商品としての質は極めて高い。秀作。
効果的な演出をうるさくない程度に持ち込み、なおかつ並のスペックでも快適な動作を保証している部分にも顕著なように、細部へのこだわりが嬉しい作品。
複数ライターでも世界観の食い違いやテキストへの違和感はほとんどなく、ここからも作品全体の完成度を重視したことが伺える。
「秋色恋華」に代表されるように、このブランドの強みは何よりキャラ萌えと軽快なテキストにあると思うのだが、本作ではその強みが最大限に生かされているという印象。
とは言え、シナリオゲーの名作とも言える「はるのあしおと」を手がけた両ライターだけあって、お話自体の完成度も決してなおざりにされていない。
鬱だけど泣けるシナリオ、とかドラマティックな展開とかを期待すれば肩透かしを食らうかもしれないが、「神隠し」に心ならずも関わってしまった人々の物語、と考えれば良く出来たお話だと思う。
最も「向こう側」に去ってしまう人たちに対する疑問が、結局最後までしこりのように残ってしまうのは否めない事実。しかし、そこは直樹先生が言うように結局「考えても仕方のない事」でもあるのだろう。
以下は個別の感想。なお、初回プレイでは小夜か瑠璃子しか選べないので注意。
>小夜
正統派ツンデレ。ただしツン×二乗。最後まで骨抜きにならない所が素晴らしい。
終始衰えない毒舌に挟まる嫉妬デレにぞくぞくできる方にオススメ。
サッカー選手でいうとやや自己中なエースストライカー。
鏡氏が担当されたらしい3人(小夜、明日香、リコ)のルートは日常会話のテンポの良さとお馬鹿な掛け合いが素晴らしい。お話としては最後の急展開に多少の違和感は残るものの、この軽快なテキストだけでご飯三杯はいけるかと。
二つエンドがあるが、正直どちらでもハッピーなので余り深く考える必要もないかと。
>瑠璃子
病弱にして巨乳、かつ天然でたまに腹黒な妹系少女というファンタジスタ。
騒がしい子の多い中でほとんど唯一の癒し系かついじられ系と言う所もポイント高し。
一枚絵の素晴らしさや演出の大盤振る舞いなどから察するに、恐らくスタッフには七海と同じくらい愛されていると思われる。
お話は意外性はないけれど、それ故リコの魅力には存分に浸れるお話かと。
個人的には再会エンドのほうがゲームとしての収まりは良いと思う。
出産エンドはあのテーマできちんと語るならもう少し尺が必要な気がした。
小説として書かれるなら相応しいエンドではあったと思うのだが。
>あさひ
虚無系演技大好き疑似ロリ。
サッカー選手で言うと小柄でちょろちょろすばしこい1.5列目。
個別ルートは途中でオチの想像はついたものの、非常に良いお話だったと思う。
先輩と舞は北川氏担当のよう。どちらもじっくりと読ませるお話という印象。
日常会話より流れの中での決め台詞が印象に残る。
このルートでの七海の可愛さは異常。
サッカー選手でいうと日本の壁もしくは電柱。
……あれ?褒めてない?
>舞
ややツンデレ風味な次期飲食店経営者。派手な外見とは裏腹な「普通の女の子」。
サッカー選手でいうと前の選手を叱咤するゴールキーパー。
あさひルートと対になっていると同時に裏明日香ルートとも言えるお話。
個人的には一番好きなルート。
神さまを必要としない側の人間のお話。咲にしろ明日香にしろ、「向こう側」に行く人間の論理というのは究極的には理解しがたいのだ、と言う部分を納得(補完?)出来る人ならさほどもやもやを残すことなく楽しめそう。
ラストシーンの丘の上の一枚絵が素晴らしい。
>明日香
記憶喪失天真爛漫天才少女。伊吹、ゆめに続くネジ子だが知能は彼女らと違って高い。
ただし、作中では余りそうは見えないが。全てにおいて規格外なロナウジーニョ。
舞を先にやっていると一層楽しめるかもしれないが、これは舞と明日香のどちらがより好みかでも変わってくると思う。。
立ち絵には全くセックスアピールを感じないが、えちぃでは可愛い。ふしぎ。
>里佳
年上酒乱系義姉。年齢を聞いてはいけない。サッカーで言うと主将か監督か。
しかしえちぃでは別人の如く可愛いのがとっても素晴らしい。
咲里佳直樹の関係についての補完という意味でもなかなか興味深いシナリオ。
他五人をクリアしないとルートに入れないので、作品全体のエピローグ的な位置づけも出来るだろう。
>総評
軽快なテキストを楽しみたい、キャラ萌えしたいという人には間違いなくオススメ。
演出や快適なインターフェースなどを考えると初心者に薦めたい作品でもある。
――最も、最初にこの品質に触れて、これが「当たり前」だと思ってしまう人がもし居るとすれば、それはそれで色んな意味で悲しいが。