ErogameScape -エロゲー批評空間-

kaglaさんの何処へ行くの、あの日の長文感想

ユーザー
kagla
ゲーム
何処へ行くの、あの日
ブランド
MOONSTONE
得点
81
参照数
870

一言コメント

シナリオゲーと言われてまず何を思い浮かべるでしょうか?ニトロでもライアーでもなく、FATEでもクロスチャンネルでも丸戸作品でもなく、わたしが81%の賞賛と19%の皮肉をこめて真っ先に思い浮かべたのはなぜかこの「何処へ行くの、あの日」でした

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

シナリオ:「映画・放送などで、場面の順序、俳優の台詞、動作などを記した台本。脚本」(広辞苑)

これを見て「あれ、そんな意味だっけ?」と思う方も
批評空間というホームページを利用する中には少なからずいるのではないかと思う

もちろんここの利用者は無知だから、というわけではない
ここがゲームに関するホームページだからである

元々はかなり昔に映画関係者が映画について使用し始めた言葉であって
批評空間でシナリオと言えば自動的に「ゲームのシナリオ」の事になるが
この「ゲームのシナリオ」となると誰かがゲームとシナリオをくっつけた亜流の言葉であり
正確な意味は辞書などには載っていない
映画とゲームは表現法も異なるので微妙なニュアンスにおそらく誤差が出やすい
もちろん広く使われている言葉なので正しい(と思われる)意味は実質あるのだろうけども

「シナリオゲー」となるとまたさらに造語で
実際に使う人も、また何かしらイメージがある人も多いとは思うけれど
「厳密に言えばそんな言葉ないよ」と言われてもおかしくない言葉でもある

単にストーリーが面白かったものを「シナリオが良かった」というのは
間違いではないかもしれないが言葉足らずではある

わたしはシナリオと聞くと =ストーリーではなく
構成や全体の作り、具体的に言えばどういう魅せ方の工夫をしていて
伏線をどう置いてどういう場面でどういう風に回収しているか
登場キャラにどういう個性をつけてどういう意味をもってストーリーにからめどう扱っているか etc・・・
そんな一連の部分を指すイメージが真っ先に浮かんでしまい
シナリオ、ストーリー、テキストなどを完全に分けてイメージしてしまうのだが
これもまた非常に不正確なので、例えば批評空間で文章を書くならば
人にも伝わるように一度脳内変換をしてから各単語を使うという面倒な事になる


まあそんな事は正しい日本語講座でもあるまいしどうでもいい事だけども
この作品を語る上では微妙にどうでもいいことではなくて
それはわたしのイメージするシナリオ、つまり構成や全体の作りetc・・・ という事だけでいえば
この作品がずば抜けた出来だからであり、シナリオ(が素晴らしい)ゲーと呼ぶにふさわしいからである

加えて 構成などにはさほど工夫はないけれどストーリーだけは面白い、というものはわたしの中ではけっこうあるのだが
「何処へ行くの、あの日」は構成や魅せ方などは素晴らしいがストーリーその他はそこまで強く楽しめなかったというめずらしい作品だからでもある






以下ネタバレ満載の雑多な感想




















初プレイは発売から1年半ほど後。それ以降何度かちょくちょくと再プレイ済
当時リアルタイムでエロゲをいろいろやっていた方なら共感いただけるかもしれないが
2004年はやるエロゲが多すぎたので時間的にも資金的にもなかなかいろんな作品に手が回らなかった記憶がある


物語の序盤から大量に伏線は置かれる
冒頭の謎めいた詩、自分の腕の中で息絶える謎の少女の記憶、黒い巨大な獣
町で流行る怪しい薬、それを使うと見る事になる鮮明な夢、ヒロイン5名が所々に見せる不自然な言動、2つの発砲事件
謎の奇病にサブキャラなどの不思議な言動、謎の白い光、それを遠い昔に打ち破った主人公の不思議な力
そして1ルートクリアするごとにそのヒロインと冒頭で交わされる不思議な会話

一体何の話だこれは、と思うくらいわけのわからないものが列挙されるが
わたしがストーリーを手放しで楽しめなかった一因もこのごちゃごちゃ感にあると思う
また主人公と各ヒロインの恋愛がストーリーに重要な意味を持つにも関わらず
一部ではあるがテキストの甘さでプレイヤーが置いてけぼりを食らうような部分もある
テキスト全体で言えばなかなかに良かったと思う
強いて言えばちゃんと書ける人なのに一部時間がなかった、一部を強引にカットした、そんな感じは所々あるが

ただマージという薬を始めとした各設定と様々な登場人物が
これらを1つ1つ、なおかつ鮮明につなげていく構成は見事である

特に全ルートでカギを握るマージの存在は切り離して考えることは出来ない
マージで見る夢が全体を作りあげる大事な要素なのはもちろんだが
使用する人の心理状態やキャラの性格などとからめたりいろいろと象徴的に使ったのは
設定自体かなり強引な部分もあるがとても印象深い




智加子ルート

主人公と直接過去を共有していない唯一のキャラ(一葉は除く)
このルートのキーパーソンは智加子の弟であり主人公の幼馴染でもある智久(故人)
お姉ちゃん大好きっ子の智久が自分のために事故で命を落としたと思っていて
人に好かれる事を嫌うとても後ろ向きな人
そのため後ろ向きな人ご用達薬でもあるマージの常用者
理由は違うが人と恋愛するなんてとんでもないと思っている主人公と良く似ており
その2人がそれを乗り越え結ばれるというお話のため
何気に主人公と結ばれた事に一番意味を感じた人かもしれない
反動のためか主人公を想う気持ちが異常に強く
決定的な悲劇を招いてしまう切ないキャラでもある
ただその割に不思議と読後感は悪くなかった
さりげなく黒い獣の正体がわかるルートの1つだが
獣自体さほど意味は感じないし、他部分も含めて全体への関与は薄めのルート
ただ寝ぼけた主人公の言葉を絵麻ルートの大事な場面で使ってくる作りには少し驚いた
クリア後のニューゲームでの会話が核心に強く触れるため3番目の攻略を意図したかもしれないが
1~3番目どこでやってもかまわない気はする




一葉ルート

少し異質なルート
キーパーソンは双子の妹「双葉」及び「一葉」
全体への関与は智加子ルート以上に薄く
ルート独自の伏線が多数置かれそのまま回収されるので
一葉と双葉の物語という感じもする
主人公は彼女の恋愛対象としては重要な役だが主人公自身の心情は描写も弱く
恋物語としてはやや中途半端
三枝先生も少し空気気味だが、実は絵麻の手術をした人で
その後ショックで医師を辞めてカウンセラーに、みたいな無茶な設定よりは
これくらいでよかったのではないかと思う
何気に辛い過去を都合よく改ざんするほどの究極の後ろ向きであり当然マージの常用者
9回裏2アウトまではうまく話も進み幸せなオチもつき
わたしがルート単体のストーリーでも楽しむ事が出来た唯一のルート
といってもこの作品は全体で楽しむ事を意図した作りだと思うし少し異質と言える
残念な事に最後の1アウトは取れずあっさり、そして残酷に終了
取ってつけた感もあるが一応白い光って何だろうという部分の伏線でもある




桐李ルート

年上の幼馴染。キーパーソンは兄の三木村
マージの核心にも触れる事になり
謎の長い廊下がどこなのか、という事もわかるルート
マージで見る夢の中での言動で大きく現実を変えるルートでもあり
この時点ではおぼろげではあるが全体像を掴むためには必須なテキストも多い
単に姉属性を狙ったのかと思われたキャラ設定が強く意味を持つ作りは
桐李だけに限った話ではないがとても良く出来ている
のほほんとしているがいつも主人公の隣にいて味方をする、ある意味絵麻の天敵
絵麻ルートで一葉、智加子が退場後、一応退場するがそこでも主人公を嫌うわけではなく
常日頃から絵麻が(兄とくっつくことを)警戒している事は想像に難くない
無表情でごまかしているが絵麻の料理の上達は桐李から引き離すための努力と思われる
重要なルートではあるが一部テキストの弱さもあり
両親や兄、死んだ妹との関係などはいま1つ伝わってこない
そこらは兄が歪んだ形で全部もっていくのでそちらの印象が強く
主人公との間の感情のやりとりも不十分
特に三木村の自殺にまつわる各キャラの心理描写は最後の絵麻の自殺後の世界への強烈な伏線でもあるので
肝心の桐李本人については油断してさくさく読み進めると「あれこのルート最後どうなったっけ」となりかねない



千尋ルート

恐らく4番目にしか攻略できないようになっているルート
さほど意味もなく攻略順を限定される萌えゲーなどはあまり好きではないが
1-3番目のルートの延長として復習として、また5番目にくる絵麻ルートへのつなぎとして
4番目にくるのは非常に意味があるので固定したのは必然的とも言える
というか4番目以外に置くわけにはいかない最重要ルート
千尋本人が物語全体のカギを握るため
謎めいた言葉で主人公及びプレイヤーを惑わせ、導く役割も強い
エピソードも登場人物もこのルートは非常に多彩で
最初の3ルートで途中までしか見れなかった部分や謎だった部分も描かれ
共通の序盤から置かれた大量の伏線の回収は実はこのルートだけで大体終わる
推理モノのように最後のルートで一気に回収、ではないにも関わらず
絵麻ルートも含め最後まで引き込んでくる作りは非常に素晴らしいと思う
ただ千尋ルート自体は結果的に詰め込みすぎになったせいか
千尋と主人公、もしくは絵麻との関係性は重要にも関わらず十分には描かれなかった
正体があれなので前向きな発想しか出来ない人でありマージを隠れてこっそり使用したりすることはない
ただ最後主人公と一緒に一度だけ服用する部分は全体にも関わる象徴的なシーンでもあり
夢に三木村が出てきた桐李ルートのおさらい、絵麻ルートへの伏線でもある



絵麻ルート

恐らく5番目にしか攻略出来ないいろんな意味で非常に厄介な最終章
絵麻の、そしてこのルートの役割は大きく、当然すべての終着点でもある
大体の回収を1-4番目のルートで終えているため、特に回収に追われた千尋ルートなどとは違い
今までの謎の回収というよりは新しく真相が展開される章でもある
とはいえ今まで語られたあらゆる設定が存分に詰め込まれたルートでもあり
千尋ルートで回収されたと思っていたはずの部分を更に深くえぐってきたりもする
チョイ役だった木之下くんとミッキーも
友人が消える事を絵麻に寂しいと思わせ主人公をあきらめるエンドへの生贄として少しセリフが増える。三枝先生レベルではあるが。
それよりそうこの、「ヒロインである妹が主人公である兄への想いを捨てる事で終わる」というエンドは意表を突かれるだろう
最後はどうせ結ばれるんだろう、と信じて疑わなかった人は意表を突かれるどころじゃないかもしれないが
個人的には妹フェチをなめるなああああ と叫ぶ事もなくすんなり最後まで読めた
楽しめたかは少し微妙だが・・・
そして困った事にこのルート、特に終盤の不明瞭な時系列、及び様々なシーンの混在は非常に難解に見え
詩的な表現の多用も作者の狙いを外れプレイヤーの理解を妨げるかもしれない



ラストについて

絵麻が自殺をし主人公は桐李と付き合う世界、主人公のクラスに千尋が転校してくる
主人公に千尋の記憶はないが「国見恭介くん」と呼びかけてくる。これは絵麻がいないので「あの夏」はなかった世界であり
千尋とも出会っていない「本当の世界」だが千尋が現れたことにより(いずれ)消える世界になる

その後幼少時に場面は移り主人公は夕焼けの中、元気な絵麻、千尋と会話をする

千尋「あたしね、本当は引っ越さなきゃならなかったんだよ」
  「でもね、そうしなくていい事になったの」
ここで(外で遊ぶ)絵麻が手術に成功しており、千尋とも幼馴染の世界が「本当の世界」になった事を示唆する
(強引な設定だが 人助けをして勘当されたんだよ、というのが世界を消す役割から開放されたという事を表している)

絵麻「今年の夏休み、すっごい楽しかったよ」
  「身体が健康になってみんなと一緒に遊べるようになって、ほんとに良かった」
のセリフで絵麻が兄と結ばれる以外の生き方を選んだ事が判明する
その直後の白い画面での独白も絵麻のもの

1/8の表示後全ヒロインとサンデー、千尋が助けた智久と主人公が登校する場面が描かれ
冒頭の詩と全員集合CGと共にFin



少し付け加えると
楽しめたかは少し微妙だが、と書いたが絵麻と主人公が結ばれないからつまらない、というわけではなくて
絵麻がここに至るまでの過程にしっくりこない部分があったのだと思う
最後ににこやかに兄妹する2人は自然で幸せそうに見えるけども
正直な話 絵麻が最後に「ただの兄妹」を選んだ心理は読み取れなかった
渋々なのか嬉々としてなのか結ばれる世界が無く疲れ果ててなのか、前向きになのか後ろ向きになのか、それすらもよくわからない
自分の読解力が足りないか、単にこの最後の描き方に不満があったのかもしれない



シナリオゲーという言葉で真っ先に浮かんだのは
皮肉にも(わたしのイメージする)シナリオ以外そこまで強烈には楽しめなかったこの作品だった
シナリオゲーという言葉に「シナリオ以外まるでダメなゲーム」という意味はないと思うし
他の部分がだめとは全然思っていないのでこの程度の曲解もお許し願いたい

決してそこそこに良いシナリオが他がだめなせいで輝いて見えたわけではなく
少なくともシナリオだけはあらゆるゲームの中でもトップクラスの出来であり
その突出した素晴らしさがわたしの心に残っていたからなのは間違いない