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kaglaさんの大図書館の羊飼い a good librarian like a good shepherdの長文感想

ユーザー
kagla
ゲーム
大図書館の羊飼い a good librarian like a good shepherd
ブランド
AUGUST
得点
81
参照数
998

一言コメント

一見「毎度おなじみオーガスト」という部分が目立つがよくよく見るとテーマを置いてほぼ全キャラ全ルート進行する作りや、露骨に引っ張った謎や真実を紐解いていく演出の多かった前作、前々作に比べると、あまり引っ張らずテンポ良くエピソードを紡いでいくことを主体にした今作は「真骨頂」と言うよりは「新境地」と評するべきなのかもしれない。終わってみると明らかに失敗してるなぁという部分もあるし驚愕するようなインパクトには欠けているが、まずは長所が目に付くわかりやすい作品でもある (長文には前作ユースティアのネタバレぽいのもあるのでご注意下さい)

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

誉めるべき部分もこれでもかとある良作だが
個人的には少々がっかりした作品でもある
歴史に残る傑作になりそうな予感が途中まであったものの
結局こうなるのかオーガスト、という落胆みたいな感じでしょうか

期待と違うとかそういうことでもなく
とても練られた素晴らしい作品なのは間違いないんだが
完成品を見ると設計図とは何か違うパーツがはまってるように見えるし
足元には製作者が目指したはずの残骸がばらばらと落ちているような


繰り返しになるが誉めるべき部分は本当に多い
絵やシステムなど開始1分でわかる魅力もあるし
細かい作りや配慮も丁寧でよく出来ている
続きはFDでね(はーと)商法がまかり通る今日この頃
出し惜しみなくほぼ全登場人物にHシーンがある作りも優等生オーガストの余裕が垣間見える

主人公と結ばれる要素ゼロの多岐川さんエロがないじゃないか!という不届きものは
わたしと一緒にバケツ持って廊下に立ちましょう
いや夢オチや望月さんとの3Pなら・・・・・・




前作穢翼のユースティアは完全な一本道で
途中ヒロインルートに入るとメインの話はそこで止まる
まあ少しバッドエンドのような分岐になっていたわけだが
ひたすら練りこんだ1つの壮大な物語を見せる事を主題に置くなら良いチョイスだったと思う
謎や真実を前フリしつつ引っ張る>時期を見計らってどーんと見せる>わーびっくりという演出を多用したのもとても納得できる


今作は根本的に作りが違うので望月、芹沢、嬉野のおまけ3名(かわいさ的にはおまけではないが)を除けばどのルートでも
「(図書部や主人公で)変わる」というテーマが達成されていて、一本道から外れたバッドのようにはなっていない
どのルートも共通も思い切り謎や真実を引っ張って、もったいぶって出すという演出は少なく
テンポ良く謎も真実も明かしていき「変わる」事にまつわるエピソードや楽しい図書部像をどんどん積み重ねていく
テーマを考えてもとても合った作りになっている

いつも王がストネタだったエンド後のお遊びでもネタにしていたが
小太刀ルートではメイン4人のさりげない誘惑に耐えれば羊飼いになれそうな分岐になっている
実際は小太刀さんのおっぱい大勝利ルートにいくだけだが
それでもヒロイン4人への分岐は取ってつけた感はあれど踏み台にもバッドにもなっているわけではない
どこいっても図書部で変わり、共に歩む事を選ぶ主人公&ヒロインが見れるわけだから
分岐の仕方も話の進め方も計算どおりなのだろうし、誰のルート言ってもテーマがぶれる事もなく本当にうまく作ってある
設計図で言えばほぼ完璧だったんだろう
完成品は何か違うんだけども



最初に気になったのは何でもかんでも地の文や主人公の心の声で解説しようとする部分だった
これはあくまで程度の問題であって、地の文とか心の声での描写は本当に大事なのでなくせというわけじゃない
ただそれはゲーム内ではある意味「神の声」であり
言い切られたら「はいそうですか」と正解認定しなきゃならんので
最初のオープニング前の超序盤から「つまり(高峰)はシャイな男だった」とろくに描写もしてないのに押し付けてくるのはいただけない
まあこれ高峰があれこれ深く追求してこない事を地の文で解説してた場面なんだけども
他の場面では高峰は気の利く良いやつだからとか高峰も昔いろいろあって聞かないようにしてるとか全然違う描写になっていて
神の声なのにその場その場で適当に盛ったらやはりよろしくないと思う
何でもかんでもやられると行間を読む楽しみが完全になくなるし
何より神の声で描写不足や流れをごまかしちゃいかん
実際小太刀ルートにいくと悪用してるかのような場面がいくつもある


次に思ったのはおまけ3名(かわいさ的にはry)除くどのルートでも
「引け目がありましたが変われました、ありがとう図書部、ありがとう筧、ありがとうヒロイン」
と何やら怪しい自己啓発セミナーみたいになってますが
いろんな場所で変わった、もしくはそういう意味合いの事を連呼してるのだから
話を見ても羊飼い設定や最後のオチを見てもそういうテーマなんだろうと思う
(変える側の羊飼いやオチに関してはさらに踏み込んだ話になっているので言葉にするとまた変わるが)
確かに変化はあってどれ見てもうそ言ってるわけじゃないんだけども
変わる前からかわいく、そして有能に高スペックに描いているのであんまり実感は起きない

テーマ的にもストーリー的にも「いやぁほんと変わったなぁ」とやってくれた方がしっくりくる
というかやんなきゃいかんのだろう
ちょっとでもヒロインを落とすと かわいくない!ふざけんな!かわいそうだ!とオーガストのメールボックスでは暴動が起きるのかもしれませんが
これどっちかを取る取らないというわけではなくて
つぐみがうそ盛ってたのも御園が過去にオーディションで芹沢さんをふるぼっこにしたエピソードも
ルート入るまではわからないようになってるわけで
設計図では「最初から最後までかわいいし高スペック、でもルートでは隠された過去も明らかになって図書部や主人公の助力もあって変わる」
ってちゃんとなってるんですよね

実際に御園はかわいい、世界的歌姫、年下罵倒キャラ、蔑む顔も天使と高スペックのまま、でも精神的問題で歌に気持ちが入らない
それを
図書部と主人公のおかげでちゃんと歌えるようになりました
図書部と主人公のおかげで賞を取りました
図書部と主人公のおかげで友達と仲直りできました
と完全勝利まで持っていくわけだからとても良く出来ている

でもつぐみはうそ盛ってた頃から見ればすでに勝手に一人で変わってる印象だし
タマタマさんは同じ芸術ネタでかぶるのを避けたのか素晴らしい絵の才能が開花したというより
忙しくてやめていた趣味を再開しました、と定年後のサラリーマンみたいになってるし
佳奈すけは神の声で変わったなぁと言ってはいるが
変わったというか男が出来てかわいくなっただけにも感じる

まあいろいろ過去の話とかは出るんですけどね
でもタマタマ家の事とか佳奈すけがハブられた話とか
男が出来て吹っ切れたのはわかるけどそれだけで終わったかなと思う
登場した瞬間に ー攻略終了ー な生徒会長ほどじゃないが
重みというか説得力は感じない


最初の4ルートでやりたかった事をやれたのは御園ルートだったんかなと思う
御園さんの図書部前、主人公と結ばれた後は芹沢パワーも相まって
ああ変わったね、本当に良かったね、と素直に伝わる話だったし魅せ方も良かった
ジャズバー他ではずっと無声で、最後びしっと聞かせるとこなんかはベタかもしれないが引っ張り方も絶妙

それにさりげなく羊飼いネタもひそんでるんですよね。失恋した佳奈すけを導く役で
オーガストでヒロイン泣かせたら暴動なのかもしれないけど
やっぱりあってよかったと思いますよいろんな意味で


本当は佳奈すけの才能といい、タマタマさんの絵といい、御園の歌といい
あとラスト付近の「生徒会役員の中に今後国を背負って立つ人材が」というフリといい
どのルートいっても佳奈すけのように誰かが羊飼いに導かれて
才能が爆発する設計の残骸のようにも感じる

つぐみと付き合うとタマタマさんが画家を目指したり
佳奈すけと付き合うと御園はそれをきっかけに歌に感情が乗るようになったり
別にやっても良かったと思うけど
そのつど誰かを泣かすなんてとんでもない!と結局やらないのもオーガストならではか
主人公とくっついても失恋しても同じ歌姫じゃんてのは変化のつけようがあると思いますし

実際御園ルートでやってるわけだしフリや各ヒロインの設定を見ても
アイデアがないってことは絶対ないわけで
(つぐみは日本を背負う人材にしないといけないが、生徒会長にもなったし演説も良くなったしアリだろう)
思えば毎回泣かす必要もないとは思うし、好き放題やってくれてもよろしいんじゃないでしょうか


さっきの神の声で言うと御園がけっこう無茶な図書部活動を突然
「わたしはやりたいです!」という場面がある
しばらく後になって神の声で「御園さん変わったなーまじかっけえ」みたいにフォローする場面があるんだけど
わたしのように心の穢れた人が聞くとこういう唐突な神の声はあれぇと思っちゃうんですよね
御園は消極的で悩んでたわけじゃなかろうに

佳奈すけが同じように演劇の台本や汐美祭の謎解きゲームのお話を「作りたいです!」っていうエピソードは
神の声も特にないのに「よしいけ佳奈すけやってやれ」と思うし、ちゃんと他の場面でも生かされていて素晴らしいなぁと思うけど

最初から最後まで非常に良い設計図だなと思うしよく出来てるエピソードは良く出来てる
ただ横に並べると好みがどうとかじゃなく、根っこから出来てない部分も目立つ

でもぶっちぎりで微妙だったのは小太刀ルート
大トリにくるはずのルートだが細かくいうときりがないくらいちゃんと完成していない

実はおとんじゃね? 実は妹でした 実は昔助けました 実は図書部は私怨メールで作られました
などなど主人公が羊飼いを選ばないという流れからのオチと共にいろんな事が詰まっていて
「どう?この作品これで全部まとまったでしょ?」というルートなんだが
わかったような気にさせられるだけでどうにも消化不良

羊飼いになることだけを目指していた小太刀さんと一緒に羊飼いじゃなく人として共に歩むことを選ぶ。美しい話じゃないですか
設計図もいい。オチもいい。でも道中は説得力にも欠けてるし やっちまったなぁと思う

一番無難なのは詰め込み回避用に小太刀ルートと羊飼いルートを別に作れば良かったんだろう
小太刀関連のパーツは小太刀ルートへ
羊飼い&父親からみのパーツ&4人の再分岐をもう1つへとやればもうちょいすっきりするはず

もうちょい言えば各ルートで誰かが佳奈すけのごとく失恋し、羊飼い(小太刀)に声をかけられる
でも小太刀さんはその涙や表情を見て少しずつ羊飼いにも疑問を感じる
そっから満を持して小太刀ルートにつなぐユースティアのような壮大なフリがあれば
小太刀さんのおっぱいにも負けない見事なルートになったと思う


まあそもそも小太刀ルートからの4人への分岐は
主人公が「いやぁ俺変わったなぁ。自分から告白するなんて」と神の声で盛ってますが
結局どのルートも主人公は孤独な読書家から大幅に変わってるので説得力はない

自分の意思で羊飼いを断り「大事なのは一緒に歩むことなんだ」とナナイさんに言いきる主人公はイケメンだが
どのルートでもそのセリフを言わないだけでやってることはまあ同じ
既読スキップすりゃ大筋だだかぶりになるくらいだし

わざわざ小太刀ルートから別に4つもルート置いたのも本当は元々の4ルートとは変化をつけたかったんだろう
最初の4ルートはヒロインが変わる事をメインとし
小太刀からの4ルートは主人公が変わる事を重点的に書くとか
何かしらアイデアもあったけど全くやらなかった残骸のような分岐にも見える

発想はよし、だが結局完成品を見るとHシーンの体位や服装とか以外にこの4分岐、何か意味はあったのか



とまあ長文感想では何とも煮え切らない書き方になりましたが
萌えも保ちつつすごいとこ目指してるんだな、という片鱗も感じたし
実際作りもオチも練られてて非常にきれいだと思います
点数通りの良作で低評価をしたわけではまるでないので
単に惜しいなぁという心の声がだだもれただけなのだと
この長文を見て察して頂ければと思います