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isumiさんのSNOW EAGLEの長文感想

ユーザー
isumi
ゲーム
SNOW EAGLE
ブランド
purgatory
得点
80
参照数
1449

一言コメント

【女性向け】それは、人を狂わす甘美な毒

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

雪山での特殊任務の為の部隊の指揮をとる事を命令されたメル。
――それは誰がどう見ても明白な『左遷』だった。
その要因がどれだけ理不尽なものであるか、不条理なものであるか彼女は分かっていた。
諦めと妥協もおそらくあった。それでも、彼女は頷いた。
それこそが、彼女の知っている唯一の生き方だったからだ。

(以上、OHPより引用)

※今回も一定の確率で見られるED(ED18~)は回収できていません。
 いずれ見るつもりですが、今は最後に見たEDの余韻に浸りたいので……。

雪山に左遷された主人公が、曲者ぞろいの攻略キャラと交流を深めていって――なお話。
登場キャラ全員軍人という設定ですが、恋愛メインで敵とのバトルシーンはありません。(血なまぐさい展開はあるよ!)
主人公が少し融通がきかないけれど、しっかり自分の意見を言うタイプなのが個人的に好感が持てました。
そしてプレイヤーの予想できない方向へシナリオが展開していくのは、少なからず主人公の性格が影響しているのだと思いました。
以下は各ルートについての感想です。便宜上恋愛ルートを表、ヤンデレルートを裏と表現しています。

・ラルフ√
子犬系ヤンデレ。初っ端から愛が重いです。
不穏な空気を出しているため主人公もそれに引きずられるように……かと思いきや、主人公の包容力で成長していくという意外な展開。
2週目はランダムでEDが分岐しますが個人的には1週目のEDがトゥルーと思っています。
成長したからこそ今まで自分がしてきたことを償える、そしてそれは救いなのではないでしょうか。
2股ルートでは完全にギャグキャラになっていたのは、彼の中でのメルの位置づけを考えれば当然なのかもしれません。
(詳しくは下で)

・シナモン
世間知らずな天然ボケおじさん。(多分初老に足を突っ込みかけ)
2週目以降ある条件を満たすと2/3の確率で登場します。
唐突に現れたよくわからない人という印象でしたが、1週目を終えるとその登場理由にも納得がいきます。
さてこのルート、表はこっ恥ずかしいくらいに恋愛しています。
牡牛座の神話になぞらえた恋愛模様、展開は予想できてしまうのですがこそばゆくて「ならば、ここが私と君のクレタ島だ!」には身悶えするほどでした。
対して裏ルート、出口の見えない閉塞感がありました。
想いは通じていたはずなのに、確かめることを恐れてついた嘘が互いを苦しめすれ違わせる。
お互いがお互いに罪悪感があるから言い出せず、そして更に深みにはまっていく……気持ちは同じはずなのに徐々に静かに狂っていく2人が切ないですね。
そして裏は表をクリアーしないと見れず、こちらでシナモンの心情吐露が行われるというちょびっと鬼畜仕様。
シナモンにかぎらず攻略キャラ側の心理描写は裏ルートで描かれるので重要です。

・シュガー
おっさん。なのに一番表が甘ったるいってどういうこと。
主要キャラの中では一番年上なのに、2股ルートでは一番大人気ないです。
表ルートはダダ甘。堅物主人公とそれをからかうおっさんの組み合わせが非常においしゅうございました。
この幸せ空間にあてられて、私のMPがガンガン削り取られていったのはここだけの秘密。
表は十分にニヤニヤできるまっとうな恋愛物でしたが、このキャラが優れているのは裏ルート!
最初はまっとうな恋愛でしたが途中から雲行きが怪しくなっていきます。
徐々にエスカレートしていく時と場所を選ばない愛情表現、そしてそれに戸惑う主人公……とくれば大体どんな展開が来るか予想できるのではないでしょうか?
ああまたこの展開かよマンネリだなと思う方もいるかもしれません。
しかし、その予想はいい意味で裏切られるはずです。ここで描かれるのは意味を与えられた男の病的までに一途な献身さ。
ヤンデレって愛しすぎて殺してしまったり監禁したりするだけではないはずです。
相手を愛しすぎてしまったからこそ、自分の命を犠牲にしても相手の幸せのために尽くすというのもまたヤンデレの可能性ではないでしょうか。
ヤンデレの完成形の一つとしてとても素晴らしく美しいEDでした。


・エリック
ヤンデレ(ヤンキーデレデレの略)
坊主+ピアスじゃらじゃら+照れ隠しでもなんでもない「ぶっ殺すぞ」、何処からどう見ても立派なDQN
エロゲだと主人公のライバルキャラがけしかけてくる雑魚みたいな。
さて、こんなキャラとの恋愛は熱血先生と不良生徒のような図式。
最初は反発していたのに、徐々に……という正統派仕様。
主人公にボロクソ言われたり、翻弄されて慌てるエリックが微笑ましいです。
第一印象のギャップもあってか表ルートの中では一番萌えて楽しめました。
しかし裏ルートはエリックが表とは違った意味でクズ化します。
ある意味ではエロゲによくある展開への皮肉でしょうか。EDの作者様コメントには何度も頷いてしまいました。
本当に相手のことを思って別れるならば、最後まで嘘を貫き通すべきでした。情けをかけるべきではありませんでした。
それができず、最終的に自分の感情を優先したエリックは優しいクズと言えましょう。
物語は始まりで終わっていますが、彼には最後まで自分の犯した過ちを悔やんでもらいたいですね。
ところで他の裏では攻略キャラが病みますが、このルートはそうでなかった理由をあれこれぐちゃぐちゃ考えるとちょっと面白かったりします。



攻略キャラED以外にも、バイオハザードなED、何かよくわからないカオスなEDとバラエティにとんでいて闇鍋のようなゲームでした。
前作と比較してニヤニヤ成分はそのまま、ヤンデレ成分は大幅にアップでプレイしていてとても楽しかったです。
(前作はヤンデレではなくどっちかというとDVでしたから)
表ルートではニヤニヤでき、裏ルートではヤンデレのもう一つの形を見せてくれ大満足でした。
各EDについて作者様コメント+描きおろしイラストがあるのも嬉しいですね。





























なぜラルフは他のルートではそこまで狂わなかったのかですが、これは前述のとおり彼の中でのメルの位置付けにあると思います。
そもそも彼はメルから何かを受け取る事を望んではいません。
「先輩が必要としない僕は要らない」というような台詞があったように、彼にとってメルは彼の全て=神だからです。
神を崇拝することはあっても恋愛感情を抱くことはまずないでしょう。
ですから彼を更に狂わせるためには彼女を神の位置から引きずり下ろす、一人の女性として認識させ恋愛感情を抱かせる必要があるわけです。
だからメルが神である他のルートではお邪魔キャラ程度にとどまっていたのではないでしょうか?

エリックとその他キャラの違いですが、これはメルが全てではなかったからに尽きると思います。
ラルフはメルと出会うことで生きる意味を見出し、シュガーは意味を与えられた。
そしてシナモンはかつて見初めた少女を(ほとんどストーカーのように)追いかけ続けていました。
しかしエリックはメルと出会うことで軌道修正はしましたが、そこまで――自分のそれまでを変えてしまうくらい――のものではなかったように思えます。
彼のルートはまっとうな恋愛であり、それ以上ではないのです。
だからこそ逆にそれまで知らなかったものをエリックから与えられたメルの方が狂ってしまったのだと思います。
それとシュガーとエリックを対比させるならシュガーは何も残っていないからメルに尽くし、エリックは未来がある(若い)からエルを諦めることができたのからかなとも。
いやぁ、恋ってのは人を狂わせることもできる毒ですな。

それと余談ですが女慣れしている攻略キャラっていうのは新鮮さがありました。
学生ならまだしも24歳という設定、しかもあんな性格なのでさもありなん。アレで純情青年()という設定でもギャップ萌えがありますがね。