この作品に「非」があるとすれば、千世ブランドで何気なく販売したこと。かつての千世作品とあまりに違って、ブランド繋がりで購入した人にとってたまったものではないのでは。だけど、決して今のエロゲの主流でないとはいえ、このライターらしさに溢れた作品であることは確かだと思う。
・ ゆうろの第一声が
「ギィャ"――――――!!」
それに対して主人公が
「お前な……朝っぱらから奇声を上げるなと何度言ったらわかるんだ?」
・ いきなり噴きました。だって、いつもこんなんだったということじゃないですか。
前半は頭のネジの緩んだやり取りに笑わせてもらいました。
・ ですが後半になると雰囲気が一変。
「ゆうろにとってのバッドエンド」を描くはずみシナリオは特に。
・ ヒロイン達が主人公に対して抱く不安や恐怖心・猜疑心をこれでもかと描いてきます。
・ 「バトル」はそれを顕在化させるためのツール。
それはイヌミミが発動しなければ表に出てこなかったかもしれませんが、元から彼女らの心の内に在ったものであるはず。
(冒頭を除いて)明確な敵が存在しないどころか、戦う相手は他のヒロインという異様なバトルものです。
・ こんなやり取りが。
近衛「早く現れないかな」
主人公「なにがです」
近衛「悪の手先よ……そのほうが楽だもの」
主人公「そうかもしれませんね」
・ この作品には単一主人公複数ヒロイン攻略に対するアンチテーゼのようなところがあります。
・ この人はデビュー作で、遠く離れたヒロインが孤独と悩みを主人公に告げることができず、
そこで出逢った男性に寄りかかってしまうまでを描きました。
・ それと、主人公の側の想いの移ろいを突いてきたこの作品は対になっているのかも。
・ ですが、一人称を用いながら主人公の内心の全てを描かないやり方や、
畳み掛けるかのような序盤のテキスト、本質的な部分で事件に頼らないこと等、
何かとネガティブなところも含め、このライターらしさの良く出た作品ではないかと。
・ その辺りを踏まえると、ゆうろが愛おしく思えてくるから不思議。
ゆうろ「よろしくおねがいしますっ、お兄ちゃんの妹のゆうろですっ。お兄ちゃんの妹をしていますっ!」
主人公「それなんの説明にもなってないから」
・ おバカなやり取りなんですけど、彼女にとっては「それが全て」なんですよね。
他ヒロインを「攻略」に行けば……戦いにもなるってものです。