果てしなく青い、この空の下で……。
ジャンルはスチームバンクとクトゥルフ神話の融合とか、そんなのが思いついたのだけれども、(ダーク)ファンタジーと言うのが妥当かな。
このライターの語り口は凄く特徴的で、「大人の絵本」と評価する人もいます。
繰り返しとリズム感を強く意識したともすれば詩であるようなテキストは、巧いと思える技巧技術は見られないものの印象に残るものであることは確か。
章単位で一話完結寄りの構成。先に述べた反復的なテキストでもってストーリーは進んでいく。
一つひとつの物語を積み上げつつ全体像を少しずつ見せていくのでプレイ時間と共に否応なしに惹き込まれます。
また、見所の一つに戦闘シーンが挙げられます。
と言ってもプロペラや型月やニトロのようなものとは大きく異なっていて。
所謂「水戸黄門式」なんですね。
水戸黄門で有名なのが、
「この方を誰と心得る、この紋所が目に入らぬか!!(くわっ)」
ジャジャーン!(紋所と掲げる)
「ははぁ~(悪人が平伏す)」
水戸黄門って、毎話毎話グッズを掲げるという方法で敵をやっつけるじゃないですか。
これに対して、テンプレにして手抜きなんだって言う人がいるかもしれないけど、俺はそうは思わなくて、一種の「様式美」だと思うんですよ。
インガノック、もとい、シナリオライター桜井光の作品にも同じ事が言えます。
戦闘シーンは毎回殆ど同じ。
章ごとに違う多少の固有名詞を入れ替えているだけで基本的に敵を駆逐するのに変わりはないんですね。
でも燃える。
主人公TUEEEEEE(笑)ってなります。
それは冗談だとしても、テンションが上がる上がる。
テンポのいいテクストがここでも味を出している。
加えてあのBGMだもの。
全ては、物語が一つに収束する最終章にある。
まさしく『赫炎のインガノック』。
これ以上のタイトルが思いつかない。
これこそまさに「喝采」されるべきものではないだろうか。
幕引きもすっきりで、後にひかない綺麗な終わり方。
いつの頃からか本編→ファンディスクという流れが多く見られるようになったこの業界で、一線を画していると言える。
先にも述べたけど固有名詞とか多いし世界観の設定は膨大。
だけれども話の展開がそれに振り回されることなく、またプレイヤーも振り回すことなく。
ちゃんと読み込んでいけば分かる十分理解出来る内容。
多少理解が足りなくても、戦闘シーンとかBGMとかグラフィックとか見所は多い。
キャラクターの設定や描き方はかなり切ないと思う。
魅力的ではあるが所謂萌えとは違う。
特に黒猫のアティという人物は、胸が痛くなる。
Webノベルを読むと目頭が熱くなること請け合いである。
重要なファクターであるのは音楽。
数は少ないが曲自体が良質で、オケの演奏は単体で聴いても聞き惚れてしまう。
戦闘シーンの「戦闘/力の顕現」「戦闘/無限舞踊」この2曲は『アトラク=ナクア』の「Going on三部作」が流れた時の熱さを彷彿させるものがあった。
※『アトラク=ナクア』はアリスソフトの名作。
正直言って粗はそれなりに挙がるゲームでもあると思う。
まずメインヒロインとのセックスシーンはない。
エロシーンに至ってはモザイクの必要がないCG。
加えてフルボイスではなくパートボイス。
※今挙げたのが本当に「粗」であるのか、俺にも分からない部分があるのだけれども……。
まあ面白ければそんなの関係ないっていうね。
この次に出たスチームバンク作品『漆黒のシャルノス』の感想をまだ書いていなかったので、近いうちに。
大石竜子が原画担当はこれが初めてなんだけれども、CG、というかキャラデザのセンスが良すぎると思う。
最後のCGはどこか、ニトロの『Phantom INTEGRATION』におけるモンゴル平原での「あれ」を彷彿させるものがありました。
え、アニメ? そんなものはない。
謎多き閉鎖都市を舞台にした、
過酷な状況で
生き続ける人間のあり方と、
人間の想いが引き起こした悲劇と、
それでもなお変わらない「人間の素晴らしさ」を、描いた物語。
果てしなく青いこの空の下で、インガノックの人たちは、輝き燃える様な太陽を、見上げる。<了>