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imotaさんの私のリアルは充実しすぎているの長文感想

ユーザー
imota
ゲーム
私のリアルは充実しすぎている
ブランド
TetraScope
得点
90
参照数
846

一言コメント

「え・・・? 変態紳士なimotaさんが非18禁乙女ゲー?」「ちげーよ。このオタク君を庇ってるに決まってんじゃねーか」「そーよねー、乙女ゲーとか王子様が出てくるんでしょ? ウケるー」 ・・・ブチッ。こんな事を言われてまで守る仮面性活なんていらない! 俺は! 歩君の照れ顔に! キュンキュンしたんだ!

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

あー、スッキリした。
のっけから未プレイ者置いてきぼりだけどいいんだ。どうせいつもの事だし、後悔してないよ。

でもね、本作のヒロイン(名前変更可)にとっては、簡単な話じゃないんだ。
身も心も「オタク」だった暗黒中学時代におさらばしようと、必死に努力して皆に尊敬される副会長さまになり、
身内以外にはオタクのオの字も感じさせない、徹底した猫かぶり。
「それじゃ恋人できないだろ」と弟に言われても、「どうせ三次元にはヴァルト様みたいな方はいないわ」と即答。

そんな彼女の前に現れる、かつてのオタ盟友、唯一無二の心の友である歩君。
外見も名字も別人なヒロインに対して、半信半疑で話しかけてくるが、学園カースト上位として今更オタ正体は明かせない。
本当は昔みたくオタ談義に花を咲かせたいのに、内気で転校早々クラスで孤立する彼と距離を置いてしまう。

そう、本作は乙女ゲーであるが、我々にとってはより普遍的な悩みを描く、オタクゲーなのだ。

クールジャパン、ジャパニメーションと言っても、「二次元のファンタジーデッサンに萌え転がるマン」という
一般的なオタクイメージはやはり根強く、ライトオタ程度は普通になってきても尚、一般人との断裂を自覚する我々は、
趣味の話を振られても「えーと、読書(マンガ)とか、普通にテレビ(アニメ)とか、かな」と曖昧に答えるのだ。


さて、仮面優等生の主人公は、結局歩君とどうなったのか。

「またオタ語りをしたいけど、今の人気者ポジションも捨てられない」と、歩君に正体を隠した上で密会する
八方美人な態度を取ってしまうと、当然埋まるはずのない距離感に、自らも歩君も傷つける結果になる。
下の名前で呼び合った歩君から、悟った笑顔で「それじゃ、またね。imotaさん」と名字で呼ばれた時の胸の痛みたるや・・・
ああ、望んだものを両方とも手に入れたはずなのに、この喪失感は何なのだろう。

普段はボーっとしてる歩君が、ちょっとしたことで照れ顔になって、笑顔になって、内気な犬ちっくキャラがたまらなくて、
だからこそ、そんな彼がクラスから孤立するのがつらくて、自分も彼らの仲間なのが嫌で、でも身動きが取れなくて・・・
これぞまさに青春じゃ。わしの抜けた髪の毛も若返っていくようじゃ。

正体を明かしたとしても、「今のわたしは昔とは別人なの。もう関わらないで」と突き放してしまい、すごく自己嫌悪。
でもルート決定してる以上、縁は何かとあるもので、昔からの夢を追い続ける、変わらない歩君に安心を覚えていく。
そして、不良に絡まれた時に現れるグレート9! 秘められし超能力が今明かされる!

だがラノベと違い、現実は非情である。
主人公を庇ってボコボコにされた歩君を自宅で手当てし、ようやく今でも自分が重度のオタクだと告白してすっきり。
ついでに美容師志望の弟くんにボサボサ髪を切らせてすっきり。これでイケメンチェンジ! ・・・だがやはり現実は非情である。
こう要所要所でテンポよく挟まれるギャグも心地良いのぅ。

歩君との問題は半分解決したが、しかしそもそもの仮面生活を続ける理由は未だ残っている。
二人がいるこのクラス、友人の未歩ちゃん以外は無自覚に他人を見下す連中揃いで、ついには歩君のオタ趣味がバレてしまう。
絶体絶命のピンチ! じゃがピンチでこそ人間の真価は発揮されるものなのじゃよ。

この一連の告白シーンは、ノーマルエンドと対照的で、キュンキュンとニヤニヤが止まらなかったねぇ。
登校不良気味の歩君にヒロインが声をかける構図だったのが、ここで見事に逆転。
せっかく格好よく決めたのに、未歩ちゃんに暴露されて真っ赤になる歩君がとてもよかったです。

これは以前に男の娘ゲーや魔物娘ゲーで話したことだが、普通の女性ヒロインだとあざといと感じる性格などの属性も、
根本のキャラ属性を変えることで、素直に受け入れられるようになる。準にゃんかわいいよ準にゃん。
つまり手垢がついてないと感じるんすな。この感じ方は、訓練された乙女ゲーマーのものとは違うとは思いますが。


さて、次なる攻略対象は、弟の隼ね!
・・・ごめん、無理。わたし弟属性なかったわ。
と、のたまう主人公だけど大丈夫。このルートをクリアする頃には、貴方も立派な弟スキーになってますよ!

そして、ここで語られる普遍的なテーマは、「家族」という関係についてだ。

通常は、血の繋がりと時間の共有、いずれも満たすものだが、もしどちらか片方しかない場合、
そして、もしもその相手から好意を向けられた場合、どういう関係になってしまうのか。

などと難しい話をしたが、基本的には両手に花なのにヒロインが鈍感でいやん困っちゃうな展開ですウヘヘ。
片や素直に優しくて誠実そうな弟の友人。片やひねくれ者だけど意外と気遣う人気者で、素顔を晒せる弟。
対称的な二人は正にライバル。隼は父の再婚相手の子であり、その事が問題を複雑にしている。

ここで語られるヒロインと弟の過去は、完全なオタクだった彼女がいじめられ、引き篭もり、弟と衝突し、
少しずつ和解しながら、高校デビューを果たすまで前向きに変わるまでの、長い道のりだ。

「アンタには、迷惑かけないから」という、共通ルートでの何気ない一言の重み。
そして、そういう姉に対して、いつも憮然とした顔を見せる弟。互いを思い合いつつ、すれ違う二人。
溜まりに溜まった熱情が暴走し、霧散し、紆余曲折の末に湧き上がる愛情。ああもうキュンキュンするよ!

二人の事ばかり書くと、友人の押井君が当て馬キャラに見えるかもしれない。
それは一面では当たっているが、彼の悲壮とも言える衝動の理由を知ってしまうと、物語自体が変質する。
そして、実のところ、私はヒロインと押井君の関係に、よりキュンキュンしてしまった。

「貴女へのこの気持ちが何なのか。僕にはもう分からないんです・・・」という押井君に投げかけた言葉。
ありふれた、しかしこの上なく親愛の情に満ちた、単純なやり取りに、彼と同じ深い満足感を得たのだった。
なんかR15なエロス展開もあって、ちょいと寸止め感もあったけどまあ良し!

HAPPY END「私のリアルは充実しすぎている」


え、まだあと一人残ってるって?
えーと、完璧超人な生徒会長様の弟だっけ? なんだかめんどいなぁ



うひっ、うひひひひ(ヒロイン同様に人様へお見せできない種類の笑顔

おっ、おほん!
とまあ乙女ゲーの枠に留まらない出来栄えの本作であるが、実は不満もある。
それは本作がフリーゲームだという事だ。

「いいものをタダでプレイできる」というのは、一見最高のおもてなしに思える。
しかし、人間お金がなければ食べていけないわけで、趣味である同人といえども最低限の活動費は必要だ。
一応本作は有料のパケ版も販売はしたが、儲け度外視の特典山盛りで即売り切れ。

ファンという人種はね、好きな作品や作家さんへは、お布施と称して応援したいんですよ。
もし、本作に値段をつけろと言われたら、色々考えても2000円程度にはするだろう。
だってスチル(イベントCG)数だけでも軽く数十枚。しかもおまけストーリーまで完備。価格破壊すぎるよ!

もう一つの不満点というのは、これまた個人の好みなのだが、
中学時代のもっさい格好のヒロインの方が可愛いよね! 下着も絶対ダサいだろうけどそれが最高だ!
中学時代のボサボサ髪の歩君も可愛い! 中学生日記万歳!

途中から脱線した気もするが、「地味眼鏡っ娘が可愛く変身」シチュを血涙が出るほど憎んでいる私にとって、
本作の変身っぷりも物語としては良かったけど、もったいないなぁ・・・という思いは捨てられないのでした。

まあ、そんなつまらない不満点はどうでもいいこと。
普段エロエロしてるおっさんとしては、乙女ゲーに色眼鏡をかけてる方にこそ、是非プレイしてほしい。
そして一緒にキュンキュンしようぜ!