例のエンディングについて
※注意事項
エンディングのネタバレを多分に含みます。未クリアの方はブラウザバック推奨です。
〇はじめに。
完全に一本道だと思っていました。予想外の分岐、選択肢。
片方はあからさまなバッドエンド。誘惑にも駆られる、が。
でもこの二人には幸せになって欲しい!えいっ、ポチ!
…ってこっちがバッドかい。
えぇ、はい、多くの隣人と同じように私も呟きました。
どうみてもハッピーエンドな選択肢からどうみてもバッドエンドな終わり方に繋げるとは・・・、
「non color」、おそろしい子・・・!
とか何とか考えながら選択肢に戻り、大爆笑してちょっとしんみりしてもう一個の方も終わらせ、
あ、こりゃ名作だわ・・・とか余韻に浸っていたkameruですが、
その時、私の淀んだ脳細胞に一つの考えが舞い降りた!
あれ、この二つのエンディング、大して違いは無いんじゃない・・・!
〇それでは本題。
という訳で本レビューでは、二つのエンディングにおける相違点を並べることにより、
逆説的に両者間の同一性を…、頭良さげに書くとボロが出そうなのでそろそろやめますね。
要は、二つのエンドでどこが違ったの、と具体例を挙げつつ考えていく感じです。
やせ少年が出てくる方をBエンド、スーパーの弁当の話が出てくる方をAエンドとして話を進めていきます。
①財布について。
Aエンドにて、瑞貴は無くした財布を拾います。
『彼女が消えた代わりに、戻ってきたのはこの財布』
これがAエンドとBエンドの違いでしょうか?
いや、しかし結局は、ブロンドのねーちゃんに持って行かれて無くなります。これは大した違いじゃない。
②元・彼女について。
Aエンドにて、瑞貴は言います。
『ごめん。寄りは戻せない』
そう伝えた描写が、キチンとあること。これがAとBの違いでしょうか?
でも、瑞貴が元・彼女を選ばなかったことは、AでもBでも変わりません。
そして恐らく、元・彼女の行動も変わりません。『次の住処を探しに行く』だけ。これも大した違いじゃない。
③借金について。
AでもBでも36万8000円。これは全然変わらない。
④電話について。
Aエンドの、新しい電話。でもこれも、そのうち無し子が壊すハズ。結局大して変わらない。
⑤瑞貴について。
Aエンドにて、瑞貴は言います。
『でも、お前がいなくなると、寂しいことを実感する』
無し子が居ない期間があったから、無し子の大切さを実感した。これがAとBの違いでしょうか?
『そうだなぁ・・・・・・とりあえず・・・・・・。無し子。セックスしよう』
だけど瑞貴は相変わらず、ちょっと口が上手くて調子が良くてHが大好きな学生アルバイトです。成長したとは思えない。
⑥無し子について。
AでもBでも、彼女はおせんべいが好きでアイスも食べて野球もやれてちょっぴりキス魔で、
そんな普通の女の子です。どちらにいっても変わりはしない。
⑦二人のその後について。
Aエンドの後、二人が幸せに暮らしていったのは想像に難くありません。
ではBエンドの方はどうでしょうか。やせ少年は言いました。
『何もないよ。(中略)オンボロだよ。ほんとにオンボロ』
突き飛ばされるように長い月日が過ぎ、私達が目にしたのは、朽ち果てた部屋でした。誰もいない部屋。
部屋の片隅にポツンとあるのは、屋根の無い神棚。何も変わっていない神棚。
そう、バラバラにされた訳でもなく、売り払われた訳でもなく、
捨てられた訳でもなく、屋根の無い、あの日からずっと変わっていない神棚。
瑞貴は捨てなかったのです。手を離さなかったのです。
家はオンボロになりました。腐った床めくれた畳割れた窓オンボロボロボロ。
それでも瑞貴は捨てなかった。そして何の情けも容赦も無く、彼は死にました。
どれくらい生きたのかは分からないけれど、結果的に彼は死にました。
残ったのは、おかしな話。寂れた町では、有名な話。
空虚な部屋での、笑い声。アハアハ、アハアハ・・・。
…確かに、報われない終わり方のように見えました。どうしようもないバッドエンドのように。
だけれども、Bエンドの悲劇性は、Aエンドと、その直前のとある会話と、そしてBエンド自身により否定されます。
Aエンドにて、瑞貴は言います。
『俺だって思うさ。この世が下り坂だけだったなら、どれだけ楽かって
でも実際は違うんだ。ブレーキが付いてるんだ。お金というブレーキが、理性にこびりついてるんだ』
生きる為にはお金が必要。当たり前です、幼稚園児だって知っている。
貧乏神は何故嫌われるのでしょうか?お金が無くなるからです。生きていけなくなるからです。
分岐点の前(のHシーンの前)に、こんな会話もありました。
『普通の暮らしがしたいの?瑞貴は』
『当たり前だ。人間誰しも普通の暮らしがしたいと思っている』
当たり前だ。そう、当たり前だ。普通に暮らす為には、『生きる』為には、お金が必要。だから貧乏神とは暮らせない。
…では、死んだらどうだろうか?
必死に、『普通』に生きようとした瑞貴を否定するつもりはありません。最初から死ねば良かった、なんて言うつもりも毛頭ない。
でも、Bエンドでは、結果として、瑞貴は死んだのです。そうしてお金が要らなくなった瑞貴の部屋に存在するのは、何も変わっていない神棚と。
やせ少年は、言いました。
『あの家にはいるんだよ。見えない何かがいるんだよ』
…ここから先は想像するしかありません。だって語られていないのですから。
けれど、一つだけ確かなことは。
『見えない何か』は、笑っていたということ。そう、あの特徴的な笑い方で。
相田瑞貴は、一人では笑わない男です。彼が一人で笑った場面は、作中ではただ一つ。夢の中のみでした。
Bエンドは夢の中の出来事でしょうか?いいや、違います。わざわざ第三者の視点を用いているのです。町の噂になっているのです。
一人では笑わない男と同じ笑い方をする『何か』は、そいつは、現実で笑っていたのです。確かに、笑っていたのです。
〇最後に。
ここまで読んで下さった皆様に、まずは感謝を!そしてお疲れさまでした!
なんだか駆け足気味の文章になっちまいました。分かりにくかったらごめんなさい。
さて、ここまで長々と書かせていただきましたが、結局私が言いたいことは一つです。
Bエンドも、もちろんAエンドも、悲劇なんかじゃないのです。そして多分、ハッピーエンドでもないのです。
そこにあったのは、普通の男と、普通の女の、『普通』の日常だったのだと。多分そうなのだと、私は思いたい。
それでは、本レビューはこれにて終了いたします。
機会があればまたどこかで。新参レビュアーkameruでしたっ。