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isumiさんのノルカソルカ ~短編集~の長文感想

ユーザー
isumi
ゲーム
ノルカソルカ ~短編集~
ブランド
郷愁花屋
得点
82
参照数
388

一言コメント

たとえ幸せが、いつも誰かの幸せを奪って成り立っているんだとしても、色んな偶然が重なってみんなが幸せになれる――そんな結末があってもいいんじゃない?

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

フリーゲーム 
同作者様の「ノルカソルカ」のファンディスクみたいなもの。妖怪と幸の過去のお話です。
ファンディスクと言ってもボリュームは本編並にありました。
結論から言います。本編より楽しめました。
本編で人間よりも妖怪に愛着をもった私には、大満足な出来。
なんでもっと早くやらんかったんだろ…。間開けたせいで細部忘れちゃってるよ…。
なので本編とセットでやるとよいかもです。


では、早速各話の感想を書きたいと思います。

ナツマツリ プレイ時間45分
幸の過去の話。
いまはもう思い出せない、夏祭りの日の思い出。
幸のとあるセリフは本編をプレイしているとグッときますね。
この話で興味をもったのは、幸の過去よりも妖怪たちの話。

妖怪は元人間。普通に生きたかったのに、人の輪から外れてしまった者。
だから人間が羨ましく、その思い故に人間を恨む。
人間は彼らを妖怪だと忌嫌うくせに、一方では彼らを必要とする。

勝手ですけど、都合の悪いことは妖怪という説明できない存在で片付けた方が楽ですもんね。
妖怪にしてみれば、普段嫌っているくせに都合のいい時だけ利用しやがってという気持ちなんでしょうが。
最後も妥当な終わり方。
藤子F不二夫短編集の「劇画版オバケのQ太郎」を思い出しました。
うん、妥当な結末なんだよ。でも…。


妖怪たちの過去の話 プレイ時間5分~40分
彼らが妖怪になるまでの話。
彼らが妖怪になった理由は様々。勘違い、償い、悲しみ…でも共通しているのは彼らは「孤独」であるということ。
(一部それが語られてない話もありますが)
本編で明かされなかった事情を知ってしまうと、余計に悲しいです。
当然ですが「妖怪になる」という未来がすでに決定しているため、救われません。

狐の嫁入り
本編では悪女っぷりを見せつけてくれたコンさんの話。人の輪に入りたかった狐の話。
コンさんが一番好きだったので、これからプレイ。
本編で少し触れられていた「桜」という人物は、どれぐらいひどい女なんだろう?と興味がありましたが…。
………ごめんなさい!!ものすごくいい子です。
妹キャラぽかったので「はいはい、妹キャラ、妹キャラ」と良い感情がなかったのですよ。
どーせ光を奪い合うんだろうって。
ごめんなさい!!大好きです。とてもいい子です。理想の妹です。
桜も光もコンさんも皆いい子です。
それだけに、誤解が生じた場面は痛々しかった。画面の前で「そうじゃないんだよ」と思わず呟いてしまいました。
あれが本編にまで影響を及ぼしているのは悲しいです。勘違いなのに…。
この話のキーワードは人と人ならざる者との恋、一族の掟、閉鎖社会。
別に彼らがやっていることは否定しませんが、ただあそこまで宗教に縋りつくのは哀れですね。

雪桜
家族に捨てられた少女の話。
自ら望んで人の輪から外れた少女が、最後に見たものは…?
最後のあの演出はニクイ。
この話は少し思うところがあるので、下で少し述べたいと思います。

逢魔ヶ刻
この話でも宗教が少し関わってきます。不快な人物も多いです。
「いつだって怖いのは妖怪でも悪霊でもなく、人間である」
そんなことを思いました。
誰かに必要とされたかった少年。その先に有ったのは、永遠に終わらない拷問のような日々。
しかし、そんな日々もある少女がきっかけで変わっていく。
結局願いを叶えるのは、神様の力ではなく自分の意志ってことですよね。
何かに縋りたいときもありますが、神様が試験に合格させてくれるわけではありませんし。
神様にお願いしただけで、レポートが終わるならどんなにいいか…!!

縁側の猫
幸せを招く化け猫の孤独。
これだけ最初から妖怪になっています。
短いですが、孤独が一番表れていた話でした。

姥捨て山
守りたかった男の話。
またばーちゃんネタかと思いきや…。
個人的に2番目に好きな話。
妖怪の自分は忘れられないのに、人間だった時の自分は誰も覚えていない。
最後はそんな孤独が出ていました。
でも結果がどうあれ、おばあちゃんは人間だった時の彼のこと忘れないとそう信じたいですね。

アマツカゼ プレイ時間15分
本編のエピローグ的な話。幸せをつかむために神様に挑んだ彼女のその後。
いい話で、前向きに頑張る幸を応援したくなりますが…どうせなら茜も出してほしかったです。
いい話ではあるんですよ。
でも、妖怪も茜も「みんな」幸せになる結末も見たかった…。



本編を楽しめた人は十分楽しめます。
本編時には気づきませんでしたが、背景がなり綺麗ですねぇ。
写真を加工したものだと思いますが、ナツマツリに使われた青空は思わず見とれてしまうほど。
演出も結構凝っていました。
点数は82点。もしも「みんな」が幸せになれるEDがあれば、もう少し加点したかも…。
妖怪たちは皆いい子なので、結末が救われないのは悲しかったです。
でも一方で、あの終わり方だからよかったのかもと思う自分もいるんですよね。

以下、思うこと











おそらく立花は捨てられたのではないのでしょうね。
何らかの事故・もしくは族?によって村が襲われ、唯一の生き残りが立花だったのかな?
それが彼女にとって救いになったかというと微妙ですが…。孤独には変わりないし。

グチグチと不満
「たとえ幸せが、いつも誰かの幸せを奪って成り立っているんだとしても」
「それが世の中の理で、ルールだとしても」
「…ごく稀に、それこそ奇跡が起こって」
「いろんな偶然が重なって…皆が幸せになれるような」
「………そんな幸せな結末が、あってもいいんじゃないかって」
妖怪のその後を描く、若しくは妖怪も幸せになる結末になると想像したのですがね…。
鬱EDや後味の悪いEDを日ごろ求めている私ですが、これはご都合主義でもいいから完璧なハッピーEDが欲しかったと思うのは、我儘でしょうか。