなく、多くのキャラクターに強い意思を持たせて、正義とは、悪とは何なのか、多くの視点から見て考えられるものに仕上げられています。

人にはそれぞれに大切なものがあり、それぞれの信念がある。
誰が正しい、何が正しいというものではなく、そのどれもがその人にとっての真実だ。
正義をかざす一条、復讐に生きる香奈枝、世界の終わりを望む茶々丸、愛を求めて神に挑んだ光、母様を追い続けた村正、誰ひとり同じではない。

作品の最後(TrueEND)において、景明は善悪相殺によって悪鬼となる道を選ぶが、光(ひかり)という少女の「わをもってとうとしとす」というカットインが入ったことの意味を考えれば、それがただ一つの答えではないというのがわかる。
景明が悪鬼としての道を決めた一方で、母、湊斗統に教わったこの言葉もまた、この先の少女の未来に大きな影響を与えたのだ。

これは英雄の物語ではない。だから装甲悪鬼村正となることでこの物語は完結する。
だが、それは「和を以って尊しとす」という母親の言葉を否定することにはならない。
人の意思というものは、他人からはその意味する全てが見えるものではない。
一概に悪と決めつけたものは実は善かもしれないしその逆もありえる。それはこの作品をプレイした人ならよくわかるだろう。
正しさというものはその人それぞれにあるものだ。
だから、そこに決められた正解というものも存在しない。
あると言うならばそれはあくまで民主主義における一般論、多数派というものだろう。

作品の良かったところというと、村正が景明と信頼が強まることでどんどん人間らしくなっていく姿も見ていて純粋にいいなと思えた。
元が劔胄で姿も見えない、ほぼ喋らない、という所から立派なヒロインとして感情移入できるほどに人としての感情を覚えさせていったのは評価できる(最高潮まで上げて殺しにくる所がニトロだけど)

戦闘前にしつこい位に入る解説はあまり好きなタイプではなかったが、全体の出来を思えば些細なものでした。

プレイ当初には行動の重みが分からず面白さが伝わりづらかったですが、話が進行する事でこれが分かり、背景事情などを知ってどんどん作品の深みがでることで評価が上がっていきました。
単なる期待を裏切るだけの人間ドラマにせず、哲学的テーマに真っ向から挑んで大作に仕上げたことには、作品に対する制作者側の強い意思が感じられます。
納得のできない部分やツッコミ所もありましたが、それを含めてもこの作品の価値は評価されるべきものだと思います。