エロゲという枠ではあるが、あくまで一作品として素晴らしかった
クリア後に時間を置いて、数回やり直した後の感想の様なものです。厳密に感想とは少し違うかもしれませんが
また一部素晴らしき日々、H2Oに関する説明もありますので、未プレイの方は注意してください。
まずライターのすかぢさんの作品として典型的ですが、伝えたいテーマがありそれを伝えきるためにストーリーを持ったゲームとして形をなしているものとして私はとらえた上で話を進めていきます。またその前提のもとストーリー部分、テーマ部分、ストーリーとテーマの関係について分けて書いていきたいと思います。
まずストーリーについて
ルートロックによりほぼ攻略順も固定されている本作ですが、それゆえにとても練られた構成になっていると思いました。
OP~Iでの健一郎と各キャラクターの別れやあえて見つけやすい伏線導入が散りばめられており、その意味を考え先を予想するワクワク感と、しかしてそれらに固執させすぎずテンポよく進んでいくテキスト及び日常シーン。全体を通してとても上質に描かれていたと思います。
またIIでは本作の要となる櫻達の足跡が出てくる章となりますが、日常シーンによるキャラ同士の掛け合いがまず素晴らしいと感じました。日常シーンとはよく言う特に大きな事件が起こることがなく、描かれる温和な日々の様なものが多いですが、主人公と各ヒロインだけでなく、ヒロイン同士の関係性、掛け合いやまた櫻達の足跡に続く伏線も同時に描かれており、とても読みやすく面白い日常シーンだったと感じました。また櫻達の足跡はグランドルートのような丁寧な伏線回収とも一部で言われておりますが、草薙健一郎の凄さ、明石部長というキャラクターやそれに加え芸術の面白さ。なにより作品をつくるという面白さが十二分に描かれていたと思いました。
物語として上手に伏線回収が出来ているだけの作品は多く見かけますが、そこに幾重にも意味合いを持たせ、さらにテーマまで載せるというところがやはりすかぢさんだからこそ出来たことなのかなと思います。
IIIの各個別ルートでは各ヒロインの魅力を表現することはもちろんですが、Olympiaでは凛というキャラクターを掘り下げ、PicaPicaでは血縁関係等の各キャラクターの生い立ち環境を説明し、ZYPRESSENでは宮沢賢治を引用しながら直哉という主人公のことにもフォーカスし、A Nice Derangement of Epitaphsでは健一郎と雫の過去について描くことで、各ルートでヒロインと結ばれるという事以外にもサクラノ詩という作品に対しての真実、過去がどんどん明かされていき、各個別ルートの出来もさることながら、全体を通してもとても良く練られていると思います。
IVは健一郎と水菜の過去回想であり、ここまで読むと大まかな過去の流れがすべてわかります。また主人公の父親を描くことで草薙家の血筋や、草薙直哉という主人公についてもそのヒーロー像が血によって裏付けされ、違和感なく受け入れられるようになります。
Vは過去をすべてユーザーが知った上で仕切りなおして、IIIと並列の時系列からスタートし、圭という主人公の親友ポジションのキャラクターについても掘り下げ、主人公が自分自身の絵画と改めて向き合うことで、主人公直哉の強さが、また圭の死による挫折等が描かれ、物語としての転機がとてもよく描かれています。また凛というキャラクターとも改めて向き合うことで直哉というキャラクターについても改めて見つめなおされます。
そして最終章VIはVの十年後が描かれ、年をとって変わったことや、変わらないこと。移りゆく時代や世代、そして蘇り再びまた飛び立つ蝶としての櫻達の足跡…そしてEDへと繋がります。
物語構成としては圧巻の一言です。各シーン一つ一つもよく考えられそれだけでも楽しめる内容でありつつサクラノ詩全体を通して各シナリオ部分に意味も持たせられており、それが最終章まで繋がる。11年越しの作品ではありますが、11年待ってよかったと思える出来になっていることは間違えないでしょう。
次にテーマについて
幸福の先への物語。素晴らしき日々のテーマ的続編が謳われた本作ですが、まさに幸福に生きるとはどういうことか。がしっかりがかれていると思いました。
Vの後半での凛と直哉の会話はとても印象的ですが、直哉が信じる神、凛が信じる神についてそれぞれの論理を引用を交えながら説明がされています。直哉が信じる神は人と共にいる弱い神です。枕処女作のH2Oの頃から描かれている砂浜の足跡でのいつも神様は人と共に歩いており、砂浜に足跡は4つあるけど、歩けなくなった時にあなたの足自身になってくれているという神様像がとても近いものを感じますね。常に人と共にあり、人と共に歩くけど幸福に生きよと囁くだけ。しかしどんなに辛いと思ってるときでも共にいてくれる神。まさに素晴らしき日々の続編として問題ない神像なのではないでしょうか。また、幸福に生きよがテーマであった素晴らしき日々ですが、VIの後半では実際に幸福に生きるとはどういうことか、がしっかりと描かれています。実際、素晴らしき日々での幸福に生きよというテーマは論理的哲学論考を一部引用し、一部誤り、飛躍はあるにせよ論理的に説明されたとても強固なテーマです。しかしながら実生活を送る我々にとってはその幸福に生きよという言葉だけでは幸福に徹し切ることはとても困難でしょう。会社や人間関係や自分自身に満足できないといったストレスや…。我々の周りには幸福とは呼びにくいことがとても多くはびこっています。その中でどうすれば幸福に生きられるのか。幸福とはそもそも何なのか。これは素晴らしき日々では描かれていませんでした。しかしサクラノ詩では直哉の生き様全体を通して、この幸福に生きるとはどういうことなのかがちゃんと言語化されており、幸福の先へ至るための物語というテーマとしては完全に描ききっていたと思います。また本作において因果交流という単語も多く登場しますが、人々の繋がり、過去があって今があるように、原因があって結果がある、そのような人々の交流の大切さ、その因果交流を大切にしてこそ、幸福に生きれるのでは無いでしょうか。
最後にテーマと物語について
人間ドラマが見どころとして挙げられている本作ですが、直哉という主人公の人生の積み重ね、人との交流、生き様を描くことによって、幸福の先へというとても強いテーマがこれほど受け入れやすく、伝えられたのだと思いました。因果交流のひかり、人生の積み重ねはなかなかゲームという短いものでは表現するのは難しいでしょう。なにせ人生の積み重ねは実際に積み重ねて初めてわかることでしょうから。しかしながらゲームという枠の中でもストーリー構成や過去回想をうまく使うことで、これだけ人生について表現し、重厚さではなく感動やワクワクを与え、さらに現実世界に向けたテーマとしてまで昇華させた作品として仕上げられたことから、今まで以上にとても大きなエロゲへの可能性を感じました。
最後に簡単にまとめを。
本作はテーマ性を目的としてエロゲであります。なのでテーマそのものが自分の人生観と合わない人は少し評価が下がってしまうかもしれません。しかしながらストーリー構成やシナリオだけとっても昨今のエロゲの中ではとても高水準であり、作者及び制作グループの本気、だ伝わる作品にはなっていると思います。制作はとても大変だったであろうとは察します。しかし本作のタイトルに「詩」という漢字が冠されていること。これはとても救いに感じます。サクラノ詩自身にも櫻達の足跡のように制作中のわくわくや、楽しさみたいなのが含まれており、プレイを通してそれらが蘇った結果、これだけのテーマ性、感動が得られたのかなと思うととても充実した気持ちになります。やはりエロゲとはプレイして満足感が得られることも大切ですから。
しかし本作で満足感が満たされたのはテーマ性の部分が強く、物語性としてはまだもやもやしてる方も多いとは思います。凛と直哉の関係や、VIでの新ヒロイン等まだまだ先は読みたいですよね。
そこで、幸福に生きるというテーマが描ききられており、サクラノ詩はサクラノ詩で完結しきっていると声を大にして述べた上で、物語的続編、サクラノ刻もきっと素晴らしいものになることを祈って感想の締めにしたいと思います。
文章を書くことをあまりしてこなかったため、読みづらい駄文となった事申し訳ありませんが最後まで目を通してくださった方々ありがとうございました。