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isoisoさんの紙の上の魔法使いの長文感想

ユーザー
isoiso
ゲーム
紙の上の魔法使い
ブランド
ウグイスカグラ
得点
75

一言コメント

本編の感想とは全くもって無関係なのだが、闇子って名前を見ると、さいたま闇子が真っ先に思い浮かぶのは私だけだろうか?

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

私だけですね、ごめんなさい。

紡がれる物語の数々は先の気になるものばかり。
明かされていく真実には舌を巻き、幾度となくやられた気分にさせられた。
序盤に開かれた魔法の本が終盤にかけて繋がっていくあたり、非常に良く出来たシナリオだと思う。

ただ、私の中では月社妃というキャラが理解出来ず、非常に嫌いな存在のまま終始した点と、
TRUEENDが心に引っかかった為、個人的には良作止まり。
不満点の詳細(只の感情論だが)は、三章と終章に記述する。


◆各章の概要と感想

一章「ヒスイの排撃原理」

本作品の肝である魔法の本。
百聞は一見に如かず、習うより慣れろの良い見本とでも言うべきか。
魔法の本によって生じた事象改変を隠しつつ、気付けば物語の渦中にいるという状況作りが上手い。
入学してまもなく、周囲の人間関係を知らない環境だからこそ、その変化に気付けない。

日向かなたに対するインジブルなイジメの原因。
降りかかる不幸の数々についても、全ては物語の設定だからと納得。
納得してしまったが故に、余計犯人の正体から遠のいた私は、月社妃が示す邪道の推理展開に思わず脱帽。
ミステリー小説という物語を逆手に取り、犯人(かなたの自作自演)を突き止めた手法は、目を見張る。
話の掴みとして非常に引き込まれる導入部分であった。


二章「ルビーの合縁奇縁」

面白おかしい、天使が繋ぐラブコメ小説。
素敵な運命をデリバリーする天使ちゃん(理央)の恋愛力によって、夜子と主人公が恋人同士になり、幸せになれば物語から解放される。
魔法の本の内容がネタバレされている為、道筋を辿るだけの簡単なお仕事かと思いきや、予想外の結末に驚かされた。
いつから魔法の本が開いていると錯覚していた?(なん…だと)
闇子が用意した台本にまんまと踊らされた愚者とは私のこと。
思考の隙間を突いてくるというか、読んでてやられた気分にさせられ思わずぐぬぬ。(褒め言葉)


三章「オニキスの不在証明」

「黒い輝きを持つ宝石の物語は――絶対に開いてはいけない。あれはバットエンドが約束される、悲劇の本だから」
本城奏から忠告を受けていたにも関わらず、全ての危険を理解した上で、月社妃は魔法の本を開いた。
ここが本作品で一番の不満点。
私自身が活字中毒ではない為、共感を得られないのは当然なのかもしれないが、本を開く動機がどうにも弱過ぎる。
本当に危険を理解してたのか至極疑問。
一章で聡いキャラと思っていたのだが、その馬鹿な行動で全て吹き飛んだ。
本人の意思とは別に、開かざるを得ない状況であれば印象も全然違ったのだが…。
まぁこの不満は、好奇心に抗えなかったを理由に、納得出来るか出来ないかであって、私は後者だった。
只それだけのこと。


四章「アメシストの怪奇伝承」

一年の月日が流れ、傷ついた心が多少なりとも癒え始めた頃、新たな魔法の本が開かれる。
紫水晶は、未練を残した幽霊少女の願いを叶えてあげる物語。
魔法の本が閉じたら、その記憶は失われる。
その絶対の法則と思われていたルールは、翡翠の記憶を引き継いだ、かなたの想いによって覆された。
こうした事例が出てくると、先々の展開が余計に読めなくなってくる為、非常に楽しみである。


五章「アパタイトの怠惰現象」

これは魔法の本ではなく、月社妃の日記帳。
幻想図書館に満ちる幸せを願った妃の妄想譚であり、もう叶うことのない未来が描かれる。
「メラナイトの死神模様」を破壊した汀と破壊された奏の対立。
平行線を延々と辿ると思われた感情のぶつかり合いは、岬の力で呆気なく解決する。
本作品のシスコン率の高さが伺えたのと汀の心の変化が見所か。


六章「ローズクォーツの永年隔絶」

紅水晶の輝きは、黒い宝石とは違えども、死別という名の失恋オチが待ち受ける残酷な恋物語。
自由を許されない理央にとって、魔法の本が開かれている瞬間は、唯一その枠組みから外れることが出来る。
自身が死ぬ最後まで、主人公の為に行動する彼女の純粋な恋心が美しかった。


理央√「ローズクォーツの終末輪廻」

喪失の輪廻によって終焉を約束された物語。
幸せの記憶が塗り潰される、呪いにも等しき闇子からの言いつけ。
最後まで抗うことは叶わなかったが、それでもほんの一時でも過ごせた主人公との1日は、理央√だからこそ有り得たもの。
ENDとしては決して良い結末では無いのだが、彼女にとって最上の幸せが得られたのは間違いなく、
読み手に不満は残れども、理央は満足だったのではと考えさせられた。


七章「ブラックパールの求愛信号」

この章の一番の見所は、かなたの眩しいまでの意志の強さ。
「知ってましたか――メインヒロインの女の子は、決して死ぬことはないのです」
刃物を突きつけられても一歩も退かず、瑠璃の為なら死んでもいいという覚悟を示す。
翡翠と紫水晶の物語を経て、色褪せるどころか今尚募らせる一途な想い。
純粋な恋心は、彼女の力であり強い勇気を見せつけてくれた。
また、主人公から妃の恋人を問い質し、目的である本殺しも完遂する。
黒真珠に振り回されるどころか、都合よく利用し使い捨てた汀の行動力と気概も素晴らしい。


八章「フローライトの時空落下」

いつから魔法の本が宝石を冠するものだけと錯覚していた?(なん…だと)
人を描いた魔法の本(自伝)の登場により、理央が命令に逆らえない真実が判明。
紙上の存在は書かれた設定に抗えない。
六章で語られた理央の記憶喪失の明確な理由と、処女膜が治った謎がここに来て分かる…と。
ホント良く出来てる。


妃√「フローライトの怠惰現象」

主人公と妃が恋仲となり最後に心中。
クリソベリルに一泡吹かせることが出来た為、終わりとしては悪くない。


九章「ホワイトパールの泡沫恋慕」

白真珠は、事実を記したノンフィクション小説。
「パンドラの狂乱劇場」が、妃の手でごっそり破られていたが、そんなに破いて魔法の本は死なないのか…と疑問に思った。
理央ちゃんの幸せな記憶もたくさん破かれてたし、まぁ大丈夫なのか。(自己完結)


夜子√「ファントムクリスタルの運命連鎖」

幻想(引篭りのコミュ障とは正反対)の夜子に惚れ、それを指摘されるも、好きを貫き通す主人公。
夜子との初Hで、ノンフィクションを謳っていた物語(白真珠)に、嘘が混ざっていることが判明。
瑠璃と夜子の出会い違うじゃん。
私は何度騙されれば気が済むんだ…。


十章「オブシディアンの因果目録」

パンドラの中に記述されている、黒い黒い真実。
夜子と瑠璃の本当の出会いと三章の続きが明かされる。

「オニキスの不在証明」は、想い人への気持ちを忘れて、他人と恋する物語。
寝取られ展開を嫌い、主人公への愛を貫く一心で自害。
妃の事故死の謎がここに来てようやく解消される。
瑠璃を想う深い愛情は好ましいのだが、黒い本を開いた自己責任なのは結局変わらず。
三章で根付いた負のイメージが払拭されなかったのが残念。

瑠璃が妃の死の真相に耐えられず、1年前に自殺して、紙上の存在(魔法の本)になってた事実は驚愕の一言。
その一方で安易な後追い自殺を選ぶ、主人公の精神的な弱さが露見。
最愛の妹を失った悲しみは理解出来るが、それを乗り越える心の強いキャラであって欲しかった。(願望)


十一章「サファイアの存在証明」

4年前から開かれていたサファイアの存在証明。
ヒスイの記憶がアメシストに引き継がれてたのも、全てはこれが原因か。
自分でメインヒロインと言ってたが、まさしく。その言葉に偽り無し。


十二章「ラピスラズリの幻想図書館」

夜子の嫉妬が周囲を不幸にしていた事実を知り、魔法の本で引篭り。
兄や親友に助けられ、瑠璃へ告白。
本に頼ることなく、現実を生きる決意を誓う。

「四条瑠璃」に書き込まれる憎悪の設定。
愛する人からふるわれる暴力や憤りに屈することなく、全てを愛として受け入れるかなた。
「私の愛情は、海よりも深く山よりも高く!誰よりも健やかに、そして力強く!真っ直ぐで素敵な輝きを放ちながら、一途に向けられているものなのですよ!」
「だって、面白いじゃありませんか!この程度の変化で、私の愛情を折るつもりだというのなら――私はこの愛情を、魅せつけていくだけです!」
あぁまさに慈愛の女神。
かなたちゃんの想いの力は、絶対と思われた物語の設定すら吹き飛ばす。


十三章「煌きのアレキサンドライト」

クリソベリルの過去が語られる。
アレキサンドライトが普通の女の子として生まれ、無残な死を遂げた点は同情する。
しかし、不幸をばら撒き続けた罪が許せるわけもなく、共に幸せとなる結末がTRUEENDなのはイマイチ納得がいかない。
一つの終わり方、ifの話としてなら許せるが、物語の真のエピソードとして語られるのはやはり不満。
私なら間違いなく破り捨てる未来を選ぶ。


◆絵・エロ・音楽

時折、立ち絵とCGのキャラが一致しない違和感を感じたが、総じて美麗。

エロは、処女喪失の際に血が出ない点が喜ばしい。(血を見ると萎えるんだよ…)
ただ内容は薄い為、実用度はゼロ。(回想枠13)

音楽に関しては、普段そこまで気にならないのだが、OPどころかEDも存在しないのは如何なものか。
作品を終えた余韻を味わう間もなくタイトル画面に戻るため、余計に読後感が悪い。


◆システム

誤字とバグが目に付いたが、進行上致命的なものではなかったのは幸い。
後日、修正パッチを出すようだが今更過ぎる。