浮空・亜樹と蜜壺・満花、どうして差がついたのか
『浮空』は、ちゅー学生な妹に定評のある岡田コウが描いた、中編エロマンガである。
妹を異性として意識したが為に、家から妹から離れた兄が久しぶりに帰郷し、女として成長した妹と再会する。
妹は自らに迫る男の存在を仄めかし、せめて処女を兄に捧げようとする。
一線を越えない為の行動が、逆に一線を越える気概を生み出し、妹の為と自らを欺いて関係を結んでしまう。
その後は、ひと夏の思い出というには爛れた、性活と呼ぶに相応しいまぐわいが日常を侵食し、
50頁超もの物語の大半が、絶え間ないエロに埋め尽くされる。
しかし、やはりこんな関係は続けらないと兄は心を決め、再び妹を置いていってしまう。
最後の「嘘つき…」と呟く妹の後ろ姿が余韻となり、抜けて読ませる上質の物語となったのだった。
冒頭に別の作品紹介を長々としてしまったが、それは本作がちょうど合わせ鏡のように見えたからだ。
別段ひねった設定ではないので、パクりだとか言うつもりはない。
ただ、まるで再び裏切られた妹が、今度こそ想いを成就しようと執念を燃やし、手段を選ばず迫ってきたように見えたのだ。
手段を選ばずとはいっても、腐り姫の樹里のように自らの手を血に染めるまではしない。
浴室で裸で再会の事故にも天真爛漫に振る舞い、その後気絶した兄を優しく膝枕し、しかし他愛のない世間話から急に雰囲気を変え、
「兄さん、私のお胸もお尻もこんなに大きくなりましたよ。身体も心も大人になったんです、兄さんのために…」としな垂れかかる満花。
やけに精のつく晩餐とたっぷりのお酒で、兄を意識朦朧の半ば獣状態にして、夜這いをしてくる満花。
夢と勘違いしてベッドヤクザと化し、そのまま処女を奪った翌朝、使い方を知らぬはずの携帯に写る兄妹の痴態をうれしそうに見せる満花。
「折角だから婚約者さんにも見てもらおうかしら? …兄さん、母さんは夕方まで帰ってきませんよ?」
ああ、なんだろう、女郎蜘蛛に絡め取られた蝶の如く、俺が妹に攻略されている…!
男性器が女性器を押し広げるのではなく、食虫植物の如く女性器に俺自身が呑み込まれていくような底なし感。そして未曾有の快楽。
ベッドヤクザの勢いなど通用しない悪女、毒婦。しかし満花をそのように変えてしまったのは、他ならぬ自分なのだ。
もはや出口のない状況だが、それでも母親や婚約者、一般的な社会に生きるために満花へと必死に許しを請う。
「…分かりました、私の辛さも知ってほしいだけだったんです。でも今だけは、コンドーム半ダース分の思い出を下さい、兄さん…」
「何で一枚だけ既に使ってるのかって? …ふふふ、何ででしょうかね?」
すぐに冗談だと言うが、いちいち兄の嫉妬心を煽ってくるのが、分かっていてもずるい。引きずり込まれる。
「何でこんなにフェラチオが上手いのかって? 村に若い男は少ないから、兄さんの知ってる人かも。いや元気なお年寄りかも、ふふふ」
「下着をつけずにお外へ出てもいいのですよ。でも、そうしたら男の人達にたくさん見られて、ううん見られるだけですむかしら?」
とどめには「同じ気持ち」と知ってもらおうと、全てを捨てても決して兄を逃がさない覚悟で、村の有力者の求婚を受けようとする満花。
「兄さんが次に帰ってきた時、私はお母さんになっているかもしれませんね」
一線を越えてしまっても、理性の本当のぎりぎりで中出しだけはしなかった。
ならば誰の母親になるというのだ!?
この物語には選択肢は存在しない。満花を前にして存在できなかったのだ。
気持ちの良い肝っ玉母さん、素は優しく気品のある満花、同じく気立ての良い姉さん女房、皆に囲まれた賑やかな食卓。
全ては、満花の狂気に近い真っ直ぐすぎる愛、それを育み、一度でも応えた時点で届かぬ夢となった。
亜樹と満花、どうして差がついたのか。
それは慢心でも環境でもなく、兄を手に入れるための覚悟の差、しかしどちらが幸せかは分からない差。
中編の、長くはない物語だが、そのまとわりつく色香は強い印象を残したのだった。