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imotaさんのファタモルガーナの館 -Another Episodes-の長文感想

ユーザー
imota
ゲーム
ファタモルガーナの館 -Another Episodes-
ブランド
Novect(Novectacle)
得点
90
参照数
1346

一言コメント

「ようやくこの日が来たか・・・今まで散々かませとして弄られてきたが、真の主人公は誰か知らしめる時がな。どこぞの貧弱根暗と違って、彼女を普通の少女として扱い、広い世界を見せることができるのは、私だけなのだよ。ふん、多少の苦難はあるかもしれんが、最後は幸せな結末を迎えると信じていたまえ」

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

そんなヤコポのドヤ顔を、じわじわとなぶり殺しにしてくれる素敵なファンディスクでした。
ヤコポって誰っすか?とジェレンちゃんの如き質問をする方は、すぐに回れ右して本編の館へ向かいましょう向かいましょう。
そして立派な信者になった暁には、小説版・漫画版・ドラマCD版と各種館が貴方をお待ちしています。

とりあえず小説版を読むだけでも、本編への見方が少し変わってくると思います。
ゲームを意識した、物語としての驚きを意識した本編と異なり、登場人物たちの掘り下げ、特にサブキャラクター達が
どうしてあのような間違いを犯してしまったのか、共感しやすい作りになってますので。
単純に今の靄太郎氏の描き下ろし、本編ではなかったスチルを見るだけでもよだれが、いえ心が洗われますしね。

本編発表から二年半以上が経ち、ファンディスクも当初の予定とは変わったようです。
館から解放後の現代で、転生した彼らが巡り会うアフターストーリーよりも、逆に発端となる過去を掘り下げることに。
前者はサブエピソードとして収録され、詳細はご想像にお任せしますという事なのだろう。

サブエピソードには、同人誌で発行された物語の再構成、ミシェルとイメオンの奇妙な友情話も収録。
個人的に好きな短編であったが、ゲームらしく会話が増えたことで、最後の別れがより一層切なく感じてしまう。
もっと短い三話はノベル形式になっており、黒ハナダ色が前面に出ております。

さて、ここから本作のメインエピソード。

きれいなヤコポが、きたないヤコポに変わりゆく様を、これでもかと丁寧に描かれており、
自業自得というには、必死の努力が様々によって雁字搦めになってゆくのが、何ともやりきれない。

青年時代のヤコポは、想像以上に気の良い男で、表現の不器用さも愛嬌の範囲。
ガチガチに敬虔で、心身に深い傷を負ったモルガーナを受け止め、受け流すほどの主人公力をいかんなく発揮。
まさか恋愛ゲームの伝統、女の子をおんぶスチルが存在するとは。

仲間との関係も本作では重要で、腐れ縁の娼婦マリーア、自警団一のキンニクことグラシアン、アホの子ことジェレン、
彼らとの日常やお祭り騒ぎは、後々の破綻を思うとありがたさも増すのです。
考えたら本編のヤコポなんて、ミシェル以上に普通の会話がない寂しい人間だったよなぁ・・・

敵役も一本気のある暴君で、他人の絶望する顔が大好きな狂人バルニエ様。
どこをどう見ても悪人なのに、幕間を見てしまうと奴なりの生い立ち、矜持、考え方があるのだと納得してしまうずるい。
死んでから出番が多いというのもずるい。

領主時代のヤコポに仕える執政オディロンおじいさんも、パッチを当てると立ち絵で登場。
政治の世知辛さをこれでもかと教えて、新米領主の成長を手助けする、ヘイデンおじいさんに通ずる作品の良心。
つまり良い人間から先にいなくなります。ヤコポは暴走します。

そして、本作で完全にメインヒロインとなったモルガーナ。

本編でミシェルに魔女語りをした時には省略されたもの、年頃らしい少女成分も意外なほどあります。かわいい!
もちろん聖女要素もありますが、超人的な慈愛を示し続けるには、やはり人間には無理があるという事。
反発や混乱しながらも普通の幸せに近づき、日常に馴染んでいく姿は、後の絶望を知っていても救われた気持ちになります。

物語を通して見ると、この悲劇を成立させる為に追加された舞台にも関わらず、十分な説得力を持っている。
「あの時ああしていれば」「余計なことをしなければ」と何度も思うのに、同時にその行動が仕方ないとも思えてしまう。
まあ恒例の楽屋裏で互いにツッコミしまくってるけどな!

楽屋裏でメタ的に笑い飛ばすことで強引に救って終わりではなく、最後の最後で綺麗にまとめるのがノベクタクル。
心の奥底に埋まっていた光景、数え切れぬバッドエンドフラグを回避した先の二人の姿を見たとき、
ナウシカにおける清浄の地、毒に満ちた腐海の遥か先、人間には辿り着けぬ世界を思い出し、心が打ち震えた。
彼らの言葉ひとつひとつが、歌と共に深く染み入ってきて、ミシェモル派だったことも忘れて、無心にクリックし続けた。

何百年にも及ぶ復讐は終わりを告げたが、そこから彼の贖罪の旅は始まる。
願わくば、その終着点がさきほどの光景であることを、元からただのおじさんだった私が祈ろうと思う。



さて、あとは感想の楽屋裏。気楽に殺らせてもらおう(ユキマサスマイルで

いやー、ユキマサさんもご満悦な血生臭い話でしたねぇ。
年端もいかぬ聖女を全裸にして枷をはめて切り刻んで四つん這いでおいしいおにく提供とか、エロゲどころの話じゃない。
その張本人はケジメされたけど、ヤコポの悪夢として生首でにっこりと再登場。
貧民街の仲間たちも、後ろから前から刺されて、病魔で吐血して全滅エンド。救いは妄想の中にしかないという。

いや、どうにかしてハッピーエンドを目指したい!

まずヤコポとモルガーナが出会わないと始まらないので、バルニエ主催のサバトと奴隷たちの反乱イベントは必須になる。
ここで領主を倒せばOKかというと、周辺の諸侯から反乱を鎮圧されて処刑されて終了。なので本筋通りに撤退。
そうすると、バルニエの恨みを買うまでがワンセット。

逆襲の領主様、狂人故に唯一信頼できるジェレンをスパイとして娼館に派遣。結果、モルガーナの誕生日に襲撃イベント。
襲撃前にジェレンの正体を見抜くのは無理ゲーな気が。普通にヤコポに惚れてると騙されたっす!
そうすると、面接試験でさよならするくらいだけど、古株のマリーア姉さんが即採用しちゃったしなぁ・・・

襲撃までは避けえないとして、被害を最小限にできたか考えるも、やはり多勢に無勢。
その後、マリーアが言ったように変な気を起こさず、あてもなくモルガーナを探す旅に出る選択は、ヤコポ的に却下。
元より上昇志向が強いから、最初の反乱を起こしたのであって、この時の無力感に耐え続けるのは難しい。

そうすると、革命で領主には成り代わるとして、きれいなヤコポのうちにモルガーナと再会できるか否か。
グラシアンによる毒殺未遂が分岐点なので、下野する前に兵士として採用、またはオディロンの忠言通りに面会を断るか。
うん、ここならば可能性がありそうだ。ついでにヤコポを補佐しようと勉強中のマリーアも呼び寄せる。
いや、身分の低い彼らを登用するのは、シビアな政治の世界では難しいか・・・しかし、そのままだと敵対ルートに・・・

ああ、そもそもモルガーナが見たいのは「私たちの故郷」だった。
領主の座を簡単に降りれるはずもなく、たとえ再会できたとしても「広い世界を見せてやったぞ」ノーマルエンドだ。
つまり、エロゲ主人公よろしく肝心な時に「何て言った?」と難聴したヤコポが、鈍感で童貞なのが悪い。

・・・いかん、作品自体を矮小化してしまった気がする。
あの時にモルガーナの台詞を聞けたとしても、その望みに寄り添うことはおそらく無理だっただろう。
最期になって、どこで道を間違えてしまったのか、心を病むほどの自責の念を抱いた果てに、ようやく理解したのだから。

モルガーナだって、娼館時代が幸せだったのに気づくのは、居場所を喪失してからだった。
まさかあんな子どもみたいに泣きじゃくるとは思わず、ここでスチルがあればご飯五杯分は間違いなく萌えました。
「私は神の子だから、自分の苦しみの為に泣いてはいけない」と散々我慢したものが、ついに零れてしまうのがもうね。
ここに限らず、本編で自分語りをした時、格好悪いところは省略している魔女さんの乙女心にも萌えます。

当たり前といえば当たり前だけど、痣だらけになった自分の顔を想像以上に気にしてるのも萌えます。
娼館の皆の優しさに慣れた頃に、ゴロツキ共に顔の醜さを心無く嫌悪され、その落差に自分を見失うモルガーナも萌えます。
助けに来たヤコポに背負われて、互いに少しだけ素直になるシーンは、じんわりと萌えます。

ボク、悲しいって気持ちがよく分からなくて、萌えることしかできないんだ。
モルガーナがいつも通りに毒舌を言っても、その心地良さに萌えることしかできないんだ。
と語彙の貧しさをジェレン風に言い訳して続けよう。

とにかくヤコポもモルガーナも、楽屋裏ですら素直になれなくて、ヤコモル派は報われなさに萌える派だと思っていた。
だけど、館が解放された後、自責の念で枷を外すこともできず、あの世界で消滅しつつあったヤコポと、
ミシェル達のおかげで少しだけ優しさを取り戻したモルガーナ、巡り会わないはずの彼らにはまだ縁が残っていた。

消滅寸前になって素直に愛情を示し、すれ違った贖罪と和解を今度こそ果したい、そう切々と語るヤコポの姿を見て、
モルガーナもようやく、幸せと絶望を与えられてどうしていいか分からない、その素直な気持ちを見せることができた。
直接触れ合うと不思議と素直になれる、あの美しい思い出がここで繋がるのがたまらない。
ちなみに完全クリア後の公式SSを読むと、更なる極上のデレを味わえます。

単純にハッピーなアフターストーリーは想像できないと、以前に作者が呟いていたが、
こうして彼らの過去の物語を創造することで、二人のその後に繋がるかもしれない希望も生まれることになった。
安易な道を選ばず真摯に作品と向き合った結果、二人は本編でも外せなかった枷から解放された。

普通にリア充となった現代ミシェルを見て、毒気を抜かれたヤコポだったが、
この分なら、現代ヤコポも「奴隷の青年」のように、少し不器用な普通の若者になっているかもしれない。
物語として面白味はないけれども、それこそが彼らが切望したものだから、それで良いのだ。

鬱要素の多い物語だったが、終わり良ければ全て良し。
まだ余韻が残っているけど、本編の三章に執事オディロンが転生したifを想像しながら、私も筆を置こう。
ありがとうございました。