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ionittaさんの仄かに視える絶望のmemento Remember that I love you.の長文感想

ユーザー
ionitta
ゲーム
仄かに視える絶望のmemento Remember that I love you.
ブランド
デジアニメ・コーポレイション
得点
80
参照数
281

一言コメント

メメントというより50回目のファーストキス

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

最後のシナリオ選択で遡ると未記憶時間帯の黄色い囲いが修正されてるので、
理緒と遥が物語開始時からの本当の状態が分かります。
それを踏まえ、憶測を交えて考察します。

キャラ評価
理緒
転校前の学校で日に「三時間」輪姦され続け、女児を出産。
この理緒の娘がどうなったか説明はありませんが、里子に出すか両親が引き取ったのでしょう。
この苦しみによって理緒は日に「三時間」の記憶の空白ができます。
つまりあらすじと宣伝文句の「事故で記憶を失い~」はフェイクであり、健忘は最初からだった。
あらためて読むと2日目までの彼女の台詞の意味が変わるのが唸らされました。

少し謎なのは、理緒はどの程度自分の状態を把握していたのでしょうね。
彼女の症状の本質は時間制の記憶喪失そのものより、
自分の記憶と思考を関連付けられなくなっていることだと思います。
健忘症を自覚しレイプの過去に苦しむ一方、新しい生活に呑気に期待を膨らませる。
物語が始まった時にはもう壊れていた…というのが本作の真のクライマックスでした。
幼少の幼馴染三人が笑い合う本作のラストは、後にくる地獄が不可避という残酷さ、
しかし最も幸せだった日々が決して消えず、また来ることを暗示させる素晴らしいラストでした。


本作のエロゲー的白眉はシナリオを遡ることで、
彼女が物語開始時点から調教を受けてたのが明らかになる部分でしょう。
理緒視点で2日目の廊下の少女が、遥だと分かるのはグッときました。
理緒に劣らず酷い日常だと思うのですが、一貫して他者を思いやれたのは
親友兼恋人?の真人がずっと傍にいたことと、彼のためという動機があることで
かろうじて主体が保てたということでしょうか。

遥が記憶喪失のふりをしているのは、空白の時間帯とレイプが合わないことや
台詞でなんとなくわかってくるのですが、そもそもなんで
そんなふりをしていたのかがちょっとよく分かりません。
一応、転落の謎を追いつつ理緒を庇うためとかだったきもしますが、
そもそも遥を襲う男たちと一連の事件にはほぼ関わりがないため、
彼女には記憶喪失のフェイク設定があまり機能してなかったですね。

葉月&真実
本作は推理小説だったらよくある叙述トリックを多用してるんですが、
彼女たちはその技巧を増すためのキャラクター。
いなくてもいいというか、いないほうが話が分かりやすかったんじゃないかな。

最後に過去を許すことを選んだ二人は気持ちよかったですね。

絵里
彼女が殺人を犯しただろうことは黒幕の暴露に紛れて、
どうも言及されなかった感はあります。

そもそも本当に絵里が殺したかどうかも怪しいんですよね。
もちろんシーン見る限り明らかにそうなんですが。
事前に説明された設定はどれも覆されていく本作では、
その行為を本人が認めてようやく確実な事実になるので、
よくある「殺すつもりだったけど別の要因で死んでた」じゃないかとか。

絵里は、葉月から追及を受けても「自分は被害者だ」と向き合おうとしませんでした。

しかし絵里の輪姦被害は自己申告だけのレイプ事件と違い、
レイプビデオ、堕胎の病院記録、そして世間的には自殺者まで出ています。
つまり圧倒的な証拠があり、その気になりさえすれば、
学校とその関係者、恐らく社会的成功者になっているだろうOBなど
多くの組織と人間を破滅に追い込み脅迫できる、
初代CIA長官のような絶大な力を(痛みと引き換えに)得ていたのですね。

一連の結末を受けて、絵里はもう被害者らしく振る舞うことを辞め、
力を持つ側となって学校を変えていくことを決めます。
だから彼女は殺人をしていても償わないし、反省も後悔もしない。
今後の絵里は正義のためなら悪と手を結び、犠牲を出すことも厭わないでしょう。

絵里の過去編は悲惨ですが、それを全部利用して
悪を滅ぼしてやるという今後の生き方は痛快にも思えます。

最後の謎
一通りの謎はアフリカの内戦レベルで治安が悪い世界観ということで収まるんですが
分からないのは、遥が屋上から落ちるときにみた人影って結局誰だったんですかね?

絵里が殺したときも含めてあの屋上部分の経緯だけ曖昧になるんですよ。
想像ですが犠牲になった少女たちの無念とか見た人自身の内面の影とか
そういうオカルト的なものだったように感じました。
あの屋上にいると、死の誘惑が起こるんじゃないでしょうか。

総評
ゲームらしい抜き場を用意しつつ、容赦ないレイプのむごさを描きつつ、
最後は泣かせる、面白い作品でした。
しかし物語的にクライマックスを背負っている理緒と遥と、
事件があんまり関係ないためトリックの見せ方には感心しつつも、まとまりが弱い。

記憶喪失レイプは遥にはなかったんだよなーそこが欲しくてプレイしたんだけどなーとか
欲しいとこを外されたのも残念。

シナリオとゲーム性の一致が本作の最大の見所なんですが、
それ故かスケジュール管理がシビアになってしまい、全体的に話が短い。
ラストとキャラは文句ないだけに、お楽しみがもっと欲しかったですね。