ErogameScape -エロゲー批評空間-

k-qさんのキラ☆キラの長文感想

ユーザー
k-q
ゲーム
キラ☆キラ
ブランド
OVERDRIVE
得点
98
参照数
7016

一言コメント

こういうゲームがあるからこそ、この業界から抜け出せない。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

■追記:一部CLANNADとリトルバスターズのゲーム内容に触れています。
    上記二作を未プレイの方はご注意ください。






青春時代は本当に一瞬で、気づいた時には過ぎ去ってしまう。

青春を題材にしてあるものは多く見かけるが、
その多くがもう二度とやって来ない青春ということを蔑ろにしている感がある。

青春は美しく、輝かしい。
しかし、その輝きは時が経過し、振り返ったときに真の素晴らしい輝きを放つ。

辛い人生と輝かしい青春を対比させたこの作品は非常に素晴らしいと思う。
もっとも、本当に辛い人生を送っている人にはヘヴィーな作品だろう。
その点においては人を選ぶのは仕方なしといえる。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
さて、感傷的なことばっか言ってても仕方ないので……。


■とりあえず『感想』

三ルートとも一切手抜きをせず、丁寧に、問題を解決するための筋道を立て、解決させ、Happy Endを迎える。
簡単なことのように思える起承転結なのだが、これをしっかりと出来ているゲームは驚くほど少ない。

サリナルートを例に挙げる。
お金持ちとの恋なんていう話はどこにだって転がっている。
使い古された題材だし、展開など容易に読めてしまう。

どうせ家とのイザコザがあるけれど、主人公が軽く啖呵切るなり、根性見せるなりしてあっさり解決だろう……と。

が、この作品は違う。

勿論、現実だったらこうはいかないが、他のゲームとは異なり、お金持ちのお嬢様と付き合う困難さを丁寧に描いている。
何度も諦めそうになりながら、冷たくあしらわれながらも挑戦し続ける様は、プレイヤーに説得力を与える。



また、それはキラリ2endでも言える。

恐らくライターが書きたかったのはBadEndと言っても差し支えないであろう、キラリ1Endだろう。
しかし、それでは多くのプレイヤーが納得しないと考えた結果作られたのが、このキラリ2Endではないだろうか?
一般的に、この手のEndはおざなりに作られて「これで皆満足だろ?」というのがアリアリと感じられるのが常である。

例を挙げれば、
Clannad,リトルバスターズのkey二作品が上げられる。
他にも多数あるだろうけれど、代表としてこの二つ。
とってつけたようなHappyEnd。
この作品もどうせ最後はそうなのだろうと思っていた。

だが、この作品は違う。
この全てのプレイヤーを満足させるために作られたであろうこのルートを、
ゲームに必要不可欠な物にまで昇華させてしまっている。

誰もが喜ぶHappyEndにおいても、新たな問題を提起し、
それに主人公が悩み、苦しみ、その上にHappyEndを迎える。


また、そのことによって生まれた素晴らしい点がある。
この物語はTrueと呼ばれるルートが存在しないのだ。
きらり1ENDをBadと呼ぶ人が少ないのと同様に、きらり2ENDをTrueと呼ぶ人も少ない。

なぜなら、この二つのルートは独立した一つの物語となっており、
どちらが正しいと決めることが出来ないほど完成されているからである。

前述のkey二作品と比較してしまうが、
あの作品は大円団のHappyEndのみを正しいTrueとし、奇跡をおこしてまで、
その唯一正しい未来へと到達させようとする。

しかし、このときふと疑問に思う。
Key二作品において、Badと呼ばれるルートの後、主人公達はいったいどうしたのだろうか?
人間はどんなに辛いことがあろうと、生き抜かなければならない。
人生に絶望しようが、自殺を選ばない限り、そこで人生は終わってくれない。
立ち直らなければいけないし、新たな幸せを作っていかなければならない。

が、前述のkey二作品はそれを完全に否定している。
「辛いことがあった。じゃあその人生は間違いだ。やり直そう。」
現実にはリセットボタンなど存在しないというのに。

この点においてキラ☆キラは素晴らしかった。
普通のゲームではBadENDというものは、不幸なままに終わってしまう。
しかし、キラ☆キラは主人公が人生に絶望し、立ち直り、
新たな一歩を踏み出すところまでを描ききった。
それゆえに、このルートはBadとは呼ばれず、Happyであろうキラリ2Endが
"True"と呼ばれない。

この二つのルートは並列した二つの未来であり、どちらが正しいということはなく、
無数にある未来の可能性の二つなのだということを実感させられる。

さらに言えば、この二つの未来を分ける選択肢も秀逸の一言に尽きる。
並のライターならば、この二つを分ける選択肢を
人生の分かれ目になる決定的な瞬間にもってくるだろう。

だが、このゲームは、何の関係もなさそうな選択肢において、未来が変化する。

あの状況できらりを『探し続ける』か、そのうち戻ってくるだろうと『放っておこう』と
思うか、それは主人公の"性格"を決定付ける選択肢なのである。

この時、プレイヤーは主人公の"性格"を決めてしまっているのだ。
だからこそ、キラリの人生を変える大事な場面においての主人公の行動が変わる。
そして、もう一つの未来が浮かび上がる。

……



■…最近のゲームでここまで丁寧に書ききった作品はどれだけあるだろうか?

正直、感動した。ここまで丁寧に書き切る作品があるということに。
まだ、自分がのめり込める作品はあるのだと。
こういう素晴らしい作品があるから、この業界のゲームはやめられないのだ。
小説では決して表現できないものを書いてくれる作品があるから、
この業界のゲームをプレイするのだ。

瀬戸口氏の引退は非常に悲しい。
こうしてまた一人、小説を上回る作品を書けるライターを失ったことになる。

この業界の寿命ももう長くはないのかもしれない。
"盛者必衰"は世の常であり、この業界は既にピークを過ぎた感があるのは事実。

それでも、こんなゲームも世に生み出されている。
これからもこんな良作を作ってくれる会社が増えることを期待します。
ライターの瀬戸口氏、こんな長いシナリオを一人で妥協せずに書き切ったことは素晴らしいと思います。
本当にお疲れ様でした。