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kamitukiさんの明日の君と逢うためにの長文感想

ユーザー
kamituki
ゲーム
明日の君と逢うために
ブランド
Purple software
得点
90
参照数
1198

一言コメント

良作です。悪い点を挙げるなら、前作同様にシーンとシーンの繋ぎが下手なところです。良い点は挙げ始めると長くなるので長文にて。「神」や「奇跡」といった存在が話の要所で出てきますが本質は別のところにあると感じます。「奇跡」といってもよくある無理矢理goodエンドにする都合のいい言葉ではなくファンタジーにおける魔法の存在のようにそれがある(あった)ことが前提とされた世界。話の始まりは神隠しとそこからの帰還という「奇跡」・・・。しかし、「奇跡」の否定もしくは脱却、人の意志と選択が本質ではないでしょうか。この話の中での悲しみや喜びは人の選択の結果。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

 良い点を挙げればきりがありませんがOPは相変わらずトップクラス、日常会話のかけ合いも面白くテンポもよいので読みやすいです。イラストも良。シナリオも良。

 シナリオについて
 シナリオで好感が持てたのが、この話の中での悲しみや喜びはあくまで人の選択の結果というところです。話の中で一番よく出てくる奇跡は「神隠し」です。「神隠し」と聞くと本人の意思とは無関係に聞こえますが、この話の中では「神隠し」はこちら世界ではない「むこう側」へ行くことを意味し、「むこう側」に行くのに神の協力や奇跡は必要ですがあくまで選択するのは本人ということです。
 メインヒロインである明日香は子供のころに御風島の森で神隠しになる。主人公修司は自分にとって最も大切な存在である明日香を失い深く傷ついた。その後7年間、島を離れていたが失ったものを取り戻すために島に帰ってきた。これが話の冒頭であるが、先に挙げた神隠しの意味を前提にすれば大きく話の内容は変わってきます。「明日香は自らの意思で向こう側にいった」「修司を残して」というのが真実です。修司は明日香を失い傷つきましたがそれは、「神隠し」という不幸な事故、事件ではなく明日香の行動の結果ということです。
 単なる行方不明としての「神隠し」としてシナリオを書けば比較的かんたんに出来たと思います。不幸にも行方不明になり幸運にも帰ってこれた。ただ記憶を失ってしまっていた。という設定ならさほど目新しいものでもなかったのですが、自らの意思で行ったとなると受ける印象は大きく変わってきますし、明日香は修司より向こうにいくことを選んだわけです。残された者の心情としてどちらがより根深く長く影響するか。これは小夜ルートや里佳ルートでも言えることですが自分と関係の深い者を失う原因として事故や病気で失うことより大きいと思います。なぜなら失う原因を自らに見てしまうからです。向こうに行くということは全てを捨てていくことです。
 例えば自分の面倒を良く見てくれて自分も懐いていた姉が何も言わず行ってしまった。自分には価値がなかったのか(悪い言い方をすれば)捨てられた?
 例えば親友が行ってしまった。二人の関係に価値はなかったのか。

 ある種、自分たちを取り巻く世界の否定。


 「奇跡」がこのような問題を本質的な意味で解決するのか?神に願えば姉は妹との生活に価値を見出し向こう側から帰ってくるのか?そんなことはない。「神隠し」などの奇跡に翻弄されたのではない大切な人や自分の選択が状況を生み出した。それをどう受け止めるのか、どうしたいのか、何を選ぶのか、この話はキャラ達に問い続けているように感じました。