人形の、人狼による、人形のための物語。
この作品に対する評価はいささか割れているようだ。
曰く、久し振りにニトロらしい作品だった。
曰く、日常の台詞まわしが良い。泣ける。
曰く、CG、音楽、ボイスは素晴らしい。
曰く、全体的に冗長。戦闘シーンがつまらない。台詞まわしが臭い。
曰く、燃えない。抜けない(これはいつものことか)
曰く、ダヴィデ、カルメロ等サブキャラが熱い。若本自重(ry
曰く、ロメオさんへたれすぎ。ピウス様(笑)弱すぎ。シルヴィオ犬すぎ。
曰く、正直アンナルートのアンナよりノエルルートのアンナのほうが萌える。
曰く、発情したノエルは実に可愛いと思う。
曰く、ペルラが攻略出来ないなんて有り得ない。
曰く、むしろペルラに攻略されたい。
曰く、イリスが攻略出来ないなんて(ry
曰く、コルナリーナは……まあ別にいいや。
曰く、ルナリアは俺の嫁。レベッカは隅っこでアイス食ってろ。云々。
一部(特に後半に)私情を含む。
それぞれが各人の基準に応じて正しい評価なのだろう、と私もまた思う。
言うなれば、名作としての要素と迷作としての要素が満遍なくちりばめられているのが本作なのだ。
個人的な感想としては、シナリオについてはそれほど破綻は感じなかった。
デフォルトでへたれているロメオさんゆえ、ストーリーに爽快感はハナから希薄である。
デモベのような作品を求めれば肩透かしを食らうだろう。
また、かなり醜態をさらしている彼に何ゆえヒロインたちが惹かれるのか、と言う部分の説得力も今一欠けていたように思う。
塵骸のカツキーのような朴念仁ゆえの魅力もロメオさんには殆ど無いので、オルマ・ロッサが何故あれほど彼を希求するのか疑問に感じるほどである。
アンナはまあいいとして、ノエルやレベッカは結局のところ「血を与えられたことによる結びつき」が愛情にすり替わっているだけのように見えなくもない。
無論作中で説明はなされているのだが、正直不十分であると感じた。
ルナリアに至っては、物語中盤からの登場であるにもかかわらずロメオに異常なほどの執着を見せるし、ロメオさんも割とあっさりそれに乗って篭絡されてしまう。
アンナカワイソス。
いや、プレイヤーはとっくに篭絡されているのだからそれでいいんだ!と言えなくもないが正直節操ないよな。
でもルナリアの可愛さは反則なのでしょうがないな。
ルナリア側からはその執着の理由は語られているし、アンナの遺志も混合した結果エンディングのような流れになったのだろう、と推測可能ではあるのだけど、ロメオ側についてはやはり説明不足気味に感じた。
上記で指摘されている通り、戦闘シーンは多く、長く、しばしば冗長ですらある。もう少し削ってもお話自体に支障はなかったろう。
ラスト近くのワンコ同士の争いなど正直見るに耐えない。
しかし、一方で人形同士の戦いは美しく見応えもあったように思う。
この辺は正直、冒頭に掲げた言葉にも帰結する話ではあるのだが――
結局この物語の主人公は人狼たちでもロメオさんでもない、ということなのかもしれない。
魂が無い筈の五枚の銀貨たちに、果たしてどれだけプレイヤーが感情移入出来るか。
そこにこの物語を楽しめるか否かがかかっているように思う。
ロメオの葛藤については、塵骸魔京における風ぽエンドや恵あぼーんエンドのような「人外であることを選ぶエンド」におけるテーマを人外側から焼き直した、と言うのが結局全てだと思う。
それなりにじっくり書かれているとは思うのだが、ノエルとレベッカのルート以外では結論を出したと言うには遠いような気がしないでもないので、そこがまたへたれているように見える理由でもあるだろう。
ちなみに私の一番好きなルートはノエルルートだが、エンディングに限れば好きなエンドは三つある。
アンナと人形たちのエンド、ノエルのグッドエンド、そしてルナリアのサーカスエンドである。
ノエルは別にして、他二つはどちらも人形たちがあくまで人形として「生きよう」としたエンドであると思う。
ノエルのエンドはロメオが「人形」を必要とした自分から卒業する物語だが、だからこそ人形としてのアンナの最期に意味が与えられた物語として成立していると思う。
また、このエンドではイリスがアンナに代わって「生きよう」とし続けてくれるのでそれが一つの救いにもなっている。
以上、つらつらとネタバレを大量に混ぜ込みながら述べてきたが、結局の所、この物語の魅力はノエルルートにおけるアンナの健気さと最期の言葉に集約されているといっていいだろう。
いろいろ綻びは多いとはいえ、ノエルルートだけでもやる価値はあると思うのだが如何だろうか。
「がんばるぞー がんばるぞー
あるけーあるけー
あとすこしー」
……本作は、名作と呼ばれるべき要素を充分に備えているとは思う。
しかしあるいはやっぱり「あとすこし」届いていないのかもしれない。
人形たちがついに普通の人間にはなれなかったように。
でも、人形の往き方越し方も、それはそれで意味のあるものだと思えるなら。
少なくとも、この作品の人形たちには花束をあげても良いのではないか、と思う。
ん?一人ほとんど触れてないヒロインがいる?
……ノエル食っちゃうのは勘弁な><(食糧的な意味で)