良い仕事してますねぇ
全体の文章量はさほどないが、鳥羽莉や主人公の心理描写などは細やかだし
意味もなく部活を描く作品も少なくない中
演劇部設定1つ取ってもこれ以上ないほどに物語を彩る
主要キャラ全員難しい声の演技も求められる中見事にこなしているし
絵や音楽も関わった製作者はみんな世界観にあったとてもいい仕事をしたと思える
吸血鬼設定がありがちかはともかく
永遠の命を持つ吸血鬼モノでありがちな方向にそのまま落とした部分には何のひねりもないが
鳥羽莉というキャラを綿密なプロットで描ききった分、最後まで楽しみやすい作品になっている
その分鳥羽莉以外のキャラは少し微妙な位置に置かれ
一部ルートが不自然になりやすい複数ライターの弊害も出やすかったはずだが
せせり、千佐都、涼月、火乃香のルートなど、単品で見れば面白みも深みも少し欠けるものの
タッチのまるで違う絵を強引に1枚のキャンバスに描いたようないびつさは無く
それなりに人間関係や思惑がからみあい、鳥羽莉という肖像画の背景程度にはうまく溶け込んでいると感じた
ただたとえ他は背景でも鳥羽莉と朱音2名を主役に置いて
2人の肖像画をどーんと描いた方がこの作品は良かったかなと思う
それだけのポテンシャルも対照的な設定も朱音は全部持っていただけに少々残念
どのルートもびっくり仰天の斬新な展開とかはないので
流し読みでもいろんな大事件がひっきりなしに起きて面白い、という事はないだろうし
細やかな部分もじっくり読む人向きな作品かもしれないが読みやすい作品であり
ちゃんと作ればここまでは出来るという好例
歳を取らない吸血鬼が歳を取り変化する人間への恋を悩む、という流れに平凡さを感じないのならば
もっともっと楽しめるのではないかと思う
勢いだけで中盤で力尽きた作品や量産型のどうでもいいノベルとは完成度の高さはだいぶ違う