ケータイ小説真っ青な過去を持つ元風俗嬢の修道女に男の娘と全年齢ではなかなかお目にかかれない設定を使った、そのチャレンジ精神は大いに評価できます。……が実際に評価できるのはそこだけで、ストーリー全体に漂う「薄っぺらさ」が全てを台無しにしています。設定はいいのにシナリオライターさんにそれを生かせるだけの能力が備わっていなかったお手本のような作品。ちなみにDL販売で購入した場合は解凍後にひと手間かけなければいけないのでご注意を。(詳しくは長文感想で)
〈注意点〉
どうやら隠しフォルダ(AppDateフォルダ)に自動的に解凍されてしまうため、解凍したフォルダが見つからない場合は解凍後に隠しフォルダを含めてLife Schoolで検索を行うと「Life School.EXE」が見つかると思います。
後はそれが存在しているフォルダを好きな所に移せばOKです。
もしかしたらこれは環境によるものなのかもしれませんが、プレイできない方は一度この方法を試してみてください。
また本作は全年齢ですが、一部全年齢としてふさわしくない表現(チンポ汁など)があるため、12推くらいに思っておいた方がよさそうです。
特に理由もなく突発的に会社を辞めた主人公・達貴。
彼は幽霊が出るという噂の山に行き、そこで自殺志願者の集まる廃校の存在を知ることになります。
主人公には先生になるという夢がありましたが、別にそれがストーリーに関係することはありません。
自殺なんかしちゃ駄目だと思った主人公は、だからと言って悩んだり傷ついたりすることも無く意中の女の子といちゃついていたら自動的にその女の子の問題が解決し、そして他の自殺志願者も「わしらも自殺止めるべ」となし崩し的に自殺を思いとどまり学校を卒業していきました。
はい、めでたしめでたし。
(以上、悪意に満ちたストーリー紹介)
本作の印象は、まず薄っぺらい。薄いではなく薄っぺらい。
登場人物の言葉も、自殺しようという決断に至るまでの過去も、すべてが薄っぺらい。
上のストーリー紹介は悪意を持って書いていますが、ほぼその通り。
ルートに入った女の子以外はほったらかしで進んでいきます。それでいつの間にか意中の女の子以外も自力もしくは仲間の力で解決して、途中で反魂の術を行うけど失敗して最後に爆弾を爆発させてめでたしめでたし。
元々そんなに密度の高いシナリオではありませんが、ルート制にしたこととヒロインの多さで余計に密度が低下してしまっています。
何で1本道で○○ルートがないの!?と思ったことは多々あれど、何でルート制にしちゃったの?と思える作品は珍しいですね。
ソフィアルート1本に絞って、そこに各登場人物の話を絡ませた方が密度の低下が防げたのではと思います。
また、シリアスシーンや日常シーンに脈絡なく入ってくるギャグシーンは、色々なものをぶちこわしてくれる破壊力を秘めています。
もちろん悪い意味で……シリアスシーンにギャグを入れるのはホント勘弁して欲しかった。
たまにそれがプラスに働くことがありますが、本作では全てにおいてマイナス方向へ作用しています。
その結果、ただでさえ薄いシリアスがさらに薄くなることに……。もうねペラっペラですよ。
話の展開や期待していた過去話は、制作者の方々の都合のいいように捻じ曲げられたような歪な出来で、重いのだけどどこか薄っぺらさがあります。
そこでそういう結果になるのはおかしいんじゃないの?とか、何でそういう行動をするの?とか違和感が拭えませんでした。
そして、いくらなんでも出会って数日の、しかもそんなにいい印象を持っていない人間に自殺したい理由を話すのはおかしい。
これらのことがあって始終薄っぺらさが纏わりついてきました。
そんな風なのでラストにライフスクールを卒業します!といわれても感動も何もありません。
むしろこの学校ってそんな名前付けられていたんだーと初めて気付く始末。
他には登場人物の突発的な行動とセリフ回しに違和感が。
前者は普通の会話シーンから主人公にいきなりナイフを刺したり、脅しつけたりと行動に一貫性がないのが気になりました。
登場人物にそうするだけの理由があれば納得がいきますが、いきなりキレるため悪い意味で驚かされました。
そして後者は違和感というか、気持ち悪さというか。
それでこの違和感は何だろうと考えたら、とあるものとそっくりだと分かりました。
昔私の書いた、ゴミの様なファンタジー小説に出てくるカッコいい(笑)キャラクターの吐くカッコいい(笑)セリフ。
「せいぜい足掻いて見せて」だの「死ぬのは別に怖くないわ。忘れ去られるのが怖いだけ」だのそんなセリフと同じ臭いがするんです。
「カッコいいセリフを言っている私って素敵」臭とでもいいましょうか。
おそらくそう感じるのは登場人物に厚みがないからなんですよね。
本作も私のゴミクズファンタジーも登場人物がそういう言動をするようになった過程がおざなりなので、カッコいいセリフがカッコいい(笑)セリフになってしまうのではないでしょうか。
私のゴミクズファンタジーはそれ以外にも救いようのない部分があるので当てはまりませんが、少なくとも本作においては登場人物1人1人の描写がしっかりとあれば違和感は少なかったかと。
ただこういう話の場合、凝った言い回しよりも素直な言い回しの方が心に響く気もしますが。
最後にこれが一番の不満点かもしれません。本作には痛みが少ない。
おそらく根幹にあるのはカルネアデスの板の否定なのでしょうが、やけにあっさりと解決するためご都合主義に感じます。
本作に期待していたのは自殺志願者たちが傷つき、傷つけあいながらそれでも生きていくというようなシナリオだったんですね。
実際ストーリー紹介ではそんな印象を受けましたし。
しかし蓋を開けてみれば、プレイヤーの分身である主人公は社会人として終わっているし、シリアスはギャグでぶち壊されるし……どうしてこうなったのでしょうか。
カルネアデスの板を否定するのなら、全員を救ってみせようとするのなら、その過程に痛みは必要でした。
脈絡なく入ってくるギャグなんていりません。
……と散々薄っぺらいだの何だの言ってきましたが、設定だけは手放しで褒められます。男の娘の必要性はさておき。
自殺者の集う廃校やキャラの設定などきらりと光るものがあります。
特に元風俗嬢の朋香は全年齢でよくぞ出してくれたって感じですね。
過去話は色々酷いし主人公とひっつく過程も酷いですが、そのチャレンジ精神だけは素晴らしいです。
またCGもクオリティは商業に及ばないものの枚数がそれなりにあり、個人的にこのイラストはかなり好み。
立ち絵に身長差がある場合の表示方法も良く考えられているなーと感心しました。
脈絡なく入れられているせいでマイナスにしかなりませんでしたが、ギャグも単体で見ればなかなかバカバカしくて面白かったです。
これでシリアスとギャグのメリハリがしっかりと付いていればかなりプラスになったのですが。
死を扱っておきながらこの薄っぺらさはいただけませんが、きらりと光るものはあったので普通(50点)という評価にしておきます。
設定に見るべきところはありましたが、それを生かすライターさんの腕が……な作品でした。
以下、各ルートごとの感想(ネタばれしてます)
・ソフィア
最後に解放されるルート。
ここで達貴の過去が分かるのですが、上でも書いた「制作者の方々のいいように捻じ曲げられた」歪さが顕著に表れていました。
シナリオライターさんは中国人マフィアを勘違いしている気がします。
ソフィアルート以外にも言えることなのですが、特にこのルートでは本来の意味のご都合主義とは異なったご都合主義を感じました。
他の作品のご都合主義は作中のキャラにとってのものであるのに対し、この作品ではそれが制作者の方々にとってのものであるように思えます。
上でも似たようなことを書きましたが、作り手が良いように捻じ曲げているような違和感が作品全体に漂っています。
主人公の先生になるという夢もあまりこの話とリンクしていませんし、どうせなら中国マフィア云々ではなくいじめに焦点を当てた方が良かったのではないかと。
だけど最後に解放されるだけあって他のルートよりは多少良かったです。
最後のソフィアの秘密が明かされるところは面白かったし、克彦は良いキャラでした。
・初実
男の娘は苦手なので飛ばし気味に読んでいました。よって評価不能。
過去話は一番理解しやすかったですが、男の娘というのがどうしても。
主人公もあっさり「好きだ」とか言っちゃうし……。
もう少し男の娘ということで悩んでも良かったのでは。
・春名
痛い子。とにかく言動が痛かった……。
後は特に印象に残っていません。
・朋香
他ルートではかなり鬱陶しいキャラになっていますが、過去が過去なのでしょうがない部分もあると思います。
それで他ルートであんな風なんだから朋香ルートではどうなるんだ?と思っていたら……あらやだあっさり。