ErogameScape -エロゲー批評空間-

k-pさんのワルキューレロマンツェ ~少女騎士物語~の長文感想

ユーザー
k-p
ゲーム
ワルキューレロマンツェ ~少女騎士物語~
ブランド
Ricotta
得点
70
参照数
5343

一言コメント

主に美桜というヒロインについて。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

 中身に差はあれど、ヒロインの4人のシナリオ展開は概ね似ていた。

①何らかの理由があって主人公がヒロインのべグライターになる。
②騎士とベグライターとして練習を重ねる。
③主人公とヒロインが恋人同士“にも”なる。
④大会。いろいろあって主人公とヒロインは窮地に。
⑤なんとか脱する。恋仲としてもさらに関係が深まり、大会で健闘。エンディング。

①~③は前後することがあるが、概ね、これがRicottaの示した少女騎士物語。騎士の部分は大会で、少女の部分は主人公と恋に落ちることで、物語は紡がれる。
 ここで、美桜と他の3人――スィーリア、ノエル、リサ――とは決定的な違いがある。美桜は主人公と結ばれるルートでなければ絶対に騎士になり得ないという点だ。そして、設定上、違うように書かざるを得なかった。なぜなら、美桜の主人公に対するスタート地点が他の3人と違うからだ。
 以下は、美桜ルートエピローグの一節。そもそも美桜は貴弘以外のベグライターと組むつもりはなかったことが読み取れる。

“あの日、貴弘くんが旅立った後――私は元の普通科に戻り、騎士になる前と同じような生活をしている。
色々な人たちから、考え直すように言われたけれど、貴弘くん以外のベグライターと組む気にはなれなったから。”

 あらかじめ美桜の貴弘に対するスタート地点を、ある程度他の3人と同じ位置まで――騎士になるという選択肢が美桜の中に表れるまで、押し上げる必要があった。そのきっかけとして描かれているのが、共通ルート、特に体験版部分であった“ジョスト素人を一時的に騎士にしてしまう”イベント。美桜がジョストに関して、騎士でないが故に他のヒロインよりも1歩遅れていることを、共通ルートのイベントで調整している。(1歩遅れていることが美桜にとって何故いけないのかは、少しあとの文章で説明している)
 ここで重要なのは、仮に美桜を騎士にしないまま貴弘と付き合わせたとしたら、この作品のコンセプトである“少女騎士物語”とはかけ離れたものになってしまうということだ。既プレイ者ならばお分かりのとおり、貴弘はジョストを通じて過去にトラウマのようなものがある。それを解消するには、貴弘がただ一人でいてはどうにもならない。騎士という立場のヒロインと、ベグライターという立場に主人公がなった状態で結ばれなければ、解決できない事柄になっている。

“一年前の桜の舞う季節、美桜のベグライターになったことで俺の未来は変わった。”

“過去を決別する強さ……未来へ進む覚悟を……美桜がくれたものを枚挙すればいとまがない。
その恩返しに、俺は美桜を幸せにする。
そのためになら、俺はなんだってできる。”

 ちなみに他の3人は、プレイヤーが攻略するヒロインルート以外の時、つまり貴弘と結ばれない状態であっても、騎士としての活動を続け、攻略ヒロインと大会で対戦する展開になっている。ここで意識したいのは2点あって、そもそも美桜が元々は騎士ではない普通の学生であり、他の3人が騎士であるという点と、前述の通り、主人公が騎士を支えるベグライターという立場にある点。よって、この作品における主人公(男)とヒロイン(女)との関係は、同時にベグライター(男)と騎士(女)であるということと等しくなければならない。そしてその関係を保つことでしか、“過去に傷を負った主人公と、騎士として何らかの使命を負ったヒロインが支えあう物語”を描けない設定構造になっている。
 このゲームでは、一応男女共に騎士になっているが、このゲームの主人公の場合は騎士=ヒロインであり、騎士と組んだ人以外のヒロインと結ばれるということも、あり得ない。またここが、美桜が1歩遅れていることがいけない最大の理由になる。

 ここで視点を変えて、貴弘の心情の移り変わりを多少細かく見てみる。

“カイル「違う違う。騎士をやってた時の話だ」
貴弘「それは……」
あの頃の俺にとって重要なのは、勝利することだった。
すべての試合に勝ち続けることだった。”

 元々このような信念の持ち主であった主人公が

“……本当は、お礼を言うのは俺のほうだよ、美桜。
忘れかけていたジョストへの想いを。
騎士でなくなっても、関わっていたいという願いを。
美桜が、思い出させてくれたのだから。”

 このように変わる。そして、

“美桜のおかげで、俺はベグライターとしてやれるかもしれない、その想いは強くなった。”

“けれど、今は違う。
形は違っていても、ジョストにかける想いは昔と同じだ。
――美桜が、思い出させてくれた。”

“貴弘「ああ。ジョストのことは好きだ。けれど、怪我をした以上、昔と同じようにはできない」
だから、騎士であることを諦めた。
でも――
貴弘「それは間違ってたんだな」
美桜のように、どんなことが起きても、決して諦めずに覚悟を持って前に進むのが大事だったんだ。
美桜「それじゃあ……」
貴弘「俺は周りの大人のためにジョストをしてたんじゃない。自分のためにしてたんだ」
貴弘「そんな大事なことも忘れていた。でも、思い出すことができたんだよ」
そう言って、重ねられた美桜の手をぎゅっと握り締めた。
途端、美桜の顔がパーっと晴れたように笑顔になる。
美桜「また目指すんだね。ジョストの騎士を」
貴弘「そうだな……今度こそ、美桜みたいに決して諦めない騎士になる」
美桜のお手本が俺なら、俺のお手本は美桜だ。”

 というところまでくる。
 やはり、貴弘がこの設定(騎士だった過去、挫折、今はベグライターとしての活動)の枠組みで誰かと結ばれハッピーエンドを迎えるためには、どうしても、ヒロインは騎士という立場でなければならない。また美桜は、共通ルートを終えて美桜以外のキャラを選んだときに、そのルートの中での美桜は総じて騎士ではないという立場になっている。美桜は、貴弘が相棒にならなければ騎士としてもベグライターとしてもどちらでも描けないヒロイン。逆に言えば、主人公はベグライターのままで美桜をどうにかして主人公と絡ませるには、美桜を騎士にするしかなかった、というふうに見て取れる。
 また、どのヒロインルートでも語られているのだが、騎士とベグライターは2人で1人、それはさながら恋人同士のようだと喩えられている。

“貴弘「まあ……でも騎士とベグライターが恋人や夫婦になることは、少なくないからな」”

“ノエル「ねえ、貴弘……騎士が、ベグライターを選ぶのも、ベグライターが騎士を選ぶのも――恋に似てるっていうわよね?」”

 察するに、貴弘と結ばれる=主人公とジョストに関わるという形でなければ、この作品の根幹であるジョストを取り入れた意味がほぼ形骸化してしまうのだろう。
 ただ、指摘せざるを得ないことがある。そのような懸念――ジョストを取り入れた意味が全くなくなってしまうような展開になってしまうこと――を解消出来た、というか問題にならなかったものの、その分の“つけ”のようなものが、美桜ルートの展開の強引さとして表れてしまっていると感じている人が多いことだ。
 ジョストという真新しい設定、その設定であれば萌えな絵柄の女の子に甲冑を着せて絵面的にも映えるものを見事にやってのけてはいるんだけど、あと少しのところで爪が甘かったのかもしれないと、ここでの反応を読んで思った。
 俺自身は、プレイ当初、パッケージ裏に書かれているこのゲームのキャッチフレーズ「恋する少女騎士(おとめ)は奇跡をおこす――」の奇跡とは一体なんなのだろうといろいろと考えていたけど、結局このゲームでの奇跡は、ジョストについて全くの素人であったごくごく普通の女の子が、大会で優勝してしまうというものにすぎなかった。これについては、たしかに奇跡は起きて、キャッチフレーズで見当外れなことは言っていない、とも言える。「恋する少女騎士(おとめ)は奇跡をおこす――」というキャッチフレーズの背後に映っているキャラクターは美桜であることも、プレイし終えた今ならば納得だ。このキャッチフレーズは美桜を表したものなのだ。
 (他のヒロイン? ……は、主人公と恋してなくても試合に出ているから、あんまりキャッチフレーズとは関係ない気がする……)
 とにかくこう考えると、このゲームのメインヒロインは美桜なのではないかという考えさえ浮かんでしまう。

 もう一つ、話しておきたいこと。ちょっと多めに引用している。

“美桜「私が何かする時、いつも最初に助けてくれるのは貴弘くんだったから」
貴弘「……まあ、俺は美桜のがんばる姿が好きだからな」
美桜「……貴弘くんは、私のヒーローなんだよ」
貴弘「急にどうしたんだ?」
美桜「初めて会った時から、ずっと、ずっと見てたの」
昔を思い出すように、目を細めて空を見上げる。
美桜「試合している貴弘くんは、とっても格好よくて、キラキラしてて……」”

“美桜「貴弘くんは、私にとっての憧れだったから」
美桜「ずっと見てるだけだった」
美桜「ずっと……待っているだけだった」
美桜「一歩でも……ううん、半歩でも貴弘くんに近づけるなら、がんばりたい」”

“美桜「私の中にある、理想の騎士の姿は、いつも……ずっと貴弘くんだった」
美桜「一番最初にジョストをしてる貴弘くんを見て、心を奪われたんだよ」
美桜「私はそれに少しでも近づきたかっただけ……」
美桜「だからね、私がすごいって言うならそれは騎士の貴弘くんがすごいってことなんだよ」
美桜が真情を吐露する。
美桜の溢れる思いが俺に突き刺さる。
美桜「私は……貴弘くんに騎士になってほしい……」”

“美桜「……すごく、怖いよ」
美桜「先輩と向かい合うだけで、手も足も震えてくるくらいに。でもね……同じくらい、楽しいの」
美桜「昔、貴弘くんが試合の時に感じていたのは、こういう気持ちなんだろうなって」
そう言って、美桜は目を細めて空を見上げる。
……その瞳には、過去の俺の戦いが映っているのかもしれない。”

 美桜にとって、主人公はいつまで経っても、どんな境遇にあっても、ヒーローであり、憧れ。
 また主人公が騎士を辞めても、ヒーローであって欲しくて、憧れであってほしいと希う。
 美桜が騎士になると宣言したことは、きっと、ずっと大きいことであるはずだ。

 まことに、少女が恋をするということを、奇を衒うことなくストレートに表現していた。
 俺にとって『ワルキューレロマンツェ』とは、そんなゲームです。
 

       ---------- キリトリ -----------

 おまけ。
 批評空間でざっとレビュー文を読んでんですが、これは必読だと思ったレビューを紹介。

 OYOYOさんの「ワルキューレロマンツェ ~少女騎士物語~」の感想(ネタバレなし)
 http://erogamescape.dyndns.org/~ap2/ero/toukei_kaiseki/memo.php?game=12434&uid=OYOYO

 ネタバレせず、かつ作品について漏れが見当たらない素晴らしいレビューです。
 k-pの感想みたいに(笑)、やたら字数が多いわけではなくコンパクトにまとめられています。
 ざっと概要を分かりやすく把握するにはこちらで大丈夫でしょう。

 というか本音を言えば、ここまで隙のないレビューを書かれたら(中身も同意だし、自分にとって書く意味ないなー)と思わざるを得なかったですよ、マジで。
 ただまあ、プレイ中に特に美桜に関して思うところがいろいろとあったので、全体レビューよりは個別に焦点を当てたレビューにしようと思い、諸々を出力した次第です。
 ま、ぶっちゃけると、こんなこと考えなくても美麗なCGのアヘ顔と放尿でたくさん抜けるので、まーそれでいいんじゃないかという考えも、なくはないんですけどね(実際使っている)。