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k-pさんの白光のヴァルーシア ~What a beautiful hopes~の長文感想

ユーザー
k-p
ゲーム
白光のヴァルーシア ~What a beautiful hopes~
ブランド
Liar-soft(ビジネスパートナー)
得点
77
参照数
4066

一言コメント

この青空に約束を―

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

今作の概要を簡単に示すと、ヴァルーシアという名前の砂漠都市を舞台にしたお話。


――想いを秘めし数多の男女が織りなす、
    蜃気楼の如き、白光のまぼろしに満ちた
      砂漠の青空と星屑の群像劇、いざ開幕――――。


上記の文言がパッケージ裏に書いてあるんだけども、スチームパンクシリーズの前々作『赦炎のインガノック』や前作『漆黒のシャルノス』のように、主人公とそれに対を成すヒロインがストーリーの途中出会った人々と触れ合いを繰り返し物語が進行していくのに対して、本作では様々な人間が織り成す模様を章仕立てにし、章毎にメインとなる人物―まるで主人公が代わるかのように―の様々な視点によって話が描かれていた。


劇中でそれらの人物による物語が数多に満ちあふれ、やがては1つに紡がれる。
多種多様なキャラが描かれていて、「男と女」を意識して描かれているように見受けられた。


その、数多の人々は、心を疼かせる想いを、心を阻む罪を、そして心を輝かせる願いを胸に秘めている。
これらを章ごとに巧みに描いて、白光―ひかり―たる希望へとストーリーを昇華している。



レビュー感想の間に、ひとつ、幕間を。

劇中に出てくる固有名詞をプレイ中に自由に閲覧可能な機能が付いている。
こんな機能を取り入れるほど、綿密なまでに舞台設定がある。
コンシューマーのファンタジー物と比べても遜色ない奥深い世界。
これも、スチームパンクシリーズの一つの大きな魅力だろう。

・・・と言ってもどんな具体的に世界よ? だって?
アラビア風スチームパンクファンタジーです。
ピンと来ない人はこのデモムービーを見ればいいよ!


そしてこの作品で最も特徴的だと思ったことはゲームが終わってもなお物語は続いているということを「強く意識させられる」こと。
プレイヤーが垣間見ることが出来るのはあくまでも幾つもある物語のほんの一端であって、彼らの物語は、今もなお続いているんだ・・・というまさにある種の「希望」をプレイヤーに抱かせるものになっている。


―そして、あなたの物語。
―それは、白光―ひかり―輝く物語

―それは、既に終わった物語。
―それは、今に語られる物語。
―彼らの紡ぐ物語。
―あなたの紡ぐ物語。

―望まれる限りは終わらない物語。


普通、プレイヤーは神の視点(要するに第3者)としてエロゲーをプレイすることが多い。
プレイヤーが主人公に共感することがあったとしても基本的にプレイヤー≠主人公だ。

そしてヴァルーシアは、その体裁を保ちながらもプレイヤーは神の視点であると同時に自分もまた、ゲーム内のキャラクターと同じことをして―ヴァルーシア風に物語を「紡いで」―いる。

プレイヤーは観客であると同時に物語を紡ぐ担い手で、それは、物語を語り伝えるという意味だけでなく、自身も物語の中の一員でもあると言えるんじゃないかな。

ADVゲームにおける主人公とプレイヤーの境界における齟齬を上手に処理した作品と言っていいんじゃないか?
このような観点で見ると、今までのスチームパンクシリーズの作品は基本的に、絶対的な主人公とヒロインがいて、その人たちを取り巻く出来事を展開していったのに対して、今作ではライターが様々な人間模様を示しつつ最終的には「プレイヤーの物語」としてこの作品を収束させている。
明らかに「格が違う」作品であるとも言えるだろうね。
※この場合の「格」とは「地位・身分・等級」ではなく「物事の仕方・流儀」という
意味の「格」。
前作が悪くて今作が良い、とかそんな意味ではないのであしからず。


スチームバンクシリーズを手掛けているシナリオライター桜井光について、方法―手段とも言える―はエロゲーではあまり見られないものを用いていながらも、伝えたいことを至って単純明快―世界だったり未来だったり希望だったり―に読み手の心に響くように描くことが出来るライターだと思っている。

うん、要するにこれからも桜井作品は安心して買うことが出来るでしょう。

ライアーで大石絵、桜井シナリオで、Ritaにマッツ&ぶるよぐ、この面子じゃないとこの世界は作れないよなあと思う。
シャルノスにおいてのAKIRA絵も好きだけど、やっぱりこの組み合わせは代えが利かない。
これほどまでに絵・シナリオ・音楽の高水準に3拍子が揃った作品を作り上げる面子は中々見えることは出来ないんじゃないかな。


――良き青空を!