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k-pさんのアトラク=ナクアの長文感想

ユーザー
k-p
ゲーム
アトラク=ナクア
ブランド
ALICESOFT
得点
85
参照数
1404

一言コメント

生きなさい。命か心の尽きるときまで・・・

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

あらすじ(要約)
主人公である初音(はつね)は何百年も生き続けている女郎蜘蛛。

宿敵である「銀(しろがね)」との戦いで深手を負ってしまった。
初音は次のの戦いに備え、ちからを貯える必要がある。
初音のちからの源は人間の血肉と精気。
贄を求めて初音は、 遠く懐かしい土地に辿り着き、その土地の高校の中に巣を張る。

ちょうどその頃、初音が訪れた高校に通う女の子「深山奏子」が、 校舎裏手の体育倉庫内で不良生徒に輪姦されていた。
奏子が不良生徒を「殺してやりたい」と思っていたところ、その思いが初音に通じたのか、 それともただの気まぐれなのか、その場に初音が現れ、瞬時に不良たちを一掃してしまう。

そしてこの現実の世界に絶望していた奏子は、救ってくれた初音に好意を抱き、二人の関係が始まる。

---------- キリトリ -----------

元々は1997年に発売された「アリスの館4・5・6」という掌編の中の一作品であった「アトラク=ナクア」ですが、2000年に単品でも発売されたものです。
現在は廉価版が新品で3000円あれば買えます。
CDから音源再生するのでディスクレスは不可能ですが。

ジャンルはLeafの「雫」、「痕」等の流れを汲む伝奇ヴィジュアルノベル。
と言っても伝奇色はそこまで前面に打ち出してなかったですね。
また、タイトルはクトゥルフ神話の大蜘蛛アトラク=ナクアから来ていますが、本編とクトゥルフ神話に直接の関連性はないです。

シナリオが非常にいいゲーム。
繊細な言い回しや、状況説明が視覚的でわかりやすいテキストも素晴らしかったです。
キャラを取り巻く独特の世界観が妖艶で怪しいながらも美しく、デカダンス風味という言葉がよく似合います。
未プレイのライアーソフトの「腐り姫」も同じ匂いがするのでやりたいところですが、それはまた今度のお話。

女郎蜘蛛という人外の女主人公にしてメインヒロインの初音姉様なんですが、マジで痺れました。
残虐非道・傲慢不遜・妖艶優美、邪悪でありながら時折人間味を覗かせるキャラクター性。
ニトロプラスの「殺戮のジャンゴ」のブロンディーなどもそうでしたが、最終局面ではほんとに格好よすぎです。
姉様の贄(にえ)になりたいと本気で思ったw
あと、女主人公なため視点が基本的に女性視点で進むってのも特筆すべきところでしょう。
もうお分かりでしょうが、エロシーンの多くがレズです。
しかしこれがいい味出しているんですよ。

個人的な話になりますが、虚無的、退廃的、病的な唯美性が特色のシナリオはめちゃくちゃ大好きです。
神樹の館も多少アプローチは違えどやられましたし。
久々にエロゲに酔いしれました。
あ、勘違いなされると困るので言いますが、勿論純愛ゲーム等も楽しむゲーマーですよb

ちなみに、鴨長明の「方丈記」の冒頭、
「ゆく河の流れは絶えずして、しかも、もとの水にあらず。淀みに浮かぶうたかたは、かつ消え、かつ結びて、久しくとどまりたる例なし。」
これが上手いところで入ってきて、文学好きの俺にとってすごく感動しました。
諸行無常とはまさにこのこと。


そして何と言っても、アトラク=ナクアは音楽に惚れ惚れします。
BGMは基本的に使い回しが多いんですが、和風かつアコースティックな感じが印象に残りました。
また、それまで使われなかった5曲が一気に最終章で使われるのも憎い。
「アトラク=ナクア三部曲」を聞くためにだけにゲームをやる価値がある、とも思います。
特に「Going on」の入り方は鳥肌立ちます。
まさに至高の演出。
うぉおおおおおお!!!ってなります(やった人は分かってくれる・・・はずw)。
劇中の流れで聴くのが一番いいでしょうから、今回は敢えて音楽を載せません。


CG
CGは昨今のゲームからすると見劣りしますが、だからと言って安直にリメイク版を作るなんて事は絶対にしてほしくない、完成されたものだと思います。
古いからと言ってなんでもかんでもリメイクしてほしくないというのが俺の考えです(OS対応があるから仕方ない部分はあるんですが)。


ハードな展開、古いが甘美なグラフィック、そして幻想的な音楽。
伝奇ビジュアルノベルの名作「アトラク=ナクア」でした。