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k-pさんのこなたよりかなたまでの長文感想

ユーザー
k-p
ゲーム
こなたよりかなたまで
ブランド
F&C
得点
81
参照数
434

一言コメント

それは本来起こらないはずの出逢いだった

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

あらすじ(要約)
地方都市の一軒家に1人で住んでいる主人公・遥 彼方(はるか かなた)。
両親は他界し孤独の身だったが、めげる事無く学園に通いながら楽しく過ごしていた。

ある時、彼方に思ってもみない事実が圧し掛かる。 混乱するものの平静を取り戻した彼方は1つの決断を下す。可能な限りこの現実を守ろう、と。

朝目を覚ますと、目の前に倒れている金髪の少女が居た。とりあえず看病を始める彼方。 やがて目を醒ました少女はとんでもない事を口走る。自分は吸血鬼なのだ、と。 一笑に付す所だったが、彼方はそれを受け入れてしまう。

それ以来彼女と過ごすことになった彼方は、自分がやろうとしている事を考えさせられていく。

今をどう生きるのか、そして何を成し遂げるのか?

---------- キリトリ -----------

2003年作品で、2007年にパッケージリニューアル版も発売されています。
シナリオライター健速さんのプロデビュー作品です。
お好きな人が多いであろう風音さんの初期出演作品ってことも言っておきます。

まず初めに、OP曲である「Imaginary Affair:KOTOKO」を紹介せずしてこの作品レビューは始まらない。
ゲームやってないけど聴いた事があるという人は多いであろうKOTOKOの名曲です。
ちなみに、ここでは紹介しませんがED曲も歌詞がよく感傷に浸れました。

それではプレイ感想を。

ライタープロデビュー作にしては健闘していますが、シナリオは少々粗いと思いました。
特に構成に関して稚拙な部分が多々見受けられ、作りこみが足りない感じです。
また、読みやすいテキストですが言い回しが単調で起伏が少なく、平坦な文章であることは否めないでしょう。
だけれども、それを払拭するぐらいのテーマ性が溢れています。

この作品は非常に『問いかけ』が多いところが特徴です。
主人公の生き方。
誰よりも弱い主人公が、ただ自分にまっすぐ生きようとする・・・。
そんな強くひたむきな姿に感動しました。

一方でレビューサイトを見てみると、主人公が全く合わないと言う人もいます。
主人公とシンクロできるかどうかでこの作品の評価は大きく変わるでしょう。
いずれにしても、エロゲで時折描かれる死生観を語る上でこの作品は外せないものでしょう。
考えさせられる内容でした。

また、一見すると意味の分からない作品タイトル「こなたよりかなたまで」。
これはゲームによくありがちな「最後までプレイすればわかる」ってやつです。
これを理解したときに、感動はさらに倍増することでしょう。
ヒントは、漢字表記にしてみること。


「こなたよりかなたまで」・「遥かに仰ぎ麗しの(本校ルート)」・「そして明日の世界より―」
計3つの健速作品をプレイし終えて。

俺はかにしの・あすせか・こなかなの順でプレイしました。
どの作品もヒロインと主人公の劇中で築かれる関係を通じて、端的で言うなら「人は決して一人では生きられない」や「人が自分の在りたいように生きるのは難しい」などのテーマを描いているのです。
そこで俺は、健速さんは書きたい・訴えかけたい主題がどの作品もほぼ共通しているのではないか、という結論に至りました。
また、作品を積み重ねる度に世界観・キャラ立て・シナリオ構成・テキストが緻密・丁寧になっています。
ライターさんの筆力が段々上がっている言う事も認識させられました。
次回作に期待です。
※キラークイーンをやってないので、それについては今回言及出来ません。


原画は現在漫画・イラストで活動中のしゃあさんです。
CGはよく出来ているイメージがあるF&C作品でしたが、考えは外れではなかったようです。

ではまとめ。
正直なところ、完成度でいけば弱く惜しい作品だと思います。
ですが、十分に多くの人に良作と思われるであろうボーダーラインを通っているのは間違いないでしょう。

『完璧な人間なんていない。
誰にだって間違いはある。
だけど間違えたら終わりじゃない。
間違えたからこそ分かることがある。』

人間の持つ強さ、弱さを真っ向から描いた心温まる物語でした。