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isumiさんのZodiarcの長文感想

ユーザー
isumi
ゲーム
Zodiarc
ブランド
サークルゴリッチュ
得点
78
参照数
734

一言コメント

魔法使いは恋をした。報われることのない恋をした……

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

魔法学園の教師を務める主人公、シュガーレッドは
日々を無意味にのんべりだらりと過ごしていた。
しかし、魔人と名乗る女性との出会いをきっかけに、
ある妙な事件へと巻き込まれることになってしまう。

そうして壊れてしまった自らの生活…
それを奪った元凶であるベロニカという
少女を倒すべく、唯一得意の魔法を駆使して、
ダメ人間だった男シュガーレッドは奮闘する。

ただ一心に、崩れた歯車を戻すために……
元の生活を取り返すために……


(以上、DLsiteより抜粋)

1週目は一本道でクリアー後にスタート画面からゾディアーク編がプレイできるようになります。こっちは選択肢により2つのEDに分岐。

ヘタレでダメ教師のシュガーレッドが魔人の戦いに巻き込まれ……というお話。
日常シーンでは教師失格の主人公がコノハにやり込められたりコノハが周りからからかわれたり……。
そしてそこに絡んでくるのは魔人。主人公のそれまでの生活を一変させたもので、そして元凶。
元凶であるはずのベロニカの態度に疑問を抱きつつ、その先に待っているのは破滅しかないような展開が気になって一気に読み進めてしまいました。
……段々同じことの繰り返しな日常にダレ始めていましたが。
そして1章の終盤ではそのダレきった空気を払拭するような、目の覚めるどころではない容赦のない展開に。
いやぁえげつない。容赦のない展開はこの先にも存在するのですが、ここが一番容赦無いと感じましたねー。
あの中だるみする日常シーンも全てこのためのものと言われると納得してしまいそうです。この時点でこの作品は名作になる!と確信しました。
対して2章では主人公はシュガーレッドではなく、妹のジェイロ。そして舞台は2年後に。
ベロニカと関わりのありそうな謎の人物、片翼のヴィルブッシュ。
しかし、先の気になる展開ではあるのですが1章以上に中だるみが激しく、衝撃の展開が明かされる頃にはダレきってしまっていたというのも事実。
それでもEDはしこりが残る終わり方でありつつもかなり綺麗で、スタッフロールの演出には思わず涙腺がゆるみました。

そしてゾディアーク編は1週目では明かされなかった壮大なネタばらしが行われます。
これは後述しますが唐突感があり後付け設定にしか思えず、また下記の理由により登場人物と同じ目線でと言うよりは一歩引いた目線で見てしまう自分がいました。
しかしこのルートは選択肢により2つのEDに分岐するのですが、どちらも素晴らしいものでした。
「孤高ED」は報われない恋をした魔法使いがそれでも大切な人にために戦うお話で、
「約束ED」は報われない恋をした魔法使いのそれでも一途に思い続けたお話でした。
どちらも完璧ハッピーEDではなくどことなく苦いものが残る、しかし救いのあるような終わり方が印象的でした。
個人的な好みで言えば好きなのは孤高EDの方。こっちは約束ED以上に苦く救いがないのですが、それでもある1セリフのおかげでものすごく救われた気分になりました。
それに個人的に好きな「自己犠牲のその先」、世界はある一人の人間のお陰で救われましためでたしめでたし--のその先が描かれていたので。
それと面白いのは「魔法使いは恋をした。--報われることのない恋をした」は両EDでは同じだけど意味の異なる使われ方がされていたことですね。
両方のEDを見て、これはこういう意味だったのかと感心させられました。

しかし、問題はそこに至る過程。EDは全部本当に素晴らしいのですが、その過程には色々粗が目立ちます。
上記の感想と被ってしまう箇所もありますが順に挙げていくと、まずは日常シーンの中だるみ。
基本的に弄られキャラを周りが弄る展開が延々と続くので飽きてきます。
それでも面白ければまだ長いなー程度で済ませられるのですが、こういうあるキャラを徹底的に弄るという展開が好きではなく、手を変え品を変えしているものの基本的には同じことの繰り返しのためかなりだるかったです。
1章はそのダレきったところにガツンと目の覚めるようなことが起こるので気にはなりましたがまだ良かったのですが……。
問題は2章。ジェイロのベロニカ弄り、ジェイロのネロス弄りとはっきり言ってしまえば面白くない展開が長々と何章にも渡って延々と繰り広げられます。
そしてその後驚愕の事実が明かされるのですが、その頃にはダレてダレてダレきっているのでいまいち乗りきれません。
2章の印象はまさに伸びきったゴムは元に戻れない、です。
また延々と続くジェイロの他キャラ弄りにより、ジェイロに対してマイナス感情が湧いてきてしまうという弊害も出てきてしまいました。
次はゾディアーク編。
ここでは世界の謎など色々なものが明かされるのですが、これが伏線もなく実はこれは〇〇でしたー!(ナンダッテー)なノリでどんどん明かされるのでプレイヤーはそういうものなんだと納得するしかないような状況になりました。
序盤から伏線が緻密に張り巡らされていてそれが段々と明かされるのは意外性といいます、伏線もなくプレイヤー置いてきぼりで実はこれはこうだったんですよと明かされるのは後付け設定といいます。
本作の場合は後者でした。中盤からは後付け設定の応酬で、あのキャラが実は……と明かされる所でそこまで関連付けるなら1週目から伏線を仕込んでおいて欲しかったなと思いました。
そして一番の問題は「誰が誰に気持ちが向いているのか分からない」ということです。
メインキャラ2人はいつの間に惹かれあうようになったのかそして今誰に気持ちが向いているのか説明不足で、主人公は前のシーンでは別のキャラに好意があったのに次はやっぱりこっちが好きで……とフラフラしている感がありました。
キャラが何かの切欠で相手を好きになるのではなくて、そうなるように仕向けられているといいますか、いつの間にこの2人は好きになったんだろうということがちょくちょくありました。
メインヒロインのベロニカについては最後まで本当に好きだったのはどっちか曖昧で「乗り換えた」という感じが拭えず、彼女の過去とも関連して恋多き女と言うか天然悪女というイメージでプレイしていくと良い印象が抱けなくなってしまいました。
彼女の彼に対する想いは果たして「恋」である必要があったのでしょうか?
更にゾディアーク編では伏線もなくポンポンと色々な事実がつきつけられるため、あのキャラがずっと彼女のことを思っていたという説得力に欠け、そのせいでEDは漁夫の利といいますか何もしていないこいつが何で美味しいところを持っていくのか?という不快感がありました。
そのせいで主人公の決断にも何でそこまでするのかという疑問がつきまとい、確かに感動はするのですがそれが5割減くらいになってしまいました。
様々な人の思いが交錯する本作、最低限これだけはしっかり書いて欲しかった、いや書くべきでした。
本当、ここさえ丁寧に描かれていたらEDの余韻は格段に違っていたのではないかなと思います。それゆえに残念です。
他には1週目ルートでは主人公の不在とジェイロの主役化により誰が主人公なのか曖昧になりラストが乗りきれなかったり、それとも関連してHシーンでは寝取られた気分になったり、ゾディアーク編と1週目を照らし合わせると疑問が残ったり、サービスシーン的なHシーンでテンポが削がれたりとプレイしていく内に細かな粗が目立ちました。

何だか不満点の方が長くなってしまいましたが、それだけ本当に惜しいと思える作品だったんです。
何度でも言います。EDは素晴らしい、ほんとうに素晴らしい。EDだけなら90点は確実にいきます。
1章終了時点で名作の確信を得て、しかしそれ以降はどんどんダレて、それでもこのEDを見た瞬間プレイしてよかったと思えました。

(点数は基本点80点、中だるみと後付け設定-2点)


以下、EDのネタバレ





































おそらく先のこと(ゾディアーク編が真実ならば)を考えると一番バッドEDに近い1週目EDが2人にとってはハッピーEDでしょうね。
しかしゾディアーク編のEDを見るとベロニカではなくコノハが真ヒロインって感じですねー。
どちらのEDでも主人公を認識していますし、ベロニカよりも好きになる過程はまだ分かりますし。

それと全体的にはゾディアーク編の方が出来がいいのですが、ヨハンとラチェットに関しては1週目ルートのほうが好きです。
ゾディアーク編ではラチェットの影が薄くなっているのが気に食わず、ヨハンがイッシキとくっつくのがどうにも受け入れがたいからです。
というかヨハンは正体がわかった後からあまり好きになれませんでした。
たしかにいいキャラなんですが結果的に美味しいところを全てかっさらっていくのが、そこまでの苦悩とか葛藤が感じられなかったので気に入りません。