素晴らしい芸術作品と出会えたことに感謝。トーマスという蛇足的な存在がいなければ、もっと気持ちよくサクラノ詩を楽しめた。
以下、いつもの要約という名のメモ書き、合間に感想。
◆Im Tale bluht der Fruhling auf! OP O wende wende deinen Lauf
世界的に名の知れた芸術家(代表作『横たわる櫻』)で、主人公の父親(草薙健一郎、ムーア展最高金賞プラティヌ・エポラールを受賞した男)の葬式。
主人公の草薙直哉は、慎ましき日本人の礼節?として、遺産の受け取りを一度断るが、そのまま本当に相続放棄。(総額約15億)
弓張学園の教師で姉のような存在の夏目雫に、夏目家に住まないかと誘われるが拒否。
鳥谷真琴の働く喫茶キマイラで豪勢な食事。(牛団並風の大盛り)
スカートたくし上げサービスは、勘違いしちゃうよなぁ。(言い方がずるい)
自宅のマンションで夏目圭と料理対決中、明石先輩(美術部前部長)と追いかける真琴が乱入。
圭のバカな所業で床が水浸しになり、一時的に夏目家にお世話になる。
引越し中、圭が目敏く見つけた主人公の預かり物のアルバム。
御桜稟(6年前近所に住んでた幼馴染)の写真とたくさん挟まれた桜の花びら。
夏目姉妹の壊滅的な料理の腕前を圭から聞き、食事当番となった直哉。
あまりの美味しさ?に雫が泣きながら食べる。
新学期が始まり、転校生の御桜稟と同じクラスになるも、声を掛けるのはまだ先。
真琴に美術部の新入生勧誘に付き合わされ、半円形劇場(アンフィテアトルム)で稟と再開の挨拶を交わす。
◆Ⅰ Fruhlingsbeginn
夢浮坂の階段で稟と出会い、前日に言えなかった再開の挨拶を交わし、多少なりとも緊張が解ける。
自称精神的妹の痛いヤツ(氷川里奈)も新入生として入学し、稟と友達になる。
昼休み、炊き込みご飯制度(購買のおやっさん、美術部顧問の若田清二郎)に乗っかり、真琴とご飯。そして遅刻。
幻のミス弓張(新入生勧誘と文化祭の時期のみの伝説)と再び新入生の勧誘。
川内野優美に市役所に飾られている絵を聞かれる。(六年前の主人公が描いた最後の作品『櫻日狂想』)
真琴の面談で里奈と優美そして稟が入部し、主人公が6年前から絵を描かなくなった理由でひと悶着。
翌日、早朝の美術部で掃除する美琴を見かけ、普段は暴虐武人を装っているが、根は真面目で健気な彼女の照れ隠しが可愛かったり。
自宅で軟禁状態の明石先輩と学校で遭遇し、天文部から美術部へ搬送後、稟の一本背負いで昏倒。部室の片付け後、美術部全員でキマイラのアルバイト。
フランスからの留学生のトーマスの提案に乗っかり、部費を得るべくデッサン会を開催するが、大騒動(キマイラ衣装の水溶け)に発展し、生徒会の温情によって減額で済む。(-1500円)
休日、騒動のお詫びに真琴が生徒会の面子にご飯をおごっている所と遭遇し、明石も登場。
小牧(会長)、小沙智(副会長)が明石の兄貴という衝撃の事実が明かされる。
◆Ⅱ Abend
夏休みに入り、おバカな主人公(地理が壊滅)と圭(全て壊滅)は仲良く補習を受け、美術部合宿計画が立ち上がる。(稟の父の実家の島根県へ)
休日、真琴に明石との共謀嫌疑で呼び出されるが、疑いが晴れて開放。
キリスト教徒の明石シスターズと遭遇し、日曜学校の存在を知る。
稟が昔住んでいた場所は、現在マンションの建設中。(変な幼女が彷徨く)
新しいスーパーの帰り道、持ち前の方向音痴で迷子になり、助けてもらうヒロインでルート分岐が判明。
稟ちゃんが間接キスに喜び、からかわれて拗ねる姿はホント可愛い。
今でこそ才色兼備の淑女様であるものの、昔は草藪にえっちな書物を探した恥ずかしい思い出の共有も良い。
いつも通りの補習の後、美術部に赴くとゴムボートに水入れてプールにするトーマス。
それに足払いを食らわす真琴。
「ったく、こんなに水浸しにして、ちゃんと掃除しておきなさいよ!トーマス」
「水浸しになったのは、どう考えてもお前の足払いのせいだと思うが?」
「なんか言った?」
反論を許さない凄みに笑った。
その後イソップの寓話の模倣から、善のトーマスが登場し、嫌がる稟ちゃんに抱きつく始末。
こいつどこまで不快な奴なんだろうか。
痴漢者トーマスを殴って突き放し、稟ちゃんを抱き寄せわたわたと誤爆する様を堪能。
合宿の日程が決まり、女性陣と水着を買いに行くと、川内野と氷川の妹も合流。
鈴菜は変態の姉と違ってしっかりしているな。
ルリヲってDQNネームと変わらないだろ…ルリでいいじゃん。
明石亘が卒業せず学校に居座り続ける理由。
草薙健一郎が改装設計した教会はまだ未完成であり、それを完成させるべく、弓張美術部全員が力を合わせる展開は胸熱。
小牧が見た、幻の千年桜を見せるべく、また彼女たちを救ってくれた、入院している正田明神父のため。
今までデタラメとしか思えなかった明石の行動全て(ダッチワイフで空を飛ぶのも、真夏にコートを着続けたのも、部費を使い込んだと嘘を言い続けたのも)に意味があり、真意が分かったこの瞬間、明石亘という存在は、すげーカッコイイ奴と成った。
心血注いで完成させた作品『桜達の足跡』は、設計、草薙健一郎。
製作者は草薙直哉、そしてサポートが弓張美術部となり、そこに明石亘の名前が残らなくても、目的を成したことで囚われない清々しさがまた良い。
「作品が何のために生まれたのか、何のために作られたのか……」
「我々が何のために作品を作るのか……それさえ見失わなければ問題無い……。そこに刻まれる名が、自分の名前では無いとしてもだ……」
校長(真琴の母)への素晴らしき答えと共に、筆を折った主人公へ説く深い言葉だったように思える。
一点不満が残るとすれば、やはりトーマスの存在が邪魔で、弓張美術部の一員として見たくないことか。
中止となった合宿の代わりに、美術部全員+@(小牧と小沙智)で、学校のプールに浸かりながらの花火。
真琴の目指す目標は、世界最高峰の美術公募展(ムーア展)という揺るがぬ決意表明の後、夏は終わる。
◆Ⅲ PicaPica(鳥谷真琴)
美術部部室のロフトで寝ている真琴の足の付け根に書かれる文字『直哉くん専用(はーと)』を見つけた時の二人の反応が面白い。
稟ちゃんのお茶目が可愛いし、真琴への応援の気持ちも含まれているのがまた良い。
「ねえ、知ってる?生殺しは辛いんだよ?私はこう見えて、割と武闘派だから、さっさとトドメを刺してくれた方がすっきりするかなって」
直哉の気持ちが誰に向いているのかなんて、幼馴染じゃなくても分かるだろうけど、気持ちの整理はついているからこその言葉だよな。
妄想ヌードデッサンは、主人公の妄想力が存分に発揮されると同時に、まだ見ぬエロシーンへの興奮を大いに高めてくれた。(爆笑もしたが)
シュレディンガーのパンツで、真剣にパンツについて語る主人公も好感が持てる。
いや、意見の合致的な意味で、分かってるなこいつと頷かずにはいられなかった。
夢浮坂で稟の姿を見つけ、直也への気持ちを表明する真琴。
自分の恋が実らないことを察し、恋敵でもある誠を応援し、祝福する稟の姿は胸に来る。
また、自身がエロ知識が豊富なことを告白し、授業中に秘密のノートを渡す姿は、新たな一面を知ることが出来て嬉しかった。(稟ちゃんはエロい。個別が楽しみだな)
夏目琴子と草薙健一郎は、名士である中村家と争い、その結果残ったのが夏目屋敷。
校長(鳥谷紗希=狩山青鷺)は離婚し鳥谷の性(旧姓、中村)になって、学園を乗っ取った。(壁画を完成させるのが悲願であり贖罪だったから)
真琴の弟は、夏目圭。(父親が同じ)
幼い頃真琴は、家族三人の暮らしを望んだが叶わず、従姉妹の鳥谷静流と親しく過ごすも、彼女がコーヒー修行のため海外へ出てからは、孤独な子供時代を過ごす。
麗華に言われた妾の子だから圭は引き取らなかったの一言が刺となり、また祖母の死に涙一つ見せない母の姿から、親子の関係は険悪となる。
恩田霧乃(キマイラの常連客で圭の母親)と本間麗華(旧姓、中村麗華は中村章一の妹)にまつわる事件。
子供同士の喧嘩で恩田寧は大怪我、麗華の子供はかすり傷にも関わらず、権力を笠に一方的に責め立てる性悪糞女。
本間麗華と鳥谷家に関わる揉め事が絡み合い、ややこしい展開となったが、恩田家を利用し全て(圭の絵とカササギの花瓶)を手に入れようと画策した麗華の企みは、結果として失敗に終わる。
真琴が美術部を残そうとした理由、ムーア展にかけている理由は、二人の天才のため。
しかし、主人公の右手はほとんど感覚がなく描けないと宣告され、真琴の夢は打ち砕かれる。
それでも彼女は諦めず、二人がさらに先に行くことを願って、月を産みだした。
最善を尽くし、自らの望みには終ぞ届かなかったが、出し尽くしたが故に納得した。
『つきのうさぎ』白洲兎子=鳥谷真琴
◆Ⅲ Olympia(御桜稟)
小中同級生の長山香奈が泣き落しで主人公の気を引こうとするも、雫の介入でそれを阻止。
稟の家で人体構造の勉強会。
お医者さん目線という名目で、彼女のワンピースを脱がすシチュにドキドキ。
そこから水着でM字開脚した股間を凝視する主人公に、降り掛かる天罰のオチは笑った。(勃起したときに毛を巻き込んで激痛)
稟の机の引き出しに何かが挟まっているのに気付いた主人公。(恐らくエロ本)
「あ、そ、それね。古いから仕方がないんだよ。うん。だからそこから一刻も早く離れなさい……」
冷静さを保てず命令口調で距離をとり、数冊のノートをお腹に隠す彼女。
直哉が席を外す間に、何とか隠そうとするが、大量のエロ漫画に埋もれる始末。
二人の思い出の品がエロ漫画って展開は、なんか新鮮。
デッサンの勉強を重ねる内に、二人の関係が昔以上に親しくなって、キスからの告白。
直哉に手紙を出し続けた彼女は、一切の返事がなく内心嫌われていると思っていた。
その自己評価の低さから、直哉から恋愛対象として見られず、彼女にはなれないという思考に行き着く。
そんな彼女が直哉と結ばれて嬉しく泣いてしまう姿は、ホント結ばれて良かったと心から思う。
キスをするだけでお股大洪水の稟ちゃんは、直哉と過ごす時間を大事にするため、ノーパンでお弁当食べる。
筋肉の勉強で、直哉の上半身に興味津々で、またもや濡らす彼女は、ほんとエロエロで可愛いかった。
直哉の母親、夏目水菜は、藍と雫の姉。
長山香奈の悪意ある発言から、最悪の形で記憶を取り戻した稟は、直哉から逃げるように、父のマンション、そして燃えてしまった屋敷跡地へ向かう。
建設途中のマンションの屋上から、落ちそうになる彼女を壊れた右手で掴む直哉。
「俺の右手を奪ったと思うのは勝手だ。そう思いたければ思うがいいさ!だが、だったら責任を取れ!!」
「俺の右手が出来ない事をしろ!!」
「俺が出来ない事をしろ!」
「俺の願いを聞き入れろ!!」
「俺は、お前を離したくない……。だからお前が俺の右手を掴め……掴んでくれ」
「掴んで……離すな」
「お前自身の手で俺を掴み、そして、俺を抱きしめてくれ!」
土壇場で、罪の意識を感じ今にも死にそうな彼女に届かせるこの言葉は胸に響いた。
後日、懲りずに長山が姿を現し、稟を追い詰める言葉を投げかけるが、それらを全て受け入れ答える彼女の言葉もまた良い。
「私の命、私の身体も心もこの人のものです!今後、この命はなおくんのためだけに使うんだよ」
「なおくんが拾ってくれた命だもの、香奈ちゃんがなんと言おうと大切にする」
そして、ウザイおぐおぐにトドメの一撃。
「私、なおくんを不機嫌にさせる人、嫌い……。大嫌い。それ以上、いらない事を言うならこのまま、ここを壊すよ」
喉に拳を突きたてる一連の動きからの脅し文句はスカッとした!
稟の失われた記憶。
母(御桜吹)は病気による死別ではなく、自宅の全焼による焼死。
また直哉の右手が使い物にならなくなったのは、燃える屋敷から母によって投げ出された稟を助けた為。
稟は、母を失い大好きな直哉の右手までも奪ってしまった罪の意識から、記憶に蓋をしてしまう。
直哉に助けられたとき、柔道の受身が出来ていればという発言から、転校先で無意識に柔道を学んだと推察。
病気で入院する母を車椅子に乗せ、服を買いに行った。(人形の館オランピア)
しかし実際に乗せていたのは、吹という名前の人形。
父によって母との最後の時間が奪われたと誤認していたのは、人形を奪われただけだった。
吹が現れた理由は、直哉が稟のアルバムに挟まっていた千年桜の花弁を、思い出の土地にまいたから。(実際は、雫が作り出した?)
直哉が稟に手紙の返事を出さなかったのは、不用意な一文で彼女が過去を思い出さないようにした為。
怠惰なフリしてその実、彼女を慮っての行動とは、憎いやつだ。
◆Ⅲ ZYPRESSEN(氷川里奈・川内野優美)
糸杉(ツィプレッセン)の公園が里奈と初めて出会った場所。
伯奇神社は、夢の神様を祭る神社。
弓張という地名は元々夢張で、訛った結果が弓張という説が一般的。
伯奇(里奈)と中村義貞(優美)の恋物語の夢を二人は共有する。
互いに思い合ったのにも関わらず、運命が二人を一緒にする事を阻んだ。
直哉の気持ちが里奈へと傾きつつあるのを察し、彼の背中を押す気遣い。
稟ちゃんは恋のキューピッドですか、天使ですね。
二人の仲は、稟の存在なくして進展は難しかったのかもしれない。
里奈の所持する直哉のドアップ写真(優美の携帯で撮った)
「ルリヲ知っているんだよ。あの写真見ている時の里奈お姉ちゃんって、一人でハァハァしながら見てるじゃん」
「ち、ち、違っ」
直哉からの言葉責めに慌てる姿が非常に可愛い。
また、彼女へ告白する直哉の台詞の数々も、里奈が言うように卑怯極まりない。
「お前のために最後の絵を捧げたんだよ。他の誰でもない」
(中略)
「死に魅了されていた、私はもういません」
「ああ、知ってるさ」
「だって、俺が自分好みの娘に変えたんだ」
「死を受け入れ、それを享受し、そして生を見つめる」
「そんな、今のお前が俺は好きだよ」
「俺は、今の里奈を愛している」
これはズルい、惚れ直しますわ。
しかし、直哉の告白に返事が返せないまま数日。
稟は憎まれるような口上を使い、里奈の本当の気持ちを引き出す。
「“好きだ”という気持ちから逃げるのはずるい」
「草薙くんは里奈ちゃんを選んだ」
「それは私にとって必ずしも喜ばしい事とはいえないけど、それでも私は、それで良かったと思ってる」
「草薙くんが人を愛する事が出来るのを、見守る事が出来るのだから……」
「それが私じゃないとしても……、この弓張に帰ってきたかいがあったと思う」
自分だって直哉のことが好きだったのに、それでも彼の事を考えて起こした行動に、私の胸は滅多刺し。
優美は、直哉の取り巻きを追い払いたく(里奈が話しかけられるよう)自身が彼女だと吹聴した所為で、他校の生徒にボコられそうになるが辛くも逃れる。
翌日直哉が、優美と本当に付き合っている宣言で、嫌がらせは陰口程度に収まり、恋人アピールの為、休日三人でデート。
伯奇神社で里奈と別れ、直哉と優美の会話の途中、彼女の思いに共鳴し千年桜が咲き誇る。
千年桜に自分の思う幸せを願うことも出来た。
しかし彼女は、「普通に、ごく自然に二人が接する事が出来れば、私はそれでいい」と、桜が生み出す奇跡を望まなかった。
優美の祝福の元、愛し合った伯奇と義貞が、結ばれる事なく最後を迎えた場所で、二人は誓いのキスをする。
直哉に対する悪態は相変わらずの彼女だが、晴れて恋人同士になった二人を祝福し、応援しているのは間違いなく。
失恋した彼女は、ずっと里奈の幸せを願い続けるんだろうなと改めて思った。
――Rina perspective
氷川里奈は優美のことが羨ましく、そして疎ましかった。
大病を患う彼女は、自由に外を駆け周囲に噛み付く存在が輝いて見えていた。
優美が自分に振り向くよう振る舞い、その輝きを消してしまった贖罪から、最後まで彼女の傍にいることを誓う。
直哉が一瞬で黒い物を白い物に、糸杉を桜へと変えてしまった。
「こんな狂った嵐の夜なら――そうだな――そろそろ花をつけてもいい時期だと思ってな」
そんな台詞を言われた瞬間から、里奈は直哉に恋をした。
――Yumi perspective
川内野優美は、根っからの同性愛者。
元来染み付いた粗暴な習性が、女の子たちと共にいる事は許されず、周囲には男が集まった。
上級生の女を裸にひん剥いた過去から、里奈を同じ目に合わせようと提案する男の子。
しかし里奈は反逆し、抵抗虚しく襲われるが、最後にその男の子に助けられる。
端的に言うと、好きのベクトルは一歩通行で、報われた恋は一つも無かった子供時代(丘沢→優美→里奈)
糸杉の公園で、櫻の芸術家(直哉)と里奈の非協力的な共作。
里奈が死の象徴(糸杉)を描く度、彼女から死の香りは消えて行く。
星を描いていると思われた直哉の絵は、咲き誇る桜を描いたもので、ドーム一面に描かれたそれは、もう手を加えることなど出来ない完成形だった。
絵の描き方を学ぶ為、里奈は直也に弟子入り志願するが断られる。
弟子→妹子→好きに呼べ→お兄ちゃん→精神的妹へ定着する。
大病を患っていた里奈は、夏に手術をするのが怖く、一生懸命死を受け入れる準備をしていた。
鬱屈とした彼女の絵は、櫻の芸術家によって、生命力溢れる作品へと様変わりし、生きる力を与えてくれた。
また、直哉の右腕はこのとき既に壊れており、周囲の公園に描き散らかした未完成の作品群がそれを物語る。
壊れた右手で出来る最後の事を、巨大な死の象徴を描き続ける少女に捧げ、死の影を取り除いた。
◆Ⅲ Marchen(百合END)
優美と直哉が付き合っている噂の誤解を解く為、単身底辺校へ乗り込む里奈。
説得の末、一発殴られるだけで解決し、その後は優美の望む百合百合な世界。
稟や里奈のエロシーンって身体のバランスにちょっと違和感覚えるけど、百合シーンに限っていえば、立ち絵とのギャップも少なく良い塩梅。
◆Ⅲ A Nice Derangement of Epitaphs(夏目雫)
草薙健一郎の帰国、そして緊急入院。
もう余命幾ばくかの親父は、9億円の大金と中村家の遺恨、そして伯奇を直哉へ相続。
葛、本名は雫だが逃亡中の身なので偽名(雫→しずく→くずし→「死」を連想するのを嫌い→くず)
中村章一は、伯奇である雫を血眼になって探し、直哉の家に強引に詰めかける。
フリッドマンと明石の口八丁でその場を誤魔化し、一時的に難を逃れるが、中村家に追われる雫を解放する為に、15億円を用意する必要がある。
その内、草薙健一郎が海外で働き稼いだ金額が9億円。
残り6億円を『横たわる櫻』が実は七部作だったという後付けの嘘を本当にし、六枚の贋作で稼ぐことになる。
コンセプトは、人が死んで、腐敗していく様を描いた九相図。(櫻七部作なので七相図)
死の様相を櫻として書き連ねた連作。
二部『壊相の櫻』を見た明石とフリッドマンの反応が、直哉の天才さを証明しており、背筋がゾクッてくる瞬間が最高に心地良い。
「贋作か……。これが贋作とはな……」
「アホか!お前、何で絵をやめているんだ!こんな絵、普通描けないぞ。圭や鳥谷など足下にも及ばないレベルだ」
櫻七相図を描いた夜、病院を抜け出した草薙健一郎に贋作のお披露目。
順番に一枚ずつ立てかけ、それを睨み続ける健一郎。
『血塗相の櫻』『膿爛相の櫻』『タン相の櫻』『散相の櫻』『焼相の櫻』
全てを見終えた親父の言葉の全てが、私の涙腺を刺激し、胸に言いようのない感情が込み上げてくる。
「銘は俺が付けよう。これを俺の墓碑銘としよう」
「これは、お前が俺に捧げた墓碑銘だ。だから俺は、ここに自分の名を刻む」
「これは俺の作品じゃない」
「俺の死のために、草薙直哉が描いてくれた作品だ」
「俺の墓は花であふれているだろう。だがそんなものは見せかけだ。本当の墓は、この絵の傍らにある」
「俺にふさわしい絵だ。こういう絵こそ、俺の死に捧げられる作品だ……」
「良い人生だった……」
「こんな事があるのだからな……」
櫻七相図の残り、六部作は無事に6億円相当の値が付き、借金は全て完済。
そして、雫と中村家との関係を完全に断ち切るのに欠かせない、伯奇神楽鈴(伯奇の覚醒を知らせる鈴)という神具も手中に収め、雫は晴れて自由の身となった。
物語の冒頭、フリッドマンと直哉の遺産相続のやりとりの裏事情。
その真相が解明されていく度に、主人公への好感度はますます高まる。
ここで里奈ルートを思い返すと、ウザイおぐおぐが健一郎の落款付きの六部作を、直哉が描いたと見抜いたあたり、素直に凄ぇなと思った。
雫が伯奇になったのは、琴子お婆さまの死によって心を失ってしまったのが原因。
そんな感情を失くしてしまった葛に心を宿し、伯奇から人間に変えたのが稟。
御桜稟は草薙健一郎の唯一の弟子。
道路いっぱいに、その道路から見える風景画を本物以上に本物らしく描く力は、は創作ではなく具現化。
稟は、無から有を描き出す事が出来ると信じ、千年桜を描き、咲かせることで母を蘇らせようとした。
しかし雫が伯奇の力で、稟の思い描く夢を呑み込み続けた。
結果として稟は、母親を蘇らせようとした一切の記憶と、その具現化能力がごとき絵画力を失った。
千年桜が稟の記憶を奪ったのではなく、母親を蘇らせたいという夢を雫が奪った。
雫が飲み込んだ稟の力は、彼女の思いが強すぎて身体に留まることが出来ず、次第に姿を持ち、雫にだけ見える存在、吹となった。
吹の存在は、雫と稟の均衡によって成り立っている。(吹の記憶が欠けているのは、稟との距離が近くなり、記憶を失った彼女の影響を吹も受けたから)
雫しか認識出来ない吹の存在は、『櫻達の足跡』に描かれる千年桜の力によって、他の人々にも見えるようになった。
しかし壁に描かれた千年桜が、次第に見慣れていくにつれ、吹の姿は誰にも見えなくなっていく。
それは感情を取り戻した雫も例外ではなく、哀しい思いをさせないよう二人から自身の記憶を消し、別れを告げようとする吹。
直哉は、吹の存在が永遠に消えないぐらい、みんなの印象に残る千年桜を描くと宣言し、終幕。
伯奇とは、中国の神獣で、夢を食べる幻獣。(獏のルーツ)
千年桜とは、夢呑みの能力を有する伯奇が死に際に吐き出した、人々の悲しみや怨念や苦しみが雲になり、地を濡らし、生まれたもの。
夢呑みの能力を使う条件、自らの心を完全に殺す。
鎌倉から続く名家の中村家は、関東の大きなヤクザを後ろ盾に、弓張の裏社会を牽引しようとしたが、夏目一家(夏目琴子)が一歩も退かず戦争に発展。
痛み分けの手打ちとなった戦争は、小音羽屋敷に住んでいた水菜を助けたかった草薙健一郎(琴子の孫)によって再度勃発した。
夏目の屋敷(埋木舎)は、元々中村家の妾の子を住まわせる為の屋敷だった。
中村家が信じる伯奇伝承、伯奇が生まれれば一族は繁栄する妄想に千年間も取り憑かれている。
自分たちの血(方相氏という巫女の一族の血が流れている)が薄まるのを恐れ、妾に妾の子を産ませている。
雫が料理を食べると泣く理由。
料理にこもった心(愛情)を感じることが出来るから。
◆Ⅳ What is mind? No matter. What is matter? Never mind.(草薙健一郎・中村水菜)
心とは何か?物質ではない。物質とは何か?決して心ではない。
心ってなんだよ?どうでもいいだろ。物質って何だよ?まぁ、気にするなよ。
病室で若田(美術部顧問)に語る、健一郎の昔話。
草薙健一郎と中村水菜の出会い。
弓張学園の非常勤として働いていた健一郎と、学園一の秀才にして美人の水菜。
紗希が頭を悩ませている埋木舎。
健一郎は瞬間的にその地図を記憶し、その屋敷の真相を知ることになる。
昔付き合っていた女との敵対宣言、そして足繁く小音羽の屋敷に通う日々。
穏やかな日常が続くと思われたが、中村章一との鉢合わせで、健一郎は左腕を折られる。
腕を折られた身体で、水菜をモデルにしたオランピアを描ききり、水菜が中村章一に対する挑発的な眼差しを表現。
10億円で琴子の婆さんと売買契約を結んだオリンピアの絵を中村章一が破くことで、再び戦争の火種は切られた。
中村章一の糞野郎に水菜が穢されている事実を突きつけられたときは、心底嫌な気分にさせられたが、健一郎の水菜に対する言葉の数々に気持ちが軽くなった。
「No matter. Never mind.」
「どうでもいいだろ。まぁ、気にするなよ」
「気に病むような事じゃないさ。もちろん、その代償はやつらに払わせるがな」
心と身体と自分を否定してきた彼女が、ようやく幸せを享受出来て本当に良かった。
結果として、藍と埋木舎で10億円の支払い。
健一郎は水菜を攫って駆け落ちするが、貸付金として扱われ、その返済の為にニューヨークでフリッドマンと共に絵の売買を行うことになる。
水菜の身柄を買い取る為にし続けた金儲けは、彼女が死んで初めて得るという皮肉な結末。(水菜の死によって描くことが出来たのが『横たわる櫻』)
人生最高の瞬間に開けようと思って買った、地球の裏側で売られていた日本の酒で、若田と共に笑って乾杯をする。
後にこの酒は、若田から直哉へ渡されるっと、色々と繋がってきたなぁ。
『横たわる櫻』のキャンバスの裏に書かれた詩。
仮象のはるいろそらいちめん ただやみくもの因果的交流電燈 明るく明るく明るく灯ります
Watermelonの電気石 音と言語の交差地点 ますます色彩過多の世界にて
七つの櫻が追い越した わたしめがけて追い越した
ふうけいより先にわたしはなく わたしより先にふうけいはなく 追いかけ追いつきいなくなる
ふわふわの櫻の森で世界が鳴った 美しい音色で世界が鳴った
それが虚無ならば虚無自身がこのとほりで ある程度まではみんなに共通いたします
(すべてがわたくしの中のみんなであるやうに みんなのおのおののなかのすべてですから)
◆Ⅴ The Happy Prince and Other Tales(夏目藍)
櫻七相図の六部作を見てから顔色が変わる圭。
直哉が描くのを心待ちにしていたコイツが気付かないハズがないんだよな。
本当はムーア展なんかどうでもよく、直哉が絵を描ける口実さえ出来たら何だっていい。
直哉に無理強いなんで出来ないことも知っているけど、それでも圭はいつまでも待っている。
「俺は直哉と絵を描きたい。それだけでいいんだ」
「それがいつになったとしてもさ」
直哉の絵が好きな圭は、互いが互いを高め合える関係だと信じている。
壁ドンされて、言われるがまま目を瞑る藍ちゃん先生の可愛いこと。
脇が甘いというか、直哉にダダ甘な姿が何とも、惚れたもの負けを体現しているよなぁ。
そして雫ちゃんから耳に痛い突っ込み。
「壁ドンですか……うらやましいですねー」
「雫的には、壁ドンの真意には興味ありませんー。ただ、もう少し、場所、時間をわきまえましょうー」
語尾を伸ばした口調と、普段とは逆の立ち位置に思わず顔がニヤけてしまう。
圭は直哉の為に絵を描き続ける。
「画家、草薙直哉が、画家、草薙健一郎に捧げた作品」
天才同士の繋がりが垣間見えた作品に感化され、直哉と同じ場所に立つため、命を削り、自分の限界以上の高みを目指す圭の言葉に、直哉もまた触発される。
櫻七相図の六部作のような心震わす絵が描けず、思い悩む直哉。
しかし、ストーカー長山香奈の言葉によって、凡人のやり方を気づかされる。
「才能は凡人を裏切りますが、技術は凡人を裏切らない」
「努力で得た技術体系こそ、凡人の武器。凡人の刃だって、天才どもののど元に届く事がある」
「才人は、天才を惑わす技を持っている。何故ならば、才人は凡人であるからです」
「描くという行為、その無限とも思える様な反復。それだけが凡人が天才を凌駕出来る方法です」
草薙健一郎、唯一の弟子である、吹との立ち会い。
弓張学園のプールをキャンバスに見立てた水彩画の勝負。
魔術的な技で圧倒的な力を見せつける吹と、点描画の技法によってその力を利用する直哉。
絵のCGなんか一枚も無かったにも関わらず、テキストだけで二人の作品に魅了されてしまう。
甲乙つけがたい二人の勝負は、血が沸き立つような、言いようのないワクワクを感じ、魅了された。
「草薙さんは、他の芸術家との関わりによってこそ、化学変化の様な劇的な変化をする」
「圭さんが描く輝きをさらに輝かせるのは草薙さんで、草薙さんの絵をさらに輝かせるのは圭さんなのです」
進むべき道を示してくれた吹との楽しい勝負からひたすら描き続け、ムーア公募展への応募。
そしてフリッドマンから、二通のノミネート(六次審査を通過)の招待状が送られる。
当日の発表会、直哉の作品『蝶を夢む』は、芸術の価値なんて分からない私でも、思わずゾクッてするような絵に息を呑む。
圭の作品『向日葵』は、エラン・オタリ賞(世界でただ一人しか受け取れない貴重な賞)を受賞するも、会場に圭は現れず、唐突な訃報の知らせだけが届いた。
藍と直哉は、お互いを支え合うことで圭の死を受け止める。
時は流れムーア展の最終選考が終わり、三つの最高賞が発表されたテレビには、プラティヌ・エポラール賞を受賞した『墓碑銘の素晴らしき混乱』、幼馴染、御桜稟の姿が映された。
圭が亡くなった日、稟の記憶と絵画能力は戻り、フリッドマンがずっと目を付けていた彼女の絵を七次審査にねじ込んだ。
稟が直哉に告げる真意。
「ツバメはさ……、ただ王子のそばにいたかっただけなんだよ……」
「誰よりも高く、何よりも高く飛ばないと……王子のそばにはいられない」
「なおくん……私さ」
「私、私は、もう振り向けない……」
「そんな時間すらないんだ……」
世界へ旅立つからではなく、圭があれだけの作品を作り上げたように、稟もまたそれ以上の作品を描き続けなければならない。
直哉の傍にいたいが為に…?ちょっと私には難しくて分からないな。
◆Ⅵ
直哉が弓張学園の非常勤講師になるくらいの月日が経ち、かつての友人達は皆、弓張から去ってしまった状況は、心にぽっかりと穴が空いた様な喪失感を感じてしまう。
モブCだった片貝と酒を飲むような関係になり、独り身な直哉の近況が分かるにつれ、余計空虚な気持ちにさせられる。
ルリヲと鈴菜の成長した姿を見て、嬉しく思うのと同時に、ため息も吐きたくなる。
とはいえ、世を騒がした草薙の名は今じゃ知られなくとも、直哉がモテモテのは現在も変わらず、風紀委員の咲崎桜子に、栗山奈津子、飲み屋街の柊ノノ未ちゃん(声優的にあだ名はノノたそに決定)と可愛い女の子が寄り集う。
奈津子の犬(イタリアン・グレーハウンド)に笑った。
子供の時、うなぎみたいな顔だったから、名前がうなぎ。
でたらめな名前のセンスだけじゃなく、うなぎの鳴き声が卑怯過ぎる。
「ふーん。ふーん。ふーん」
「あばばばばば、あばばばばばば……」
そして飼い主に、頭の中身がティースプーン二杯分ぐらいしか入って無いので、あまり賢い犬ではありませんねと言われる始末。
圭の妹である恩田寧との再会(真琴ルートじゃないから正体は不明)に誰かの面影を感じつつ、その帰り道、芸術家集団ブルバギとして世を騒がせる長山香奈に出会う。
「私は草薙健一郎を乗り越えて、そして御桜稟の場所までのし上がる。ただそれだけ」
そう宣言した長山は翌日、トーマスと共に『櫻達の足跡』に落書きのような現代アートを描く。
美術雑誌の編集者(月刊誌アートスクール)になった真琴との再会、そして復活予定の美術部員と共に、穢された仲間達との作品を取り戻すべく行動を起こす。
ステンドグラスの代わりにセロハンを利用した草薙直哉の作品。
その手柄はブルバキのものだと勝ち誇る長山に、直哉は明石の言った「作品を作る意味」を理解する。
「稟によろしく伝えてくれ。俺は此処にいると……」
「ツバメは南に旅立ったが、それでもいつかは帰ってくる。この大地に」
稟と直哉の繋がりは、芸術作品を介してとかではなく、それこそ見えない糸で通じ合っているかのよう。
それでもこの二人は、これから先も恋人のような関係にはならないんだろうなぁと思ってしまう雰囲気に、気分は暗くなる。
藍と鳥谷校長の約束。
姉妹校に飛ばされた藍が厄介事を解決する代わりに、直哉を非常勤から教員に採用してくれと頼んでいた。
圭が亡くなった日、お互いを支え合う存在となった藍。
こうして弓張の地に帰り、直哉が結婚するそのときまで、姉として教師として直哉の面倒を見続けると誓う。
藍の乗っているバイク(マッハⅢ)は、草薙健一郎(国内で使用)のお下がり。
圭の乗っているヴェスバは、ニューヨークで乗られていたもの。