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kaglaさんのRewriteの長文感想

ユーザー
kagla
ゲーム
Rewrite
ブランド
Key
得点
81
参照数
1575

一言コメント

竜騎士を呼んで良かったと思ってるのか、失敗したと思ってるのか ぜひ関係者に聞いてみたい

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

「良い記憶とはどんな事でしたか?」
という問いに、何か答えがある人は恐らくこのお話を堪能したのではないでしょうか

田中ロミオという人には1つわたしの中でイメージがあります

だいぶ昔の話ですが
年末に某TBSの番組でミュージシャンの小田和正さんとミスターチルドレンが共演ライブを行うという番組がありました
そのリハーサルの最中に小田と桜井が口論をする場面があり
前後をすっ飛ばして要約すると、小田はミスチルの歌詞が難しいとして
「作り手は聞き手に伝わるように努力をすべきだ」と言い
桜井は「聞き手がすべて同じ感想をもつようなわかりやすさは求めていない。作品が作者の手を離れたら何でもいいから何かを感じてくれればいい」と反論していました
まあリスペクトがあっての口論という印象はあったのですが、2人のこだわりのようなものも感じたのも事実でした

 いきなり話はそれまくりましたが、話を戻すと
田中ロミオはタイプで言えば桜井タイプの人だなぁと思っています
ストーリーは余すとこなく語り尽くしてあるように見えて
実はいろんなピースは順番が前後していて気付きづらい、ぼやけてる、隠してある、そもそも描いてない
そんな罠?も同梱する作り手

「良い記憶とはどんな事でしたか?」
他の言葉であればもっと単純に
「これはどんなお話でしたか?」でもかまいませんが
これへの回答に「絶対的な正解」というものはなくて
各々がいろんな結論を出すだろうし
またそこまで至らず「何これ?」で終わる人もいるでしょう
田中ロミオは物語をすべて書き尽くしながらもそうなるように仕掛けを置いているし
またそれを良しとしているのではないかと思います

クロスチャンネルという作品の考察、感想とかを見ても
微妙なずれがあってどれを見ても「それは絶対に違う」というのがほぼ無い分
とても面白いのも、その作りが影響してるのではないかと

ただ1つ勘違いしてはいけないのは
「未完成で意味がわからない」わけでも「小難しいお話」でもないと言う事
さらに言えばkeyでの作品となった今作では
良くも悪くもクロチャンや最果てのイマよりさらにわかりやすさは増し
ヒロインの魅力も前面に出そうと努力されている

ロミオ作品でのヒロインは話を盛り上げるためなら
平気で殺人鬼でもヤク中でも精神異常者としてでも描かれるが
今回その毒はうまく中和されている
完全に解毒はされていないまま、例えば朱音のように「殺人者的な何か」は背負わせつつ
話のために犠牲になり、嫌悪されるキャラとしては描かれていない
(嫌悪する人はいるかもしれませんが)
むしろkey的なまったりヒロインの感じが残ったまま毒も少しあるような感じ
話もルチアルート以外のヒロインルート、MOON、TERRAと、両方の良さ、毒性も込みでうまく混ざっていると思う
どちらかを過剰に求めていれば当然不満だろうけども
よく出来たものが出てくれば何でもいいよってスタンスなら
完璧とは言えないが、とても良く混ざり合っている

ただうまく混ざったと言っても
化学反応は何も起きなかった、とも思う
keyもロミオも関係なく、一作品としても強い衝撃や感動より、まずうまさを感じたのは
長さに無駄があったせいか、はたまたわたしが年を取ったのか…

ルチア以外のヒロインは家族というテーマ、というかベタな副題でも対照的に描かれているのも面白いが
個人的に興味深いのはMOON、TERRAも含め
リライトは「失敗時の記憶を主人公が有しないループ物」であり
なおかつなぜそれが成立するのか、という事をルチアルート以外の全ルートを使い
明確に設定で明らかにしてある所

YUNO然り、スマガ然り、Steins;Gate然り
失敗時の記憶を有し、それを糧に正解へ向かう。上記3つはYUNOはある意味元祖だったり、他2つも強烈にその設定を昇華させていたりする名作であるが
リライトもまた別のアプローチを見せた快作と思う
何のつながりも無くただ「失敗ルート」を並べ、最後に成功ルートを置く、という物はエロゲにも少なからずあるのだが
敢えてそこにもう一歩も二歩も踏み込んだとこはロミオの才能というか意地を感じる

もう1つ興味深いのはガイア側、ガーディアン側、そしてそれ以外のそれぞれの思想を
重苦しさを感じさせず描いている所
主人公はルートごとに全く立場が変わるのだが
どのルートでも決してそこの思想には完全には染まらない、もちろん否定もしない
そこでヒロインを都合よく出してきて
「よくわかんないけどお前を守る」的な役目を背負わせて
ヒロイン使い捨てをしてるのはロミオっぽいのだが
これがまたうまくヒロインが魅力を地までは落とさずに踏ん張っている
話的には星の命運を担うような大事を
「わかんないけどヒロインを信じるよ」で済ませば
主人公やヒロインが悪役に成りかねないのだがうまくごまかしている?のかあまり気にならない

まあ正直声優的なうまさや、いたる絵の毒の無さのせいかもなぁ、と思いつつ
シナリオも各ヒロインは信じる思想が明確にありつつ、主人公を無理に染めきらない
またどの思想も正しさを持ちつつ、どこか「完全な正論」にも見せずに乗り切った文章力が影響しているんじゃないかと思う
当然MOON、TERRAが無ければわけのわからない作品で終わるとこだが
うまく思想的な物もキャラ的な物もゴールさせたのはうまさを感じる
どちらもひたすら善性を描くわけでも、落とすわけでもなくほどよい具合

ただその分というか、ストーリーへの兼ね合いのせいで魅力半減、いや元から魅力があったのかすら謎なヒロインがいたとも感じる
誰とは言いませんが人気投票しちゃうと露骨に出そうな気も…

とまあ最後に
あまりに「ルチアルート以外は」と言いすぎたのでここにもふれておきます

リライトはとても繊細に組み合わさったお話であり
竜騎士個人の力量うんぬんではなく
「なぜここまでからまないルートだったのか」
というとこには失望を感じる

正直ルチアルートの出来が悪いというのとは少し違う
素材自体は決して悪くないし
表現がひどいのはこの人ではめずらしくもない事でもある

アサヒハルカの怖い話をしてる思えば
突如「謎はすべて解けた」と始めるとこも
他作品でも見られる「びっくりさせる俺様カッコイイ病」と思えば気にならないし
終盤のヒロインキレる>主人公考える>また同じことを言ってキレる>別ヒロインのアドバイスを受ける>でもまた同じセリフを言う>以下ループ
なんてのもボキャブラリーの無さゆえの文章であり、気にしてはいけない

とまあ馬鹿にするような書き方だけど
この人は決して魅力がないわけではない
むしろ素材自体はものすごく光る物がある
2,3年休養してゆっくり表現に磨きをかけたら更に稀有な存在になるとすら思っている

ただここでの問題は
なぜここまでからまないのか、ということ
鍵もほぼ出てこない上に、ルート共々ルチアを消去してもリライト全体に何の影響もない

上記に思いつくまま挙げた2つの欠点もほんの数行、時間にすれば数分で直る事であり
どうして直した感じがどこにもないのだろう
keyの誰かなのかロミオなのか、融合させるよう努力すべき人が怠ったのか
竜騎士が「自分のシナリオは誤字脱字以外修正しない契約」を望んだのか
もちろん邪推であり真相はわからないけども
いろんなものが繊細に融合している,少なくとも竜騎士以外は相談し連携をして作ってある今作における、あまりに大きい失敗だったと思う