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k-pさんの素晴らしき日々 ~不連続存在~の長文感想

ユーザー
k-p
ゲーム
素晴らしき日々 ~不連続存在~
ブランド
ケロQ
得点
83
参照数
1428

一言コメント

プリズム

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

 小説でも漫画でもゲームでも、とにかくさまざまな話を読んでいると、自分で読み進めているつもりが、いつの間にか、物語に読みこませられているということがある。
 そして、このゲームをプレイした時に、それは起こる。


 『素晴らしき日々~不連続存在~』は、SF、ファンタジー、オカルト、伝奇、ミステリー、歴史、宗教、哲学、メタフィクションなどのさまざまな要素を自在に取り込んでいる。まさしく、ジャンルの垣根を越えたと言えるべき作品であり、そのジャンルの幅の広がりようが、ある種の荒唐無稽さをも、かもし出していると感じ取ることができる。
 というように書くと、非常に大味な作風のゲームなのかな、という印象を抱く者がいるかもしれないが、そんなことはない。一つ一つの要素は必ず劇中で何らかの意味を持つ。それらが複合的に屈折、分散することによって、結果として作品の奥行きさを増している。


 では、さまざまな要素があると言うことはそれだけ衒学的……つまりはライターが学問のあることをひけらかしているのでは? と思う者がいるかもしれないが、またしても、そんなことはない。


 理由のひとつに、ストーリー進行が王道的だということがあげられる。
 それこそ、序盤の章では意味不明な場面の連続で、雲の上を歩くがごとくふわふわとあやふやな展開に戸惑いを感じるかもしれないが、中盤は序盤の不安などどこ吹く風、奇をてらわないストレートなシナリオ進行が鮮やかな伏線回収とともに、読み手をパソコンの画面に釘付けにさせる。
 進めていくにしたがい、前半がいかに伏線の塊であったか、前半における意味不明な描写の連続が、実は後半の章にむけての大きな伏線だと気付くころには、おそらく、クリックするあなたの右手が止まらなくなっている頃合だろう。


 このような過程を経て、連想ゲーム式にイメージをふくらませた挙句、思いがけないかたちで物語に終止符を打つ手法は、使い古されたものであるが故に読み手を突き離すことなく、ピリオドその時まで我々を導いてくれる。
 ゲームをプレイした数多の人たちが惹き付けられてやまないのは、この、一連のシナリオ展開の大胆さと風呂敷をたたむスマートさにある。これだけでも、二読三読する価値のあるゲームであることは、誰もが認めざるを得ないところなのではないだろうか。
 大きな仕掛けが小さな仕掛けによって支えられている、とも言い換えられるだろうこの作品は、主要な登場人物の少なさから受ける印象とは異なり、やはり、大作と言っても過言ではない。ネタの多さに反して、そのネタを表現する手段は至ってシンプルなものであることも、より多くのユーザーを引き寄せている吸引力の証だ。


 それぞれの章で擬似的に一人の主人公を据えるというスタンスは、ジャンルの多さによる複合的な作風を、より一層高めることに一役買っている。多層的多面的に限られた登場人物の視点を読み手にみせることは、副題にもある「不連続存在」の意味を知った時に、あぁなるほどなと、唸らされることこの上ない。
 単なる群像劇であれば、ここまで「別々に進行していた話が実は互いに関連があり、クライマックスにおいてはすべてのパーツが収まるべきところに収まり、全体像が明らかになる」という、ともすればありきたりなジグソーパズル的要素に驚くことはなかっただろう。


 また、上記で書いた「ジャンルの垣根を越えた」作風は、そのジャンル数の多さもあいまって、考察の余地も十二分に兼ね備えているため、見方によっては幅広い層の支持を獲得出来得る門戸が開かれている。さすがに作品自体の敷居が低い、とは言わないが、あまりにも癖が強すぎて他人に全くお勧めできない、というものでもない。
 ただし、あくまでもメーカー柄ではあるが、少なくとも万人にお勧めできるというものでもないということも、一応付記しておいた方がいいだろうと思うので、そのように書いておく。


 2010年代を代表する作品が、ケロQという、業界の中でも比較的アンダーグラウンド的立場にあったメーカーによって、生み出されたのだ。