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k1rena34さんのグリザイアの果実 -LE FRUIT DE LA GRISAIA-の長文感想

ユーザー
k1rena34
ゲーム
グリザイアの果実 -LE FRUIT DE LA GRISAIA-
ブランド
FrontWing
得点
89
参照数
289

一言コメント

ギャグとかキャラクター個性とか、物語も面白かった

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

人気の理由が良く分かるゲーム。個人的には外れのルートもなく、どのルートも楽しめた。
共通ルートでのキャラクターの心情変化や伏線もよかったと思う。

一応事前情報で幸が幼馴染としってしまっていたってのはあったが、天音の伏線については別の意味で驚かされたし蒔菜がどんどん変わっていく姿もまた乙なものがあったし、由美子もその変わりようがなかなかによく、みちるもその行動の意味が分かった時やところどころに見える人の好さの理由が分かった時の切なさやカタルシスはかなりいいものがあった。

また、いいシナリオだと感じる部分に、やはり現実を直視して出来ない事は出来ない。だめだと思ってもあきらめない。細かい大切なことなどもたくさん書かれていて、プレイしながらでも色々共感、再認識、発見させられるものがあり自分の考え方や人間としてのあり方なども伝えてくれるものなんだと改めて思った。

例えば、蒔菜ルートで自転車練習や山梨に向かう際、安全運転についての話があったが、自分たちが乗っているものが如何に凶器になりえるか、危険を回避するため細心の注意を払えているか、急いでいたとしても、その急ぎによる80%での運転で事故にあうリスクよりも、50%で安全や自分の能力で十分コントロールできる方が、結果的に10分の遅れ化、人生の長い時間の喪失につながるかの境目になる といった話が入ってくるが、これがうまい具合に天音ルートのバスの転落事故と繋がる。

天音ルートでバスを運転していた教師は、渋滞による遅れを危惧して人が使わない、本来とは別経路の道。ガードレールのない危険な道で、コーナー中のパンクにより事故を起こした。(パンク自体は不運だとしても、他の様々な要因が重なった結果こういう最悪の結末につながっている)

そして経路から外れたことにより、捜索隊の捜索範囲から外れ、2週間以上も救助が来ない。もともとガードレールもないので事故が起きたことすら、上の道を通る人には知ってもらえない状態となり。普通なら助かるであろう状況でも多くの人が命を落とす結果となってしまっているし。唯一の生き残りである天音でさえ、罪滅ぼしのために時間はもちろん色んなものを犠牲にしてしまう結果になっている。

また、幸ルートでも交通事故の話は出てきて、歩行者の不注意はもちろん公園のあるような住宅街で、人の飛び出しを予測しない運転がどういう悲劇をもたらすかというのも伝えられている。

天音のように、自転車なんて適当に乗れればいいのよ という認識で乗ってる人が如何に多いか。
自分の乗っているものがどれほど危険なものや悲劇を生み出してしまうものか。日常にそういうものがあふれていて安全確認を密に行うことがどれほど自分の身を守ることにつながるかなど、そういう部分がかなり丁寧に描かれていると感じる。

もちろん。これは自動車事故の問題だけではなく、共通パートから、ほかのヒロインのルートに至るまでそれらの大切な何らかの教訓、メッセージもたくさん込められている。やはりこういうゲームがいいゲームだと感じる。

シナリオについては大まか満足がいくし、絵も塗りも、音楽も非常によく、本当に力を使って作られたものなのだと素直に感動した。



ただ、いくつか気になった点とちょっとした不満点を描いていこうと思う。

まず、やはり共通ルートの冗長感はやはりそれなりに感じるところではある。
日常を通してちぐはぐだったクラスメイトが友達になり、仲間になり皆が信頼しあえる間柄になっていくというのはこの共通パートでしか見せられないものである以上。長くなるのは当然なんだけれども・・・長い上に細かいエピソードの連続のせいもあってかやはりプレイしていく途中で色々と忘れていってしまうところがある。

なかなか個別まで行かないというイライラも確かにあるが、キャラクターそれぞれがしっかり見えるのでまあ、別に苦というわけではなかったが、いささか冗長感も感じたのは事実。長い共通が終わっても、蒔菜や天音、幸などのシナリオでは更にルートの途中までは日常が続いていくような感じもあり、余計けだるさに拍車をかけた感もある。

幸や蒔菜に関しては日常の変化のステップがちゃんとあったので良かったけど、天音に関してはルートの入ってしょっぱなからエッチ三昧、日常とエッチばかりで、由美子の助言や警告がああったのはいいが、やはり過去回想に唐突に入りそれでほとんど終わってしまっているところが少し残念だと思った。(まあ天音ルートはこの過去回想自体が本編なんだけど)


天音ルーとに関してもう少し深く書くと・・・

過去回想で一姫が現れてっていう展開はすごい驚いたし、もちろんバス事故の過去回想は本当によかったんだけど、結末をすでに知ってしまっている分そこに至るまでの経緯で、もっとこうすべきだったんじゃないかと通しても思てしまう部分はある。

まあ、確かに女子中学生の集団に頼りない教師、威張り散らす無能部長に怪我人。満足に食事もない状態では、勝手な行動は集団ヒステリーの原因になったり、さらなる遭難や救助される可能性を低くしてしまうし、やはり現実的にも勝手な行動をとって樹海に入り込むより”事故現場”にいる方がはるかに救助される可能性は高いだろう。

そこで救助が打ち切られるまでの2週間。ほとんどの生徒が生き延びられる方法をとった時点で、通常の事故時の対応としてはやはり最善策だったと思うし。途中で教師が救助を呼びに山を下りるくだりも、確かに遅すぎたかなとは感じるもののやはり教師であり唯一の男手である以上集団を統率する側として集団と一緒にいた方がいいっていのは確実だった。

一姫も抜けることは難しい状況だったし、天音など、別の生徒が助けを呼びに降りるというのも、やはり実際に救助が来た場合、2次遭難の危険性をはらんでいたし、中学生女子が磁石も聞かず、方位もわからず、サバイバル術もない状態で森を抜けようとしたところで野垂れ死にする可能性が一番高かっただろう。天音たちも完全な飢餓的な環境に慣れきっていて、肉体的にも精神的にも知恵的にもサバイバル能力を獲得できていたあの段階だからこそ、どんなに辛く気和いい状況でも前に進み出口を見つけられたと考えるのが筋が通ってると思う。

それにあの時はもう捜索打ち切りになってしまっている時間が経過しており、ずっとここにいても助かる可能性はほぼ
0、更に食人まで始まってしまっているわけだからイチかバチかの行動を起こすしかなかった。

やはりあくまで結果論であって、こうしていたらもっといい結果になっていたかもしれないっていうのは物語だというのをいいことに勝手に幻想を抱くプレイヤーや視聴者のエゴが混じった意見なのかもしれないと思う次第であった。

まあ、ここまで長く書いてしまったけど。本当にすごくいい作品に出会えたと思う。
まだ迷宮、楽園更には新作もあるので、グリザイアとはこれからも色々お世話になっていくゲームとなりそうです。