ErogameScape -エロゲー批評空間-

k-pさんの夏の色のノスタルジアの長文感想

ユーザー
k-p
ゲーム
夏の色のノスタルジア
ブランド
MOONSTONE
得点
79
参照数
1804

一言コメント

仮面の告白

長文感想

 みさきルートをクリアした後に、文音ルートでこんな台詞が出てきたんですね。

文音「自分の頭からは逃れられないものね……」

 この台詞で、思わず膝を打ってしまった。なるほど、面白い世界だなあと思ったんです。この作品が、閉鎖空間を舞台にしている等々と評されているのは事前に確認していたんですが、要するに、自分の頭の中にある記憶や感じていること(つまり認識)が自分の目の前において表現される世界なんだなあ、と気付いたわけです。仮にこの世界から抜け出すためには、ヒロインの認識を変える必要があるわけなんだな、と。また、別の場面で祥子が、「人形にしろ場所にしろ、エデンの住人の想いを反映する」という指摘をするんですが、ヒロインが背負っている、わりと人間誰しもが抱えている問題を解決する。更に、主人公は世界が色づいて見える――具体的には、人の感情が色で見えるという超能力を持っているときたもんだ。
 さて、ここであえて短絡的に思ったことを、誤解を恐れずに言いますが「なんか『sense off』みたいだな」と思いました。つまり……このエデンこそ、テン年代のエロゲーにおける認識力学研究所だったんだよ!!(ΩΩΩ<ナ、ナンダッテー


 もう一つ。祥子ルートでこんな台詞、会話が出てきます。

祥子「人は誰でも、自分が作った物語の中に生きているんだよ」

祥子「当たり前の話だけど、相手の頭の中まで覗けるわけではないから」
祥子「どんなに親しいコミュニケーションも、自分なりに翻訳されている。でもそんなのは空気を吸うように当たり前のことで……」
祥子「べつにことさら……気にすることではないんだけど……」
諒人「? まぁ思い込みや幻想があったとしても、愛なんて結局そんなものかもしれないしね」
祥子「……うん」
 そこを疑っては立つ瀬がない。自分の見たもの感じたものを疑いだしたら、それは存在の土台が揺らぐのと同じだ。

 なるほど、自分はある特定の人間に恋をしているように見えるけれど、実際には様々な形で表象される属性(「妹」とか「奴隷」とか)によって構成されたキャラクターに恋をしているんだと。一体どこの『未来にキスを』ですかね……。


 そういったわけで、以上が自分にとって面白いなあと思った点でした。
 呉作品はこれが初めてだったので、他の作品もプレイしてみたいと思います。特にマジスキが気になっています。某ルートが大傑作らしいので。