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k-pさんの銀色 完全版の長文感想

ユーザー
k-p
ゲーム
銀色 完全版
ブランド
ねこねこソフト
得点
81
参照数
766

一言コメント

眩しかった日のこと・・・そんな夏の日のこと・・・

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

・あらすじ(ブックレットより)

<第一章 逢津の垰(おおつのたわ)>
時代は平安…。色街からなんとなく逃げ出してきたヒロイン。垰で野盗をし、なんとなく人を殺す毎日の主人公。
…そんな生きてる実感も無い二人が、出会った事から始まる切なく哀しい物語。
<第二章 踏鞴の社(たたらのやしろ)>
時代は鎌倉…。山合いの里に、今日も鉄を燃やす踏鞴の煙が広がる。そんな静かな里の小さな社。特に何かを祭っている訳でもない神社にやってきた、地方領主の息子の主人公。
そこで主人公は一人の斎宮と出会うのだが…。
<第三章 朝奈夕奈(あさなゆうな)>
時代は大正…。仲の良い姉妹。平凡だけれど幸せと呼べる日常。そんな二人を本編ストーリーが複雑に絡み合っていく。
…そして、その結末は意外な方向へ…
<第四章 銀色(ぎんいろ)>
そして時代は現代…。家業の喫茶店を手伝うヒロインは、誰にも「言えない」秘密と哀しみを背負っていた。
本人さえも、その原因が「銀色」に関係しているとは考えてもいなかったのだが…。

---------- キリトリ -----------

ブランド:ねこねこソフト(2000年発売・ブランド第2作目)
シナリオ:片岡とも、高嶋栄二、東トナタなど
原画キャラデザ:白凪マサ、あきの武彦など
音楽:リバーサイド・ミュージック
ボーカル:達見恵、佐藤裕美
声優:綾川りの、籐野らん、カンザキカナリなど
http://www.light.gr.jp/light/products/dearmy/index.htm

ねこねこソフトの出世作「銀色」をプレイしました。
ぶっちゃけシステムが壊滅的でした。
まあ発売年を考えると妥当なところかなと。
あと、プレイ開始で日本語か英語を選択できます。
映画的です。
以下感想です。


・音楽
ストーリーの要所要所―山場でいい感じに流れます。
曲自体は映画のサントラのようで、綺麗な雰囲気。
単体でも十分いけるピアノ曲が素晴らしかった。
特に「石切」という曲が作品に大きく貢献したかなと思われます。

OP主題歌は達見恵。
エロゲでは見かけませんが、結構有名な歌手らしいです。
伸びのある声ですね。
歌詞はシナリオの展開を彷彿させます。

ちなみにEDは佐藤裕美でした。


・絵
暗いイメージのCGばっかりです。
絵柄も好みが分かれるでしょうね。
しかし作風にマッチしていると思います。


・シナリオ
あらすじを読んでお分かりでしょうが銀色は章仕立てのオムニバス形式になっており、各章で、『なんでも願いをかなえるという銀の糸が撒き散らす様々な人間模様』が描かれています。
そこから見出されるのは、ひたすらに切なく物悲しい物語。
悲劇的な物語が続く展開には抵抗感を覚える人がいるでしょう。
しかし俺は、最近によく見られる欝ゲーとされるものとは明らかに一線を駕している、と声を大にして言いたい。

序盤のうちは、いったい何を言いたいゲームなのかさっぱり解りません。
だのに、何故か心が引き込まれて行きました。
基本的に一つの視点ではなく、様々な人・時・場所からの視点を絶妙に絡ませて進んで行くため、始めのうちは謎が謎を呼ぶばかり。
とても深く重い物語で、登場人物が運命に翻弄されながらも必死に輝こうとする姿にはプレイ中何度も怒り、哀しみ、涙し、心を揺さぶられました。
これら各章を進めて行くごとに次第に物語の全貌が明らかになり、最後の、全ての章が連なって壮大な1つの物語となる様は圧巻。
先ほど述べたように、各章の登場人物にはこれでもかと言うくらいの救いの無い現実を叩きつけられますが、銀糸にこめられた想いが最後に紡ぎ出した結末は強く心に響いてきました。
俺は1章・2章・4章で泣きました(3章は別の意味で号泣、いや、ある意味素晴らしかったけど)。
泣きゲーはあまりやらんのですが、今までで一番きましたね。
余命何ヶ月の病気で死ぬ~などのありがちな設定のエロゲが生易しく見えるほどに。
時代の圧力、不条理、ねーちん・・・哀しい銀色の宿命が終わりを告げる時、そして、時を越えて最初の願いが叶う第4章。
オムニバス形式をうまく使っており、これは最高峰だと評価します。
字幕のように簡潔に区切られた3行文。横長の暗い画面。繰り返される文字表現。無理の無い風景描写に心情描写。章構成で区切られつつも維持されるテンポ。
銀色はビジュアルノベルではないけれども、文章を中心とするADVとして非常に良くできています。

もう一つ特筆すべきは演出。
作り手が『演出=画面効果』ではないことを良く理解しており、上のことも合わせてまさしくノベルゲーの名作に相応しい。
片岡ともさんは、シナリオライターであると同時に演出家でもあるのではと思いました。
まぁ、このゲームを発売した6年後にねこねこは休止、片岡さんは映画を学ぶためにアメリカに行ったってことも付け加えておきましょう。


「願いが叶う」ということは誰もが望み、憧れること。
でも、それは何かの力によって叶うものであってはならない。
なぜなら、どんな願いでも叶うとしたら、願いが叶ったことの喜びよりも、願が叶ってしまったことへの悲しみの方が大きいと思うから。
幸せとは無縁の場所にいた彼女がたったひとつ願ったこと、とても哀しいねがいごとに大号泣した文句無しの名作、銀色でした。


---------- キリトリ -----------


ねーちんのあのセリフ「○○者」は痕の「あなたを△△します」と同じくらいぞっとした。
あと痕でも思ったけど、本編ではシリアスに徹して、おまけで笑わせてくれるってゲーム今はほとんどないなあと。
この手法はなんでもかんでもFD出す今の状況よりもずっと好きなんだけどなあ(昨今はメーカーが1本出してもそれだけじゃ資金回収出来ないんだ!は置いておいて)。