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imotaさんの幼馴染と十年、夏の長文感想

ユーザー
imota
ゲーム
幼馴染と十年、夏
ブランド
夜のひつじ
得点
90
参照数
1916

一言コメント

絶望した! こんな幼馴染が俺の側にいない事に絶望した!

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

この題名を見て、甘酸っぱい気持ちになった貴方は正しい。
しかし恐ろしいことに、この作品の甘酸っぱさは貴方の想像以上なのだ。
そして半信半疑の貴方は、私と同じように絶望するだろう。花京院の魂を賭けてもいい。


H11年の夏、疎遠だった幼馴染と、雨の中出会う。
帰りの会で初めての理不尽を味わった主人公が、水溜まりに思いをぶつける帰り道、後方で傘も差さず自分を見つめる彼女に気づく。

いじめられていた彼女。女と遊ぶのはカッコ悪いと彼女から離れ、窮状に気づかなかった自分。
単純な正義感だけで、それを正せると信じて行動したが、先生すら味方でないことに愕然とするだけだった。

未だ消化しきれない思いを抱えたまま、見て見ぬふりもできず、彼女を傘に入れる。
「…何してだんだ?」「……アメメダカ、探していたの」「何だそりゃ?」「アメメダカは、雨粒を渡り歩く生き物なの」

そんな生き物いるはずがない。でも何故か僕はその話に乗ってしまい、そのままカタツムリまで眺める羽目になった。
「…いつまでカタツムリ眺めてんだ?」「よー、…いいんちょがずっと見てるから見てた」「…まあいいや、もう帰るぞ」

足が痺れている彼女の手を掴んで立たせるが、既にお互い濡れた状態。何だか面倒になって傘を畳み、家まで競争することになる。
「わ、私マッハ5だから負けないっ」「マッハって意味分かってるのか?」「わ、分からない…」「声より早いってことだぞ」
「じゃ、じゃあ声出しながら走れば負けないっ」「何だそりゃ?」「わーー!!わーー!!」「…ぶ、ぶははははっ!!」

この短い冒頭の描写の中で、感情は目まぐるしく変わり、
気が付くと私は、この不思議な少女えりちゃんを幼馴染として受け入れていた。

徹底した男の子目線、内面もじっくり描写できるノベル形式、ピアノ主体の静かな音楽。
ぽろり氏の筆は、様々な感情をない交ぜのまま揺れ動かし、表面に出る台詞を凝縮し、擦り切れた大人の中に少年の心を蘇らせる。
ああ、そうだ。あの頃の僕は、自分の心を持て余していた。感情を明文化できず、それを伝える術もなかった。


ぽろり氏の筆は、性に目覚める直前の少年と、未だ性に目覚めない少女の落差をも丁寧に描く。

ずぶ濡れな二人を見た母親が、一緒にお風呂に入るように命じ、えりちゃんは遠慮なく、僕は何となく抵抗を覚えつつも浴室へ向かう。
何気なく目を向けた乾燥機の中にえりちゃんのパンツを見つけ、よく分からないけどいけない事をしてるのではないかと狼狽する僕。
えりちゃんは、前も隠さぬまま一緒に湯船に入ろうと誘う。頭が真っ白になり何を話していいのか分からず、そのうちに勝手に大きくなるおちんちん。
そして、ソレをえりちゃんに見つかってしまっては、「ぼ、僕もう上がるから!」と逃げるしかない。

一緒にラジオ体操に行き、ゲームをし、夏休みの宿題をするようになる二人。
ガラス張りのテーブル越しに、膝を崩したえりちゃんのスカートの間からパンツが見え、目を逸らそうとする僕。
でもそんな行動はバレバレで、「パンツ、見えた?」「み、見えてない!」「見えてたんだ…見たいの?」
と問う彼女は平常のままで、何かいけない事をしてるという罪悪感を覚える僕は、その誘いを断ることしかできない。

もやもやは少しずつ溜まっていき、一緒に水風呂に入ったり、また宿題をしたり、僕の奥底に眠る何者かを目覚めさせようとする。
しかも二度目のパンチラでは、「…よーちゃんに見られるの、何だか恥ずかしい」と言われて、また大きくなってしまうおちんちん。
恥ずかしさで逃げるにもソレを机にぶつけてしまい、えりちゃんにおちんちんを看病される羽目に。

この時、途中で痛みは引いていたのに、ソコを触られるよく分からない興奮と気持ちよさに、僕はえりちゃんを止めることができなかった。
何も知らぬえりちゃんが、僕のおちんちんを舐めて治療し始めた衝撃で、もう前に進むことしか考えられない。
そのうち、何だか熱いものがおちんちんの奥から湧き上がってきて、僕は初めての射精で、えりちゃんを汚してしまった。
そして、僕と彼女には、決して埋まらないだろう大きな大きな溝ができてしまったのだ。


短編と言ってもよい物語、その序盤を何故これほど事細かに話したのかって?
ここで主人公に深く刺さった棘を共感できてこそ、この後の甘酸っぱい青春を味わえると思ったからだ。
いや、正直に言おう。その甘さや切なさに萌え転がりすぎて、自分の中の言葉を吐き出したい衝動に駆られただけなのだと。

そして、規制のしがらみで取り扱う事の難しい、少年少女の性の目覚めと真正面から向き合っている事にも感服した。
二人のあらましを丁寧に描こうとした結果、単純なロリゲーを飛び越えているのは、作者が狙った事なのかは分からないが。
即物的に抜けるエロではないが、エロスとしての完成度はすごいと思う。


一緒にえりちゃんの魅力も語ろうとするも、それが難しい事に気が付く。
えりちゃんの姿は、僕の目を通して伝わるしかなく、他愛ないふたりの会話、やりとりの中から浮かび上がってくるからだ。

あの雨が明けた次の日、「楽しかったから、言い忘れてた。学校で、私と話さなくていいよ」と言ういじめられっ子の彼女。
帰りの会の件で級友からハブられた僕に「夏休み、一緒に遊ぼう」と誘い、「…もし、どうしても暇なら」とも付け加える彼女。
思わず昔みたいに葉人の事を「よーちゃん」と呼んで気まずい表情、それを僕が許可した途端、うれしそうにはにかむ彼女。
ゲームが得意で、容赦なく僕を負かし、少しずつ遠慮がなくなってくる彼女。
勉強が嫌いで、夏休みの日記だけさっさと終わらせて、「後は写させて」とのたまう彼女。
二人でお祭りを楽しむも、「また来年、一緒に来たいな」という彼女に答えられず、でも代わりに髪飾りを買うと、ひどく喜んだ彼女。
そして祭りの後、僕に連れられて「アメメダカ」を見て、感嘆する彼女。

えりちゃんへの僕の想いは、単純に庇護欲でもないし、欲情でもないし、逃避でもないし、逆にその全てかもしれない。
子供の僕にはそれを説明する事ができない。ただ今年が「特別な夏休み」な事は、口にせずとも意識していた。
もしも、あの出来事がなければ順調に二人は付き合ったのかもしれない。でもそれは単なる可能性で、それは後悔の種として残り続けた。




H14年の夏、疎遠だった彼女と、上の学校で再び出会う。
僕は文化祭の委員として、彼女は補習中の身として。口数が少なくなり俯くように生きる僕、以前よりも明るくなった彼女。

遠慮がちにだが、声をかけてきたのは彼女。だが未だ罪の意識に苛まれる僕は「…まだそんな髪飾りつけてるんだ」と突っぱねてしまう。
それでも、雨の登下校口で、図書館で彼女と出会い、少しずつ、少しずつ、途切れていた言葉の交流が戻ってくる。

…彼女はアレをなかった事にしてくれるのか。僕を許してくれるのか。僕は何も言わず甘えて良いのか。

未整理の心を抱えたまま、文化祭の準備で指を怪我した僕を、保健委員の枝梨は手当てし、「お、お礼に勉強見てほしいの」と言ってくる。
取引の方が行為を、好意を受け入れるができる。
こうして、彼女との夏が再開した。

まだぎこちないが、図書館での勉強を通じて、少しずつ心が軽くなるのを感じる僕。
でも枝梨はいつも唐突だ。
他人行儀な「久慈君」でなく「よーちゃん!」という懐かしい呼び方に驚く暇もなく、彼女は飛びついて抱きついてくる。
「私、頑張ったよ! 補習のテストできたよ!」
しばらくして自分のした事に気づき、枝梨は照れ臭そうに僕から離れる。

読み手の私にも、これは全くの不意打ちだった。
するい。これでは変わった彼女、変わった二人の関係に適応する間もなく、心を奪われてしまうじゃないか。


だが青春は甘いだけでなく、酸っぱいものだ。
あの事件をなかったものとして過ごしてきたのに、ある日の帰り道、彼女は極自然にその話題を振ってくる。
やはり僕は甘かった。僕はただやり過ごしてきただけだった。枝梨に顔向けなどできない人間だった。

再び彼女を避けるようになるも、枝梨は諦めず僕の後をついてきて、体育倉庫の中で向き合う二人。
「私、あの時に逃げた事すごく後悔してる」「でもよーちゃんは本当に怖くなかったよ」「ただ何も知らなかった自分が怖かった」
「でも私、俯いてるよーちゃんが好きだった」「私の為に傷づく姿がうれしかった」「…私、ひどい女だね」
「今の言葉が本当だと、よーちゃんに触れられることで証明したい」

そんな都合の良い言葉を信じていいのか。自分は許されていいのか。
気持ちの整理がつかぬまま、ただ枝梨への湧き上がる想いを原動力として、彼女の肩に、胸に、唇に触れる。

「…良かった、嘘だったらどうしようかと思った」「お前なぁ…」
棘はなくなる訳ではないけれど、それは彼女との思い出のひとつに変わっていくのを感じる。
もう二人を隔てるものはなく、残るのは真っ赤な赤点の数学補習テストだけだった。


何とか補習も終わり、枝梨の希望で今年は実家には帰らず、期せずして部屋で二人っきりで過ごすことに。
二人とも何かを期待、予感しているけど、恥ずかしくてソレをなかなか口にすることができない。
ああもうじれったい!

意を決して彼女の胸に、お腹に直接触れるところまでいくも、肝心の下までは脱がすことができない。
いや、それは体育倉庫の時のように、枝梨の気持ちを察して、二度と彼女を傷づけないように、紳士として振る舞った結果だ。
彼女も僕の気持ちを察して、「やっぱりよーちゃんを好きになって良かった」と言ったのだから。

次はいよいよ最後まで、とコンドームまで買ってくるも、サイズが合わないという大失態。
しかし、僕が彼女を思って恥ずかしい買い物をしたように、彼女も僕を思って「安全な日」である事を調べていた。
後は、もう止まらない。痛みを気遣いつつも止まらない。
「枝梨…!」「ようと…!」と互いの名を呼び合いながら、ただ最後まで突き進んだ。

全てを分かり合ったかの二人だが、実は彼女は今年も「特別な夏休み」だと思っていた。
勉強ができず、同じ学校など受験できないと言う彼女に、「枝梨、これからはずっと一緒に夏休みを過ごそう」と僕は宣言した。




H16年の夏、彼女は僕の部屋の住人になっていた。
いや、正確にはベッドに散乱するお菓子と共に、僕のベッドの住人になっていた。
髪を切った彼女は明るい少女に成長し、時間どろぼう、今は夏休みどろぼうとして自堕落な生活を送っていた。

彼女曰く、受験勉強で全力投球しすぎて、今年の夏はだらだらと過ごしたいらしい。
僕も彼女もそれほど性欲が強くはないので、爛れた性活を送りはしないが、それでもスイッチが入ると自然えっちな事になっていた。
もちろんコンドームを着用して、彼女も好む正常位で、それで僕らは満足していた。

全く満たされた生活だが、何故か僕は焦燥感らしきものを少しずつ覚えていた。
このままでいいのだろうか。これからどうなるのだろうか。彼女の全てを知ったつもりだけど、それは本当なのだろうか。
それは贅沢な悩みなのかもしれないが、それは確かな熱情となって僕の中に存在するのを、自覚せざるを得なかった。

ある日、シャワーもまだの彼女をやや強引に押し倒した。
普段と様子の違う僕に少し驚くも、その熱情を察したかいつもよりずっと濡れており、好みでない後背位で自ら腰を振るくらいだった。
僕も、彼女を傷つけないよう、優しくしないとと思いつつ、この状況に確かな高揚を覚えていた。

行為が終わった後、彼女は「よーちゃんがしたいこと、言っていいんだからね」と言った。
そして自身も思うところがあるようだった。

学校の課題の為、二人で美術館に行くことにした。
いつもは制服も部屋着も自堕落な格好をした彼女がおめかしをして、その、何て言っていいか…すごく似合っている。
絵心が皆無な僕は、好きな絵をずっと見続ける彼女の側で、これからも彼女と同じものを見ていきたいと、改めて思う。
周りは中高年のお客ばかりだが、読み手の自分には彼等が二人の将来の姿にも見えた。

「…実はね、私ちょっと行きたいところがあるの」と少し恥ずかしそうに言う彼女についていった先は、ラブホテル。
まさかの彼女の提案に、僕も自分もびっくりしてどきどきするばかり。
「あの、ここだったら、よーちゃんも遠慮なくしたいことできるんじゃないかって…」
何がしたい訳ではなかったけど、彼女なりに考えたくれたことに感激しつつ、目の前の大きな鏡にふと悪戯心がわき立つ。
自分の痴態を見ることに狼狽するも、彼女もまたいつも以上に興奮し、愛撫であっさりと絶頂する。

「うー…」と恥ずかしそうに唸る彼女、「実は、私もその、したいことがあるの」
と僕のズボンのジッパーを下し、驚く僕をよそにソレを舐めて口に含ませる。
「よーちゃん、あの時のこと、ずっと気にしてたでしょ。だから私、いつかきちんとこうしたくて、勉強してたの」
ああ、彼女は僕が意識することすらないくらいに意識していたことを分かっていたのだ。
その愛情にゆるやかに蕩けていくような、その周到さにゾクゾクするような、単純に初めてで興奮するような、ない交ぜの感情と快楽。

「実は、してみたいことが、あとひとつ、ふたつあるの」
「よーちゃんの気遣いはすごくうれしいんだけど、初めての時みたいに直接触れ合いたいの…。はしたないよね、私」
そしてもうひとつは、初めての時に二人が果てる直前、その時だけ直接名前を呼び合ったこと。

もう余計な言葉はいらなかった。
彼女は僕の上に乗り、焦燥感がなくなった僕は、初めて、彼女への深い想いを言葉にし、彼女もまた同じ言葉を僕に投げかけた。



すごい。行為自体はごく普通の行為なのに、それまでとの落差がエロスを生み、物語の集約として心にも迫る行為。
自分が味わったこの感情を、短い文章にまとめることができなくて、ただひたすら二人のやりとりを追い続けるしかなかったのだ。
まあ微妙に脳内で再構成してる気もしますが。

それでもこの長すぎる要約でも、物語としては単純な、この短編の内容を掬いきれたとは思えない。
だから、私の文章はどうでもいいから、それくらいの内容が詰まっていることだけを知ってもらえれば、それでいい。
そして共に深い満足を味わい、現実との落差に絶望しようじゃないか!