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kaglaさんの女装山脈の長文感想

ユーザー
kagla
ゲーム
女装山脈
ブランド
脳内彼女
得点
80
参照数
2461

一言コメント

使用上の注意をよく読んでお使い下さい

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

使用上の注意

☆攻略対象は男の娘のみです。途中魔法で女の子になる、とかそんな逃げ道はありません

☆どM、意思の弱い方は流されやすいゲームなのでご注意下さい

☆特定の方には十分にオススメ出来るエロゲです
 対象は主に 1 すでに男の娘を十分に理解し好き、という方
         2 よくわかってないけど男の娘に興味がある、正しく理解してみたい、という命知らずな方です







男の娘が元々大好きでたまらない、という方も もちろん楽しめると思うが
「いや・・・だって男だよね」と最初はまとも?な反応をする主人公を
どんどん深みにハメていくあからさまな構成からして
「男の娘 入門編」「初心者でも怖くない男の娘」「そうなんだ男の娘クロニクル 創刊号390円」
とでも副題を付けたくなるような
あわよくば男の娘モノは初めてという層を引きずり込もうとする狙いも同時に感じられる(390円じゃ買えないですが)


ヒロイン3人と脳内彼女のスタッフが満面の笑みで手招きしているかのような恐ろしい幻覚すら見え始め
静樹「男の娘の気持ちよさ、たくさん教えてあげたいなぁ」
  「外の世界の人ってちょっと可哀想だね。男の娘の体の気持ちよさを、全然知らないんだから」
そんな数々のセリフも女性声優さんの声だからといってだまされてはいけない


どう考えても製作者の心の声だ



由良「大抵の人間は、理解不能な事柄に直面したとき、それを既存の概念だけで勝手に結論付けるでしょ」
  「そうして理解出来たつもりになって、思考停止になってる状態をバカというのよ」

これは主人公が村から出れないような力が働いているかもしれないと
オカルト的な考えをする由良に「まさか本当に信じてるのか?」と聞いた時の返答である
言ってる事は確かにおかしくはない
全く知りもしない事を先入観で結論付けるのはよろしくない事だろう
でもだまされてはいけない


どう考えても男の娘を強引に正当化しようとする製作者の心の叫びだ




早々に下山したくもなるが、各ヒロインとテキストの破壊力はかなり凶悪

だめなんですか・・・?(半泣きの上目遣いで)
任せて!平気!平気!(最高の笑顔で)
なによっ・・・今頃になって怖気づいたの・・・?(ガチツンデレがデレながら)

ベタで古典的な攻撃方法でもあり
地面に「ここにワナがあります」とメモが置いてあるかのようにわかりやすい
だがここまで全方向からしつこく攻撃がくると
「いやいやお前男だろ」と冷静だったプレイヤーも
「ええまあたまにはこういうのも少しくらいは良いのではないですかな」と気付けば被弾する確率を飛躍的に高めている


「男の娘のココはお尻じゃなくて、オチ〇ポを受け入れるための性器なんだよ」
そんな様々な豆知識も非常に豊富で丁寧。男の娘初の方にもとてもわかりやすい
正しい知識なのかさっぱりわからないけども


恋愛物としての描写などは笑ってしまうくらい非常にベタ
ただ丁寧、というかものすごく作者の愛情が感じられる
でも「良いお話を、恋愛物を作りたい」という愛では決してない


男の娘への愛しか感じない


恋する乙女、葛藤する主人公など丁寧に描かれているが
いやぁこのヒロイン棒ついてますよ、という部分もちょこちょこと何十回も挟んでくる
「まあいっか。かわいいし」とどこかでツッコミが面倒くさくなったら負けだ
製作者の思う壺である


男の娘以外では絶対に成り立たない多くの設定、テキスト、ギャグなどいろいろ
というよりはあらゆる部分が男の娘を意識して作られている

面白いものを作りたい、とかそういうスタートではなく
男の娘モノを作るんだというとこからスタートし
最後までそこに徹した製作者の愛の結晶とも言える

結果的に男の娘モノ入門編としてではなくても
葛藤しながらもヒロインに惹かれていく過程が懇切丁寧に作りこまれた作品として
単なる恋愛物と見てもつたないが愛をもって作ったんだな、ということは伝わってくる
たとえそれがどんだけ歪んだ愛だとしても伝わってきてしまいやがります


序盤の主人公の
「男とHなんてありえない」
「都合のいいときだけ女になるなぁ!」
という強気なセリフも
「それはまあそうですけど・・・」
「そんなこと・・・くぅ!あ、ありえないし・・・あああっ!」

すさまじく中略

「すごい・・・もう、男の娘の虜になりそうだ・・・」

と徐々に最終形態へと進化を遂げる
破壊力抜群のツンデレ由良がデレる頃には主人公になす術はない
その魔の手は画面を見ているあなたにもせまってくる




主人公を最初から男の娘大好き!なキャラにして
男の娘をあたかも素晴らしい存在と美化して初心者を誘い込もうとしても
どうせ合わない人はパンツも脱がないだろう

男の娘マニアにはそれでいいかもしれないが
作者は敢えてそこだけを狙い撃ちにしない男の娘ゲーを試行錯誤した
それがこの惨状だ

多くのワナと共に包み隠さずわかりやすく等身大の男の娘を置いて
男はさすがになしだよという主人公が男の娘マスターになるまでの過程をひたすら見せる

性的対象として主人公が拒否反応を示すマイナスからのスタートにしたのは
やおいと同じく興味のない人には「男の娘って結局ただのホモじゃないの?」
くらいに思われててもおかしくないニッチなジャンルということを十分に理解していたからであり
勃起するかしないかの勝負なら男の娘は不利だろう、そんなハンデもものともせず
またそれをごまかすことではなく正統派の多彩な手法をもって
「どうですこれ?」と攻めてきた

男の娘の魅力も注意点もデメリットも初心者が戸惑う心理も、一部には持たれているだろう偏見も逃げることなく描いている
男の娘に勃起する主人公をヒロインが「こっち側」と表現したのも
手コキしながら「まだ女の子に未練があるんですか?」と問いかけてくるのもうなずける

最初から全力で男の娘最高でしょ?ヌケるでしょ?というよりは
包み隠さずそのまま描きました。その上でこれどうですか?という問いかけが強くこめられた作品に感じる
ヒロインをどう両親に紹介するか苦悩する、男の娘モノならそんなややこしい大問題カットすりゃいいじゃないか、という部分からも決して逃げない
 
女の子っぽい少年を魔法や電話レンジ(仮)の力で本当の女の子にしてしまう
その方がもっと広い層にも受け入れやすいのだろうが作者にしてみれば
「そんなんじゃいやなんだよー。男の娘がいいんだよぉー」という所から作り始め、また原動力になったはずだ

入門編の要素もあるとは言ったが、気付くと数時間で上級者になっている可能性もある
困った事に「ま、とりあえず初心者向けに抑えておくか」などという妥協はまるでない
特定の人にしか効果がないとはいえ爆撃対象範囲は非常に広い

各種設定やヒロイン3人の個性、それに伴うテキストの使い分けもなかなかうまい

男の娘肯定派の方には史緒
特に考えた事もなかった方には能天気な静樹
男の娘に懐疑的な方には「男の娘に欲情するなんてこの変態!」という由良が
強大な敵として立ちはだかることだろう

特に計算もなく適当に人気のありそうなテンプレヒロインを並べたものを下手な鉄砲数打ちゃ当たる方式とするならば
女装山脈はSの人もMの人も興味がある人もない人も、
様々な人の逃げ道を出来るだけ塞ごうというアリ地獄方式である
ここまで棒と玉がついてることにこだわり、意義深く、また罪深く出来上がった作品も早々あるまい

なかなかの完成度と共に作者の狙いや思惑が詰まった作品ではないかと思う
プレイ中は斜に構えることもなく素直にかわいいものはかわいいとあちこち被弾していたのでとても楽しめたが
完成度も高く製作者の愛のこもった作品だったなあ、と思うのと同時に
ここまでの愛を込めた作品が

本 当 に こ ん な ん で よ か っ た の か ?

とも思う



男の娘は男でも女でもなくそういう次元を超えた
男の娘というものなんだよ、と言うことを描くために心血を注いだ渾身の一作




断言しよう
この作品はエロゲの歴史には残らないかもしれないが
男の娘の歴史を語る上では10年後にも
燦然と輝く重要な作品として語り継がれることを