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isumiさんのボツネタ通りのキミとボクの長文感想

ユーザー
isumi
ゲーム
ボツネタ通りのキミとボク
ブランド
超水道
得点
80
参照数
286

一言コメント

ボツだろうがなんだろうがその世界は書き手のことを愛している。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

かつて小説で入賞したことのある主人公は、けれども現在スランプに陥っていました。
憂鬱な帰り道で見つけたのは一冊のノート。そして少女。
少女に導かれるままたどり着いたのは、あの子のボツネタが集うボツネタ通り。
消滅の危機に瀕しているボツネタ通りを救うため、主人公は救世主となりボツネタ通りを巡ります。


今はもう黒歴史になっているかもしれない中学生の頃の小説だろうが自由帳に書き殴った読み手を全く意識してない漫画だろうが、製作というものは誰でも一度はやったことがあるのではないでしょうか。
漫画だったり、小説だったり、ノートいっぱいに書き殴った主人公とヒロインの設定。到底扱いきれるとは思えない壮大な世界観。
考えるときはあんなに楽しかったのに、アイディアがたくさん湧いてでたのに、いざ書いてみるとなんとなくしっくりこなくて結局中途半端でボツに……そうやって積み上げられた中途半端な世界の数々は今でも貴方のことを待っているのかもしれません。

主人公と管理者である「ボツ子」は世界を救う手段を手に入れるために、ボツネタ世界を旅していきます。
主人公が出会うボツネタ世界は超能力でバケモノを倒す世界であったり、オークとゴブリンが支配する学園を可憐なアイドルが救う世界であったり、あるいはお隣さんが元正義の味方であったり、どれも完成していれば面白そうなものばかりです。
しかし悲しきかな、彼らはボツネタ。
展開がなく設定だけや、世界の作りこみ不足のため透明な壁が存在していたり。
しかし彼らはそれでもその世界で「生きて」いるのです。消滅の危機にありながらも前向きに生きていて書き手のことを愛しています。
そんなキャラクターたちが不憫でもあり愛おしくもあり……。

旅の終焉、主人公はひとつの残酷な真相にたどり着きます。
終わらせる事もできたはずなのに、それでも主人公は最後まで救世主であろうとしました。
始まりに向けての流れは悪役を含め全てのキャラクターへの愛にあふれていてプレイヤーにも伝わって来ました。
これは書き手からキャラクターに対してのメッセージなのだと思います。
たとえ没になった作品のキャラクターであったとしても書きてもキャラクターの事を愛しているのだと。
だからこそ一見すると無茶苦茶でハチャメチャな展開であるにもかかわらず胸に熱いものが込み上げて来ました。

ほのかに苦く、そしてそれ以上に沢山の前向きな気持がもらえる良作です。
いつか、ボツネタ通りからやってきたキャラクターに再び会えることを期待しつつ感想を終わります。